彼女(メカニック)は空を舞う   作:地雷伍長

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第16話

「し、しんどい.....」

 

 最近満足に寝れてないだけではなく、疲労もとれてない気がする。今日の朝の一件でもそうだし、普段から箒と同室のせいもあって、夜は常に悶々とする毎日だった。幼なじみといえど昔の箒とは比べ物にならないほど身体が健やかに発育よく成長している。

 幼なじみが健全に成長してくれているのは、嬉しいことなのだが、健全に成長すればするほど俺が悶え苦しむ。

 箒だけではなく、俺も健全に成長しているわけだ。俺の言いたいことは同性の人間ならわかってくれるはずだ。つまりはそういうことだ。

 お陰で夜は夜で、欲望に負けない自制心の鍛練に励まなければならなくなっている。

 

「ほぉ~、今日は爽やかな朝を迎えていたと言うのに、しんどいとはな?」

 

 どうやら幼なじみさんは、俺を寝かせてはくれないようだ。

 今日は奇跡的に千冬姉が朝から不在で、授業を居眠りしようとすれば幾らでも可能なのだが、俺みたいな若輩者が授業を居眠りするなど言語道断。人より劣っているのだからそれ相応の授業に対する誠意と行動とらなければならない。

 授業を居眠りするわけにはいかないとなると、こうした合間の時間を有意義に使っての睡眠をとるしかないのだが、それさえも許してはくれなのが現実。

 死にかけの俺の前に笑顔を振り撒く箒。俺の目の錯覚なのか、笑顔でいるはずなのに額に怒りマークみたいなのが見えるんだが。そればかりか、明らかに表情と合っていないどす黒いオーラも肌で感じる。

 

「更識に聞いたぞ。発情期のケダモノのように盛っていたようだとな」

 

 朝の一件が悪い方向で伝達されているな。事実無根でもないわけではないんだが、結果の一部分だけを抽象して流されるのは俺としてはたまったもんじゃない。

 女子の視点からしたら、ケダモノと受け取られても仕方がないとは思うけど、やっぱりそこは部分的にではなく結果と情報は全て正確にしてもらいたい。

 これでは一方的に俺が悪いだけになってしまう。

 

「信じてくれよ、不可抗力だったんだ」

「そのわりには最高の朝だとか言って喜んでいたみたいじゃないか」

「全くもってその通りでございます」

 

 良くも悪くも俺は正直でいるつもりだ。人に信用されるには俺が嘘つきではないことを証明するしかない。朝の一件は迷惑なことだったが、ラッキーでもある。

 あれで何も感じなかったらソイツはホモであるとしか言えない。

 

「何でもかんでも素直になればいいわけではないのだが..........」

 

 目を細めジトーと注視され、たじろぐ俺がいる。

 

「なになに? 何の話~?」

「だーかーら! 毎回毎回抱きつくな!」

 

 相変わらずの神出鬼没スキルには、毎度ビックリさせられる。気配も音もなく背後からのダイビング抱きつきのせいで、箒の俺の見る目が一層険しくなる。

 だいたいの事故は巻き込み。ただ俺がいるだけで事故の方からやって来る気がする。この学園に来てからトラブル体質が着いてしまったのかもしれない。

 

「流石は絶倫のケダモノなだけはある。もう他の女か」

 

 ちょっ!? 女子が絶倫とか言ってはダメだろ。

 あと、何処でそんな言葉覚えてくるんだよ。俺の知ってる箒はそんな下品な言葉とは無縁だったはず。まさか、箒も影に隠れてそっちの知識を得ているのか?

 

「いま、失礼なこと考えていただろ」

「滅相もございません」

 

 恐ろしい読心術だ。身内以外でもこんな身近に読心術よ保有者がいるとは.....箒、恐ろしい子だ。

 

「もしかして、朝のこと?」

「待ってくれ、その情報は一体どこまで出回っているんだ?」

 

 早すぎる。情報が出回るにしては早すぎる。箒が知っているのは更識さん経由だとしても、更識さんとは未だ接点がない鈴までもが、その情報を耳にしているとなると知らないところで情報が行き交っていることになる。

 恐ろしすぎるぞJKネットワーク。これが今時の女子高生クオリティだとすれば、不用意な言動は慎まなければならない。

 

「一夏が夜這いして二人のか弱い女子生徒を毒牙にかけたって」

「何もかもが出鱈目になってる!? 」

 

