こうなると思っていた。
私たちがアリウスに戻ることが歓迎されないことも、それによって武力衝突が発生することも、そして私たちにスバルを説得できる程のモノが無いことも知っていた。
アリウスを外と同じ「普通」にしたい。それをどう伝えたものかと悩んだ結果、とりあえず「勉強」に行きついた。
ある意味取っ掛かりに過ぎないが、試験を受ける、そのために勉強をする。それが私たちが外で……アリウスを出て学んできた普通。
スバルたちにも、それをしてほしかった。ほんの少しでも、こんなことでもいいから外のことを感じてほしかった。
簡単に受け入れてくれるなんて、少しも思ってはいなかったが。
「これは……思ったよりもだ」
「ちょっとリーダー、予想外れてるんだけど……」
「ひぃぃ……完全に包囲されてますぅ……もうおしまいです!」
「落ち着いてヒヨリ、まだ大丈夫だから。ミサキ、クラスター弾ってある?」
「あるけど。どうするリーダー?」
削り取るように私たちが姿を隠している瓦礫を撃ち続けるアリウスの生徒たち。当初の見立てだと、こんな風になるとは思っていなかった。
目を見張るのは、あまりにも統制が取れた動き。スバルが指揮して、各小隊の隊長が指示を出し、各々が縦横無尽に戦闘区域を走り回っている。今までのアリウスならば不健康ゆえに鈍った動きしかできなかったはずが、見違えるほどの動きを繰り広げているではないか。
その元気はどこから? 当然、彼女がもたらしたものなのだろう。
「……とりあえずここを脱する。クラスター弾を」
「了解。撃つよ」
ミサキが少し上に向けてクラスター弾を発射する。しばらくして放たれた拡散弾頭が、轟音を響かせて辺りを蹴散らす。
土煙がここら一帯にいる全ての者の視界を奪う。
同時に、銃声が止んだ。
「今のうちに一部隊でも多く制圧を──ッ!?」
「錠前、サオリィ!!!」
土煙が充満する中、それをかきわけて飛び出してきたのは──
「スバルか……くッ!」
片手に拳銃、もう片手にはナイフを握り、私に肉薄してきた。ナイフの刺突をライフルで受け止めるが、完全に虚を突かれた行動に動作が鈍った。両手が完全に塞がれてしまう。
ここまでのスバルたちの戦い方がゲリラ戦術ではない、教本などにある包囲殲滅戦術に則っていたから、こんなタイミングで奇襲をかけられるとは思ってもいなかった。
完全な油断だ。
「皆さん、スクワッドの分断を! サオリの相手は私がします!」
「そういう、ことか……!」
この数か月、私は正実に所属して日々研鑽してきたつもりだ。アリウスに居たころから衰えないようにと、トレーニングを怠った日は一度だってない。
しかし、それでできたのは現状維持だけだったらしい。
ここアリウスに居続け、ここアリウスで研鑽を重ねてきたスバルとは……
「衰えましたね、サオリ!」
「そんなつもりは、無いんだがな……!」
差ができていた。
そんなスバルの戦い方に見覚えがある。ナイフの突き方、拮抗した状態での力の込め方、ナイフの持ち方、その全てに。
武器は違うものの、どちらも近接武器。
重なるは、彼女……おまわりさんの姿。
「教わったな!」
「彼女は私よりも強い! 大いに参考にさせてもらってますよ!」
「やはり彼女のせいか!」
「おかげ、と言いなさい!」
ライフルが弾き飛ばされる。がら空きになった胴にナイフを突き出すが、身軽になったおかげですぐに回避できた。怪我の功名……と口に出して言うには、まだ早計だろう。
少し離れた場所に転がっているライフル。取りに行く暇はない。
目の前で拳銃の銃口を私に向けているスバルにできること。それは同じ武器を構えて立ち向かうことだ。
サブ武器として持っている拳銃を、ナイフを持ち、スバルと対峙する。
「……懐かしいですね。同じ装備での訓練、純粋な上下を決めるために何度かやりましたね」
「そうだったな。まさかこんな形で再戦することになるとは思わなかったが」
「えぇ……私もです!」
強めた語尾と同時。先に動いたのはスバル。
姿勢を低くして突進してくるのに合わせてサイトを向けるが、スバルの動きが速い。まだ晴れ切ってない土煙に視界が邪魔されて、正確な照準ができない。
だが、それごときで戦闘を続行できないほど、スクワッドのリーダーの名は伊達ではない。
「そこだ!」
空気の流れは土煙の流動で丸見え。スバルが走るたびに揺れる土煙で凡その位置を割り、足音で特定する。
3発放った弾丸にうめき声。スバルがいる証明に、私は土煙に飛び込んだ。
「スバルッ!」
振りかぶったナイフが空を切る。そこにスバルはいなかった。
確かにそこにいたはずだと思考と視線を巡らすが、それが隙になったことに気づかなかった。
そして、足元にワイヤーが伸びていたことも。
「甘いですよ!」
視界の隅、足元できらりと何かが光って、反射的にジャンプする。刹那、ワイヤーが宙で米となって、それが私を捕縛するために敷かれていたリング状のワイヤーであったことに気づいた。
しかし、意識をワイヤーの方に向けたのが、私の命取りだった。
「これで終わりです!」
ジャンプして身動きが取れない。私がその状態になるのをじっと堪えて待っていたのだろう。薄くなり始めた土煙からスバルの姿が現れた。
ナイフを利き手に持ち直したのだろう、迷いなく突き出された刃が私に向かって迫る。この体勢では回避のしようがない。
完全に分断されたアズサたちとの合流は不可能。逆に言えば、この状況を助けてくれる人間もいないということ。
