彼女(メカニック)は空を舞う   作:地雷伍長

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第09話

「ここが、IS学園ね」

 

 時は少し遡り、IS学園に一人の女子生徒が立っていた。小柄で特徴的なツインテールの髪型の少女は、キャリーバックを片手にIS学園の敷地内を歩き出す。少女は何故か上機嫌に鼻歌を交えながら歩いていた。

 

 

「……遂に辿り着いたわよ。今度こそ間違いない筈よね」

 

 

 少女は自信満々に、その整っている顔でどや顔をし、腰に両手を当て胸を大きく張る割には、本人に余裕が見られない。それと胸を張るのは良いが、強調したところで少女の胸は貧相なモノであるため、非常に虚しいモノとなっている。

 

「……悲しくなってきたわね」

 

 少女は現実に打ちしがれると、肩を大きく下げながら目的地までの道のりを、再び歩き出す。少女の目的地はIS学園の学生寮と、学園の校舎である。先ず、学生寮に荷物を置きそのあとに校舎に赴き、転入の流れになっていた。

 

「それよりも…………ここどこだぁぁぁ!?」

 

 少女は早速迷子になっていた。IS学園の敷地に到着した時に、警備員に大まかな位置を聞き、簡単な地図も用意してもらっていたのだが、少女は地図の見方が解っていなかった。

 そのことは本人も知っており、警備員に道案内を頼んでも良かったのだが、少女の中で二つの意見に別れており、その中で少女は『自分の力で歩む』事を選んだ。理由は数有るが、一番は『この歳で子供扱いされたくない!』が勝ってしまったからである。

 

 方向音痴で、一人でまともに歩き回ることは出来ないのだが、意地を張ってしまい頑張ればなんとかなると錯覚してしまっており、現状の生起の要因となってしまっていた。

 元々少女は努力家であり、絶え間無い努力の末にIS学園の入学を果たすことができた。そのため、彼女の中にはひたむきに、がむしゃらにやっていけば解決するだろうと持論を抱いていた。

 

「って、もうこんな時間じゃない!?うぎゃぁぁぁ!完全に遅れるじゃない!広すぎるのよこの学園!」

 

 頭を抱え叫び出す。少女はまだ学生寮にすら辿り着けてなかった。現時刻7時50分である。

 

・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

「転入生?」

「うん。2組に入ってくるみたいだよ」

 

 ふーん、転入生ねぇ。転入生って聞くとうちのクラスの倉持を連想してしまう。2組の転入生は、倉持のようなキャラじゃないことを願うばかりだ。今はクラスが違っても、進級時のクラス替えで一緒になったりするかもしれないからな。

 

「けど、まだ来てないみたいだよ」

「この時間に来てないって不味くないか?」

 

 もうすぐSHRなのに学園に来てないとなると、完全に遅刻だな。転入初日から遅刻とは、2組の転入生も中々の強者だな。まさか、迷子になって辿り着けてないとか?……はは、あり得ないか。幾らこの学園が広いからといって、俺達の年齢で迷子になったりするはずがないよな。

 

 迷子と言えば、一人だけ心当たりがあるな。中学生のときの同級生で中国から転校してきて、日本の事が分からなかったり、色々と日本を勘違いしていて良く面倒を見てやっていたな。

 

「それでは朝のSHRを始めますよ」

 

 鐘が鳴り、山田先生と千冬姉が教室に入ってきた。……アイツ今はなにやっているんだ?中国に帰ってからは、連絡とってないからどうなっているのか分からないな。

 

・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

「うわぁぁぁん!何で入り口に戻ってきてるのよ!」

 

 少女は何故か学生寮ではなく、IS学園の敷地の入り口に戻ってきてしまっていた。遠方からは授業開始のチャイムが鳴っており、遅刻が確定してしまった。

 

「君!朝の子だよね!?何でまだこんなところにいるの!?もう授業も始まっているよ!」

「私だって早く校舎に行きたいわよ!でも、全然校舎に近づけないのよぉぉ!」

「なら、私が送って「良いのよ!」えっ?でも……」

「これぐらい一人でこなさないとダメなのよ!私は頑張らないといけないのよ!」

 

 少女は目を潤ませながらも強がっていた。警備員は、何故ここまで意地を張っているのか理解できなかった。しかし、少女の中には『頑張らなければならない』の拘りの感情が人一倍強かった。

 

「絶対に辿り着いてやるんだから、待ってなさいよ!」

 

 校舎に向かい宣戦布告する少女の姿がそこにあった。

 

