彼女(メカニック)は空を舞う   作:地雷伍長

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題14話

 逃げようとしていた織斑をとっ捕まえて私は第9アリーナの真ん中で織斑を待っていた。

 この第9アリーナは他のアリーナとは違い特殊なものを扱うときや特殊な事情のある場合に使用されるらしい……私は此処の第9整備室の自由使用許可しか取っていないが……今回は織斑千冬の許可もあってしばらくここで月光とともに体を動かすだろう。

 そう言えば私の研究データが消された時も使ったが……まぁ、良いか。何のお咎めも無かったことだしな。

 

「それで何するんだよ?」

 

 アリーナの入り口に立っていた織斑がやや大きい声で聞いてくる。

 

「別に、お前には言えないちょっとした事情でお前を鍛えなくてはならなくなっただけだ」

「それならセシリアや箒が……」

「あれじゃあゆっくり過ぎるんだよ。到底間に合わない」

「一体何に?」

 

 織斑の怪訝そうな目線を流しながら答える。

 

「クラス代表リーグマッチだよ」

「え、じゃあお前にもフリーパスの興味が有るのか!?」

 

 ……なんか随分とぶっ飛んだのが出てきたな……なんでそんなものに心当たりがあるのかが不明だが……まぁ、良いか。適当に流せば良いし。

 

「ま、そんなところだ。お前には勝って貰わねば困るんでな」

「そんなにか?」

「それほどまでにだな」

 

 嘘だがこうしておいたほうが楽だし、織斑には言える話では無いからな。

 

「じゃ、特訓と行こうか。白式を展開しろ」

 

 私は月光を展開しながら織斑にそう言った。

 

「と、特訓!?」

「早くしろ、それとも生身の戦闘術から学ぶか? まぁ、それも良いか」

 

 何か苦いものでも噛んだような顔をした織斑だったが、一度息を吐くと白式を展開した。

 

「よし……じゃあ、一度模擬戦と行こうか」

「さ、早速か!?」

「あの時とは違うんだろ? 実力が分からなければ特訓のしようがない」

 

 私はPICで床から浮くと右手に伊弉諾尊を展開して織斑が浮くのを待つ。

 

「……分かった」

 

 織斑もPICで浮き上がり、右手に雪片弐型を展開する。

 

「10秒後に開始だ」

 

 私は月光のコンソールからこのアリーナの管制システムに割り込みカウントダウンを始めた。

 その10秒の間に織斑は雪片弐型を構えるが私は伊弉諾尊を下ろしたままの自然体。

 カウントダウンが0になった瞬間、織斑は一番最初に戦った時に使った瞬時加速の練度を高めたものを使って一気に私の懐に飛び込み、零落白夜を叩き込もうとしたが……

 

「そんなものが通じるとでも?」

 

 私は左脚の回し蹴りに炸薬式瞬間加速器(クイックボマー)による加速の衝撃を追加した攻撃で織斑のことを蹴り飛ばしアリーナの壁に叩き付けた。

 

「ゲホッ……」

「やるならもっと瞬時加速の入りと出を極めて、瞬時加速が終わってから攻撃するんじゃなくて瞬時加速中に攻撃を当てるようにしろ。奇襲の意味が無くなってるぞ」

 

 私は今の攻撃の問題点を指摘すると今度は自分から織斑に肉薄し顔のすぐ右に突きを放ち伊弉諾尊を壁に突き刺した。

 

「――ッ!?」

「次に、叩き付けられたからって止まるんじゃない。戦闘中は常に動くようにしろ」

 

 今度は織斑の左側に回し蹴りを叩き込み織斑を吹っ飛ばすが、今度は私の言ったように壁に叩き付けられる前に体勢を立て直し動き続けるが……それは酷く直線的でいい的の動きだった。

 右手の伊弉諾尊を収納すると両手につい最近インストールした多弾頭ライフル『淒鉄』を展開し織斑に向けて連続で射撃して全て当てる。

 

