俺は、マキナ。ただし、本名ではない。この施設に与えられた名前だ。
俺は、誰だ?分からない。だが、この施設ではそんな事どうでもいいらしい。
俺の周りには三十九人の同世代と思わしき男女がいる。一つの空間に集められて、毎日、様々なことを学ぶ。確か、外ではコレを授業、と言うのだったか。
ある程度の常識は、学んでいる。例えば、1日が24時間。1時間は60分。みたいな。一年は365だったり366だったりとややこしい。
確か、俺達は18だ。18歳。社会では、成年として認められたのだったか?それとも、そんな法案は潰れたのだったか?この施設では、そんな事は学べない。
元々は六十人いた。俺含め。色んな理由で、二十人消えた。そんな人がどうなったのか、俺には知らされてない。当然だ。俺は優秀であっても、特別じゃない。だから、知らされない。
先日、職員に呼ばれた。この施設で職員に呼ばれる時。それは大体落第の烙印を押される時だ。或いは、特別な何かを学べる時。俺は過去に一度で後者として呼ばれたことがある。その時に、【術理】と呼ばれる物を身に付けた。
「来たか、マキナ」
答えない。これがこの施設での正解だ。
「では指令を伝える」
指令、初めて聞く。何かの命令ではあるが、この施設を出て行うことではない、のか?
「貴様等のなかの一人か、複数かが、この施設からの脱走を試みている。知っての通り、脱走は重罪である。しかし、試みた形跡がない。これでは我々は動けない。我々には感知されない天性の技術を用いて脱走の準備をしている。故に、貴様にはこの脱走犯を特定。後殺処理を命じる。質問はあるか」
「殺処理に於ける手段の制限はありますでしょうか」
「施設に被害が出ないのならその全てを許す」
「了解しました。マキナ、司令を受託しました」
「うむ、貴様はここ数代で見ても特に優秀な個体。なれば期待している。
ふむ、なるほどな。つまりコレは・・・・・・荒れるな
それから数日。施設は荒れていた。俺以外の人達にも伝えられたのだろう。どんな小さな穴さえも見逃さないかのように、人が人を見る。それはとても疲れる。
そういや、俺にはちょっとした特殊な能力がある。施設からは【言霊】と呼ばれる物だ。俺が意識して使えば、コストこそ掛かるものの。ある程度の事象なら引き起こせる。
ある日の夜、物音がした。この時間に物音は基本鳴らない。鳴るのは、施設職員の革靴の音だ。そんな音じゃない。直感的に、脱走犯だと
この時に関与する際の規定違反は無罪となる。なれば、止まる理由は無かった。そこに居たのは、12番。確か、なんだったか。覚えてなかった。
「何よ、貴方も抜け出そうっていうの?」
「違う、貴様を脱走の現行犯として施設の指令の名の下に殺処理を行う。これは確定事項で有り、一切の情状酌量もなく、一切の懇願も受け取らないと宣言しておく」
12番は、確か魅了系に秀でていた。そんな女は、こちらを睨んでいた。
「成程、貴方もって訳ね」
こちらは空手の構えをした。12番は、剣を構えた。アレは、確か、彼女が施設に呼ばれた時の褒賞だったか。
「分かってると思うけれど、それでも忠告するわ。幾ら貴方でもこの一撃は耐えれないわよ」
先手とか、関係無かった。俺は、向こうが動き出す前に【神速】を起動した。身体に多少の負担がかかるが、コレにより俺は一つ上に立てる。
「ふっ!」
「はぁっ!」
俺の連撃の方が、僅かに早かった。それでも、向こうの一撃はこちらに当たりそうだった。確かに、当たれば死ぬだろう。ここで死ぬのは嫌だ。だから、言霊を使った。
『止まってもらおうか』
コストは、若干重かった。1/3くらいの魔力を持って行かれた。そして気付いた。多分、この力はもっと凄い。そんな力を使ってこの程度なのだ。多分、世界はもっと広いのだと。
「なっ!?」
相手の動きが止まった。その隙に、連撃を叩き込む。12番は守り系の呪文を覚えていた。
連撃を与えて、魔力量は凡そ半減したか?と言ったところだ。12番は、魔力量が(他と比べて)若干多い。16くらいはある。俺?29、と言ったところかな。
『君はコレから1分の間、何も見えなくなる』
失明の言霊。決着を付けようじゃないか。
「何も、見えない・・・・・・!?」
「ふっ!」
再度、連撃。勘はいいのか、呪文で防がれたが。それで魔力が尽きたようだ。魔力が尽きた生物は気絶する。大体一時間半程度で目覚めるが、その前に殺す。丁度いい、彼女が使っていた剣を使わせて貰おう。
そうして、彼女を殺した。
「何が起きた、マキナ」
「彼女が脱走を試みた為事前の指令に基づき殺処理致しました」
「そうか。殺処理ご苦労。しかし、これで終わりかは確定しない。引き続き捜査を行え。この件の報奨は後日だ。ああ、その剣は貴様の物にしていい。どうする?」
「では受け取ります」
「そうか」
後日、施設に呼ばれた。
「今晩、貴様を強化する。彼女が持っていたスキルの内一つを貴様へと移す。何が欲しい」
「では剣の腕を」
「そうか。では23:30にまたここに来る事」
「了解致しました」
そうして、俺は彼女が持っていた剣術のスキルを引き継いだ。