・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

 結局転入生が姿を現さないまま昼休みを迎えた。2組の先生は、現れない転入生を探しに構内に出て教師陣は大騒ぎ。何か事故か事件に巻き込まれたのでは?と心配していた。が、それは教師達の間であって俺達生徒間では、話題にも上がってはいなかった。

 

「一夏……またお前はそんな油っこいモノばかり食べて……」

「旨いし、量もあるからな」

 

 学食のカツ定食は『旨い』『安い』『ボリュームもある』の男子学生にとっては有難いメニューだ。味噌汁のお代わりも自由だし。けど、箒の言いたいこともわかる。昨日もカツ丼で今日もカツ定食だからな。他のメニューに比べて野菜も少ないし。

 

「ほら、私の野菜をやるからしっかりバランス良く食べろ」

「はいはい」

「はいは一回だ」

 

 ここ最近、母親みたいなことを言ってくるようになっていた。夜は早く寝ろだの、歯はちゃんと磨いたか?などの生活態度を良くチェックされている。生憎と生活全般は千冬姉の世話をしているから、お手のものなのだ。そのことを、箒にも言ってはいるのだが信じてくれない。

 

「……?セシリアはどうしたんだ?」

「昼休みに、午前の授業のまとめをするから今日は、軽食で済ませると言っていた」

「優等生は違うな」

 

 俺なんか、授業中に書いたことだけで満足しているのに……セシリアと俺の根本的な差はこれか。自分を高めることに余念がないな。その揺るがない姿勢は見習わないとな。

 

「一夏……今日も剣道の稽古があるぞ。忘れていないだろうな?」

 

 しまった!すっかり忘れていた。セシリアとの試合後も、箒が部活が休みの日に稽古をつけてくれていた。箒の部活は当然剣道部。実力者の箒は、常に大会の上位を視野に剣道に励んでいる。となれば、疲れも比べ物にならないはずだ。

 箒にとっても、休日は気を休めることができる限られた時間。そんな貴重な時間を俺なんかのために当ててくれていた。俺も白式の操縦のために、雪片の扱いのスキルアップのために剣道の稽古を続けていた。ISの為だけに剣道をするなんて不純なのはわかってはいるが、今のところそれが一番の方法だ。

 

「その顔は忘れていたな」

「……あははは」

 

 箒に図星をつかれ、ジト目で睨まれる。……そんなに顔に出やすいのか俺は?まぁ、俺が悪いんだけどな。折角箒が、自分の時間を削ってまで稽古をつけてくれているのに、それを忘れていた俺が悪い。

 

「まぁいい。時間になったら道場に来い」

 

 昼食を食べ終えた箒は、食器を返却口に起き先に教室に戻っていった。俺も食べ終えると、食器を返却口に起き食堂から出た。少し喉が渇いたから、外の自動販売機に飲み物を買いにいくことにした。

 

 外に出て、自動販売機の前に立ちお金を入れ、コーヒーを一つ買った。昼食を腹一杯に食べたから、午後の授業が眠くならないように、コーヒーを選んだ。

 買ったばかりのコーヒーに口をつけ、一息をつく。時計を見ると、昼休みも残り少し。この残り少しの時間が、学園生活の中で心休める内の一つ。もう一つは寮内の生活だ。

 

「ーーーーーいた」

「…………?」

 

  俺の視線の先に、学園の女子生徒とおぼしき人影が近付いてきた。段々とその人影は此方に接近し、ハッキリと姿が判別出来るようになった。…………ん?何か見覚えのある顔だぞ。ツインテールの茶髪に、小柄な体格。まさか……

 

「やっと着いたぁぁ……ぁ……ぁ?…………い、一夏だぁぁぁぁぁ!」

「お前鈴か!?」

 

 見覚えのある顔だと思ったら、ソイツは鈴だった。鈴は俺の顔を見ると、大声を挙げながら俺に突進してきた。何故突進!?再会の挨拶が突進とか、スタイリッシュどころの話じゃない!

 

「久し振りぃぃぃ一夏ぁぁぁ!」

「ちょっ!おまっ!」

 

 鈴は助走を勢いよく付け、笑顔一杯に俺の腹部に頭突きをしてきた。サイズが小さいから、ただの頭突きも全部腹部にあたってしまう。

 助走で生まれた加速力により、頭突きの威力が上乗せされていたことで、通常よりも重いダメージを負い、加速した鈴の勢いにその場に踏みとどまることが出来ずに、後ろに倒れてしまう。

 

「一夏だ!一夏だ!一夏だ!」

「わかっ……たか……ら、俺……の上で跳び……跳ねないで……くれ!」

 

 倒れこんだ俺の上で、鈴はピョンピョンと跳び跳ねている。跳び跳ねている時に鈴の膝が毎回腹部に直撃していた。頭突きのダメージも回復していない腹部に、追加ダメージ。

 

「おぉ!大丈夫か一夏?」

 

 呻き声すら挙げれなくなった俺の身をようやく、案じてくれた。正直これ以上ダメージを受けていたら、昼に食べた物が全部出てくるところだった。てか、何で鈴がIS学園の制服を着て、ここにいるんだ?

