私はIS学園の一番近くにある複合ショッピングモール『レゾナンス』の中を1人で歩いていた。
今日はクリスマス……キリスト教が教祖『イエス・キリスト』降誕の日だ。クリスマスの他に聖夜などとも呼ばれたりしている……日本はキリスト教徒が少ないが広まっている……日本でのクリスマスと言えばカップル共がイチャつく日だという認識か。家族なら子供にサンタさんがプレセントを渡す日とかというのもあるか……私のクリスマスプレゼントは毎回本だったな、量子力学とかISの整備とか製作とかの普通の小学生中学生が読むような本ではなかったと思った。中学2年では……ISコアを渡されたっけな、あれは親のものではなかったが研究用の機体のコアとして政府から受け取ったとかどうの……それが今の空月な訳だ。
やはり今日はクリスマスだけあってカップルの姿が多く見受けられる。まぁ、私もおそらくあの中に入ることになるのだろうな……今午後1時、あいつとはレゾナンスのクリスマスツリーの前で午後4時に集合にしている。あと3時間……何をして時間を潰すかなぁ……
私はふと目に入ったアクセサリー店の前で立ち止まる。
「クリスマスだし、何かプレゼントでも用意したほうがいいだろうな……」
私は何気なく、そのアクセサリー店に入った。
宝石などは扱っていないが、様々なアクセサリーがそこそこの値段で売っていた。ネックレスにリング、ピアスにイヤリング、懐中時計、ブレスレット、リストバンド……あいつには何が良いかな?ネックレスは見えないからボツ、ピアスやイヤリングは絶対にしないだろうからボツ、懐中時計やブレスレット、リストバンド辺りがいいか……
「お、これ良いな」
見ていく中で見つけたのはホワイトゴールド製の懐中時計だった。白く輝くそれはまるで白式・雪羅の如く美しかった。
「これにしよう」
私はそう決めると店員を呼んでその懐中時計に似合うチェーン(これもホワイトゴールド製)を見繕って貰うと会計で包装してもらった。黒の包装紙に白いリボン……まるで相容れなかった私とあいつの仲を示すような包装。
あいつ、喜ぶかな……?喜んでくれると嬉しいな……
だが、そんな想いも一瞬で崩れた。
それは後ろから聞こえた2人の声だ。
「ありがとな、簪。今日は付き合ってくれて」
「別に良い」
よく知った2人の声……聞き間違えることはない。親友の簪の声と私の彼氏である一夏の声だ。
「な……んで……?」
私はレジの会計から受け取った包を落としてしまう。
「え…………?」
「あ…………」
私は一度一夏のことを睨むと落としてしまった包を拾い走ってレゾナンスの外に出た。案外長く選んでいたようで外は若干暗くなって来ていた……
・―・―・―・―・―・―・―・
今日は12月24日のクリスマス。街は一面クリスマスムードと装飾に彩られ、町行く人達はケーキやプレゼントを片手に歩いていたが、やはりそれは家族連れや恋人同士がほとんどであった。思い返してみれば、俺のクリスマスは悲しいモノだったなぁ。恋人がいたわけでもなく、数馬や弾と過ごすのが当たり前だった……家に帰っても千冬姉はやさぐれているし……
「一夏……こんなのはどう?」
しかし!そんな俺にも転機は訪れた!苦節15年……ようやく、クリスマスを華やかに迎えることができた!これで俺もクリスマスを甘く過ごす、リア充の仲間入りだ!勿論数馬や弾には内緒だ。二人が知ったら発狂しかねない……
「うーん、ブローチか……そういった物を着けているところ見たことないな」
「じゃあ、別のにしようか」
「そうだな。まだ時間はあるわけだし」
一緒に歩いているのは更識 簪……だが、簪が俺の恋人ではない。恋人は別にいて、簪には今日その恋人に渡すプレゼントを一緒に選んでもらっているのだ。男の俺は女子がどんな物を貰ったら喜ぶか分からないし、なにせ初めて女子にプレゼントを渡すからな。正直一人では考えれなかったから、その恋人と友好がある簪に選んでもらっているのだ。
「……意外とこういったモノとか好きそう……」
「どれどれ?……熊のぬいぐるみか」
簪が立ち止まったショーケースには大きな熊のぬいぐるみが展示されていた。大きいため抱き枕としても使えそうである。けど……
「ストレス発散に使われそう……」
「……確かにしそう」
普段からストレスが溜まっているから、こんな都合の良いストレス発散道具があったら絶対に間違った使い方をされそう……渡したプレゼントが使われるのは嬉しいが、そんな使われ方されたら複雑な気持ちになる。今更どんな行動をしても気持ちは揺るがないから良いけど……一番はこんな無垢な顔をした熊にそんなひどい目にはあってもらいたくない!
