彼女(メカニック)は空を舞う   作:地雷伍長

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第10話

 久しぶりに授業に出ようかと思って教室に入ろうとすると私は織斑千冬に呼び止められた。

 

「倉持」

「何だ、織斑千冬」

「少し話があるのだが……職員室にまで来てくれないか」

 

 一体私が何をしたのだろうか?そりゃ学校に来て早々調子乗ってるような言動起こせば私の机にいたずらとかあるだろうが……そういうのは教師ってやつは無視するからな……多分関係ないかな……

 

「ここじゃ話せないのか?」

「話せないな」

「はぁ……めんどくさいな……」

「悪いな」

 

 私は織斑千冬に着いて行く。

 恐らくコイツが私に言うくらいだから教師という立場では対処しにくいことなのだろう……教師の立場って面倒くさいよな……私の就くであろう社長の座も面倒であることに変わりはないが……

 私は織斑千冬の入った職員室に入った。一応礼ぐらいはしておく。織斑千冬が自分の椅子に座ってようやく話が始まった。

 

「まぁ、話というのは生徒の間で広がっている噂話についてだ」

「噂話?どんな内容でお前が対処する話になるんだ」

 

 噂は噂と流してしまえば良いだろうに……なんで私に相談を……

 

「近々あるクラスリーグマッチの優勝者は織斑と結婚できるという噂だ」

 

 私はそれを聞いてゲンナリした。1つ息を吐いてから私は言う。

 

「その噂……織斑一夏は認めてるのか?認めてるなら別に良いじゃないか」

「いや、聞いた話だと織斑には内密の女子の間だけでの密約的なものらしいのだ」

「……それ、完全な噂じゃん。私には関係ない、じゃ」

 

 私が職員室から出ようとすると腕を捕まれ引き止められる。

 

「今度は何だ」

「たとえ噂だろうと皆が信じれば事実と変わらない。一夏の自由のためにも一働きしてくれないか」

 

 私は掴まれた腕を振り払って千冬の方を向く。

 

「対価」

「?」

「対価を寄越せ。私は無償で何かをするつもりはない」

「……何をすればいい」

 

 ……コイツ、交渉も何も出来ないと見た。なんで制限を付けないんだよ……なんでも自由にしちゃ問題だろうが……

 

「……アンタには色々言いたいことがあるが……まぁ、要求は1つ、無許可で外出する権利……コレには外泊なども含まれる。勿論期限はなしだからな」

「……良いだろう」

「まぁ、言いたい事なんだが……人に何かを寄越せと言われた時には制限を付けるようにしろ。そうでなきゃ――」

 

 私はそこで言葉を一度切ってから言った。

 

「――利用されるぞ」

「……肝に命じよう」

「で、何をすればいいんだ?」

「決勝戦を準決勝にしてお前を特別シードで決勝に捩じ込むから一夏が来たらわざと負けてそれ以外が来たら勝ってくれればいい」

 

 ……これつまりあれだろ?

 

「生徒に八百長頼んでんの?」

「そうだ」

 

 コイツとんでもねぇブラコンだ……どうしようもねぇ……

 

「ああ、頼まれてやるよ……ただし、準決勝で勝った奴には本来の優勝をした時の特典を渡せよ」

「勿論だ」

 

 ……まぁ、傭兵稼業を始めようとしてた私にはちょうど良いか……

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 織斑千冬の話が終わった後、私が教室に入ると話し声が一瞬で消えた。視線も突き刺さり、その視線の中には悪意や敵意などが窺える……私も随分と嫌われたものだな。まぁ、あれだけ調子こいているように見えれば当然か。

 机も落書きだらけのボロボロ……学園の最新設備で普通コレをやろうとするヤツのほうが馬鹿に見えるな。これはただの机じゃなくてコンピュータも入っているものだっていうのに……随分と体の低い奴らだ。所詮、物の価値も分からない馬鹿共か……

 

「はぁ…………」

 

 私は椅子に座ると持ってきたプログラム用のPCを取り出して立ち上げてプログラムを組んでいこうとするが画面が見えない……ってああ、眼鏡してなかったな。まだプログラム部分が終わってないし馴染ませるのも終わってないためISの機能で自分の視野を補助は出来ない……しばらくは我慢するしか無いな。

 

ガンッ!