 これは困ったぞ。たちの悪い伝言ゲームみたく、謝った情報で事実がねじ曲げられ、新しく捏造されて出来上がったものが学園内に回されているかもしれない。

 この際どこで情報がおかしくなったのかは触れないでおく代わりに、早いところその情報が間違っていると誤解を解かせてもらう。

 どうりで、クラスに来てから皆が俺の顔を見てはヒソヒソと耳打ちしているわけだ。これが原因だったんだな。合点いったのはいいけど、かなり浸透しているようだから誤解を解くには時間が掛かるぞ。

 

 一人納得する一夏を他所に、鈴と箒の二人は顔を会わせて錯乱した情報に惑わされていた。

 

「なんと! 一夏から迫っていったのか。更識がケダモノと表現していたのにこれで納得した」

「意外と大胆なんだよ一夏って」

「そこは納得しちゃだめだから!? 鈴も更なる誤解を招くようなことは言わないように!」

 

 箒は自分の意見を確立して、回りに流されないようにして欲しい。鈴は鈴でもう少し落ち着きと自粛を覚えて欲しいところだ。

 とは言いつつも、鈴がこうなってしまったのは俺の無頓着が招いたことだ。もっと事態を重く受け止めていれば取り返しがついたのかもしれないのに。

 過去に鈴はある一件でこうなってしまった。この学園ではまだ鈴が過去のようにらなってはいないだろう。

 仮に鈴が過去のような目に合っているのならば、俺は全力で当事者たちを相手にする。

 今のところ鈴の代わりを担っている存在はいるが、鈴のようにさせないためにも俺が自ら率先して対策にこうじる。

 

「それに負けないように私、一夏、箒の三人で再現しようよ」

「な、ななな何をいっているんだ!?」

「どうしてそうなる!!」

 

 あろうことか、鈴はこのメンバーで再現しようと提案してきやがった。それだと再現というよりも女子をただ入れ換えただけじゃないか。

 

「今日の夜にでも」

「「やめろぉぉぉ!」」

 

 鈴の目が星のように輝いている。やりかねない.....鈴なら今夜部屋に忍び込んできても不思議ではない。戸締まりの確認と二重ロックは徹底しなければ。

 朝に引き続き夜までもそんなことをしてしまえば、出鱈目の情報が出鱈目ではなくなってしまう。

 そもそも鈴が俺だけでなく、箒を交えるようにしたのは鈴が箒に『慣れた』からだな。自分にとって『敵意』のある『外敵』ではないと箒の存在に安心したからだろう。

 過去のトラウマから、今の鈴は初対面や馴染みのない人とは関わろうともせず、気を許そうともしない。誰でもそうであるが、鈴は明確な敵意をもって寄せ付けず危険と感じたならば容赦なく攻撃してくる。

 箒が俺と関わる中で本能的に敵ではないと判断してくれたからこそ、箒に対しても気軽に接することができるようになった。

 

「毎度のことながら、一夏さんの周りは賑やかですわね」

「セシリアも加わる?」

「遠慮しときますわ」

 

 然り気無くセシリアまで誘うとするあたり、鈴は俺と中のいい人達のことは皆安全だと理解してくれているみたいだな。

 皆害意など持ち合わせてない良識な人ばかりだ。

 

「楽しそうだよ?」

「楽しいかどうかは別として、余り一夏さんをからかわないようにしないと、一夏さんが困ってしまいますわよ?」

「一夏が困るのは良くないね」

 

 セシリアが一番まともでよかった.....自分のことなのに、誰かの手を借りなければ事態の収拾をつくことのできない不甲斐なさはのし掛かってくるが。

 感情的になって取り乱すのがほとんどなんだよな。セシリアのように常に余裕を保っていられるように精神面も鍛えなければ。

 セシリアは俺達の輪に加わっている時は、我を遠そうとはせずに一歩身を引いたように、上手く立ち回っている。だからどんなことも客観的に平常心を保っていられるのかもしれない。

 

「そうですわよ。一夏さんも男性としてのエチケットは最低限守らないと大変なのはご自分ですよ?」

「さっきより話が飛躍している気がする!?」

 

 真面目なセシリアのキャラが仇となったのか、数段階先のことを見据えている。

 いやいや、まだそうだと決めつけるのは早いな。俺の勘違いかもしれない。こんな学園にいては妄想と煩悩が爆発してしまうからな。

 

