風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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ちょっと休ませてもらったよ、ごめんね。


次のメシ

 へぇい、おまわりさんです。

 今来ているのはトリニティでは珍しい、24時間営業しているスーパーマーケットです。アブナイ子たちの多くがたむろする、いわゆる不良のたまり場と言われる場所ですね。

 なんでそんな場所に来ているかって? そら当然明日のメシのために決まっているではありませんか。だってこの時間にやってるお店ここしか無いし。

 

 それとは別に、ちょっとした依頼を解決するためでもあるのですが……それはお買い物の後で。

 

 私の後ろには数人のアリウス生。そこにスバルちゃんとマイアちゃんの姿はない。

 あの二人にはラブちゃんと一緒に物資の受け取りのお仕事をしてもらってる。

 相手はミヤコちゃん、SRTのラビット小隊の小隊長ちゃんだ。

 

 シャーレ警察という立場上、SRTの子たちはヴァルキューレに次いで会うことが多く、ミヤコちゃんたちとは必然的に仲良くなった感じ。

 まぁミヤコちゃんは先生love勢なので、私との会話は基本的に先生の情報収集のために使われている気がするけど……まぁ若い子のそういう恋愛に必死なところを見ると、つい応援したくなってしまうのです。

 おせっかいおばさんな私は、先生の趣味嗜好性癖、所有しているえっち玩具やえっち本の内容などを全部垂れ流しています。先生の人権なんかねぇよ。

 

 ミヤコちゃんに頼んだのは、廃棄予定のドラム缶二つ、それと売れ残った大量の寝袋の入手と受け渡し。

 業者の方には私と連邦生徒会から正式なルートで交渉したため、ミヤコちゃんには実質横流しのお仕事をしてもらうこととなる。

 ちなみに売れ残った寝袋というのは、少し前に流行ったキャンプブームに乗り遅れた店主から買い取ったもの。超がつくほど格安で譲ってもらったので、財務担当のアオイちゃんもニッコリしていた。

 

 

「皆はなにか食べたい料理とかあるかな?」

 

 

 そんなラブリィラブちゃんに頼んだ件はさておき、私たちは食材売り場へと直行、雛のように私の後ろを歩く皆に聞いた。

 皆の手には料理本。全員が少しずつ違った系列の料理本を開いており、当然返ってくる言葉は全員違う。そんなことをしたら喧嘩になるではないかって? それはそうだけど……私が選んだら意味ないので。

 

 

「チャーハン!」

「しゃぶしゃぶ!」

「カレー!」

「唐揚げ!」

「餃子!」

 

 

 沈黙が訪れる。ニッコニコな私とは真逆で、アリウスの子たちは全員が全員に向けてメンチを切り始めた。メンチカツもいいね。

 

 

「あんたさ……カレー昨日食べたじゃん」

「美味しかったからまた食べたいだけなんだけど? 何チャーハンって、そんな大きなフライパン無いでしょうが」

「何キレてんのあんた達。野菜もお肉も食べれるしゃぶしゃぶ一択でしょ、喧嘩しないでよ」

「いい子ぶってんじゃないわよ、肉よ肉、から揚げで勝ちよ」

「野菜も肉もあって、さらにご飯が進むのは餃子。誰か異論は?」

「「「「ある!!!」」」」

 

 

 おうおう、盛大に喧嘩してらぁ。今にも銃の引き金に指をかける勢いで互いに睨み合うみんなの中に、私は丸腰のまま割って入る。

 

 

「待ってみんな。アリウス流で決めるのもいいんだけど……今回は別の方法で決めてみない?」

 

 

 眉間にしわを寄せたみんなの視線が私に集まる。うふふと小さく笑いながら、私は天井に吊るされている案内表示を指さした。

 ポップな文字で描かれたそれに書かれているのは「イートインコーナーはこちら」。

 

 

「皆が選ぼうとしてるのは、アリウスの皆で食べるご飯。一人一人の独断で決めるのはよくないよね?」

「た、確かに……じゃあ、どうやって決めれば……?」

「皆が食べたいって思った物、それを皆で食べ比べるのはどうかな?」

「食べ……」

「……比べ!?」

 

 