「なんで!?」

「そんな直線機動じゃ簡単に当てられる。機動戦に持ち込むのであれば複雑な、予測出来ない機動を描け。動きはルーチン化するのではなくランダムに動け」

 

 その一言で動きがかなり変わるが……まだ足りない。

 

「なんでまだ当たるんだよ!?」

「相手の攻撃を避けたいなら相手の全体を見るんじゃなくて相手の目を見ろ。その目を見て何処を狙っているのか見定めろ」

「んな無茶苦茶な!」

「出来ないなら落ちるだけだ」

「くっそぉォォ!!」

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「ほれ、これはどうだ?」

「うおぉぉぉぉ!! む、無理! 無理だって!!」

 

 ほう? 弾幕を避けながらまだ避けられるか……

 

「まだ余裕がありそうだな? 弾幕更に追加してやろう」

 

 これまでは両腕とサブアームで銃による射撃だけだったが今度は背部武装ラックに36連ミサイルユニットを二基接続し織斑をロックオンし全弾発射する。

 

「うォォォォ!! 死ぬ! マジで死ぬゥゥゥ!!!!」

 

 おお、死ぬとか言いながらよく避けるな……至近弾や掠りはあっても直撃は無し……ミサイルだけは全て避けてる……あ、ミサイルが直撃した……ああ、後は総崩れで――落ちたか。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 床に大の字になって息を切らしている織斑を見ながら私は少し考え事をする。

 コイツは案外筋が良いな。いくら簡単な事しか教えてないにも関わらず随分と簡単に言われたことを吸収していく……まだ特訓が始まってまだ休憩挟みつつ5時間程度しか経ってないんだが……恐ろしい吸収力だ。

 それでもまだある程度……まだまだだな……伸び代はデカそうだが。

 

「……時間を掛ければ化けるかも……か」

「な、なんか……言ったか……?」

「いや? 別に何も言ってないぞ」

 

 と言うか……コイツ今まで放課後に練習しててここまで下手なんだ?ここまで筋がいいならそこまで弱くはないはずだが……

 

「休憩するぞ。聞きたいこともあるからな」

「お、おう……」

 

 現在時刻、夜9時……あれ、織斑のやつ訓練中に腹減ったとか言ってたか……?

 少し記憶を辿ってみるが……

 

「……言ってないな」

 

 集中力を体のことを忘れるぐらいまで高めていたのか……どんなやつだコイツ。バケモノか……?

 ただ、まぁ……倒れられてもはっきり言って困るのだ。

 

「しょうがない、作るか」

 

 私は第9整備室へと向かい、簡易キッチンで夕食を作ることにした。

 さて……何にしようか……

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 グゥ~

 

「そういや、ずっと何も食べてなかったな.....」

 

 倉持に引っ張り回されること数時間。模擬戦とは名ばかりの、虐めに近い訓練内容だ。ひたすら倉持の攻撃を回避し続けるだけの。次から次へと弾幕を張られては、白式では近づくに近づけなく、どうしようもない。

 そんなこんなで、かれこれ数時間訓練を続けていたが、訓練に集中しすぎて時間の経過と空腹具合を忘れていた。腹が減っては戦は出来ぬと言われているが、空腹を認識しない程に集中すれば、動き続けれるのは

新しい発見だ。

 その分動きを止めたときや、集中力が切れれば反動で疲労と空腹が一気に押し寄せてくるけどな。丁度今の俺がその状態だ。

 

「腹減ったぁ! 何か食わないと一歩も動けないな」

 

 幸いにも、倉持が何か食べ物を用意してくれている。流石の倉持も、体調管理には留意してくれているようだ。飯抜きでこの地獄の特訓を継続するのは特訓でも何でもないただのしごきになってしまい、特訓の意味が無くなってしまう。何事も適度な休憩が必要だ。

 食べ物が届くまでの間の時間に俺は、体を休めるためにグラウンドに大の字に寝転がり、満天の星空を見上げる。どうせ、特訓はまだ続くんだ。今のうちに体を回復させないと明日に支障が出てくる。