「.....確認するが、俺が考えているのとは違うよな?」

「女性の口からそんなことを言わせるおつもりですか?」

「..........アカン」

 

 言葉にして確認するのは恥ずかしく、勇気を振り絞って確認してみたが、返ってきた答えに頭を悩ませる。

 

「い、いいい一夏無理矢理はダメだぞ! ちゃんと順序を踏まえた上で.....」

 

 箒は既にショート済み。ほっといても問題はないだろう。

 

「ばっちこーい」

 

 鈴は論外。

 

「重婚しようとしている段階で世界的に見ても、道は険しいですが.....」

 

 これで素ならセシリアも相当危ない重症だ。悪意がなく、本人は真剣なのかもしれないが必ずしも、良いことであるとは限らない。

 

「誰か助けてくれよ..........」

 

 周りではまたヒソヒソと小話を始めているクラスメートがいるし、休み時間なのに全く休めず疲ればかりが溜まっていく。

 毎日が退屈しなくて充実感は大きいけど、その分のリスクが高すぎる。

 こうして今日もまた一日が過ぎ去っていくのか.....三年間こんな状態じゃ、今から先が思いやられるよ。

 心の中で毒づきながら俺は、希望と不安が一杯の先の時間のことを一人構想しながら今日を過ごしていった。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 んでまぁ……傭兵やるにあたって釘刺さされてから少し経った頃。

 結論から言おう……寝不足だ。

 普段から睡眠時間が3時間を切る私なんだが今回それどころではなく貫徹状態だ。なんで貫徹したのかといえば……織斑の特訓に加えて月光の傭兵用換装装備(パッケージ)の兵装面が行き詰まったのだ。織斑との特訓だけであれば貫徹まで行くことは無かったのだが……

 どういうように行き詰まったのかと言えば……圧倒的な攻撃力が足りないのだ。

 いくらISが発表当時に現行兵器を圧倒的に凌駕すると言ってもISは一定量以上存在するわけで、そうなるとISの兵器を通常兵器に積めばいいじゃないかと考える奴も出てくる。何が言いたいのかと言えば『たとえISを扱っていても安全ではない』と言う事だ。

 拠点防衛に限定すれば大型の拠点兵器をISの兵装に変えればいくらでもISに対処することは可能なのだ。IS最強説は崩れつつある……というか私の中では既に崩壊している。

 それこそアーマードコア for Answerのネクストとアームズフォートみたいなものだ。ネクストのように小型化した機動兵器を作れないなら大型化してしまえば良いじゃないか的な思考。世界はソレに変わりつつある。

 

「あら、ひどい顔ね」

 

 また授業をサボっている楯無が部屋に来た。

 

「……そうか?」

「目の下、凄い隈が出来てるわよ」

「………………」

「どうでもいいか……って言いたそうな顔ね」

「私が身嗜みをどうにかしたところで何か変わることがあるのか?」

 

 そもそも私は異性にも同性にもまともな興味は無い。

 故に愛だのを知ることもなければ同性愛すらもどうでもいい……あ、逆だな……まぁ良いか。

 

「……霞ちゃんが一夏くんの特訓をしてるのはてっきり気があるからなのかと思ってたのだけど……」

 

 楯無が驚いたような顔でそう言う。

 

「むしろ無いんだが……」

 

 何故私があんな理想主義で楽天主義な奴を好きにならねばならんのだ……と、言うか……

 

「私のことを好きになるような奴は私自身から見てもそいつは『特殊』と言える奴だろうな」

「……そこまで言うの?」

「私に『普通』なんて言葉が当てはまるような奴が似合うとでも?」

「……むしろ霞ちゃんの方から毛嫌いしそうね」

 

 わかってるじゃないか、楯無。流石はルームメイトをしているだけはある。

 

「で、何か用があって来たんだろ?」

「ええ、まあね……」

 

 随分歯切れの悪い返事だな……

 

「政府の馬鹿共連中に私のことを話したな?」

「……さすがに黙ってるわけにはいかないもの……出処の分からないISコアに関して何も言わなかったけど」

「……技術面か……残念ながらあれを世界に出すつもりはない。私は世界の争いを求めてるのではなくISの行き着く先を見たいだけだ」

「でもそうも言えないのよ」

 