 私の言葉にアリウスの子たちの目が輝きに満ちる。当然だ、皆と食べる食事以外でお腹を満たすことができる機会が訪れたんだ。

 しかし、これはあくまで必要だからする事であって、決してえこひいきのためにしているのではない。

 だから、ちゃんと口止めはしなければならない。

 口に指を当てて優しく、少しだけいたずらのように言った。

 

 

「スバルちゃんには内緒だよ?」

 

 

 


 

 

 

「準備はできましたか、サオリ?」

「あぁ、いつでもいけるぞイチカ」

 

 

 私の言葉に頷くイチカ。その他の正実の生徒たちも準備ができたのか、今回の任務のリーダーを務めるイチカの下へ集う。

 皆の物とは少し違う帽子……私のために特別に用意してくれた、黒を基調にしたボールキャップを深くかぶる。

 意識を日常生活から任務の物へ変えて、小さく息を整える。

 

 

「それじゃ、任務の概要を再度説明するっす」

 

 

 イチカは既に様々なことが書かれているホワイトボードを指揮棒で叩く。

 ホワイトボードの上のあたりには大きく「トリニティ郊外のスーパーに集まる不良集団の一斉逮捕」と任務名が大きく書かれている。

 ヘルメット団でもスケバンでもない、トリニティ生でありながら素行の悪い生徒たちを一斉に捕まえようという任務だ。

 

 

「この任務は本来、シャーレ警察のおまわりさんと共同でやることになっていたっすけど……別の任務で都合が合わなくなってしまったということで、今回は私たち正義実現委員会だけで行うっす」

「……そうか、やはり来れなかったか」

「そう残念そうな顔しないでください、サオリ。愛しの人が来れないのが寂しいのはわかるっすけど」

「いとしっ……! そ、そういうのじゃない!」

「……まぁ、その件はさておき」

 

 

 イチカの揶揄いの言葉のせいで私へ生暖かい視線が集まる。

 私たちくらいの年齢は、そういう話題が盛り上がりやすいんだ。何かとイチカやハスミにそういう揶揄いを受けることがあるが、できれば勘弁してほしいところだ。

 ちなみに、ツルギには猛烈に応援されている。本当にそういうのじゃないんだが……

 

 

「相手は同じトリニティ生ですけど、どういう装備をしているかは全くの不明。よって、サオリにはゲリラ戦術を展開してもらうっす」

「私主導の小隊と、イチカ主導の小隊に分けるんだったな?」

「その通りっす。私の小隊が奇襲をしかけるので、サオリ達は逃げた敵たちを待ち伏せや破壊工作で逮捕してくださいっす」

「了解した。任務は必ずこなしてみせよう」

「頼りにしてるっすよサオリ。それじゃ、出発っす!」

 

 

 全員が手を掲げて声を上げる。一応真似して声を出すが、まだこの雰囲気には慣れない。

 少し前からこの任務は計画されていたから、彼女と一緒に任務をこなせることを楽しみにしていたのだが……イチカの言う通りだ。

 少し、寂しい。

 はやく帰ってきてほしい……そうしたらまた、一緒にご飯を食べたいものだ。

 

 

 


 

 

 

 イートインコーナー。

 私たちのいる少し広めの机の上に広がるのは、空になったお皿たち。先ほどまでそれぞれのお皿に皆が食べたいと言っていた料理が乗っていたのだが、綺麗さっぱり完食したのだ。

 全員のお腹は腹八分まで膨らみ、全員が満足した顔をしている。

 

 

「皆、美味しかった?」

 

 

 首を爆速で上下させて頷く皆。そんな勢いでヘドバンしたら戻しちゃうよ? 

 これだけの種類をバイキングのように食べていた皆に、この食事をした理由、そしてその結果を問うた。

 

 

「さて、とりあえず全部食べたわけだけど……アリウスに戻って皆で食べるって時に、どれが一番いいと思った?」

 

 

 顔を見合わせ数秒。一人が意を決したように手を上げる。

 

 

「その……唐揚げがいいと、思います。そこにサラダも付け合わせて……あと、チャーハンセットについてきた卵スープがあると、うれしいかも……」

「なるほどね。皆も賛成?」

 

 

 再度首肯するみんな。ただ育ち盛りの子供たちだと思ったのも束の間、皆で食べることを考えて肉だけでなく野菜、そして食べやすさや飽きがこないための工夫を取り入れてきた。

 この子は将来、人と食べることを考えられる超良い子になるに違いない……! 

