ブルアカ界隈めんどくさすぎて鬱
結論から言おう。
私と彼女のアリウス流による戦い。
アリウスの今後をどう指導していくか、その主導権を賭けた摸擬戦。
「……どうして」
「……負けちゃったね。サオリの勝ちだ」
「どうして!!!」
最後に立っていたのは、私だった。
先生の指揮も無い、彼女との完全な1対1の勝負。
隣に立って戦ったり任務に当たったことは、今までにも何度かあった。しかし、彼女を真正面に迎えて戦うのは、当然初めてだ。
彼女から教わった制圧術。それだって、彼女が隣で教えてくれた。手取り足取り教える彼女は、決して私の前に立とうとはしなかった。
そんな彼女は今、私の目の前で倒れている。
盾は遠い所に転がっており、手錠は閉まることも無く足元に落ちている。彼女の十八番である警棒も、伸ばされることすらなく、手に取られることすらなく、彼女の腰についたままだ。
彼女は、私に武器を最後まで向けなかった。
「どうしてなんだ! どうして私と戦わなかった!」
「? 戦ったつもりだったけど……」
「ふざけるな! 武器も手に取らないで、何故それを戦ったと言える!」
彼女の上に馬乗りになる。胸倉をつかんで、顔を近づける。
お互いに少しだけ香るカレーの匂い。彼女と近かったはずの境界線。お互いが同じ匂いをさせているのに、徐々にそれが無くなっていく。
大人と子供。救う側と、救われた側。彼女から歩み寄ってくれて限りなく近かったはずの境界線は、今大きくなっていく。
些細なことから始まった溝に流れる水量。流れる感情は大きくなって、激情となって、溝を削っていく。
「……大人の私が、理由も無く子供に武器を向けるワケないじゃん」
「理由だと……! この戦いに、理由は無かったのか! 私たちが戦った理由は、アリウスのためじゃないのか!」
「その通りだけど、それはサオリに武器を向ける理由にはならない」
「どういう……意味だ!!!」
彼女の言葉が本当ならば、彼女は端から私とまともに戦う気が無かったという意味だ。
非殺傷弾を使っているとはいえ、私は彼女に銃を向けた。引きたくない引き金だって引いた。それはスバルたちの為に、彼女を少しでも楽にしてあげたいと思ったから。
それなのに彼女は、そのどちらも選んでいなかった。
スバルたちの為に武器を取ることもしなかった。銃を向ける私に反撃するために、武器を握る選択すらも取らなかった。
彼女は、何がしたいんだ。
「サオリを傷つけるつもりはない。それだけ」
「……馬鹿にしているのか」
「してない。私は、サオリに武器を向けたくなかった──」
気付けは、手を出していた。
掌が空を切って、彼女の頬を叩く。
乾いた音が、戦闘の跡に銃声よりも大きく響く。
「サッちゃん!」
「止めるよ先生!」
「サオリ、それ以上はだめだ!」
勢いで出た手。でも、私の感情がそれで収まることは無い。心の中の荒波は、表情となって、声となって、彼女に向かって放たれる。
アツコたちに羽交い絞めにされて手を出せなくなる。ミサキに胴を抑えられて馬乗り状態で無くなる。
物理的な距離を取っても、この声だけは届く。届いてしまう。届いてしまった。
一時の感情に流されて、一番言ってはいけない言葉。
幼き頃からそれを教えられていたならば、私はこれを言わずに済んだのだろうか?
「……きらいだ!」
「あなたなんて……きらいだ!!!」
サオリの勝利によって、私たちの今後の教育方針は先生とスクワッドたちの物へと切り替わった。
今すぐに、というわけではないが、彼女が作り上げた今のアリウスの環境であれば、そう時間はかからないだろう。
私達ここに住まうアリウス生たちの心境を除いて、だが。
あの戦いの後。
サオリは激情に任せた行動を見せたせいで先生やスクワッドの連中に拘束されてどこかへと連れていかれた。
防戦一方だった彼女の服はボロボロで、貸したアリウスの防弾ベストすらもロゴが消えかけるほど。
見ていて思ったのは、彼女はサオリが言う様な「戦う気が無かった」わけでは無いということ。
戦っていた当人であるサオリにとって、戦う事というのは「重火器や武器を向けあって戦う事」だったのかもしれない。そも、アリウスという場所では、戦うということをそういう風に教育されていたから、当然のことではある。
しかし今回の彼女の戦闘スタイルは、サオリが思っているようなものでは無かった。彼女が警察たる所以の一つ、「逮捕術」を駆使して、サオリを
彼女がサオリを傷つけたくないという思いは、見ていて十二分に伝わってきた。
彼女は豊富な実戦経験のある馴染みの格闘術でサオリを制圧しようとしていたのも、重火器を使うテロリストとして養成されたゲリラ戦のプロであるサオリに、それが通用することは無かった。
最期の最期まで武器を取ることを選ばず、彼女はサオリの前で倒れたのだ。
サオリが連れていかれてから十分程だろうか。
彼女は未だ、硬い地面の上で寝転がったままだ。
曇天を見上げて、ただ大の字で身を放っている。
「お疲れさまでした」
「……ごめんね、スバルちゃん」
「謝ることではありません。貴女が不器用だということは、十分に伝わってきましたから」
「……ごめん」
手を差し伸べる。ゆっくり持ち上げられた彼女は私の手を取り、よいしょと年寄りのような掛け声で立ち上がる。
砂埃だらけ傷だらけの彼女。