 

「大丈夫じゃない……」

 

 腹部に馬乗りになっている鈴を降ろし、腹部を押さえながら鈴の正面に立つ。鈴はキョトンとした顔で俺を見ているが、俺は顔をひきつらせていた。……本題に入るか。

 

「何で鈴がこんなところにいるんだ?」

「……?生徒とだからだよ?」

 

 何当たり前の事いってんの?と言いたげな顔をしている。いや、そうじゃなくて何で鈴がIS学園の生徒になっているんだ?普通の高校に行ったんじゃないのか?

 

「IS学園に入学していたなんて知らなかったぞ?」

「ううん、違うよ。今日から生徒になったんだよ」

 

 ……うん?今日から?……もしかして、遅刻していた転入生って鈴のことだったのか!?そうだとしたら、妙に納得した。鈴だったら道に迷って遅刻するからな。

 

「鈴……地図は持ったのか?」

「えぇぇぇん、一夏ぁぁ!そのことなんだけど、地図がわからなかったぁぁ!」

「……やっぱりか」

 

 鈴は方向音痴な上に、録に地図が読めない。本人も自覚しており、読めるように努力はしていたけどまだ会得していなかったか……初めて来る場所だから、道行く人にも訪ねることも出来なかったのだろう。

 

「はぁ、鈴が転入生だったなんて知らなかったよ。……取り敢えず、無事を報告して午後に転入の諸々の諸事項を済ませないとな……」

 

 子供のようにまとわりつく鈴の手を引っ張り、職員室に向かう。鈴がこんなに俺になついている?理由は良く分かってない。子供ぽいところは多いが、不特定多数の人にこうなっているわけでもない。こんな一面を見せるのは気を許した相手ぐらいだろう。

 

「一夏、もうすぐ昼休みが終わると言うのに一体何をして……いる……ん……だ?」

 

 ガッデム!何てタイミングで現れるんだ箒!まるで狙い済ましたかのように、颯爽と現れる箒を恨むぜ。こんな場面を……女子生徒の手を引っ張って何処かへと向かっているんだぜ?……勘違いする要因としては内容が濃すぎる。

 

「お前は何をしようとしているんだ?」

「……弁明させてください」

 

 箒は笑顔だが、額に青筋を立てて顔には怒りマークが出ていることだろう。今回は俺に非はない!大変な目に会う前に、何とかこの場を上手く納めなければ制裁が下されてしまう。

 

「一夏……誰この子?」

「り、鈴。その反応は火に油を注ぐだけだ」

 

 鈴は敵意を剥き出しにして、俺の腰にしがみついていた。かなり体を密着させているから、小さいながらも、色々と当たっていて男としては喜ばしいことだけと、それは目の前に箒がいなければの話だ。

 

「……もう籠絡後だったか」

 

 箒の俺の見る目が、ゴミをみるような冷ややかな目で、冷徹な表情になっていた。鉄拳制裁が下されると身構えてその分、俺が受ける精神的ダメージは大きかった。

 

「楽しみを邪魔して悪かったな」

 

 箒がその場を去ろうとする。不味い、こんなに盛大に勘違いされたまま立ち去られると、今後の俺と箒の関係に大きな亀裂が入ってしまう!……関係といっても、ルームメイトで幼馴染みの関係だ。

 

「待ってくれ箒!せめて言葉だけでも聞いてくれ!」

「一夏何処に行くのよ!」

 

  立ち去ろうとする箒を追おうとするが、鈴のしがみつきを振り払えず、鈴の反対方向に引っ張ろうとする力が勝っているため箒の後を追えなかった。鈴の小さな体の何処にこんな力があるんだよ!?