 

「それにしても、綺麗だな.....」

 

 普段のこの時間なら、とっくに消灯している頃だ。こんな夜遅くに学園内を出歩くことなどまずないし、星空など生きている過程の中での何気ない風景に過ぎず、ただの自然の一部。特に気にかけることもなく、それが当たり前になっている。

 この何気ない風景を、普段とは違う視点で見るとどうだろうか? 一歩も動けないこの状況で、視界に入るのは星空のみ。ぼぉーっと無心に眺めているだけなのだが、やけに心に浸透していく。普通の風景が普通には感じられない何か特別なものに感じられる。

 こんな状態でなければ、今までと変わらず感動も何も得られなかっただろう。

 

「当たり前のことが、当たり前ではなくなる.....」

 

 人間が生きるために呼吸をする。生きるために魚や野菜肉を食べる。当たり前のことであり、生きるためには欠かせない存在。そこには、特別な感情など何もない普通な事象。誰も気にかけず気にかけようともしない。だけど、その当たり前を当たり前と認識しなければどうだろうか? 全ての事象に意味を見出だし、理解すれば何か変わるのではないのか?

 例えば、俺が空腹だから食べ物で表現すると、食べ物を食べるのは生きるという意味がある。それを、もっと掘り下げていこう。何故食べる? 生きるために。何故生きるのに食べなければいけないのか? 人間に必要な栄養素等の摂取。等々きりがないが、こう考えれば普段の当たり前の行いが特別なものに感じられないか?

 何が言いたいかというと、これをISの戦闘に置き換えれないのか? ということだ。まだ朧気な考えだが、休憩後の特訓ではこれを意識していこうと思う。その前にISに詳しい倉持に相談しておけば、更にビジョンが広がりそうだな。

 

「へらへらと笑う元気があるのは余裕の証だな」

 

 戻ってきた倉持の手には、綺麗に皿に盛り付けられたステーキが香ばしい匂いを放ち、食欲の塊と化している俺の食欲を更にそそる。

 夜中の夜食にステーキはヘビーな気がしないでもないが、空腹に勝るものは何もない。気がつけば俺は勢いよく起き上がりステーキまで歩み寄っていた。

 

「すげぇな、これ倉持が作ったのか?」

「他に誰がいる?」

 

 料理が上手い奴に悪い奴はいない。それが俺の数ある持論の中の一つ。人を思いやる気持ちがなければ旨い料理など作れっこないのだからな。

 料理を見た目だけで判断しているが、これだけ香ばしい匂いを放つ料理が不味いわけもない。

 

「食べていいか?」

「食べずにどうする?」

 

 倉持から皿を受け取り、一心不乱にステーキを口に運ぶ。肉は非常に柔らかく弾力もあり、噛んだ瞬間に口の中全体に肉汁が広がる。当然味も最高だ。空腹状態だから何を食べても美味しく感じるが、それでも旨い物は旨い。

 

・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

「私が料理している間にそんなこと考えていたのか」

「ただ休むだけじゃなく、次に向けて自分なりに考えていたんだ」

 

 ステーキをたいらげ、俺は休んでいる間にふと思いついたことを倉持に話してみた。バカにされるかもしれないが、それを恐れて自分の考えを人に話さないのは成長しないことにある。どれだけバカげていても、人に話せば自分の考えについて何かしら指摘してくれる。一人で抱え込んでいたら先には進めない。

 

「例えば、銃なんか構えて引き金を引かなければ弾はでないだろ?」

「当然だな」

「けど、その当然を当然のままにするんじゃなくて、構えて引き金を引くの『ツーモーションもある』って考えたらどうだ? それだけあるなら何か出来るんじゃないのか? ってこと言いたいんだ」

「成る程な」

 