 ……つまり、私の技術全てを公開しろ……ということか……

 

「……特記事項も代表候補生並びに代表もしくは各国政府と繋がりがある奴がいる状態ではマトモに効果を発揮しないからな……いっその事殺すか」

「ぶ、物騒ね……」

「私の技術で戦争されるのだけは避けたいのでね」

 

 ……現状私の開発した技術は他国に存在しないオーバーテクノロジーに近いものだからな……欲しがるのも頷ける。

 PICの拡張を行えるISC、ISCと組み合わせることで速度をどこまでもあげられるITS、レスポンスが良く抵抗の少ない電磁式アクチュエータ、ISそのものに構造的な余裕の生まれる量子遷移型エネルギーバイパス、炸薬量により切れ味を換えられる炸薬瞬間加速式大太刀、切ったもの全てを消し去る虚数刀……自国ですらも開発できないものを一人の小娘が開発した……そんな技術欲しいに決まっている。

 

「で、政府の老害どもはなんて?」

「倉持技研跡継ぎ倉持霞は所有する技術の全てを日本国政府に公開することを要求する。もしこれを拒否した場合倉持技研への予算を削減する……って言って来てるわ」

「……あんの老害共……自分たちでは何も出来ないくせにいっちょ前に手綱を握りやがって……」

 

 徐々に徐々に世界が歪んでいくのが分かる。どこまでも腐り、歪み、捻じ曲がってゆく……

 

「……どうするの?」

「いっその事日本なんて消えてしまえば私は後腐れなく傭兵稼業が出来る気がするんだが……どう思う?」

「自分の自由を通すために1億もの人間を路頭に迷わせるつもり?」

「冗談だ、本気になるなよ」

 

 とは言え、技術を公開した日には今度は日本が他国から糾弾されるのが目に見えてるんだが……もともと日本で開発されたものだから日本が真っ先に進むのは当たり前だが訳の解らん威権を振りかざす世界の警察名乗るアメリカがしゃしゃり出てくるのは必須……

 

米「その技術寄越せ。お前たちを守ってやってるんだからソレぐらいは当然だろう」

日「はい、分かりました」

 

 一瞬でこうなるのが分かる……

 んにしてもどうするかな……私は上手い隠れ蓑は持っていないんだよな……政府連中は私に直接の干渉を行うのではなく私の実家に干渉が行われるように仕掛けている……それで困るのは日本政府のはずだが何か裏があるのか……

 唐突に私の携帯の電話が鳴る。私はソレを取り電話にでる。

 

『モスモス終日~? 皆のアイドル束さんだよ~!』

「束博士……どうしたんですか?」

『いやぁ~カスミンが困ってるんじゃないかとビビッと来たんだよ~』

 

 ……この人随分勘がいいな……なんか怖いわ。

 

『あれでしょ、政府連中が戦争に利用するためだけにカスミンの技術を公開しろと迫ってるんでしょ?』

「ええ、まぁ……」

 

 楯無の方を見るが特に反応なし……要するに黙認するってところか。

 

『まったく……あの政府の無能連中も成長しないなぁ~……それとも成長しきっちゃって学習することを忘れたのかな?』

「……あの……?」

『じゃ、ちょっとO☆HA☆NA☆SHIしてくるから待っててね~』

 

 束博士の電話はそうして切れた。

 

「篠ノ之博士はなんて?」

「政府の無能連中にOHANASIしてくるって……」

「……霞ちゃん、キャラズレてるわよ」

「すまん、束博士のいうことが突飛すぎて飛びかけた」

 

 また電話が掛かってきたが今度は楯無だったようだ。

 

「はい……はい……はい………………分かりました、ではそのように……はい、では……」

 

 楯無は電話を切りこちらを向いた。

 

「政府の馬鹿共が全てを白紙に戻したわ。何もなかったようにするようにって」

「……束博士、一体何を言ったんだか……」

 

 まぁ、恐らく日本が軍用ISを開発するのをやめなければ日本に割り振られているコアを停止させるだのなんだのとでも言ったのだろう……やはり軍用的な転用が目的だったか……なんと浅ましい奴らかね……

 

「あ、それで……」

 

 楯無がUSBを渡してくる。

 

「日本の開発していた軍用ISの武器データ……要る?」

「……もらっておこう」

「そう、有効活用してね」

 