 

 いきなり机に衝撃。何かと思って見てみれば何人かの生徒が私を囲むように立っていた。IS学園でもいじめってあるんだな……ほんとに馬鹿だなこいつら。

 

「倉持のお嬢様は暢気にパソコンでなにしてるんですかぁ?」

「自分が強いからって粋がって」

「それって専用機のおかげでしょ?何調子乗ってんの?」

「で、パソコンで何見てんの?」

 

 いきなりPCと眼鏡を取られる。

 

「なにこれ、わかんねー」

「うわ、何この訳分かんない文字の羅列」

「あ、あれじゃない?暗号化した小説。あとで自分の部屋で元の文章に戻すんだよ」

「どーせしょうもない文章だろ?削除してやるよ」

 

 そう言って生徒の1人がバックスペースキーを押してソースコードを消していく。

 

消す?

 

消される?

 

3日間の努力の結果が?

 

私の研究成果が何の効果も出さぬままに?

 

 巫山戯るな。

 私は立ち上がりたった今バックスペースキーを押している女子の胸倉を掴んだ。

 

「返せ」

「は?何言ってんの?お前の恥ずかしい小説を親切に消してやってるのに」

「さっさと返せ」

「ああ、良いよ。ほら、受け取れよ」

 

 受け取ったそれを眼鏡で確認するとそこにはソースコードなど存在していなかった。すべて、全て消されたのだ。こんな無能どもに……ISを組むこと、ISのオペレートシステムを組むことの大変さを知らない無知の馬鹿共に消されたのだ。

 

良いだろう、上等だ……覚悟しろよクズ共……

 

 私は眼鏡とPCを机に置くとクズ共と向かい合った。

 

「なに?文句でもあるわけ?」

「自慢の小説消されて怒ってるんだよ」

「黙れ、何も理解できないクズ共」

 

 私は再び胸倉を摑み引っ張るとほとんど離れてない距離で言った。

 

「私の研究の邪魔してんじゃねぇ。IS1つまともに操縦できず、IS1つまともに組めず、ISのオペレートシステムまともに組めない奴が、私のやること邪魔するな。それともテメェら何か?さっき言ったことのうちのどれかでも私に勝てるとでも言うのか?」

「ISの操縦でな」

「おー、随分強気に出たじゃねぇか……」

 

 私は手を一気に押して壁にそいつを叩き付ける。

 

「ガハッ!?」

「今日の放課後、テメェら……ひふみよ……5人纏めて相手してやるよ。勿論、私も訓練機だ。そうでないとお前ら納得しないだろうしな。人数分のISは借りといてやる、換装装備も好きな様に使えばいいし、ついでの私の手掛けた換装装備も使わせてやるから感謝しろよ?そして――」

 

 私はここで声を切り、ドスの効いた声で言った。

 

「――覚悟しとけよクズ共。テメェらのチンケなプライドなんざズタズタにしてやるよ」

 

 私はニヤリとそいつらを見て笑った後、再び席に座りプログラムを組んでいった。3日間の作業をまるまんま無駄にしやがって……あいつらは本気で潰す。1:5のハンディキャップに私の手掛けた最新の換装装備を使わせて私は普通の打鉄……これならあいつらも現実というものも認識できるだろう。

 簪のために用意した機能拡張機能付きのパッケージ……追加された背部に2つ装備した16連ミサイルポッドのミサイルとそれを制御するための拡張用マルチロックオンシステム、近接用腰部アーム付きガトリングガン2門、多種弾頭対応ライフル『淒鉄(すさがね)』、炸薬瞬間加速式大太刀のデータを元に簪の打鉄弐式に合わせた炸薬瞬間加速式薙刀『現(うつつ)』、機動力増加のための追加ITS及びISC。

 名付けて打鉄弐式機能拡張換装装備『震斬(しんざん)』……実際に使ってなくて出来上がりを見てなかったし丁度良い。震斬を装備した打鉄で打鉄弐式レベルに仕上がれば第2世代が第3世代になるから一石二鳥……じゃないな。

 打鉄にイメージインターフェースは使われてない……一応震斬にも追加のイメージインターフェースは入ってるけど震斬の制御にリソース全部取られてるし、打鉄で使った時エラー吐かれないだろうか……上位互換は問題ないんだ、下位互換は……多分、元は同じはずだし大丈夫だろう。希望的観測だが装備するまではどうにも……まぁ、ダメだった時はダメだった時で良いか。

 

「に、しても……」

 

 私は空月と月光の推進器を見ながら思った。

 スラスター……これじゃあ非効率だよな、エネルギーバイパス的な意味でも推力方向を限定される意味でも……

 私の空月と月光は量子遷移(量子ジャンプ)型エネルギーバイパスを使用してるからエネルギー効率は良いけど無駄に枝分かれしてて壊れた時面倒くさいんだよなぁ……

 推力方向に関してはスラスターだから仕方ないといえば仕方ないが……何か1つだけで全方向に推力を放出するやつを考えられれば良いんだが……

 機体制御はPICを使えばどうにでもなるから良いし、むしろその方がスラスターでやるよりも自由なんだし楽なんだよな……動かすのはイメージインターフェースでいけるし……