 バカだから、難しいことを上手く口で表現できないけど、ISの戦闘を全てそう考えて動けるようになれば大分楽になりそうなんだ。考えるよりも体が動く俺がこんな事を考えるのは変な話だけど、これさえも頭で考えずに、自然と体が動くようになれればいいだけの話。

 あくまでもこれは俺だけの考えだけどな。実践するかどうかは倉持の考えを聞かせてもらってからでも遅くはないだろう。

 俺は黙り込む倉持の口から、何か献身的な言葉が出てくるのを期待して待つ。例え献身的ではなく、一蹴されよくとも確りと受け止めるつもりだから、何を言われても平気だ。取り敢えず他の人の意見を聞きたいんだ。

 

「平たく言えば、お前の言いたいことは『発想の転換』か」

「そんなところかな?」

 

 聞き慣れた言葉だけど、余り意味が解らなかったり……言葉は聞いたことあっても意味が解らないのはよくあるよな。

 

「……言葉の意味を理解してないのか?」

「や、やだなぁ……一端の高校生がそんな簡単な言葉を理解してないとでも?」

「……ジー」

「ご免なさい意味は知りません」

 

 人間素直が一番だな。下手な嘘は個人の価値と信用を下げてしまう恐ろしいことだ。倉持のジト目に戦慄を覚えたわけではない。

 

「……まぁいい。論より証拠だ。実際にやってみせろ。話はそれからだ」

「うっし! いっちょやってみるか」

 

 食事も休憩も十分にとった。まだやれるな……

 

 俺は再度白式を展開し、雪片を構える。倉持も専用器を展開し、休憩前に使っていた武器を俺に向ける。

 先ずは、僅かな動きを見逃さないように白式のハイパーセンサーで倉持の姿を確りと捉え、一挙動一挙動をよく観察する。

 風の音と、風に吹かれ舞う砂埃以外辺りは静寂に包まれ、俺も倉持も一言も発せず互いに出方を窺う。倉持の方はわからないが、俺は極限まで集中しているから言葉など交わす余裕がないだけ。

 

 

 

 

 今だ!

 

 倉持が引き金を引く僅かな挙動を俺は見逃さなかった。ハイパーセンサーに映し出される倉持の手に握られている武器の引き金に指が掛かった瞬間から俺は動き出していた。

 

「――っ!」

 

 弾が発射される頃には既に俺はその場から移動しており、弾は俺いた場所をただ通過しただけだった。

 ……ぶっつけ本番でなんとか出来た。俺の考えは至極単純なモノだ。『弾が飛んできてから避けるのではなくて、弾が飛んで来る前から避けていればいい』。ただそれだけだった。

 弾が飛んできてから避けるから、変にテンパって後手に回され相手の思う壺になってしまう。それなら初めから避けていればいい。それなら相手に踊らされる心配もなく、俺が先手を取れる。

 休憩前から、倉持の弾幕を必死に避けるとき俺はなるべくエネルギーを無駄に消耗しないように、必要最小限の動きを意識しつつ回避していた。それを更に洗練させたものがこれだ。白式のスピードなら充分に実現可能の確信はあった。

 

「………………」

 

 倉持は単発から、休憩前と同様に無数の火器からなる弾幕による波状攻撃に切り替えてきた。

 それでも俺は慌てず、落ち着いて倉持の武器から発射される弾丸の軌道を読み取り、大きな動作を必要とせず、弾と弾の間をすり抜ける。

 剣道の洞察眼と要領は同じだ。相手の動作を『よく見て』最善の動きをするだけだ。数が増えようが、弾丸を発射する銃口は一つしかなく、一つの武器に弾は一つしか発射されない。それに弾幕は相手を寄せ付けず、数による圧倒が目的だ。それ故に一つ一つの精度は決して高くはない。寧ろ疎かに近い。それならば、敢えて此方から無理に動く必要もない。

 

「よし! これならいける!」

「浮かれすぎだ」

「しまっ!」

 