 

「……終わった。箒の中で俺は完全に犯罪者になってしまった……」

 

 立ち去る前の箒のあの冷ややかな目……普段手を出すことが、多い箒にあんな目をされては逆に恐怖心が煽られてしまった。……当分口を聞いてくれそうになければ、稽古も見てくれそうにない。見てくれたとしても、鬼の稽古に早変わりしそうだ。

 

「一夏あの子は誰なのよ?」

「後で説明するよ」

「ダメ!今じゃないと嫌!」

 

 子供みたいに駄々をこねて……はぁ、こうなった鈴は本当に子供のように梃子でも動かなくなるからなぁ。……簡単に説明するか。

 

「箒はただの幼馴染みだ

「……それだけ?」

「それだけだ」

「そっかぁ、良かった」

 

 ただの幼馴染み。簡単に一言だけで説明すると納得してくれたのか、疑りの目から元に戻ってくれた。何が良かったのか聞きたいが、あまり長引かせると収拾がつかなくなりそうだから止めといた。

 

「じゃあ、早く職員室に行こうよ」

 

 そう提案してくる鈴。……日に日に悩みの種が増えていっている気がする……

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 全く……今日も安定の厄日だ。鈴を無事に『保護』し、職員室に『連行』したことで教師一同は一安心。俺の連行が、一足遅ければ警察沙汰に発展しかねない状態だった。本当にタッチの差で、中学生の時を思い出してしまった。

 

「なんだ、そういうことだったのか。私の早とちりだったのだな」

「だからそうだと何度も……まぁ、わかってくれたからそれで良しとするか」

 

 授業には遅刻してしまったが、鈴の件があったからお咎め無しで済んだ。流石にこれで、咎められたら理不尽どころの話ではない。断固として抗議に出ても可笑しくはないと断言できる。

 

「済まなかったな。私の早とちりの態度で不快になってしまっただろう?」

「そんな些細なことを、何時までもズルズルと引き摺ったりはしねぇよ。その程度のことを、軽く水に流せるだけの器がねぇと男が廃るぜ」

「何が『男が廃る』だ。カッコつけて……」

 

 変だな?完全に決まったと確信したんだけどな。何故か知らないが、箒からは不評だった。俺の台詞の何処が気に入らなかったのか……狙いすぎたのか?本当に何とも思ってもいないし、箒のプライドも尊重したつもりなんだけどな。

 

「……ところで一夏、さっきの女子は誰だったんだ?かなり親しげにしていたが?」

「あぁ……鈴についても説明しないとな」

 

 先程の誤解は解けたが、鈴が来てしまった以上いつまたハプニングに見舞われるか予測がつかない。そうなったときに要らぬ誤解をまた生んでしまうことは、なんとしてでも避けたい。

 

「実は鈴は「いっちかぁぁぁ!会いに来たよ!」あぁぁあ!しがみつくな鈴!」

 

 いきなり鈴が後ろからしがみついてきた。いつの間に教室に入ってきたのかはさておき、しがみついている場所が背中で両手で首を絞めているため息苦しかったりもする。それだけではなく、体全身でしがみついてきている以上、当たるモノが当たってしまっている。

 

 モノはなんとも形容しがたいサイズで、微妙に固かったり柔かかったりと、成長期真っ只中なのであることご伺える。

 

「……で?実はなんなんだ?『かなり』親密そうだな」

 

 箒さんが超笑顔!なんだろ……嬉しいけど嬉しくないこの状況……先程の冷ややかな目も怖かったが、この笑みも笑みで恐ろしい……あの笑顔の裏には一体どんな心情を隠しているのかは、計りきれない。

 

「何の話しているの?」

「鈴と俺の関係だよ。それといい加減離れてくれ!呼吸がヤバい!」

「ちぇ!仕方ないなぁ」

 

 渋々と鈴は俺から離れてくれた。……危ない危ない。こんな間抜けなことで生死の境をさ迷いたくはない。一つ目の修羅場はくぐり抜けたが、二つ目の修羅場が問題だ。鈴の予想外の行動のせいで、完全にタイミングを見失ってしまった。どうしたものか……

 

「は・や・く・話・せ!」

「は、はいぃ!」

 

 男の俺としたことが、箒の凄みに気脅されてしまった。正直怒った箒は怖いからすくんでしまっても仕方ないよな。はぁ、だけど何て説明したほうがいいか……普通の『幼馴染み』って説明だけでは納得してくれそうにないよな。絶対に『普通の幼馴染みがこんなことをするか!』とか言われそう……

 はぁ、溜め息しかでないな。こうなった以上、鈴の行動の理由も説明しないといけないけど、それを説明したらしたでまた波乱の幕開けになるからなぁ。

 

「私と一夏の関係?こんな関係だよ!」

 

 再び行われる鈴からの不意討ち。今度は俺の腕に自分の胸を押し当てるように強く抱き着いてくる。ははは、勘弁してくれよ……もう取り返しがつかないじゃないか。

 

「ほぉ?随分とまぁお熱いことで……嬉しそうだな一夏」

 

 どうしてこうなるんだ!さっき解いた誤解が全く意味ないじゃないか!