 ただ……全方向への推力放出が出来る推力機構は既存せず、未だに1方向への限定されたものを軸を稼働させることと幾つかのスラスターを配置することによって擬似的に行っているだけなんだよな。

 光推進……それもマイクロ波推進だな、ISで実用に出来そうなのは。だがコレは指向性に欠けるんだよな、どうするかな……どうにかして指向性を持たせられれば実用化に近づくんだが……

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「これは一体何事なんだ!?」

 

 次の日の朝に登校してみると、教室がやけにザワザワと慌ただしくなっていた。その騒動の中心には久し振りに顔を出していた倉持 霞が立っていた。

 ただ立っているだけでなく、一人のクラスメートを壁に叩き付けていたのだ。その周りにはそのクラスメートの友人達があたふたしている。叩き付けられているクラスメートはというと苦しそうに顔を歪めていた。

 

「覚悟しとけよクズ共。テメェらのちんけなプライドなんざ、ズタズタにしてやるよ」

 

 倉持はドスの効いた声で、この場にいる全員に対して告げるようにも聞こえた。倉持が何故こんなことを言うのか、倉持が何をされたのかは倉持の机を見て把握した。

 落書きやその他にも目立つように傷つけられ、ボロボロとなっていた倉持の机。これが何を意味するのか……簡単だ。倉持は苛めの対象となっていたのだ。倉持は確かに周りとも壁を作り、馴染もうとしないだけではなく他人を見下した発言をする。それが、気に入らずに倉持を苛めの対象としたのだろう。それで壁に叩き付けられているのと、倉持の周りであたふたしているのが苛めを実行したグループなのだろう。まさかこの学園でも苛めに遭遇するとは思いもよらなかった。苛めを受ける倉持にも原因はあるのだが、俺は苛めのような心が腐ったようなやり方は気に入らない。

 

「倉持が苛めを受けたようだ」

「箒は全部見ていたのか?」

「いや、私も途中からこの騒動を知ったのだ。その時は倉持のパソコン内のモノを消されたようだ。それが怒りの直接の原因だろう」

 

 引き金は私有パソコンのデータか。言っちゃ悪いが、倉持が机をボロボロにされたぐらいでは響かないと勝手に思っていた。一体何のデータが入っていたのかはわからないが、倉持自身も技術者であることから何らかのIS関係のデータだったのかもしれない。自分の技術の結晶でもある貴重なデータを消されたのだ。倉持が切れるのも無理はない。

 倉持は言葉を吐き捨てた後なに食わぬ顔でボロボロとなった机に腰を掛けた。どうやらあのまま授業に出席するらしい。

 あの倉持が折角クラスに顔を出したと言うのに、自分を待っていたのは熱烈な歓迎とは真逆の、最悪の苛めという形だったのだ。これでは益々倉持がこのクラスに馴染む気が失せてしまう。

 

「……倉持、そんな状態の机で授業を受けるのか?」

 

 倉持の姿が見るに耐えなかった俺は倉持に声を掛けた。

 

「こんな状態の机では授業が受けられないと?机なんざあれば何でもいいんだよ。それともお前はただ、自分の優しさをアピールでもしたいのか?アピールする相手を間違えているな」

 

 こう言った発言が周りを不快に思わせ、苛めへと発展してしまうのだ。苛めは苛める側も悪いが、苛められる側に問題があると思っている。倉持がこの態度や発言を改めない限り苛めは続くだろう。これは本人の問題であって、他人の俺が干渉するのにも限界はある。

 

「そんなんじゃねぇよ。倉持こそ言葉を間違えるなよ。俺は優しさをアピールしたいが為に倉持に気を使ってるわけじゃねぇ。ただのクラスメートとして、仲間として気にかけてんだ。困っているクラスメートをほっとくけるかよ。たとえそれがどれだけ『嫌な奴』でもだ」

 

 倉持の真似ではないが、遠回しに倉持に抱いている感情を混じらせる。正直俺は倉持のことは好かない。人を見下すことしかしない奴のことなんか好きになれるわけはない。だが、それとこれは別の話。幾ら嫌いな人間でも困っていたり悩んでいたりすれば一人のクラスメートとして接し、相談にも乗る。

 

「そうだ倉持。人の顔色を伺ったり、好感度を上げるためだけの人間ばかりではない。それに今までこうなることを予見できなかった私達にも問題はある」

「大丈夫だよくらもー。私達は信用して良いよ」

「これを切っ掛けに仲良くしようよ」

「それ目的不純じゃん」

 