 少し有頂天になりすぎていたようだ。浮かれる余りに集中力を途切れさせてしまい、簡単に弾幕の餌食になってしまった。

 それでも俺の試みは成功しただけでも、休憩前よりかは成果はあった。まだまだ荒療治の段階で、回避は楽になったけど、回避に専念しすぎて攻撃に回れないのが傷だけどな。まぁ、それもおいおい改善していくからいいけどな。

 

「どうだ倉持! さっきと全然違うだろ?」

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「どうだ倉持! さっきと全然違うだろ?」

 

 なんなんだコイツは……と私は内心戦慄していた。

 織斑の言う構える、引き金を引くの2モーションもあるという話だが……まぁ、これについては考える奴は考えるだろう。

 だが問題は織斑が実際にやったことだ。

 多分、アイツは私が引き金を引くところから注視して避けたと思っているのだろうが実際には銃の方向から、銃口の向きから弾道を予測しそれを避けてみせた。しかもそれを無数の銃器を撃っている状態でやったならば織斑の見ていたものは私の周り全てだ、銃そのものではない。

 故に私は織斑の中にある『可能性』に戦慄した。

 もしコイツが戦う術を身に付けたならどうなるか……相手の心理状態を掌握するほどの心理戦を行えるようになったら……

 コイツの可能性は幅が広い。織斑千冬のようなすぐに結果の出るようなやつではない、大器晩成の成長型で器(キャパシティ)が大きい……

 

「ああ、違かったな」

「だろ!!」

「だが……」

 

 私は炸裂弾を織斑の落ちた近くの地面に撃ち込み爆発させる。

 

「その技術を完全にモノにするまで浮かれるな。そこが現状の問題点だ」

「分かった」

 

 ……RDみたくならないと良いけどな……1つ間違うとそうなるんじゃないかと心配でならないな……

 

「ほれ、さっさと立て。まだ続けるぞ」

「え!?まだやるのかよ!」

「まだやるぞ」

 

 現在午後11時半。訓練はまだまだ続くだろう。

 いつ終わるのかって?コイツが気を失った時だろうな。いつになるかは分からないがそれが起こるとは断言出来る。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 案の定、織斑は気を失った。現在時刻午前3時半。

 

「コイツバケモノか……?気を失う寸前まで集中力を切らさないとか……巫山戯ているにも程が有るぞ」

 

 織斑は気を失うと同時に白式も収納していた。

 とは言え、こんな場所で寝せていたら風邪を引きかねない……織斑の部屋の場所は知らんしな……しょうがない私の部屋で良いか。

 織斑の脇に腕を入れて引き摺るように運ぶが……

 

「脚の抵抗が……」

 

 引き摺ると抵抗がありうまく運べない……そんな訳で背負うことにした。一番楽だったしな。

 

 部屋の前に到着し鍵を開けてドアを開ける。部屋に入り私の使っているベッドに織斑を寝かせると私はシャワーを浴びることにした。

 5分ほどでシャワーを済ませ、ふと気づく。

 

「何処で寝ようか」

 

 楯無は基本的にベッドをほとんど使うような寝方をするため無理……

 間違いが起こることは無いだろうし織斑の寝ている私のベッドで寝ればいいか。

 そんなわけで現在織斑の寝ているベッドに潜り込み私は眠りについた。それが午前3時43分のことである。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 ど う し て こ う な っ て る !?

 

 ……………………よし、一旦情報を整理しよう。昨晩は倉持に引っ張りだこにされ、深夜まで特訓をさせられ目が覚めたらここにいた。そこまでは良しとしよう。

 現在の状況。右手に倉持、左手に見たことない青髪の女性。しかもその青髪の女性は下着姿な上に俺の手がふっくらとした塊に埋もれている。下着越しではなく、『生だ』! 慎ましくも包容力と、夢が詰まっているソレに触れることで、青髪の女性の体温と鼓動を感じ取れる。白く透き通っている肌はほんのり冷たく、強く握れば取れてしまいそうな柔らかさである。

 反対に、右手の倉持は俺を抱き枕のようにギュッと抱き締めている。

 一番アウトな青髪の女性の方から解決しようにも、昨晩の特訓の全身疲労で体が全く動かない。比喩でも何でもなく誰かに保持してもらわなければ、一歩も動けない!

