風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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お話はちゃんと進んでます。


商店街

 へぇい、モブ子です。

 今日のお昼休みは商店街にひっそりと佇むスズメおばあちゃんのおでん屋さんに行きたいと思って太陽が沈むはやさより速く走ってます。

 今日のお仕事は普段と比べると格段に多く、エデン条約が終わる頃までこれが続くと聞かされています。

 普段から残業残業残業している他の風紀委員たちにトドメを刺しに来てるのかな? なんて思ってますけど私は他人事。

 だって私はもう今日のお仕事終わってるからね~!!! 

 

 風紀委員のネームドキャラの皆さんも例外なく忙殺されていて、常時仕事の多いヒナちゃんは最近シナシナし始めてる。

 そろそろゲヘナシナシナシロモップを拝めるかもしれないけど、もれなくヒナちゃんの精神力がガリガリに削られてる時だからあんまり喜んではいられない。

 こんな時先生がいたらな……なんて面識すらも無い彼? 彼女? に想いを馳せるけど、今は補習授業部でこっちに来られない状況。

 ヒナちゃんを癒せるのは先生しか……なんて土下座すれば来てくれるかな? 先生はそんなことしなくても来てくれる? イケメン過ぎんだろ……

 

 

「えーっと……どこすかねここ」

 

 

 ルンルン気分で道を進んでいると、なにやら迷える羊ちゃんがいた。黒髪ロングでかわいいね。

 

 

「……ん?」

 

 

 スマホ片手に首を傾げている後姿。見覚えのある黒い制服に、その腰辺りから出ている大きな黒い翼。

 あれって正義実現委員会じゃね? 間違いないじゃんね??? 

 

 

「えーと、このお店がここで? じゃあ右を曲がってバス停で……看板朽ち果ててるじゃないっすか」

 

 

 特徴的な語尾で横顔から見えるご尊顔は糸目。あれイチカちゃんじゃん。

 ブルアカ界でも屈指のイケメンキャラとしてこの世に産み落とされた糸目強キャラことイチカちゃん。

 普段は「っす~」なんて可愛い語尾を使っている後輩に居たらついつい面倒を見ちゃいそうになるけど実は2年生と先輩であり更に言えば後輩たちの面倒見がものすごくいいという完璧なまでの先輩キャラとして確立されている彼女のキャラクター性は実は凶暴でありその糸目が開眼されたときすべてのものを灰に変えてしまう程暴れまわる表裏というにはあまりにかけ離れたギャップを持っている彼女が私は好きなんです。

 正実キャラだと2番目に好きなんですねイチカちゃん。一番は誰かって? 先生と会ってテンパってるツルギちゃん。

 

 

(ッスーゥ)

 

 

 久しぶりに早口になってしまった。最近は抑えてるんだけどふとしたときに限界オタクが顔を表すのはよろしくないね。

 このまま悩み続けるイチカちゃんを眺めるのも悪くないけど私のお昼休みは生憎有限。

 このまま見なかったフリをしておでん屋に向かうかイチカちゃんを助けるかの2択だが選択問題にしては愚問すぎるぜ。

 

 

(当然、「助ける」ッ! それが流儀ィィ!!!)

 

 

 スキップをやめて、わざとつま先で大きな音を鳴らす。閑散として閑古鳥が鳴き始めそうな商店街にカツーンと音が響く。

 イチカちゃんがその音でこちらを向く。糸目の奥にひっそり見える蒼い瞳に私が映った。

 

 

「あれ……あの時の風紀委員さん」

「お久しぶりですね、仲正イチカさん」

 

 

 うへー名前覚えてもらえてなくても存在を覚えてもらえてるだけで私の人生全部報われるんです本当にありがとうございます靴舐めますね。いらない? そう……

 

 

「先ほどから迷っているようですが、どちらへ?」

「いやぁ……その」

 

 

 言い淀んでいる? 風紀委員や万魔殿あたりに用事があったのではないのかと思ったが、よく考えればその二つに行くのにこんな商店街に迷い込むことはあり得ない。

 なんたって、ここはゲヘナ学園とはほぼ真逆に位置する場所。

 イチカちゃんの顔に「マズイ」と文字が滲み現れる。

 なんとなく察したけど、聞くのは野暮だろう。特にエデン条約に関することなんて互いに詮索のしあいなんだから。

 

 

「仲正イチカさん。どうしましたか?」

「えっと……その……っすねぇ」

「お仲間さん探しですか? こんな場所では見つからないと思いますがねぇ」

「ッ……!」

 

 

 この場所はゲヘナ学園を観察するには少々遠すぎる。いくら人の目がないからと言っても行き来で相当な時間を要することになるだろうし、こんな場所に拠点は立てないんじゃないかな。

 もう少しゲヘナ学園に近い場所だと不良たち蔓延るストリートがあるけど、流石にそこにも潜入しないだろうし、そうなるとスパイが拠点を構えるのはゲヘナのオフィス街といった所かな? あそこなら学園からも近いし、比較的隠れ蓑が多いし。

 

 

「……な、なんのことだかわからないっすね」

「おや。私の勘違いでしたか。でしたら、この前招き入れたトリニティ生についての処遇はこちらで決めても良いのですね?」

「それ……は、どういう意味っすか?」

「言葉通りですが?」

 

 

 そう、この前エデン条約反対派が直接殴り込みに来たのだが、あまりに少数な上に簡単に制圧できたという事案があった。

 この時期にそんな事件を起こした手前、普通に釈放というわけにもいかずトリニティからの返答を待っていたのだがなかなか帰ってこないのが実情。

 そのお迎えが来たのかとも思ったのだが……まぁ違うよね。

 

 