 

「ば、バカ!嬉しくはねぇよ……」

「そのわりには鼻の下を伸ばしてニヤついているぞ」

 

 ば、バカな!顔に出ていただと!?ポーカーフェイスに定評のある俺が、この程度の微エロで動揺したりするものか!だが、公共の場でこんなことをこれからもしてこられたら困る。主に有らぬ誤解を学園内に広まってしまう可能性がある。鈴ももう高校生。これからのことを考えて、一度強く言っておく必要があるな。……俺達を見ているクラスメートがひそひそ話をしていることだし……

 

「鈴……お前も、もう高校生だ。これからはこういうこと公共の場で「一夏感触はどうだった?少しは大きくなっていた?」これからの成長に期待だな。……するなよ」

「死ね発情期の変態が!」

 

 笑顔から一転、厳しい表情になった。何故だ?何故正しいことを伝えているのに罵倒を浴びせられなければならないのだ?俺は不必要なことは言った覚えはないんだけどな。それに俺は発情期じゃないぞ!

 

「むむむ、もっと大きくして感触も良くしないと……」

 

 ブツブツと呟く鈴はほっといて、段々と疲れてきたから、もうありのまま全部話してこの話は終わりにしよう。

 

「はぁ、鈴の名前は『鳳 鈴音』鈴は中国人で、只の幼馴染みでやましことも何もない。幼馴染みと言っても箒が知らないのは当然だ。箒が転校した後に近所に引っ越してきたからな。鈴のこの行動は単なるスキンシップの一種で、この行動自体にもやましいことはないからな」

 

 こう言っては鈴に悪いかもしれないが、鈴のこのスキンシップには慣れてしまっていて、少しは嬉しいが必要以上に性的興奮はでていない。鈴自体も俺の娘……いや、妹みたいな存在になってしまっているからな。

 

「『只の幼馴染み』か。……そうか、それなら良い」

 

 変だな?箒のことだから、もっと食い掛かってくるものばかりだと……本人が気にしていないのならまぁ良いか。質問攻めにあってもこれ以上説明するようなこともないしな。よし!一時は収拾がつかずどうなるものばかりだと思っていたが、綺麗に終わることが出来た。

 

「あっ!ねぇねぇ、一夏って1組のクラス代表なんだよね?」

「……ん?あぁ、そうだけど」

 

 何かを思い出したかのように鈴が目を輝かせながら聞いてきた。何でこんなにウキウキと、興奮しているのかは謎だが何か楽しそうなことでも思い付いたのか?

 

「じゃあさ、一夏もクラス対抗戦のリーグマッチに出るんだよね?」

「まぁ、一応な……?一夏『も』ってどういうことだ?」

 

 何だ?急に寒気がしてきた。また何か大変な騒動に巻き込まれるような悪寒がする……これが虫の知らせってやつか?……不吉だ。

 

「あれ?言ってなかったけ?私も2組の代表でリーグマッチに出場するんだよ?」

「「はぁぁぁぁ!?」」

 

 見事に俺と箒の声がハモった。聞いてないぞ……何から何まで聞いてないぞ。そもそも鈴がこの学園に入学することでさえ初めて知ったのだからな。もう全部が急すぎる。

 

「しかも専用機持ちで代表候補生だよ」

「「はぁぁぁぁ!?」」

 

 二度目のハモり。オーケーおさらいしよう。鈴が入学してきて、2組のクラス代表で、専用機持ちで、挙げ句の果てには代表候補生。ふぅ、カミングアウトが急すぎて情報整理が追い付かないぜ。こうなるに至った鈴の経緯は不明だが、並大抵の努力ではそう簡単にはなれるものじゃないことだけは、バカな俺でもわかる。

 

「凄いでしょ!?誉めて誉めて!」

 

 犬のように寄り添ってくる鈴だが、俺と箒は言葉が出てこない。『能ある鷹は爪を隠す』ではないが、こうも急展開すぎると言葉ってのはどうしても出なくなる。しかもそんな素振りを微塵も見せない鈴も恐ろしい……

 

「も、もう凄すぎて何て言ったらいいかわからない」

「普通に誉めてくれればいいのに……」

 

 普通に誉めるって言ってもなぁ……『あの』鈴を知っている俺からしてみれば、それがどれだけ凄いかはわかっているし、誉めたいが誉めれない。成り行きでここにいる俺が誉めたところで『何様だっ!』てなるよな。

 