 箒を筆頭にのほほんさん、相川さん、鷹月さんが倉持の為に集まってきた。俺は彼女達とは打ち合わせも何もしていない。これは彼女達が自主的に歩み寄ってきたもので、悪意は感じられない。

 

「……具体的に何をするつもりだ?」

「倉持の机を備品と代える為の運びだしと、そのことについて先生達に相談する」

「……勝手にしろ」

 

 倉持は折れない俺達に諦めたのか溜め息を付き、ボロボロの机を明け渡してくれた。

 

「机を運ぶのは俺と箒で、のほほんさん達は山田先生と織斑先生に一報をいれてきてくれ」

「はいはい~」

 

 まもなく朝のSHRが始まる。それまでに交換できればいいのだが……まぁ、ことがことなだけに多少は時間を貰うことは出来るだろう。

 ボロボロとなった机を持ち上げ教室を出ていこうとする。こうなる発端となったクラスメート達の方を見てみると、彼女達はばつが悪そうな顔をして自分の席に座っていた。ソコにセシリアが詰め寄り、彼女達にたいして説教をしていた。その間も彼女達は原因は自分達なのに倉持の方を睨んでいた。この騒動は相当根強くなりそうだ。

 常識的に考えれば、机とはいえ学園の一部であることに変わりはない。彼女達が行ったのは世間一般でいう器物破損という犯罪行為だ。学生の身分だから守られるかもしれないが、キチンとした罰は必要だな。

 

 今のクラスは三つに別れている。俺達を含めた、倉持のことを真摯に考えているグループと、無関心なグループと、倉持のことを良く思っていないいじめっ子グループの三つに……いじめっ子のグループはこれから先どんどん増えていくだろう。それに伴い苛めも過激になっていくかもしれない。だが、それを未然に防ぐ手段はない。倉持のことをどれだけ真摯に考えていても、四六時中倉持に付きっきりなわけではない。どうしても後手に回ってしまう。

 

「……倉持」

「……何だ?」

「お前のことだ仕返しをするつもりだろうが、一つ言っておく……やり過ぎるな」

 

 教室を去り際に倉持に耳打ちをする。倉持の性格上仕返しをするのは必然的。問題はその仕返しが過剰なモノにならないかどうかだ。仕返し事態は問題ではあるのかもしれないが、『今の俺は問題とは思ってない』そのことは過去の体験から導きだした結論だ。根本的な解決は本人次第。俺達は影からのサポートと見守ることしか出来ない。……もしかしたら倉持のことだから徹底的に潰してしまうかもしれない。そうなったら俺は倉持を止めさせて貰う。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 私は1時間目をサボってISを借りに来ていた。

 

「生徒が授業も受けずにISを借りに来るのは良くないよ?」

「打鉄3機とラファール2機、メイルシュトローム1機。使用アリーナは第9アリーナで整備などはナシで。1対5のハンディキャップ模擬戦やるから出来れば貸し切りにして」

 

 注意した受付係の言葉も聞かずに私は訓練機の使用申請書6枚、各種換装装備仕様申請6枚、模擬戦申請書1枚の合計13枚を取って記入していく。

 

「程々にね。やり過ぎは溝を深めるだけだよ」

「どうでもいい」

 

 そう、私にとって人間関係なんてどうでもいい。人に合わせるつもりなんて無いし、そのままで着いて来れる人が来ればいい……私は誰かのために自分を曲げるのが嫌いだから。

 

「生徒が白昼堂々授業をサボっているのは見逃せんぞ」

「授業に出る必要なのないやつにそれを言っても無駄と理解しろ世界最強」

 

 私は記入した13枚を係員に提出して織斑千冬の方を向いた。

 

「やり過ぎるなよ」

「もうそのセリフ3回目だ」

「何度でも言ってやるさ」

「はぁ……んじゃ聞くが」

 

 私は織斑千冬を睨みながら言った。

 

「自分の大切なモノを……自分の命の次に大切なモノを消されてお前は怒らずに居られるか?私には無理だな」

「さて……どうだろうな」

「じゃあ、織斑一夏を殺されたら?」

 

 織斑千冬の顔が少し引き攣る。

 

「怒るよな?それと同じだ。私だって姉を殺されたら、我が子同然の作ったISやプログラムを消されたら怒る……それと同じさ」

「お前は全ての事に興味ないと思ってたが……」

「そりゃお前の勘違いだったってだけだろ?もしくは誰かと重ねていたのか」

 

 織斑千冬の眉がぴくりと動く……

 

「図星か?まぁ、どうでも良いがな……模擬戦、くれぐれも邪魔してくれるなよ?まぁ、やりすぎれば織斑一夏が止めに来るからついでにあいつの稽古もすれば良いな」

 

 私はそう言ってその場から去った。

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