 そうして私は軍用機のデータを手に入れた……やはりISに積まれているものとはその量が違う……ISは搭載されているものだけだがこっちはデータベースのため10、20どころか100を超える数の軍用武器データが揃っていた。

 その中にはロマン武器とも言えるような武装もいくつかあったが……恐らく武器を開発したスタッフの中に重フロム脳患者でも居たのだろう……三つ折のOTH(超水平線 Over The Horizon)グレネードキャノン『老神』に六連大型チェーンソーブレードを両腕に装備する『ツイングラインドブレード』、マッハ30を超える弾丸打ち出す二一連多薬室砲『ヒュージキャノン』、砂漠が1つ溶鉱炉になるレベルの爆発を起こす大型ミサイル『ヒュージミサイル』、振るった後は地平線が見えるであろう大型のエネルギーブレード『ヒュージブレード』、高出力のパルスを水平方向360度にぶっ放す130門のパルスキャノン『マルチプルパルス』、周囲の建材から構築可能なブースター付けた大型の建材柱『マスブレード』……戦術兵装どころかもはや戦争丸々ひっくり返す戦略兵装が揃っていた……何考えているんだろうな、日本の開発者連中。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 全く困ったことになってきたわね。霞ちゃんの我が儘にはちょっと呆れちゃってるけど、正直なところ政府の対応にも呆れちゃってるのよね。

 国家の最重要機密でもある、日本製の軍用ISの武器のデータを引き出したけど、あんなものがあるなんて知らなかった。

 日本政府内でも『私達』のことは未だに全面的に容認はされていないだけではなく、活動の場も極端に低い。諸外国では当たり前のことが、日本では当たり前ではなく見向きもされていない度外視なのよね。諜報活動による情報収集になんて目もくれずに、各国の工作員や諜報員からなんてスパイ天国なんて呼ばれているのに危機感の一つも抱いていない。

 その癖技術面だけには貪欲になる。確かに霞ちゃんの技術は素晴らしくて欲しがるのは分かるけど、それだけに拘るのが理解できない。

 霞ちゃんに諜報活動を担って貰うと進言して返ってきた返事は『そこは任せる』の他人任せ。どこまで日和るつもりなのかは上の人達の勝手だけど、現場や裏でサポートする側のことも考慮してもらいたいわね。

 挙げ句の果てには、篠ノ之博士たった一人に手玉にとられちゃってるし、どうしようもない。一個人に国が左右されること事態が間違っているのよ。

 研究者ってのは自由気ままみたいなのね。篠ノ之博士一体何を考えているのかしらね?

 技術を手に入れても、情報が駄々漏れではアメリカ辺りに揺すられるのが関の山。アメリカに媚を売るのが狙いなのかもしれないけど、私達からすれば堪ったもんじゃない。

 

 心の中で独り言を呟いているところに、『業務用』のタブレットに外線で通信が繋がる。

 

「.....はい、私です」

《軍用のデータを引き抜いたのは君かね?》

 

 あちゃー、意外と早くバレちゃった。機密の中の機密を不正に取り出せる人物は大体決まってくる。私はその中には含まれないけど、取り出そうと思えば正規の手続きを取れば取り出せるのよね。目当てのモノの存在さえ知っていればだけど。

 霞ちゃんの実家の倉持技研が、軍用の開発に携わっていたお陰で霞ちゃんからその事を簡単に聞き出せた。

 どうやら傭兵活動で使う専用のISを用意していたみたいで、軍用のデータはそっちのISに使うとか.....無闇に月光? だったかの武器を使われるよりかはましだけど、日本のモノだと足が着いてしまうのは避けたいからそこも何とかしないといけないわね。

 完全に政府の意思とは関係なしの私の独断が、大半だけど全部私任せにする政府が悪いのよ。私は任されたことをやっているだけにすぎないから。

 危ない橋を渡り始めているのは今に始まったことじゃないから、心配ではないけど何時も以上に危険な香りがするのよね.....