「別のにしよう……」
「そうだね……」
ショーケースから離れ、再び『レゾナンス』というショッピングモールを歩き出す。時間はあるって言ってたけどあんまり余裕出しすぎて、遅くなっても悪いから早く決めないとな……ん?
ふと、俺はある店に展示されている物に目がいった。
「なぁ、簪これ良いんじゃないか?」
「……?どれ?」
俺が指差す物を簪も見つめる。俺が見付けたのは正8面体のクリスタル……それは、亡国機業のオータムが俺の白式から抜き取ったセカンドシフト後のコアのような形状だ。
「……良いと思う」
「だろ?あまり時間かけてもあれだから、これを買ってくるよ」
ネックレスの隣に値札も置いてあり値段を確認する……3万5千円。……くっ、た、高い!学生の身分で一つの物に3万円以上も掛けるのは贅沢な上に、懐も寒くなってしまう……だが、今日は一年に一回の大切な日……それに比べたら、高々3万!安いものだ!
「……大丈夫?私も少し出す?」
「大丈夫だ簪。これに関しては俺が全額出さないと意味がない」
簪の気持ちは嬉しいが、俺が買うことに意味があるのだ。多少の無理はしても、そこは譲るわけにはいかない。
「ありがとうごさいました」
よし買ったぞ……俺の小遣いが全て失われるという犠牲は払ったが、そんなのは大きな問題ではない。
「買えた?」
「無事に買えたよ。今日は付き合ってくれてありがとうな簪」
「別に良いよ」
バサッ。何かが落ちる音がした。
「あ…………」
「え………?」
横を向いてみるとソコには、俺の恋人である倉持 霞が目を大きく見開き唖然として立っていた。霞みは俺を睨み付けると、落とした包装せれた包みを拾い上げ走り去ってしまった。
やってしまった……そんな罪悪感が俺を襲った。俺を睨み付けた時の霞の目は完全に誤解している。……くそっ!何でこんなミスを犯すんだ俺は!折角のクリスマスにこんな些細なミスで倉持を傷付けてしまった。
倉持が持っていたあの包み……恐らく俺へのプレゼントであり、俺が霞にプレゼントを選ぶときと同じ気持ちで選んでいたに違いない……それを俺は踏みにじってしまった……謝らないと!
「一夏追って!」
「分かっている!」
霞の後を追いかける。ここまで一緒にいた簪には申し訳無いが、今は霞の後を追い掛けるのが最初だ!こんなことで霞とのクリスマスを終わらせてたまるかよ!
・―・―・―・―・―・―・―・
「はぁ……はぁ……はぁ……」
私は息を切らしながらも走っていたが、私はIS整備もしくは作成などの殆ど動かないことしかしていなかったためすぐに動けなくなってしまった。これならもうちょっと日々運動しておくんだったなぁ……
そして着いたのはレゾナンスのクリスマスツリー、右手にはアイツのために買った懐中時計を包装した包……深層心理ではまだ、アイツの事を信じているようだ……あれは違うのだと心の底では思っていた。
私は他のカップルの座っていない、1つだけ残ったベンチに腰を下ろした。
「はぁ…………」
私はあんなやつなんかと付き合うことを決めてしまった自分に落胆しながら右手に持った包を眺めた。
アイツとのファーストコンタクトから言えば、アイツからは最悪だったはずだ。説明を求めたにも関わらず私は一切の説明をせず機体のデータベースを見ろとしか言わなかった。試合から戻ったあとも辛辣な言葉しか掛けなかったがアイツとの最初の試合で見せた瞬時加速……初心者であるアイツが独力であれをやった時には少し興味をもった。
クラスから浮いている私を浮かないようにアイツは私に構ってたっけ……その度に束博士の妹やらイギリスの代表候補生やらから「なんでそいつなんだ」といろいろあったなぁ……
私からアイツに何か言うことは無かったがアイツは矢鱈と私に話しかけて、毎回他の奴らにしばかれてたよなぁ……寝ていた私を無理くり起こして殴ったりIS展開して殺しかけたりといろいろあったにも関わらずそのうち私の攻撃を避けるなんてこともしだし始めたよなぁ……
アイツとの関係はそこまで良くなかったのにいつの間にかこんな関係にまでなってるし……一体私の心になんの変化があったんだろうな、アイツの執着心はどんだけのものだったんだろうなぁ……
しかもアイツは私が避けていてもすぐに私を捕まえる……ほら、今回もそうなった。
私の見ている方向には少し息を切らした一夏の姿があった。
「どうした?浮気者。簪のところで楽しくイチャイチャしていれば良かったろう」
ああ、あいつは簪に近づくために私に近づいたのかな……うん、それならなんか納得できるな。親友には幸せになってほしいからかね?