「私としては、一夏がこの学園に入学したことのほうがビックリしたよ。ニュース速報を見たときは何度見したことか」

 

 うっ……やっぱり大々的に告知されているんだよな俺のこと……鼻にかけるつもりはないが、そんなに大々的にされていたって聞くと自分が有名人だということを思い知らされる。

 

「それで2組の子に聞いたんだけど、一夏も専用機あるんだよね?」

「弱卒ながら使わせてもらっている」

「だからさ、今度のリーグマッチで私と一夏が戦った時の賭けをしない?」

「賭け?一体何の賭けなんだ?」

 

 何かを賭けての勝負は、通常よりも勝敗を気にして勝ちに拘るからモチベーションを上げる目的としては、良い案だとは思っている。が、賭ける内容にもよるけどな、無茶苦茶な賭けは受ける必要がないしな。

 

「じゃあさ!私が勝ったら『結婚』してよ一夏!」

 

 一瞬で凍り付き静まり返る教室。他で会話をしていたグループも『結婚』のワードを聞き、一斉に俺達を注目していた。その目は獰猛な肉食獣のように光輝いていた。……不味い鈴を知っている数馬や弾とかだったら、この発言が通常運転の日課の一部なのだが、ここはIS学園で女子校で鈴を知っている人は俺以外誰もいない。女子は噂好き。つまりはこの発言でとんでもない噂が広まってしまう危険性があるってことだ。何とかしてこれが本気ではなく普段の会話の一部だってことを然り気無く受け流さないと……

 

「あー、はいはい。どうせいつものなんだろ?ところ構わずに大胆に言うよな」

「むー、今回はホントのホントなの!」

「それもいつも聞いている」

 

 中学時代から耳にたこが出来るほど聞いている。いつからだったけな?鈴がこんなことをいってくるようになったのは……

 

「じゃあさ!中学の時の約束は覚えている?」

「あぁ、毎日酢豚を作ってくれるって約束だろ?」

「……うーん、わかってはいたけどその反応は意味をはき違えているね」

 

 意味をはき違えている?何か特別な意味でも込められていたのか?残念だけど俺にはサッパリだ。

 

「あのね、一夏。毎日酢豚作るってのは昔からある『味噌汁』告白だよ。そもそも女の子の告白を本気で捉えてないと痛い目に逢うよ?」

 

 味噌汁告白?……ってあれか!?マジかよ毎日酢豚にそんな意味込めてたのかよ。てかそんなの俺以外の男子でも遠回しすぎて伝わらないだろ!?

 

「コホンっ!二人とも和気あいあいと会話をするのは良いが、鈴……お前の結婚発言何だが年齢的にも無理だぞ」

 

 おっ!箒が鈴の発言を本気で捉えることなく冷静に突っ込んでくれた。どうやら俺と鈴のやり取りを見ていて、これが通常の会話だと察してくれたようだ。

 

「大丈夫だよ、今すぐじゃなくてお互いに結婚できる年齢になってからだよ」

「いやいやいやいや!その前に俺の意思は聞かないのかよ!?まず受けないぞそんな賭け!」

「うむ、年齢を待つなら問題はないな」

「俺の意思を無視している時点で問題しかねぇよ!?」

 

 今まで黙っていたけど、さっきからその賭けが成立していることを前提に話を進めていないか?鈴が相手で大変だけど不満があるわけではないが、そう簡単に結婚を決めたくなんかない。

 

「あっ!もう授業始まるから戻るね。千冬さんにも式場関係の相談しておくよ」

「だから何で賭けが成立していて千冬姉にも話がいくんだよ!?それにそれだと俺が負けることも前提じゃないか!」

 

 俺が突っ込みを言い切る前に鈴は颯爽と教室から去っていってしまった。まるで台風のようにやってきて被害を出してはいなくなってしまう。ただの子供同士の賭けだが、賭けの相手は鈴で思いもよらない行動力を発揮するから負けたら本当に、式場やその他諸々を済ませてくるに違いない。なんとか鈴を説得して賭けを止めさせるか、俺が勝つしかないな。……本当にどうなるんだ俺の学園生活……頼むからこれ以上悩みの種が増えないようにお参りでもしたほうがいいのか?

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

「お、いたいた。あれが2組の転入生で、クラス代表で代表候補生の専用機持ちの子だね。早速取材を……」

 

 私こと新聞部のエースの黛 薫子は、転入生騒動で噂の代表候補生に取材するために1年生の階までやってきたのだ。それで噂の子のクラスにいってみたのだが、1組の織斑一夏君のところにいっていると聞いて、1組に前にいる。みたところ転入生の子は天真爛漫そうだね。

 

『私が勝ったら結婚してよ』

 

 な、なんだってぇ!結婚!?まさかこんな公共の場で……学校内でプロポーズ!?しかも転入生の子から!?天真爛漫だけじゃなく大胆な子でもあったのね!