 

「お見通しですか.....」

《無能な他の議員共と一緒にされては困るね》

「それで、どうなさるおつもりですか?」

《安心したまえ、君達をどうこうするつもりは一切ない。ただの確認と気にしなくて良いということを報せただけだよ》

 

 お咎め無しか、変に気を遣われるほうが返って懐疑心を煽られる。正規の手続きを取ったとはいえ、政府の機密データを無断で貸し与えているのだから処置の一つでも取らないのが不自然。

 開発元の企業の科学者だからだと言うのか、それでも開発元の企業は物を開発するだけ。運用から管理までは政府と自衛隊の役目。

 私達の存在を容認してくれて、擁護までしてもらっている間柄文句は控えたい。

 今回も見逃してくれると言うのなら、お言葉に甘えて勘繰りをせずに見逃して貰うのが賢い選択なのかもね。

 

「お気遣いありがとうございます。私としても、借用したデータを無駄にはしません。何かしらの情報と実戦データもお送りします」

 

 折角あるデータも戦地での実戦データは一切ない。開発段階での計算上(シミュレート)のデータや、小規模の細々と行った試験のデータしか存在しない。日本という国の性質上公の場であれだけの兵器をテストをする場所の規模がないのだ。

 既存の兵器の実弾訓練でさえ、制約が多いのに大量破壊兵器のテストなどやろうものならば、何処からか嗅ぎ付けたマスコミと各国工作員の目につく。

 特定秘密保護法がある手前、易々とは情報が漏洩することにはなってないはずだが、潜り込んだネズミは巧く掻い潜ってくる。

 可決されて数年が経つけど、管理体制が十分とはお世辞にも言えない各国に比べれば発展途上。前々から存在する『更識』も特定秘密の管理には一枚噛んでいるが、更識だけで全てを統制するのは不可能。おまけに更識以外の職員はその分野に疎いせいか、録な働きも期待できない。

 更識は、昔から裏で支えてきて現代になってようやく、日本が待ち望んだインテリジェンス機関として存在が認められることになるはずなのに、それが一向に実現しない。

 古くは大戦中に創設された『情報局』の職員により第二の情報局として一般的に認知されている情報局とは違い、更識の前身は歴史に名を残してない。大戦が終結し情報局が解体された後も人知れずひっそり生き残っていた。

 主な活動の場が国外であったため、GHQの目を盗むこともできた。職員が一ヶ所に固まらない散り散りになっていたのも大きかった。

 『更識家』として名乗るようになったのも、たまたま中心人物であった人物が『更識』という苗字だっただけで、歴代当主も初代当主との血縁はほとんどなく、家系が関係してくるのではないのだ。

 所属する者はみな更識家とされるだけでの繋がり。例外として私と簪ちゃんと本音と虚の家は生粋の更識と従者の布仏。

 初代当主と親交が深かった当時の布仏の関係の名残である。ご先祖様が始めたモノを子孫が引き継いでいるの。

 話が大分逸れてしまったけど、上の人が私の行動を見なかったことにしてくれるのは、霞ちゃんを利用して大量破壊兵器の実戦データーを得ようとしているからだろうね。

 国際社会からは非難の声が挙がるのは目に見えているけど、私達の役目はそれをさせないようにすることだ。霞ちゃんのことだから、現地で足がつかないように情報の秘匿はしてくれるだろうけど、日本にいる私も受け取った情報の管理は徹底しなければいけない。

 学園の何処かに『ネズミ』が潜んでいるかもしれないからね。

 

「..........差し支えなければ、政府が倉持 霞から手を引かざるおえなくなった原因をお聞かせ願えませんか?」

《情けない.....実に情けないことだよ。篠ノ之博士からの声紋には『日本のコアの凍結と敵対国家に、我が国のが保有する装備・規模・行動予定などの防衛機密ならびに、日本企業の株価を意図的に操作して暴落又は敵対的TOBで日本の全企業の上場廃止を同時にする』と啖呵を切られたよ》

 

 徹底しているわね。製造者本人ならコア凍結することぐらい造作もないこと。

 IS学園を抜いて数えると、日本にあるISは全部で20機。各地方の陸海空の基地にくまなく均等に配備されている。その全てが凍結されても日本の防衛力はそこまで痛手を負うことはないが、そう考えていない物達からしてみれば、卒倒ものね。

 私が注目したのはコアの凍結ではなく、博士による情報漏洩と国益を損ねかねない株操作。

 機密を敵対国家に流せばどうなるかなど、子供でもわかる。だからこそ工作員は躍起になって諜報活動をする。情報の影響力とどれだけ貴重であるかを理解しているからだ。

 そして株。TOB.....公開買い付けは第三者が会社の経営権等の利権を得るために、価格・期間・株数を公開するのがほとんどだ。例外として自己株式の購入がある。友好的な第三者ならば然程問題ではないのだが、敵対的な第三者では話が変わってくる。