・―・―・―・―・―・―・―・
何処まで走っていったんだ霞の奴?行き交う人とぶつかったりもしたが、止まらず俺は夢中なって霞を追いかけていた。
言っては悪いが、霞は普段から体を余り動かしておらず、自身の研究室に籠っては自分のISを弄っていた。だから体力面に関しては人より自信がなく、長い距離も走れないはずだ。それを考えるとこの辺が限界なはず……
思えば俺は霞の事を考えずに、自分の感情だけで行動していたな。だから霞からは良く思われていなかったりもしていた。ようはお節介だったんだ。相手の気持ちは考えずにずっと自分の考えを押し付けていた。悪いことだとは思っていたが、誰も霞に構ってやらず放っておいたんだ。俺はそれが気に入らなかった。
霞と付き合うことになったとき俺は嬉しかった。最初は嫌な奴で、仕方がないから声をかけてやったりしたが、途中から俺は霞を意識していた。意識していたからこそ霞には時には強く当たったり、意見の不一致からの衝突もあった。俺は言いたいことを言ったら、スッキリするタイプだが霞は違った。霞は心のなかでそれ溜め込み、発散させることが苦手だった。それが余計に周囲との溝を作ることになっていた。
俺はそれを深く考えていなかった。ようは何もかも俺が悪いんだ。霞の気持ちを第一に考えることのできない自己満足者だ。その果てがこの結果を招いたんだ。考えても見ろ。クリスマスの日に彼氏が他の女と歩いてみろ……誰だって許せないよな。そりゃあ、理由があったりもするが、それは本人には解るわけもなく男の身勝手な事情だ。浅はかで幼稚な俺の責任だ。……あぁ、そうだ。全部俺の責任。結局俺には女性と付き合う資格なんか無いんだ。
「どうした浮気者。簪のところで楽しくイチャイチャしていれば良かったろう」
いた。ようやく見つけた。霞は中央の大きなクリスマスツリーの近くのベンチに一人で座っていた。追い付いた俺に霞は冷やかな目と、棘のある言葉を投げ掛けてきた。だが、俺は反論しない。
また霞を傷付けてしまった。言葉はキツいがそれは霞が強がっているだけだ。内心は泣きたくて仕方がないはずだ。俺は今日の事を含めた今までの罪悪感からあることを決意した。
霞とは誤解を解いてから別れよう。もう俺は霞の彼氏でいる資格はない。これ以上霞を傷付けない為にも、ここで俺が霞の前からいなくなればいいんだ。正直霞もそれを願っているのかもしれない。
・―・―・―・―・―・―・―・
「なんだ、反論もなしか?」
「………………」
なんなんだ?コイツは……一時は好きと言って私と付き合い始めたのに一度私がこんな態度を見せただけでこうなるとは……攻略不能なことには燃えるやつか?別にコイツが意図的に攻略していないということは知っている……だが、この様子を見るとどうしてもそんな思いがあったのではないかと私は思ってしまう。他の奴らは違うにしても私だけは狙って攻略しているのはわかってはいたが、他の奴らも……なんてのは考え過ぎなのだろう。
「お前は一体何だったんだ?私を攻略したくせに一度失敗しただけでこうなる。恋がそんなに簡単なものではないことなどわかってたんじゃないのか?」
「……………………」
相変わらず何も喋らない一夏。一夏は何でもかんでも自分のせいだと背負ってしまう悪い癖……自己犠牲の精神を持っている。おそらく今回もそれなのだろうが……さすがに今回は酷すぎる……話しぐらいは聞く必要があるか……
「……今、お前が思っていること、考えていること、全て話せ。何一つ隠さずに全て吐き出せ……良いな?