 

 危ない危ない。余りにも突然すぎてカメラ落とすところだった……

 

『あー、はいはい。どうせいつものなんだろ?』

 

 『はい』だってぇ!まさか織斑君も堂々と返事をするなんて……しかも『いつもの』?つまり二人は常日頃からお互いに愛を確認しあっている程の親密な関係で、今日遂に二人ともゴールインを誓ったのね!

 

「これはスクープね。早速部室に戻って新聞を作成すると共に二人を祝福しないと!」

 

 私は転入生への取材をそっちのけて、急いで部室へと戻っていった。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 私は朝から授業をサボって自分のラボとなった第9整備室であることをするために空月の初期化を行っていた。楯無も近くにいる。

 

「か、霞ちゃん?なんでコアの初期化なんてやってるの?」

「初期化が必要になったから」

 

 私はあまり掛けることのないメガネを掛けていた。

 私は容姿のとおり、先天性白皮症(アルビノ)を患っている。アルビノは容姿面だけに出る病気ではなく、身体機能面にも影響を及ぼしている。

 例えば皮膚、メラニン色素が生成出来ないため肌は白く、綺麗だがこれは紫外線による皮膚がんの発症率が高い。

 次に視覚、これは特に問題で弱視……つまり近視・遠視・乱視などによりものが見えにくくなるのだが、色も見えにくくなる場合がある。他にも眼球振盪と言われる水平方向に視界が振れて垂直方向のものが見えにくくなる症状や羞明と呼ばれる虹彩で眼球に入る光量の調整ができず、必要以上に光を取り入れてしまうため明るい場所に出ると非常に眩しく、あまり光が強いと網膜を痛める場合がある症状でこれを持っている場合必然的に光を嫌い、暗い場所を好むようになる。

 私はいずれの視覚の症状を患っているため目が見えにくいし、垂直に書かれている小説などを読めないし光が嫌いだ。だからこそ必要以上に明るくしなくても済む私のための整備室を望んだ。

 

「こ、今度はなにしてるの?」

「量子力学の新しい理論を立ててる。既存の理論じゃ今やろうとしてることが出来ないみたいだからな……」

「あ、新しい理論って……あなた一体何歳なのよ……」

「15歳だがどうかしたのか?」

 

 私はシャープペンを手にとって紙に式を書き込んでいく。

 ちなみにシャーペンに使っている芯は4B。ソレぐらいじゃないと最近は見えにくくなって来ていてしょうがないのだ。

 

「字、濃くない?」

「最近見えにくいんだ」

 

 あれはこうだからこうしてこうでこうなって……あ、ここ違う違う……コレをあれにしてこうして……

 

「わ、訳分かんない……」

「自分の知らないものは分からなくて当然だ。人は全知じゃないんだから」

 

 コアの初期化は完了。外していた外装にコアを嵌めこみ馴染ませる作業をする。

 

「これ、もしかして新しいISの製作?」

「一体何だと思っていたんだ?お前は……一応言うが今私が作ろうとしているのは身体機能の低下している状況でソレを待機状態でサポートするためのISだ。見ての通り私は先天性白皮症でね、視覚面に影響がモロに出てるんだ」

「それって弱視とか?」

「そう、弱視、眼球振盪、羞明……普通に生活するのが大変な状況なんだ……だからIS機能によるサポートをしてみようとしている」

 

 理論は出来上がった。わざと量子を観測しないことでいくつかの効果を待機状態で使用できるようにするためにシュレディンガーの波動関数を利用した新しい理論を構築した。

 具体的に言うなら『知覚出来ない状況での実験を行うと実験の結果は重なりあう』という理論を新たにIS形式で立ち上げた。

 

「自分のために?」

「何言ってる。コレが成功すれば、もしかしたら歩けない人も歩けるようになるのかもしれない、目が見えない人も見えるかもしれないんだぞ」

「それは…………」

 

 おいおい、世界のためにやってるのになんでそんな反応なんだ?