腕でガードできるか? 否。
銃であの刃だけを撃ち割れる? 否。
「外に帰りなさい、スクワッド!」
刻一刻。そんなことも言ってられない状況に、どうすれば反撃できるかと、私の思考は攻撃を受け入れた後の行動を考え始める。
刃が当たり所の悪い場所に刺さらないことを祈って、着地の準備をして……足音。
「これ、どういう状況ですか?」
「サオリ達とアリウスに残ってる子たちが交戦してる状況です。あまり良い状況じゃないですけど」
「それはどっちの意味で?」
「スクワッドが劣勢という意味で……うわ!?」
やっと気が付いた。背後からさり気なく聞けば、慣れた声ということもあって先生はスラスラと状況を語ってくれた。
私の声に慣れてくれたとか普通に嬉しいじゃんね? でも流石の私も少し年の離れた男には欲情しないっていうか、ごめんなさいっていうか。
え、私はもう選ぶ側じゃない? コロスゾー。
「び、びっくりした……一体いつから?」
「ついさっきですよ。買い物終わって帰ってきたらドンパチしてるんですもん。びっくらポンですよ」
「えっと……その」
「トリニティの方のいざこざは済んだ、ってことでいいですか?」
先生は私の言葉に驚きつつも首肯する。そっちが片付いたのであれば、あとはアリウスだけの問題だ。
それをするにはとりあえず、この戦闘を終わらせなければならない。
この戦いを終わらせに来た!!!(ドンッ!)を実際にしなければならないのだ。今の私制服じゃないからちょっとしんどくない? 今おまわりさんパワー無いよ? そんなことも言ってられないけど。
「じゃ先生、とりあえず荷物お願いしますね」
「えっ。ま、まさかそのままの格好で行くつもりですか!?」
「おまわりさんですから。あ、卵入ってるから割らないように」
「えっ、はい」
「んじゃ行ってきまーす」
カーディガンを脱いで腕まくり、とりあえず動きやすい格好になってから目の前に広がる土煙の中に入る。
この中で銃声がいくつも鳴り響いてるからいつ銃弾がこっちに飛んできてもおかしくない。でもまぁ、大丈夫でしょう。多分、知らんけど。
できるだけ姿勢を低くしながら歩いていると、見覚えのある後ろ姿が視界に入る。
でっかいバズーカみたいなのを抱えているマスク少女ことミサキちゃん。私の姿を見て、目を丸くしている。
「やほー」
「ちょ、どうしてここに……!?」
「この戦いを終わらせに来た!!!」
「ふざけないでよ……ていうか、丸腰じゃん。いつもの盾とかは?」
「制服じゃないからなんにも持ってないよ! 防弾ベストもないし完全な無防備だね!」
「死ぬ気!?」
「へーきへーき。多分、おそらく、めいびー」
頭を抱えるミサキちゃん。飛び交う弾丸の中で瓦礫に身を潜めている。私も倣って隠れるが、小さい瓦礫なためぎゅうぎゅう詰め。
おしくらまんじゅうじゃん。ミサキちゃんとここまで密着するの初めてじゃない? いい匂いするね?
「うーんフレグラァンス」
「……変態?」
「否定はしない」
「困るんだけど……反応に困るんだけど……」
「じゃあ銃借りてくね。リボルバーだから一番使い慣れててね。最初に会えたのがミサキちゃんで良かった」
ミサキちゃんの腰から拳銃を引き抜き、弾倉に全弾入っていることを確認。セーフティはかけたままにして、お礼代わりとして私はミサキちゃんの頭をなでる。
咄嗟に出てしまった手だったが、案外ミサキちゃんも可愛いではないか。真っ赤にして腕を振り払う姿に、私の腕は折れそうになったけど。キヴォトス人のパワーはつえーんですのよ?
「撫でないで!」
「うふふ、また今度こねくりまわしてあげるからね」
「いらないって!」
全力で私を振り払おうとしているミサキちゃんから離れて、さっきから聞き覚えのある声が言い合いしている場所へと急ぐ。
声が近いか遠いか、それだけで二人の場所を目指す。飛び交う銃声も小さくなる程遠い場所。土煙がいち早く薄れてくるであろう場所で、二人は戦っていた。
「これで終わりです!」
二人の姿が見える。宙に浮いていて逃げ場がないサオリと、サオリにナイフを突き立てようと攻撃態勢のスバルちゃん。
あと少しでサオリにナイフが刺さってしまう。提げていた拳銃のセーフティを指探りで解除して、すぐにサイトをスバルちゃんの持つナイフへと向ける。
「外に帰りなさい、スクワッド!」
「コラ~!」
寸前、引き金を引く。久しく感じていなかった反動を押し殺して、放たれた弾丸はナイフの刃へと当たる。
火花を散らして吹っ飛んでいくナイフ。着地したサオリと、手を痺れさせてるスバルちゃんの視線がこちらに向いた。
急いで二人の下へ駆けて、持っている武器を没収して、怒声を放つ。
「二人とも何してるの!」
周囲の銃声が、全て止んだ。
前書きの遅くなった理由は建前でして…
実はどう展開させるかでクッソ悩んでました。
本当はスクワッドvsアリウス残留組の最初の戦闘で今までおまわりさんと作り上げてきた住処を破壊させて対立を深めようとしたんですがね…そうするとスバルたちがサオリたちとの対話を完全拒否すようになっちゃうと思いまして
じゃあどうするか?と考えて考えて週5日残業+土曜出勤までして考えて…ぶなーんな展開になってしまいました。
基本オラトリオほんへは原作準拠くらいな流れで行くつもりではいるのですが…現状、原作よりも超悪化する部分があるのは確定してますので(読んでたら予想つくかもですが)
寝ます…残業しぬ…