あと、いつまでそこに立っている。座れ、通行人の邪魔だ」
一夏はようやく動き出し私の隣に座る……それも端っこに。私は嫌われているのだろうか……まぁ、嫌って当たり前か。
一夏が座ってから少し経ってからようやく口を開いた。
「……俺は霞のことなんか考えないで自分の感情だけで行動していた。そのせいで霞からはよく思われてなかったりもした。要はあれだ、お節介だったんだ――」
その後も一夏の独白は続いた。自分の気持ちを押し付けていたこと、みんなが私のことを放って置くのが気に食わなかったこと、渡しと付き合うことになって嬉しかったこと、はじめは嫌っていたのにいつの間にか私のことを意識していたこと、言いたいことを外に漏らすか漏らさないか、一夏が自分を自己満足者であったと思ったこと、クリスマスに彼氏が他の女性と歩いていれば彼女はそれを許せないだろうという話、一夏が簪と居たことには理由があったこと、私には分からない一夏の事情……結局一夏が言いたいことは『全て自分の責任です』……やはり、何も言わなかったのは自分が悪かった、私は悪く無いという自己犠牲。
私を傷つける、内心は泣きたくて仕方がない、今日のことを含めた罪悪感からある決意をしたこと。その決意は『誤解を解いてから私と別れること』一夏が私の彼氏である資格はない、私を傷つけないために一夏は私の前からいなくなろうとしていること、もしかしたら私もそれを願っているのではないかという疑問……
……自分勝手すぎるだろうが。
「はぁ……簪と居た事に理由があるのは分かったし、なんとなくそうした理由も分かる……」
「………………」
なんだ、誤解が解けたにも関わらず黙りか……コイツにはキッツいお灸が必要らしいな。
というか、せめて私から見た今の一夏の姿ぐらい知って貰わにゃこれから付き合って行けん……
「……だが、お前随分と自分思いなんだな?」
だから私はお前にこの言葉をプレゼントしてやろう。本命は全部終わった後だ。
・―・―・―・―・―・―・―・
「……お前は随分と自分思いなんだな」
……自分思い?違う、俺は!俺……は……。……違わないか。霞に促され、ベンチに座った俺は霞に独白を迫られ、自分の気持ちをありのまま全てさらけ出した。全部さらけ出せば、すっきりすると思っていたが余計にナイーブになってきた。
「……霞の言うとおりかもしれないな」
結局俺は、霞みことを第一にではなく自分の気持ちを優先していたんだ。霞から自分思いだと言われても仕方がないことだ。
「……笑っちまうよな」
「……お前はそれでいいのか?」
良かねぇよ。だけどどうして良いか分からないんだ。今の俺は物事を何でもマイナスに考えちまう。ダメだと解っていても、考えちまうんだ。
「……情けないな。普段の強気と強い意志はどうした?私や他の人間を救った時のお前は、たった此だけのことで折れる芯の弱い人間か?」
「…………」
我ながら本当に情けないな。自分の意志すら自分でコントロール出来ず、立ち直ることさえ儘ならないとは……弱いな。学園の中で誰よりも弱い。理由を聞いた霞は直ぐに元通りになったのにな。
「俺は大切な人や友人が傷つけられるのが嫌いだ」
「……そんなこととっくに知ってる」
「それが自分だった尚のことだ。俺は俺自身が許せないんだ」
一種の自己嫌悪を覚える。人が傷付くのは嫌いだが、傷付けるのはもっと嫌いだ。悪意なき罪は質が悪い。人を一生傷付けずに生きていくのは不可能だ。現に他の皆を選ばず、霞を選んだ。これだけで俺は皆の気持ちを無下にし、傷付けたことに同等する。それを踏まえた上で、霞と付き合っていかなければならないのに、傷付けてしまった。俺は自分の意識の無さに怒りを覚えたんだ。
「……本当にバカだなお前は」
ベンチから立ち上がった霞が、突然俺の手を握り締め何処かへと引っ張り始めた。華奢な霞の力とは思えないほど強く握り締められる俺の手と引っ張られる俺の体。何故か抵抗する気にもなれず、霞にされるがまま。
「今の自分自身を知ってもらおうと我慢していたが、それも限界だ。口を開けば前置きばかりで埒があかない。面倒なことは嫌いだが今回ばかりは強行手段に出させてもらう」
「何処に行くんだ?」
「お前は黙って着いてきとけばいい」
霞の考えが俺には解らなかった。何処に何のために俺を連れて行くのか、霞の真意は俺には伝わってこない。だけど、霞に触れていると心が温まる。さっきまでの感情が嘘のように晴れていく。……黙って霞に任せよう。
・―・―・―・―・―・―・―・
一夏の手を引きながら私はどこに行くのかも考えずに歩いていた。別にどこかのアミューズメントで遊んだりや映画館で映画を見たり、どこかで夕食を食べるのも良いのだが……まずコイツには知ってもらわなきゃいけないものがある。
