風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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だめだぁ…疲れがたまりすぎてて頭全然回んない…


準備

 テラス。

 日が暮れそうになっている時間、ここに残っているのは私たちアリウススクワッド、先生、帰ってきたミカを含めたティーパーティーの三人。

 当初はここにツルギやサクラコ、ミネもいたのだが、彼女たちはナギサの依頼で既に席を外している。

 髪の毛をくしゃくしゃにして俯くナギサを、全員で見守ってる……否、それしかできないのだ。

 

 

「こんな下らない……たった数人の欲のために……」

 

 

 この言葉が何度目か、数えるのは途中からやめた。

 臨時代表の二人を問い詰めて得られた結論、そしてそれに至った経緯はあまりにも幼稚であり、政治に関与しない私ですらも「ありえない」と吐き捨てたくなるような、その程度のもの。

 金に目がくらんだ私利私欲に塗れ、結論だけを見て良し悪しを決める様な幼稚な思考で行った彼女たちの行為は、アリウスを貶めると同時にティーパーティーというトリニティの顔に泥を塗る行為だった。

 

 反省する様子は見せたものの、依然としてテロを起こした私たちが悪いと一辺倒な発言を繰り返していた臨時代表たち。

 結果、ナギサが爆発した。

 

 あまりにも静かに、そして確かな怒りがナギサから溢れる。

 音もなく抜かれた拳銃。ナギサが銃を構えていることに誰一人気づくことなく、突如放たれた銃弾は臨時代表の急所に直撃し、二人の意識を刈り取った。

 硝煙が静かに立ち上る中、おもむろに立ち上がったナギサが静かに告げた。

 

 

「その二人に密に関わる者を洗い出してください。その全員を……そうですね。ヒフミさんたちとは別に、新しく補習部を作りそこに入れましょう」

 

 

 ここにいる全員が、その言葉の意味が分からないわけではない。先生ですら押し黙るナギサの圧に、当然誰も口を開くことができなかった。

 これがティーパーティーのホストとしての威厳。そんなことを思えていたのも、束の間の話。

 二人が連行されるのを見送ったナギサは覚束ない足取りでテラスの端へと向かい、柵に手を置いて外を眺め……膝を突いて項垂れた。

 ゲヘナから帰ってきていたミカが咄嗟に駆け寄ったが、ナギサの背中は既に小さくなってしまっていた。それまでが虚勢だったことを示すように激しく揺れる肩と背中を、ただ静かにミカがさする。

 

 

「ぁぁあ……あ゛あ゛ぁ゛……!」

「ナギちゃん……」

「み゛……がぁ……ぅ゛え、ぁあ゛……!」

 

 

 慟哭。

 どれだけナギサが努力しようとも、変えられることと変えられないことがある。それは人の心。

 一度は疑い、だけどもう一度信じることを努力していたナギサは、再び裏切られた。

 涙の理由は決してそれだけではないだろう。アリウスに対しても涙しているのだ。彼女がどれだけアリウスのことを想い、そのための根回しや準備をしていたかはアツコから聞いている。

 それを悉く無碍にされて、それを直視した……否、突きつけられたナギサは今、折れてしまった。

 テラスの端っこで、幼子のように大声で泣き続ける。

 私は、見ていられなかった。

 

 

「サッちゃん……」

「今はミカに任せよう。それしか、できない」

「……」

 

 

 フードを深く被り、唇を噛むアツコの手を握る。アツコだって、ナギサと同じ気持ちだ。

 ナギサ一人ではどうしようもなかった。アツコでは役にも立てなかった。トリニティという一枚岩ではない組織で意見が分断されてしまえばこうもなる。特に、エデン条約以降の統制の取れていないティーパーティーでは尚のこと。

 ここにいる全員が「悔しい」という感情を抱えて俯いていた……だが、アツコが勢いよくフードを脱いだ。

 目尻に涙を溜めたまま、私の手を離してゆっくりと歩いて、蹲るナギサと向き合う。

 

 

「ナギサさん」

「……ごめ゛、んなざい……っ」

「……顔を上げて?」

「……?」

 

 

 アツコの言葉にナギサが顔を上げる。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている顔、そして真っ赤に腫らした目がそこにあった。

 収まらない嗚咽の中、アツコがナギサの顔に……頬に指を当てる。

 何をされているか全くわからない、そんな様子のナギサの頬を……グイっと、上に押し上げる。表情と口角が全く一致していない、あまりにも歪な笑顔。

 

 

「笑おう、ナギサさん」

「……?」

「私もこんなことになると思ってなかった……すごく悲しい」

 

 

 アツコの頬にも涙が流れる。だけど、その表情は──

 

 

「でも、笑おう!」

 

 

 辛さすらも吹き飛ばすような、満面の笑顔。

 いつか見た、彼女のものと同じ笑顔。

 

 

「笑わないと……ハッピーエンドは掴めないから」

 

 

 ナギサを優しく抱きしめる。アツコの背中に、数か月前の彼女の背中が重なる。

 気づかなかった。少しだけ会えない期間があっただけだというのに、いつの間にアツコはあんなに大人になったのだろうか。

 背中を見ただけでわかる。アツコの優しさは、彼女の物と同じ。

 突然のアツコの行動に目を丸くしていたナギサだったが、やがてアツコの背中に手をまわして、肩に顔をうずめた。甘えるように、小さく唸りながら。

 

 

「一緒に考えよう、ナギサさん。どうやってアリウスを良くしていけるか」

 

 

 優しい声色で問いかけたアツコの言葉に、ナギサは小さく頷くのだった。

 

 

 


 

 

 

「いい感じですね皆さん」

 

 