 こうして明日のアリウス飯が決まったということで、さっそく食材売り場に──そう思っていたのに。

 

 

「店主、店主はいませんことー!?」

「お虫が入ってましてよ! 返金を要求いたしますわ!!!」

「ついでにコッペパンを要求しますわ!!!」

 

 

 立ち上がったとほぼ同時、トリニティとは思えないようなガラの悪い生徒たちが、突如叫び出した。

 アリウスの子の様子を見ながらご飯を食べるのが幸せすぎてすっかり忘れていたが、ここの治安はトリニティの中でも死んでいる場所だ。

 うわめんどくせと思いつつアリウスの子たちに目配せして、できるだけ目を合わせないように移動するように、そう言おうとしたのだが。

 

 

「そこの貧乏そうなお方々! ここはトリニティですわよ!」

「あー、何か用かな?」

「おや、保護者の大人もいらっしゃるのですね? 稼ぎのない大人が引率でしたら、D.U.地区の飲食店の方がおすすめですわ~」

「肥えてない舌にトリニティご飯の良さはわからなくってよ!」

 

 

 おほほと高笑いする彼女たちに行動を妨害された。思ったのは、面倒な輩に絡まれた、その一言だ。

 私への嘲笑だけでなく、当然その標的はアリウスの子たちも含まれる。こんなことを言われて黙っているような子たちではないが、私は制止を掛ける。

 こういう輩たちに変に絡まれないようにするためにも私服でここへ来たのだが、逆にそれが仇になったようだ。

 

 

「ごめんねー君たち、悪いけど君たちに構ってる時間は無くてね」

「……はい? 私たちのありがたいお言葉を無視すると?」

「もし聞いてほしかったら外出ててよ。買い物終わったら聞くからさ」

「ふぅん。では待つとしましょう。淑女たるもの、庶民のお願いを聞かないわけにはいきませんもの」

「ソウダネー、オネガイスルヨー」

 

 

 そそくさとイートインコーナーから離脱する。アリウスの子たちの表情は険しく、今にもその感情を行動に出そうとしていた。

 でも今は抑えるようにと言い聞かせ、食材を一通り購入する。

鶏肉、唐揚げ粉、キャノーラ油、小さめの鍋、サラダにインスタント卵スープ……結構な量を買って、それを全員のリュックサックに分けて入れる。

 買い物を済ませてお店の外に出る前に、私は盾と警棒を取り出す。私服ではできればやりたくなかったのだけれど、仕方がない。

 

 

「みんなも準備、お願いできるかな?」

「……いいんですか、アリウス流でやっても」

「やりすぎない程度に。あくまで『武装解除させた上で無力化』が目的だからね」

 

 

 ここに来るときに話した「ちょっとした依頼」は、実はこのことだ。

 不良集団の制圧、及び逮捕。本来は正実と連携して行うことになっていたのだが、思った以上にアリウスに滞在する期間が長くなったので依頼を蹴ってしまったのだ。

 しかし偶然にも、ここに来ることができた。であれば、やることは一つだろう。

 報告は事後でいい……はず。

 

 

「わかりました。全員、戦闘態勢。おまわりさんの護衛をしつつ……」

「私がタンクをやるよ。皆はアタッカーをよろしくね」

「……了解。おまわりさんを先頭に魚鱗陣形を展開。敵を無力化する」

 

 

 私の周りの空気が一変、一気に冷たい物へと変わった。

 サオリ達と共闘した時は冷静な時が一度もなかったせいで知らなかったけど、これが本来のアリウスの雰囲気なんだと理解させられる。

 慣れない空気に吞まれないように、小さく深呼吸。気分の切り替えを終わらせる。

 できるだけ穏便に……そんな呑気なことを思いつつ、私たちはお店の外へ出た。

 

 結末がどうなったか、言うまでもないだろう。




今週中には原作のオラトリオ本編に突入できるようにしたいね
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