 ……ああ、そうか……まぁその発想に至るのも分かる。

 

「勿論、ソレによって男女の格差は広がるだろう。私は男性から疎まれる存在になるだろうが……まぁ、それもしょうがないことだ」

「自分のことなのに?」

 

 自分のことだからこそ私はソレを流すのであって、私はそこまで自分が大切だとは思わんからな、男に糾弾されようが何されようがどうでもいい。

 

「もしソレが嫌なら私はこれの結果を公表しない。そもそも、私の考えだして実現させたものはほとんど公表していない。国にすら、倉持のデータにすらな」

「なんで?」

 

 なんでってそりゃ……

 

「私の作ったものを我が物顔で使われるのが嫌だからだよ」

「随分と身勝手ね」

「研究者みんな身勝手だ。自分の研究成果にしか興味など無い」

 

 研究者の研究の塊だから当たり前だが……

 

「技術を公開しないって徹底し過ぎじゃない?」

 

 やっぱりそう思うよな……でも私ね、ガチガチの科学者なんだよ……

 よし、あとはプログラムを組んでいくだけ……コレが一番面倒なんだよなぁ……ISのコンピュータは一種の量子コンピュータだから既存のプログラミング言語じゃ通用しないためプログラムを組むのに時間が掛かる。エラー吐かれると長いプログラムを組んだ分訂正に時間が掛かる……

 

「時間と技術と知識を詰め込んでるんだから当たり前だろうが。しかもそれは私が一番大切にしているものだからな」

 

 時間は人類に平等だからまだしも技術は私自身が作り出して、知識は私自身が溜め込んだものなんだ、他人に我が物顔で使われてたまるかってーの……

 

「根っからの研究者ね……」

「父親がそうだったからな。ちなみに母親は代表候補」

「研究に対する心は父親譲り、戦闘センスは母親譲り……?」

「みたいだな」

 

 さて……空月を多少戦闘に使えるためにも武装を積ませる必要があるな……機動戦、近接戦、遠距離戦……近接戦は少しキツイから遠距離戦による機動戦……武装を組まなきゃ……マシンガン、ライフル、スナイパーライフル、スナイパーキャノン……いいや、機動狙撃型にすればいいか。

 私は2メートルもある二つ折りに出来る長身のスナイパーキャノンのデータを呼び出す。

 

「狙撃砲……それを載せるつもり?」

「反動は問題無い。ISCで変換できるしPICでも抑えられるから」

「機動戦前提のその機体で?」

「センサー系は全体的に強化する」

 

 ひとまずはスナイパーキャノンを仕上げないと……弾速最速、攻撃力最高、再装填速度最速、射撃時のブレを最小限に……ISのセンサーリンクを強めに、でもロックオンシステムは使わずに手動で行うように。

 

「うわ……発展のための余剰スペースがない……」

「無駄に重くすると取り回し辛くてかなわん」

 

 それに空月による戦闘は完全に緊急時だ、ソレ以外じゃ確実に使わないだろう。

 

「それにしてもあなたの空月や月光、第3世代兵装が無いんじゃない?」

「いや、無いんじゃなくてイメージインターフェースのリソースを炸薬式瞬間加速器(クイックボマー)やディラックの海生成、ITS制御に使ってるからな……この機体自体が第3世代兵装だな」

「…………………」

 

 唖然としている更識楯無。まぁ、イメージインターフェースのリソースを使い尽くすなんてのは普通無いことなんだろうな。

 とにかく設計だ。21の薬室を用意して大型ジェネレータ搭載して……ってこれは違う!なんでヒュージキャノンのことを考えてるんだ私は……スナイパーキャノンだろう……設計設計と……

 

「ところで、なんであなたは量子力学なんて勉強してるの?」

「質問の意味が分からない。勉強してはダメなのか?」

「いや、ダメとは言ってないけど」

「なら聞くな」

「いや、だから!!どうしてっていう純粋な疑問よ!」

 

 疑問ね……一番面倒くさいなぁ……

 

「別に、ISを知るため」

「量子力学とISにどういう意味が?」

 

 ……やっぱりそこまで考える奴はそこまで居ないんだろうか?IS研究学会ってところに何度か足を運んでいるがそこまで深く考えている奴居ないんだよな……。

 

「……多分理解できないだろうしヒントだけ。ISの機能でそれに関係してるんじゃないかってのがあるよな?あとは自分で考えな」

「………………?」

 

 全く理解出来てないようだな。まぁ、何か掴みそうだったら教えることにするかな……。

 

「おっと……もうこんな時間か」

「あら、随分時間が経ってたのね」

 

 時計を見ればもう昼食時だった。飯を食いに行くかな……

 私はキーボードをどけて立ち上がる。

 

「私も一緒して良いかしら?」

「無駄に目を引くから却下。放課後に生徒会室に行けば良かったよな?」

「残念。ま、仕事してくれるならいいけれど」

 

 私は楯無にそう言うと整備室から出て食堂に向かった。

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