 校舎のとある部屋。

 紙の的に向けて放つは弾丸。一発も無駄にできない緊張感を前に、皆が黙々とサイトの向こう側を睨む。

 これは私たちアリウスがずっとしてきた訓練の一つ。一番オーソドックスな射撃訓練だ。

 

 彼女が来てからというもの、生活改善の方に時間を割きすぎていたせいで訓練を一切やっていなかった。

 今日の彼女は、どうしても外せない仕事があるとアリウスの外へ行ってしまっている。

 久しぶりに私たちだけの時間。快適な空間で自堕落に過ごすのは、とても私たちには合わなかった。

 彼女の手伝いで得たお金で買った娯楽も、たまに時間を潰す程度で消費しているだけ。

 

 どれだけアリウスが快適になろうとも、私たちの本質はあの頃と変わっていない。

 長年刻まれてきたここでの生き方が、訓練も生活の一部だと身体が私たちに訴えてきていた。

 気づけば、全員がここ訓練場で銃を握っていた。

 

 

「命中率がかなり良くなっています。生活の質が向上したおかげですね」

 

 

 成績の確認を行ったのだが、恐ろしいほどに全員の精度が向上していた。それは当然、私も含めて。

 今までの生活だったらここまでの集中力を発揮することも、その集中力を継続させることもできなかっただろう。習慣だから、ただそれだけの理由で惰性的に続けていた訓練とはワケが違う。

 

 ここにいる全員が「以前より体調が良い」と言っていて、以前から浮き彫りになっていた根性だけではどうにもならない体調面の問題が解決したのが大きいのだろう。

 食生活の改善、睡眠の質の向上、リラックスできる空間での休息。今までのアリウスだったら、どれもマトモに取ることができなかったであろうこれらのおかげ。言い換えてしまえば、それをもたらしてくれた彼女のおかげと言ってもいいだろう。

 もちろん、彼女は否定するだろうが。

 

 

「時間も丁度いいですし、皆さん休憩にしましょう」

「わかりましたー! みんな、休憩だってー!」

 

 

 休憩の一言に、充満していたはずの殺気が一気に霧散する。緩い雰囲気が流れ始めて、気づけばあっという間に全員がのんびりし始めていた。

 私も見習うとしようと瓦礫に腰かけ、皆を見渡す。

 

 

「……随分賑やかになりましたね」

 

 

 たった数日。ほんの数日の間に快適になりすぎたアリウス。今までだったら数人にしか分けられなかったお湯も、今では全員の手に行き渡るのが普通になった。

 瓦礫だらけ埃だらけの空間だったこの場所も、大きな瓦礫は除いて綺麗に清掃されている。漂う空気すらも汚いと感じていたのが、はるか昔に感じられるほどに。

 

 今のこの結果を目の前にしてい言えることは、彼女を受け入れて良かった。それだけ。

 あの時に彼女を、彼女が教え作ったカレーを突っぱねていたら、きっとアリウスは変わっていなかった。

 そう、結果良かった。

 あの時できなかった納得は、後からついてきた。

 

 

「……良かったんでしょうね、これで」

「スバル先輩……?」

「マイアさん、どうかしましたか?」

「難しそうな顔をしてたので……おやつ、食べませんか?」

「おやつ……何でしょうか」

 

 

 マイアさんたちの前でこんなことを考えてはいけないと、思考を切り替える。マイアさんの「おやつ」という言葉に目を向けると、彼女が取り出したのは小さな箱。

 こげ茶色のパッケージに織物のようなお菓子の写真。大きく書かれる文字は──

 

 

「さ……SASYAですって!?」

 

 

 思わず大きな声を出して立ち上がってしまった。

 SASYA。有名なチョコ菓子の一つ。思った以上に値段が高くて、買い出しの度に欲しいと思うものの、毎度買うのを見送っていたお菓子だ。

 繊維のような細いチョコを何層も何層も重ねて作るチョコで、噂を聞く限り、口内で溶かすように食べると最高のくちどけを、咀嚼して食べると最高の触感を味わえるチョコ界でも屈指の人気チョコだそう。

 それが今、目の前に……マイアさんの手の中にある。

 いくら彼女からお駄賃としてお金を貰っているとはいえ、SASYAを余裕で買えるほどではないはず。彼女から貰えるお金は、本当にお駄賃レベルだからだ。

 

 

「一緒に食べませんか、スバル先輩?」

「よ、良いのですかマイアさん!? 結構値段の張るお菓子のはずですが……」

「はい! スバル先輩と一緒に食べたいです!」

 

 

 私は良い後輩を持ちましたね……そう思いながら差し出されているお菓子を手に取ろうと手を伸ばす。

 あと少しで夢のお菓子を──そう思っていたのに。

 

 

「……あ」

 

 

 マイアさんが、何故か腕をひっこめた。信じられなかった。どうしてそんな酷いことするの……そう思い顔を上げると、そこには良いことを思いついたと言わんばかりの顔をするマイアさん。

 何かを企むような仕草をするマイアさんに、どうしましたかと急かすように聞く私に笑みを向けるマイアさん。

 聞かなければ良かったと、後悔した。

 

 

「スバル先輩のハーモニカ……聞かせてもらえませんか?」

「……SASYAの取引条件、ということですね」

「はい!」

「元気に答えますね?」

 

 

 取引とは小癪な、そんな強い言葉は飲み込んですぐにハーモニカを取り出す。仕方ないではないか、私だってSASYAが食べたいのだ。

 吹く準備をしていてふと気づくと、何人もの子たちが集まり私の前に座り込んでいた。こうなってはもう断れない、腹をくくって息を吸い込んだ。

 

 終わった後、皆さんからお菓子をたくさんもらいました。

 悪い気はしませんね。




SASYAは紗々です、美味しいですよねアレ
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