 篠ノ之博士がグリーンメーラーなのか、焦土化経営を狙ったのかの意図は不明だが、どちらにせよ企業にとっては不利益であるのは言わずもがな。

 

「博士ならクラッキングもコアの凍結も容易いことですが、日本の全企業の株の同時買収など出来るものなのですか?」

 

 株の買収となれば、被買収の株主が納得する金額を提示しなければ手放してはくれない。大企業の株主となれば、余程のことがない限りそれは当然のこととなってくる。

 そこで避けては通れないのが、株主からの買収に際しての個人資産だ。複数企業同時買収となれば、桁違いな金額を用意しなければならない。一つや二つならまだしも、日本の全企業では個人では実質不可能。企業でも難しいこと。

 

《博士の資産は底無しだ。現に声紋が送られた直後に忠告なのか、本気であることを見せしめるためなのかある大手企業の株が大量に急激に買収され、一瞬だけだったが危うく上場廃止に追い込まれるところだった。》

「博士個人によるものだったのですか?」

《買収主は『パーフェクト・ラビット』というふざけた名前の会社だった。調べてみたらその会社の住所は某国の僻地で、会社そのものは実務など何もないペーパーカンパニー。博士が資産保有の為に用意したものなのだろう。そこの会社の資産は実に数千億を越えている。対応した取り締まり役員がいることから法律上必要な人材は取り揃えているようだ。》

 

 資産を保有するためのペーパーカンパニーは、一部の資産家達も保有している。一部の資産を保有するためだけの会社であるのに、一部の資産額が数千億。一部にしては莫大な金額ね。それだけあれば大抵は買収ができるわね。

 

《更に調査してみると、別の国の会社とも取引が行われていた。取引内容は不明だが、幾らかの資金が流れていた。それが確認できただけで複数国に複数社あった》

「では、博士は国外のペーパーカンパニーを使って資金繰りを?」

《恐らくな。博士のことだ、資産を現金だけではなく様々な形にプールしているだろう》

 

 その内の一つがペーパーカンパニー。総資産が幾らかにもよるけど、博士のことだからありとあらゆるものに手をつけているはず。驚くべきことは博士が『個人』で複数人を必要とする事項を一人で担っていることだ。

 ペーパーカンパニーの設立から会社運営に、株式にも詳しい。国外での設立となればその国の法律の知識がなければならない。協力者なしならば、現地のスタッフを雇うにしても、求人募集から採用までの手続きを一人でやっていることになる。

 大抵の研究者は自分の得意分野一つに特化型。他の分野の専門知識などは無駄になって邪魔になる。博士のように万能な研究者など滅多にいるものではない。

 母国である日本を平然と貶めることを平気で敢行することもまともではない。

 優れた人物で、日本の誇りでもあると同時に扱いが難しく間違えば此方が滅ぼしかねない諸刃の剣でもある。日本としては貴重な人材を有効活用したいけど、当の本人があんなのだと苦しいわね。

 あらゆる分野に秀でて、金策も申し分なし。是非とも日本の為に働いてもらい国益に尽くして貰いたいところだけど、自己利益に走っている人達ばかりだから困っているのよね。

 万が一博士が拘束されるような事態に陥っても、司法取引やIS関連で即座に釈放。現代の風潮なら博士にとっても何をしても根回しや揉み消しの効く都合のいい世の中だからね。

 

《何はともあれ、博士を本気で敵に回すと厄介だ。手懐けるとまではいかないが、我々と有益な関係を築けるようにはしたいところだ》

「博士は倉持 霞に何かと目をかけている点があります。先ずは倉持 霞の信用を勝ち取り、そこから繋がりを結ぶのが得策かと」

 

 いきなり本命といくわけにはいかない。物事には順序が大事で、焦ってもいい結果はでない。

 

《IS学園は君の管轄だ。いかなる手段をこうじても構わない。君の判断に任せる》

「既に接近は果たしているので、徐々に外堀を埋めつつあります。現状では強硬手段をとる必要も生まれていないので」

 

 霞ちゃんを利用することになるけど、しょうがないよね。それが私の役目であり、私がこの学園に所属する理由でもある。そこは割り切らないといけない。

 

