風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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普通にどう書くか悩んでたら1日過ぎてた…
朝7:30に投稿が無かったらその日は投稿しない日と思ってください


たたかえ

 シャーレの建物の一階。私は先生からの連絡に足を止める。

 ついさっきまでは先生の傍らで勉強をしていたのだが、先生に遅い時間だから寮に帰るようにと促されてしまい、私は荷物を纏めて帰路に着こうとしていた。

 彼女が帰ってくるのをずっと待って、待って待って待ち続けていたのに……彼女は今日も帰ってこなかったから。

 建物を出る前にお手洗いを済ませようと個室に入ったとき、突如来た先生からのモモトーク。

 

 

『おまわりさんが帰ってきた』

 

 

 入れ違いだ。そう瞬時に理解して、エレベーターへ向かって駆け出す。

 何度もボタンを押して、この階にエレベーターが来るまでの時間に焦らされつつも、私の心は踊ってた。

 ようやく会える。やっと会える。開いた扉の中に飛び乗って、シャーレ警察の部屋のある階のボタンを連打。動き出したエレベーターに早く早くと催促し、ようやくたどり着く。

 

 チン、と軽い音。

 重厚な扉が開き、明かりが差し込む。

 

 いた。彼女。

 振り返って、目が合う。

 ずっと心待ちにしていた彼女との再会。たった数日会えなかっただけで生まれたこの寂しさを、早く彼女に慰めてもらいたい。

 

 またいつものように笑顔で私を迎えて……

 その目は……

 

 

「……久しぶり、だな」

「サオリ……」

 

 

 とても、怖かった。

 

 笑顔なんてどこにもない。いつものまん丸のタレ目などどこにもなく、ひどく鋭い眼光がぎらりと光る。

 いつも三日月のように笑っている口も、今は横一文字。見慣れた笑顔がそこにあった形跡はどこにもなくて、今の彼女の表情には負の感情が渦巻いている。

 一目みただけでわかった。

 彼女は、怒っている。

 

 

「……あ」

 

 

 しまった、顔に書かれたその感情に、彼女は私から顔を逸らす。手で顔をこねくり回して振り返ったときには、いつもの笑顔がそこにあった。

 貼り付けた笑顔でもない、愛想笑いでもない。本当に、いつもと変わらない笑顔。

 だけどほんの少し、いつもよりも凛としている気がした。

 

 

「久しぶり、サオリ」

「あ、あぁ……久しぶりだな」

「突然いなくなってごめんね? 少し離れた場所で仕事しててさ、しばらく帰れそうになくてね」

 

 

 知っている。彼女も、私が彼女がどこにいるのか既に知っていることを承知の上で、この話題を出している。

 あえて話題に出すということは、それに関して何かを私に言いたい。おそらくそういうことだろう。

 何が言いたいのかはわからない。でも、前振りがなければ喋れない……であれば、乗るしかない。

 でも、その前に一つだけ……少しだけ。

 

 

「問題ないさ……と言いたいが、少しだけ文句は言わせてくれ」

「……甘んじて受け入れるよ」

「……寂しかった」

 

 

 歩み寄って、彼女に抱き着く。いつからか見慣れた私服。制服じゃない彼女から漂う匂いも、もう慣れた。

 柔らかい匂い。何度も彼女に抱かれているからか、この匂いに心の底から安心感を覚える。

 たった数日、されど数日。この安心感に、私は酔っている。

 

 

「ごめんねサオリ」

「ダメだ」

「えぇー……いつからこんな甘えん坊になったのよ」

「あなたのせいだ。私は悪くない」

「んもー」

 

 

 愛いやつめと抱きしめて私の頭をなでてくれる。私よりも大きくて武骨な掌。思わず目を細めてしまう。

 この心の穴が、徐々に温かさで埋められていく。少しささくれていた心に、徐々に平穏が帰ってくる。

 ずっとこのままで……でも、そうもいかないことくらいわかっている。

 

 

「……アリウスにいるのか?」

「……うん」

「昨日捕まえた不良たちから聞き出したことから、あなたがアリウスに行ってるんじゃないかと思ったが……やはりそうか」

 