「なぁ、一夏」
「なんだ?」
「人は絶対に何かを傷つけながら生きている……それは理解してるよな?」
「ああ、勿論だ」
まぁ、あいつらを選ばずに私を選ぶぐらいだ……それぐらい知っておかなきゃ困る。
「じゃあ、その何かを傷つける相手が大切な人の時もあるんじゃないのか?」
「……え?」
「そりゃそうだろ?人は皆何かを傷つけてるんだ、その中に大切な人が居ようが可笑しくないだろう」
そもそも、お前に傷付けられることなど最初から分かっている。好きになる奴が多いお前のことだ、私は何度だろうが傷つくだろうな。
じゃあ、なんで今回逃げたのかって?そりゃあれだ……一番最初は気付いてないことが多いだろ?今回はそれに気付くことが出来たし良かったと思う……うん、思うぞ。
「良いのかよそれで」
「良いも悪いもない、そう感じるのが私であり、そうさせるのがお前だ」
今私達の歩いている大通りはLEDで明るく、綺麗にイルミネーションされクリスマスということもあってとても賑わっている。カップルも多く見受けられ女である私にも甘く感じる……私には少し苦い、ほろ苦い辺りが良いところだろうな。
「綺麗だな」
「ああ、そうだな」
一夏がそう言ったから私も相槌を打つ。ふふ、彼女が居ながらイルミネーションを褒めるとはな……やはり一夏は一夏だな、人の好意も自分の好意も綺麗に踏んでいく鈍感め。
私はくるりと後ろを振り向くと掴んでいた一夏の腕を引っ張る。歩いていて前の方向に力がかかっているからこっちに持ってくるのは簡単だ。その後はちょうどいい高さになった一夏の唇に自分の唇を重ねるだけ……
「ッ!?」
一夏は随分と驚いていたが私は満面の笑みだ。してやったり顔というやつかもしれんな……まぁ、これでようやくカップルらしいクリスマスが過ごせそうだな。
・―・―・―・―・―・―・―・
「ッ!?」
今霞の唇が俺の唇に触れて……。お互いに軽く触れる程度だけだったが、今のは紛れもなくキスだった。それも霞の方から。当の本人は満面の笑みでご満悦。俺は暫く思考が停止した。
……初めてのキスはクリスマスの今日。初めてのキスの感想は、儚いの一言だ。軽く触れた程度だったからこんな感想なのかもしれないな。余韻に浸る暇さえなかった。
「……霞」
「……何だ?」
キスをした直後なのか、今の霞の表情はとても柔らかく付き合ってから今日まで見たことのないよう満面の笑みで、口調もいつも以上に穏やかだった。
「……もう一度していいか?」
「そんなこと態々聞かなくてもいいんだよ、バーカ」
少し唇を尖らせ、不満の気持ちを表すがまた直ぐに笑顔に戻り、目を瞑り顔をつきだす。俺は少ししゃがみこみ、霞の背の高さに合わせ両肩をそっと掴み、目を瞑りそっと唇を重ねる。本日2回目のキス。今度のは1回目とは違い、数秒間重ねるモノだ。
短いようで短くない。数秒間という時間はあっという間だが、俺の体感時間では倍以上の時が流れていた。
「なんかこれで、ようやくスタートしたみたいだな」
「時間掛けすぎなんだよ。私はいつでも良かったってのに」
付き合ってから今までキスさえしたことがなかった。何でさっきまで、あんなことでウジウジしていたのか疑問ばかりが残っていた。霞が色々と連れ回してくれたおかげだな。もうどうでもよくなっていた。
けど、あのウジウジしていた時間が戻るわけではない。だから戻らない分も含めて、これからはもっと二人の時間を大切にしよう。
「そうだ、霞。随分と遅くなっちまったけど、これプレゼントだ。開けてみてくれ」
俺は、霞の為に買ったネックレスの包みを手渡した。気に入ってくれるといいんだけどな。
「何だこれ?」
霞は手渡された包みを開けていき、中のモノを取り出した。中身を取り出した霞は、俺が選んだブレスレットを見ると小学生がクリスマスプレゼントを貰った時の、無垢な笑顔を見せた。
「メリークリスマス、霞」
「ありがとう一夏!」
プレゼントを受け取った霞が、勢いよく抱き付いてきた……喜んでもらって良かった。腰の辺りで俺に抱き付く霞の頭を撫でる。この笑顔を霞から絶やさないようにしないとな。
「おお、そう言えば忘れてたな」
霞はバッグに入れていた黒と白の包を出す。
「ほら、本命のプレゼントだ」
「おお!開けてもいいか!?」
「お前、馬鹿なのか?渡したのに開けちゃダメとか可笑しいだろ」
俺はそんな返事を馬鹿なのかと言われた時点で包を開いていた。
中に入っていたのはホワイトゴールドの懐中時計。白く輝きイルミネーションの光を反射していてとても綺麗だった。
滑り込みセーフ!!