 不味い……非常に不味い状況だ! 二人とも目を覚ましてないから大事にはなってないが、こんな状況で目を覚まされたら確実に変態の称号を手にしてしまう。隔離されている学園内に情報は千里を駆けてしまうため、それだけは何としてでも避けなければならない!

 死亡フラグびんびんで、死活問題に関わってくるこの問題を、俺は冷静かつ早急に解決しなければならない。一切の予断も許されない緊迫した場面だ。

 

「ゆっくり、慌てず手を退かそう」

 

 第一、どうやったら寝ている俺の手が青髪の女性の胸に潜り込むんだ? まさか、俺が寝惚けて侵入させたのか? 嫌々、流石の俺でもそこまでは大胆な行動はしない。となるとこれは純然たる偶発的な事故だ。そうだとも、俺の責任ではない。

 自分で自分を納得させつつ、何とか事態の収拾に努めるのだが……

 

「……アァン」

「………………」

 

 耳元で囁かれる青髪の女性から、漏れた喘ぎ声と吐息が俺を刺激し自然な反応を発生させる。一言言わせて貰おう。

 

「ご馳走さまです!」

 

 有り難いサービスにお礼を言うが、冷静に考えたら見ず知らずの他人の胸をまさぐり、堪能している俺はどう考えても犯罪者です。

 

「墓穴を掘ってどうする俺!?」

 

 自分に渇を入れ、改めて解決を目指すが一向に手が離れることがなかった。その場でもぞもぞ動くだけで何の進展もない。

 

「……ヤァン」

「……………………アカン」

 

 寧ろ悪化していると言えよう。俺が手を離れさせようと動かす度に青髪の女性から喘ぎ声と吐息が漏れる。これでは俺の限界を迎えてしまうのが先になってしまう。ここは一度、予定を変更して右手の倉持の方から解決しよう。幸いにも倉持は俺にしがみついているだけで、上手くすり抜けて右手が、解放されれば空いた右手で左手を引っ張り出せる。

 

「そうと決まれば右手に視線を移すか……」

 

 左手から右手に視線を移した俺の目に、信じられないモノが写りこんでいた。

 

「……………………」

「……………………」

 

 なんと、倉持が目を覚ましていたのだ! しかも、はっきりと俺の方をジーッと見つめている。倉持の目線と俺の目線が合ってしまい、俺は目を何回も瞬きさせ暫くの間倉持と見つめ会う。

 

「いい朝だな」

「そうだな」

「絶好の運動日和だな」

「そうだな」

「目覚めもバッチリ」

「そうだな」

「………………」

 

 堪らなくなった俺は倉持に問いかけることにした。倉持の無表情が怖かった訳ではない。

 

「何時からですか?」

「お前が楯無の喘ぎ声と吐息を堪能していた時からだ」

 

 つまり最初っからですね。現場を現行犯で見られてしまっては、どう言い繕っても逃げ場が残されていない。打つ手無し。潔く罪を告白したほうが俺の評価が落ちることもないだろう。

 

「まず最初に言っておくが、これは事故で「……ん、朝?」バットタイミング!」

 

 最悪だよ! 本当に最悪のタイミングで青髪の女性が、目を覚ましやがったよこん畜生!