 

 彼女から離れる。そして、ようやく理解に至った。

 今の彼女の目は、甘やかすための優しい笑みではない。

 私たちを見守る笑顔……母親のような表情なのだと。

 

 

「向こうで困ったことはないか? 私ならいつでも力になるぞ」

「……今は大丈夫かな」

「本当か?」

「うん、残ってる子たちが頑張ってるから」

 

 

 そこから彼女は語った。アリウスに行ってからわずか数日でやったこと。

 ご飯を食べて、住居を改装して、お風呂を作って、寝床を作って、そして水をいつでも飲めるようにもしたと。

 信じられなかった。思い出せるアリウスとは程遠い、少しでも快適さを獲得した母校の姿なんて。

 彼女の手腕は先生にも負けず劣らずだと思っている中、一つ思ったことがあった。

 

 

「皆は、アリウスの外は経験したのだろうか?」

 

 

 トリニティに転入してきたアリウスの生徒は少なくはない。転入してきた子たちが他のアリウスの子を勧誘して……というのが繰り返されて、それなりの人数が今のトリニティにはいる。

 桐藤ナギサ率いるフィリウス派の生徒たちに庇護してもらいながらも、アリウスの生徒たちは自分たちの生活をより良いものにするために、必死にアルバイトなどをしながら学業に励み、生活している。

 そう、外の世界に出て、アリウスの外を知って、新しい場所で生きようと戦っている生徒たちがいるんだ。

 

 アズサに青春ができたのだから、私たちもできないわけがない。あの時、アツコが言った言葉。

 その通りだった。私たちにだってできたし、他のアリウスの生徒たちもできた。

 一人ではできなかったかもしれない。だけど、みんなで手を取り合えばできるんだ。

 だからもし……

 

 

「もしまだ経験していないなら、私たちが手を──」

 

 

 

「黙れ、錠前サオリ」

 

 

 ずっと彼女の後ろにいた、帽子を被った生徒が声を出した。

 遮られたあまりにも冷たい声色に、静寂が訪れる。

 

 

「アリウスの外を経験したのか、だと?」

 

 

 帽子を脱いた。隠れていた目が、髪が、表情が露わになり、見覚えのある紫の瞳が私を射抜く。

 光のない底なし沼のような瞳。私に向けてありったけの殺意を向けているその生徒は、数か月前まで苦楽を共にしていた同い年の生徒。

 

 

「スバ、ル……」

「相変わらず人を思いやることができないようですね、サオリ」

 

 

 梯スバル。アリウスの3年生であり、下級生を纏める生徒の一人。

 どうしてここに……そう言おうとしたのに。

 

 

「ダメだよスバルちゃん」

「嫌です。言いたいことが山ほどあります……この、裏切り者には」

 

 

 銃を引き抜こうとしているスバルの腕をつかむ彼女。

 睨み顔を彼女にも向けるものの、無理やり腕を振りほどこうとはしない。睨む先を彼女から私へと移し、細めたままの目を私に向け続ける。

 数秒後、大きなため息と共にスバルは銃から手を離した。

 

 

「良い子だねスバルちゃん」

「……早く行きましょう。私はいつまでもここにいたくありません」

「わかってる。でも少しだけ話すことあるから、スバルちゃんは先に行ってて」

「……わかりました」

 

 

 彼女がスバルに車のカギを渡す。私とは方向性の違う信頼を目の前で見せつけられて……少しだけ、胸のあたりがもやっとした。

 エレベーターに乗り込もうとする前に、スバルが足を止めて振り返る。

 

 

「帰りも長丁場ですし、下のコンビニで何か買っておきますか?」

「お、じゃあ甘いコーヒーと菓子パンお願いできる?」

「菓子パン……何がいいです?」

「スバルちゃんと分けて食べるだろうし、スバルちゃんが食べたいやつでいいよ。はい、カードね」

「流石に自分のお金で買いますよ」

「いいの。スバルちゃんのお金はスバルちゃん自身のために使って」

「……わかりました」

 

 