「困りましたね。お助けしようと思ったのですが……目的がわからなければお助けもできません」

「い、いやぁ。申し訳ないっす。じ、実は私、ただお昼に困ってて」

「……お昼に?」

「そ、そうっすけど……」

「じゃあ行きましょう」

「へ? ど、どこに?」

「おでん屋」

「……おでん? この時期に?」

 

 

 イチカちゃん……君は最悪手を取ってしまったのだよ。私という昼飯の流儀の持ち主に「昼飯に困っている」なんて言ったらどうなるかなんてわかっていたでしょうに。

 イチカちゃんの手を取って商店街の中を突き進んでいく。イチカちゃんが「ちょっと、待って……!」なんて言ってるけどこの場で暴れればどちらが立場的にマズいかを理解してか、大人しくなった。

 それでいい、それでいいんんだよイチカちゃん……君はこれから私と共におでん姉妹になるんだ。

 

 歩くこと数分、手押し屋台があらわれた! 

 屋台の隣には木の椅子に座るスズメのおばあちゃん……これが伝説のおでん屋。ガラガラの商店街に現れると噂程度に話題になっていたが、まさか本当にいるとは思わなかったよ。

 私とイチカちゃんを見て、スズメのおばあちゃんが笑い、ジェスチャーで屋台の椅子に座れと促してきた。

 促されるがまま座り、目の前に広がる「いかにも」な屋台に興奮する。

 これだよコレェ~! このいかにもな任侠もののゲームに出てきそうなおでんの屋台をずっと探してたんだよ! 10万するフグの懐石とか100g1万円のお肉とかよりもうまそうな大根とかがあるこの屋台をずっと探してたんだよ! お前(おでん)が好きだったんだよ! 

 

 

「おばちゃん、おすすめは?」

「大根」

「じゃ、とりあえずそれで。イチカちゃんは?」

「えと、じゃあ私もそれで」

 

 

 お茶を出されて、大根が出てくるまでの数十秒。沈黙を破ったのはイチカちゃん。

 

 

「……どこまで気づいてるんすか?」

「と、言いますと?」

「一から十まで言わないとわからない人ではないっすよね」

 

 

 目がうっすらと開かれる。ふつくしい蒼い目。確かイチカちゃんの武器って「レッドドラゴン」だったよね? その目にちなんで武器の名前を「青眼の白龍」に変えた方が良いと思うんだけどなぁ。長いから却下? さいですか……

 

 

「言っておきますが、さっき言ったのはエデン条約反対派が突撃してきた少数人のことです。正実にも連絡くらいは行ってるのでは?」

「あぁ……そうっすね、連絡は来てます」

「彼女たちは風紀委員で保護してますので、早めにお持ち帰りいただけると嬉しいです」

「……っす」

「はい大根」

「ありがとうございます!」

 

 

 来た来た来たァ! フゥアッ、この味はぁ!!! 

 モブ子はその大根を口に入れた瞬間、理解した! この大根の味の秘密をッ! この大根はただ煮込んだだけの大根ではない、一日……いや二日! 二日間じっくりゆっくり煮込み続けたほろほろの大根であった! 出汁が大根を構成している植物細胞の細胞壁の中の液体にすらも浸透することで大根そのものを出汁で育てたかのようなきめ細やかな味に変貌させていることを、理解した! 

 

 

「お、おいひい……」

「確かに、これは美味しいっす!」

「あたしゃ10万するフグの懐石や100g1万円する肉とか、高い食べ物は結構食べて来たけど……こういう屋台の大根が一番美味しいよ」

「あのゲームに影響されすぎじゃないっすか?」

「ふふふ。イチカちゃんも知ってるんだ、あのゲーム」

「まぁ……人並みにはっすけど」

 

 

 どこかまだ一線を引いている。単に私がゲヘナだからではない……なんだろうかこの距離感は? もっと仲良く──

 ……いや待てモブ子よ! 私の目的はネームドキャラたちと仲良くすることでは無いだろう! いくら愛しのイチカちゃんとは言えあまり距離を詰めては未来の歴史に影響が出てしまうかもしれない! おまえはあくまでモブであるべきなのだ! 

 一拍置いて深呼吸。私はモブ私はモブと自分に言い聞かせて、大根を呑み込む。

 

 

「さて、仲正イチカさん」

「へ? う、うっす?」

「先ほどの回答です。まだ他の風紀委員は気づいていませんから、早めの撤退をお勧めします」

「ッ……やっぱり、気が付いて」

「知りませんよ。ただ見かけただけです。ですが、そんな些事でエデン条約が破綻するのはあなた方のリーダーの思う所では無いのでは?」

「……っすね。早めに連絡を付けますっす」

「そうしてください」

 

 

 大根一個じゃ全く腹の足しにはならないけど、時間が迫ってきていることにふと気づく。

 腹時計は優秀なのに、体内時計は相変わらず役に立たない。腕時計が私の昼休みの生命線。

 人がいない商店街、そんな場所にある屋台に風紀委員と正実が一緒にいるなんて見られたら一巻の終わりだし、さっさと尻尾を巻かせてもらうとしよう。

 さらばだ愛しのイチカちゃん。

 

 

「さて、私はそろそろ行きます。お昼休みが終わってしまいますし」

「え、お会計はどうするんすか」

「ん?」

「……はい、払っておくっす」

「いやぁ、面目ないです」

 

 

 イチカちゃんに背を向けてバス停へ向けて商店街を歩く。

 後ろから大きな舌打ちが聞こえてきたような気がしたけど、もしそれが私に向けて放たれたものなら死んでしまう。イチカちゃん……やっぱ君は凶暴だよ。そんなところもしゅき。

 

 なんか最近ヒナちゃんからの視線がものすごく鋭い気がするんだ……気のせいであってくれ。




そろそろ補習出したいよね
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