《君のことだから無用な心配かもしれないが、余り入れ込み過ぎてはいかんぞ》

「.....心得ております」

 

 そうよ。余り霞ちゃんに肩を入れ過ぎて親密になっちゃうとお互いに辛い思いをするだけだしね。

 

《それではこの辺で失礼させてもらう。最後に倉持 霞が現地で活動するに際しての協力者を用意した。資料を送るから目を通しておくといい》

「お気遣い感謝します」

 

 私の言葉を最後に通話は途切れ、室内に静寂が訪れた。

 

「お疲れ様です『お嬢様』」

 

 タイミングを見計らっていたかの如く、IS学園生徒会会計係兼私の従者を務める『布仏 虚』がティーポットとマグカップを乗せたトレイを片手に、室内に入ってくる。

 トレイに乗せられているポットの中身は虚の得意な紅茶で、淹れたてであることから紅茶の香ばしい香りが私の心を癒してくれる。

 虚は霞ちゃんや一夏君が所属する一年一組の布仏 本音の実の姉。姉妹二人とも更識の従者である布仏の家の者で、本音は書記で簪ちゃんの従者。

 二人とも私と同様に、学園の生徒と更識の関係者の二面性を持ち、学園の外や裏の事情に関わる際には更識関係者の顔になる。本音は素があれだからそこまで変わらないけど。

 二人が生徒会に所属するのも、男性操縦者とクラスメートであるのも偶然ではないのだ。

 

「いやぁー、やっぱり虚の淹れた紅茶は最高ね。それと学園の中では『生徒会長』よ」

 

 虚の淹れた紅茶は世界一だと自負している。私はティーポットから注がれた紅茶を口にし、ほっと一息をつく。

 堅っ苦しい会話をしていたせいか、あの短時間で肩が凝った気がする。

 

「申し訳ありません。業務連絡をされていたので生徒会長よりもお嬢様である方が適していたと判断しました」

「私には勿体無い出来た従者ね」

 

 流石は虚。気遣いが半端じゃないわね。的確な判断と業務連絡が終了するタイミングを見越しての紅茶の用意といい、優秀であるのは誰が見ても間違いなし。

 

「今回は随分と長かったのですね」

「そうね。ちょっと大変なことが多かったから」

 

 紅茶だけでなくクッキーも用意してあり、クッキーを摘まみながら午後の授業まで羽を休めながら送られてきた資料に目を通す。

 

「ふぅーん、二人組の傭兵ねぇ.....」

 

 送られてきた資料には、二人組の男性の傭兵のことがしるされてあった。記されてあったとはいっても、名前と年齢と活動内容ぐらいしかないけどね。

 一人は『クロス・マリアン』で赤毛に右半分を隠す仮面をつけた人物と、もう一人が『アレン・ウォーカー』。白髪に左目に五茫星を模したタトゥーを入れた一夏君と同年齢の少年。

 親子の関係ではなく、奇妙な容貌をしている二人組の顔は直ぐに覚えれそうね。

 協力者というから、てっきり日本人を予想していたけどまさかこのために傭兵を雇っていたとはわね。この二人組もレイヴンズ・ネストに所属しているから都合が良かったのかしら?

 日本にも国外で活動する諜報員に近い存在はいる。それこそ自衛隊の特殊部隊や防衛省の職員や外務省の職員などがいる。

 日本人同士で接触をしすぎると、怪しまれる危険性があってそれを考慮して同じ傭兵を雇ったのだろう。

 

「リーグマッチの立食会って明後日だっけ?」

「はい」

「関係者なら外部から人も呼べるよね?」

「手続きさえ取れば可能です」

「なら二人分の招待状用意してちょうだい」

「畏まりました」

 

 事前に顔合わせぐらいはしといた方が良さそうね。霞ちゃんは事情を知らないけど、全くの初対面で協力されるよりかはましなはず。私が直に会ってみたいだけなのもあるけど。

 

「やれやれ、これからどんどん大変になってくるわね」

 

 次から次へと業務が山積みにされていく。更識だけでなく、学園の生徒会長としての業務にも追われているから心休めれる暇がないわね。

 

 更識家としての更識 楯無と只の生徒会長の更識 楯無の苦労と苦悩を分かち合えるのは従者と身内だけ。

 ひっそりとした訳ありの人物の一日はこうして過ぎ去っていくのだった。

 

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