 渡されたであろうは支払いができるカード。それを受け取ったスバルは一人、エレベーターに乗って下へ向かっていってしまった。

 悪用しようと思えばいくらでもできるカード。それを何のためらいも見せずに彼女はスバルに渡した。

 一体どれだけの信頼をスバルに寄せているのだろうか。そこまでの信頼を、どうやってこの短期間に彼女から得たのだろうか。

 私の中に渦巻く感情を、彼女のたった一言の接続詞が一時停止させる。

 

 

「さてと」

 

 

 小さく手を振ってスバルを見送った彼女が振り返る。

 そこに、笑顔が無かった。

 

 

「スバルちゃんがいなくなったから話せるけど……先生とサオリには言いたいことがあるんだ」

「言いたいこと……?」

 

 

 そう、と首肯して言葉を続けた。

 

 

「できるだけで構いません。アリウスの子たちへの干渉は控えてもらいたいんです」

「……どうしてか、聞いても?」

 

 

 先生の問いかけに彼女は目を閉じる。その瞼に映っているものは、一体何か。私にはわからない。

 少しだけ間をおいて、彼女は語る。

 ゆっくり開かれた瞳は、彼女が今抱えている書類たちに向けられていた。

 

 

「あの子たちは、アリウスの外で失意して、居場所を見つけられなくて帰ってきた子たちなんです」

「居場所を……」

「あの子たちは今、ただ家にいるだけなんです。アリウスが、あの子たちの家なんです」

「……」

 

 

 少しだけ口角を上げて、彼女は戻ってきたエレベーターにつま先を向ける。

 先生のものとも、今まで私が見てきた彼女のものとも違う背中。大きな背中からは、優しさが溢れていた。

 抱えている書類たちが、アリウスに残った子たちのように見えるくらいに…

 

 

「私はあの子たちが、いくらでも羽根を伸ばせる場所を作ってあげたい。おまわりさんとして……ううん、一人の大人として」

「……その間、アリウスの外はどうするつもりですか」

「だから仕事を取りに来たんですよ。スバルちゃんにも手伝ってもらってね」

「書類仕事はリモートでもいいかもしれません。だけど、現場仕事はどうするのですか。あなた、私よりも多いでしょ!」

 

 

 先生の声色がどんどん鋭くなる。彼女がアリウスにつきっきりになるということは、外であるこちらのことは全て見ないふりをするということ。

 職務放棄、言い換えてしまえばそうなる。しかし彼女はそれにも笑って答えて見せた。

 

 

「流石にそこまで考え無しじゃないですよ。ヴァルキューレには連絡をつけています」

「それじゃ、ただ仕事を投げただけじゃないですか……!」

「誰かがやらないといけない。それは本来トリニティの仕事のはずです。でもそれを先に放棄したのはトリニティなんですよ、先生」

「それはっ……そうかもしれないけど」

「子供の尻拭いは大人の仕事。そうでしょう先生」

 

 

 閉まる扉。彼女は背を向けたまま、最後に言った。

 

 

「トリニティの方は頼みます、先生」

 

 

 扉が閉まる。エレベーターの現在階を示す電子表示の数字がどんどん小さくなっていき、やがて1で止まる。

 彼女は、シャーレから出ていった。

 外を見れば車に乗り込む彼女とスバルの姿。間を置く暇もなく走り去っていく車を目で追って……見えなくなった。

 

 

「……先生、どうするんだ」

「……トリニティに向かう」

「やるんだな。なら、私も手伝おう」

 

 

 先生が荷物を纏める。楽にするために外していたネクタイを結び、上着を着て、シッテムの箱をカバンに入れる。

 未だに書類の山が机の上に鎮座しているが、それを振り払うかのように先生は部屋から出た。

 電気を消して、暗闇。

 

 

「……任せられました、おまわりさん」

 

 

 誰にも聞こえないようにつぶやいたのだろう。

 だけど、しっかり聞こえている。静寂は、その熱を放ってはおかないから。

 

 

「先生」

「どうしたのサオリ」

「一緒に戦おう」

「サオリ……うん、よろしく」

 

 

 突き出した拳に、先生は優しく拳を当てた。




最推しはサオリ
でも一番えっちしたい生徒はラブ
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