結果的に負けたものの、彼女のその姿には「決して曲げないモノ」を感じれた。
サオリに、子供に武器を向けない。それは、私が彼女と初めて戦った時も同じだった。
「これからどうするのですか?」
「事前の取り決め通り。私はスバルちゃんたちを見守るだけの仕事に切り替えるよ」
「ではアリウスには今まで通り滞在するのですね?」
「一応そのつもりではいるけど……でも、外に出る機会は多くなるかも。先生に引き継いでもらったようなものだし、その分だけ自分の仕事を優先的に処理しないといけないし……」
「構いません。私たちにとって、貴女がいること自体が重要なのですから」
「……そっか」
サオリと同じく不安定な瞳。あっちは激情に身を任せたが、こちらは流石大人だ。そういう感情が多少見え隠れしていても、それを自ら表に出すことは無い。
悟られていようと、じゃあいいやと投げることなく内に留める。
これが、大人なのか。
「スバルちゃんたちはどうするの?」
「まあ、素直に従うかは各々の判断に委ねることにします」
「……意外かも」
「私とて支配者ではありません。あくまで、ここに残った子たちのリーダーをしていたというだけです」
肩を竦めておどけて見せる。おまわりさんが来てから、もう既に私のその立場は失われたと言っても過言ではない。
そこにおまわりさんに代わる新たなリーダーが決まったとなれば、私やおまわりさんに付いてくかどうかを決めるのは私の意志ではない。
ここに残った子たち。サオリ達が変えたいと思っている子たち。彼女たちの意思次第だ。
言わずもがな、私は拒否するが。
「どう変わっていくんだろうね、アリウスは」
「さあ。少なくとも、今までのような緩やかな変化では無いでしょう」
「……だよね」
彼女の懸念の一つはまさにそれだ。急激な変化に心身が耐えられずアリウスに戻って来た子たちがいるここに、急激な変化をもたらされた場合、一体どうなるか。
前よりもメンタルケアや体力の回復が十全にできている状態でそれが起きた時、発生するであろう事案は明白。
「付いて行ける子、付いて行けない子。二極化するでしょうね」
「……また分断、か」
「サオリ達はそんな子たちもできないはずがないと考えているようですが……」
「甘いね。皆がみんな、そんなに心が強いわけがない。個人差を一緒くたにすることが、教育において最も危険であり……無視されがちなことだ」
彼女はまるで散歩するかのような足取りで少し離れた場所の盾を拾いに行く。
傷だらけ埃だらけになったそれを手で払い、折りたたんで腰にマウントした。手錠も畳んで腰の専用ポーチに仕舞い、貸していたアリウスの防弾ベストを脱いだ。
「また争いが起きるかもしれない……それも、今度は今までとは違う類の」
「違う類……?」
「ここアリウスに残っていた子たちの能力差による差別。いわゆる、いじめだね」
「……」
「適応できる、できないっていう話は単純じゃない。できる子にとってできない子は『下』に見えてしまう。同じ環境で同じように過ごしていた子同士に大きな差ができたら?」
「……考えたくも無いです」
彼女の考えはもっともだ。むしろ、そこまで考えているのに、サオリがそれを否定した理由の方が理解できない。
多少の痛みを伴ってでも、全員でステップアップすることが正義だというのであれば、出遅れた子に合わせる側の負担は想像に難くない。
そうして、それがおまわりさんの言う「いじめ」に繋がる可能性も──
「……そうなったら、どうしたらいいのですか?」
同じ足並みで進むことができるかわからない以上、もしものことを考えるべきだ。
私はサオリ達の指示に従うつもりなど端から無いため、彼女の言う「できない子」の保護、援助するつもりだ。
「私の部屋でゆっくり学んでいけばいい。何を学びたいか、どう生きていきたいかを一緒に考えて、手伝う。私の所に来てくれた子には今まで通りに接するつもりだよ」
「ふふ、そう答えてくれると思っていました。やはり、私にとって信頼に値するのは先生ではなく貴女の方ですね」
「……嬉しいけど、あんま期待しすぎないでね?」
「それが負担になることくらい理解しています。だから……」
彼女の手を取って、私は歩き出す。私が前で、彼女が後ろ。
いつまでも先導されっ放しじゃ彼女が疲れてしまうから。せめて私が自分で歩ける場所くらいは、彼女の前にいたいと思ったから。
でも、それだけじゃない。もっと邪な考えがいくつも頭を過っていく。
私はサオリとは違うと誇示したかったから。
サオリよりも私の方が、貴女を理解できているからと胸を張りたかったから。
貴女の方が、先生たちよりもアリウスの指導者として相応しいと証明してあげたかったから。
「私は貴女の隣にいます。貴女がアリウスを支えてくれるように、私が貴女を支えます」
きょとんとする彼女。自分でも恥ずかしいことを言った自覚はあるけど、言わなければいけなかった。
今の彼女には、支えてくれる人が必要だと思ったから。
「……じゃあ、お願いしようかな」
ほんの一瞬足を速くして私の隣に立つ。手が離れても、確かに何かが繋がったままな気がした。
少し見上げて彼女を見れば、口には小さな三日月が浮かんでいた。
ちょっとだけかもしれないけど、曇り空は晴れたようだ。
DJ羽田言ったけど3Dライブ同様で何かと炎上するのほんまやめて???
マジで冷める