 倉持に状況説明しようと口を開いた瞬間に、バットなのかナイスなのか分からないタイミングで目を覚ました。まるで青髪の女性も初めから起きていたのかと疑いたい程完璧なタイミングだった。

 倉持とこの青髪の女性が仕組んだ罠だと錯覚するレベルとクオリティだよ。

 

「………………って! キャァァァ! 何で私こんな状態なの!? 何で胸触られているの!?」

「こっちが聞きたいですよ!」

 

 目を覚ましたことで、自分の置かれている状況を理解したのか、青髪の女性は朝一に出す声量ではない奇声を上げた。キンキンと金属音のように耳に鳴り響く奇声から耳を守る手は塞がれている。よって、青髪の女性の奇声がフルで耳に入ってくる。昨晩の疲労で余計に脳に響き、頭がくらくらする。

 

「何で!? 何で!? 何で!?」

「織斑何とかしろよ?」

「なら先ずは俺にしがみつくのを止めてくれ!」

 

 目をグルグル渦状にさせ慌てふためく青髪の女性に、一歩も動けずどうにでもなれ常態の俺に、磁石のようにくっつく倉持。まさにカオスである。

 

「断る。丁度良い抱き心地と長さなんだ」

「あう~、私昨晩ナニかされちゃったの? だけど下着着けてるからナニもされてないず……」

「誰か助けてくれ!」

 

 もうこの際誰でも良いから、俺をこの状況から救いだしてくれ!

 そんな俺の願掛けが通じたのか、部屋の扉が開かれた。助かった……騒ぎを聞きつけて誰か様子を見に来てくれたようだ。きっとその人は仏のような人だろう。

 誤解はされるかもしれないが、今の状況から救ってくれるなら幾らでも誤解は受けてやる。そのあとで誤解を解けばいいだけなのだから。

 ゆっくりと開かれる部屋の扉が、神々しく光輝いていて見える。俺は扉を開けた主に、喜びの余りに顔を晴れさせ主を暖かい目で迎える。さぁ、早く俺をここから救いだしてくれ!

 

「朝から不純異性交遊とは良い度胸をしているなお前は」

 

 扉の向こうは閻魔大王様と繋がっていたようだ。俺はこの時悟った。この世界に神などいないと……

 希望から一転、絶望を突きつけられた俺はどんな顔をすればよいのやら。

 

「……ケダモノ」

 

 ヒョコッと千冬姉の横から更識さんが、顔を覗かせボソッと辛辣な言葉を吐いてきた。なんだこの不幸の連続は? 俺が一体何をしたというのだ!

 

「お姉ちゃんの部屋が五月蝿かったから覗いてみたら、朝からお盛んなことで」

「ち、違うのよ簪ちゃん!? お姉ちゃんも何が何やら」

「えぇー! この人更識さんのお姉さんなの!?」

 

 今日は厄日か? 最近知り合ったばかりの人の、姉とこんなことしているのを見られるなんて……つくづく神とやらは気紛れで、今頃腹を抱えて大爆笑でもしているに違いない。なんとも性格の悪い神だ。

 

「何を騒いでいるのやらと、様子を見に来たのだが織斑も中々の度胸の持ち主だったな。何か言い残すことはあるか?」

 

 辞世の句か……何にしようか? こんなことならいつ死んでも良いように、言い残す言葉を考えておけば良かった。

 全てを諦め、運命を受け入れる覚悟が出来た俺は、千冬姉に向かって堂々と叫んだ。

 

「最高の朝でした!」

 

 もう堕ちるところまで堕ちたのだ。これ以上失うものがない俺は、ありのままの自分をさらけ出した。 

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 いやぁ……なかなかに面白い朝だったな。

 楯無がいつも朝には私のベッドに潜り込んでくるのを知ってたし、それを考慮して織斑を私のベッドで寝かせたが……まさかここまで面白い展開になるとは……織斑の最期の絶叫も愉快愉快。

 

「織斑千冬、私の仕組んだことだ。大目に見ろ」

「では更識姉のあれは?」

 

 私はニヤニヤとした笑みを浮かべながら答える。

 

「アイツの行動習性を使ったのと事故だな」

 

 ふと織斑を見ればきょろきょろと周りを見ている。状況が掴めていないようだ。

 

「……今回の件は不問とする……」

 

 ははは、随分と疲れた顔をしているな?織斑千冬。私としてはそんな顔が見れて嬉しいとも思うがな。

 




一夏くん魔☆改☆造計画始動!!
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