彼女(メカニック)は空を舞う   作:地雷伍長

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第17話

「中々似合ってるじゃないか」

 

 普段の俺の格好と今の俺の格好を照らし合わせてみるべく、鏡の前に立つ。

 学校の制服でも私服でもなく、学生が着るにはまだ早い社会人の代名詞ともいえるスーツを着ている。就職活動でも成人式用の先撮りでもなく、今日の夜から行われるクラスリーグマッチの立食会用のスーツだ。

 

「こんな格好する必要あるのか?」

「何を言っているのだ。今日のような立派な立食会に学園の制服で行くやつがあるか。フォーマルな服装が普通なのだ」

「千冬姉もそんなこと言ってたな」

 

 この日の為に千冬姉と外に買い出しに行き選んで貰った物だ。色は薄い黒い色で生地はシルク。スーツを選ぶ際に値札を確認してみたが、どれも高くそこまで立派な奴でなくても結構な値段がした。

 俺が今着てるスーツも四万円の物で、そんな高級な物に身を包んでいる自分が信じられない。千冬姉には高くなくていいと言ったのに、「身嗜みは大事だ。他が立派な服装なのに一人だけ安っぽいみすぼらしい格好だと恥ずかしいぞ。これから成長していけば、スーツのサイズが合わなくなる心配でもしているのか? 大丈夫だ。この先今回のような機会が在校中にまだあるから、この一回だけではない。それに将来のことも考えてコネでも作っておけ」とのこと。

 買った物の合計金額は二桁はいっていた気がする。スーツだけで四万円で、他にも革靴やYシャツやネクタイにベルトにハンカチ。学園の物で代用がききそうな物を全て新調した。費用は千冬姉持ちたったけど俺の為に高い買い物をさせてしまったのだからお返しをしないとな。

 その前に今回の立食会を無事に乗り越えないとけいないけどな。

 今回もそうだが、この先もこんな格好をする機会があるのには緊張の色が隠せず、鏡の前の自分の顔がかなりひきつっている。慣れない格好はするものではない。

 

「ほら、ネクタイが緩いぞ」

 

 ぎゅーと緩んでいたネクタイを絞められる。まるで夫婦のやり取りみたいで恥ずかしかった俺は照れ臭そうに顔を逸らすが、それに箒がムッとなる。

 

「何を今更恥ずかしがっているのだ。折角の立食会でおどおどしていたらみっともないぞ。シャキッとするのだシャキッと」

「普通の学生にそんなこと求められても無茶だろ」

「人間の第一印象は見た目からだ。だらしのない姿では誰からも相手にされないぞ」

 

 相手にされなければどれだけ楽なことか。でも世界初の男性適合者だから今まで以上に囃し立てられるだろうな。

 聞けば立食会にはISの各方面のお偉いさん達も出席するとのことだ。尚更緊張しておどおどしてしまうに決まっている。昔からそんな世界に身を置いていた訳でもないのだから。

 お偉いさん達が来るとなると、食事のマナーや言葉遣いにも気を付けなければいけない。セシリアに色々と聞きに行ったが、一朝一夕にマスター出来るものでもなく簡単な作法ぐらいしか出来そうにない。

 アドバイスとして他にも変に気負ったりせずに、気楽に楽しめばいいとも言われたが、十代の若造の楽しみかたといったらバカ騒ぎぐらいなんだけどな。

 担任の山田先生や千冬姉やセシリアや箒やクラスメートの皆の面子もあってどうしても、気遣う方面に動いてしまいそうだ。それが正しいのかもしれないが、それだと俺が何も出来なくなりそうでもある。

 

「そろそろ時間だな行ってこい一夏」

 

 バンと背中押され、扉まで追いやられる。時計を見ると時刻は06:20を示していた。立食会の開始時刻は7時丁度。早めに会場に顔を出しておくのが礼儀だそうだ。

 

「やっほー、一夏。今から会場に行くんだよね? 一緒に行こうよ」

「お前鈴か!?」

 

 部屋を出たら、ばったり鈴とタイミング良く遭遇した。扉の前にいたことから俺を呼び出す直前だったようだ。

 鈴の格好も一目で普段と違うことがわかった。確りとドレスアップされた鈴上品に見えた。服装だけでなく顔もナチュラルメイクが施されており、別人のようにも思えた。

 

「ほら見ろ。鳳も立食会に相応しい格好をしているだろ」

「あ、あぁ」

 

 服装を変えメイクをするだけでこんなにも女性が変わるものだとは知らなかった。ついこないだまで中学生で垢の抜けてない子供だったのに、目の前にいるのは一人の立派な女性だ。

 鈴は綺麗ではなく可愛いの分類だったのだが、今日は可愛さの中に綺麗も紛れ込んでいる。口下手で上手く説明できないけど、取り敢えず物凄く可愛くて綺麗なんだ。

 箒や千冬姉の言った通りだ。鈴でさえドレスアップしてきているのに、俺一人だけ学園の制服では場違いで浮いてしまうところだった。

 

「見とれてくれているのは嬉しいけど、今日はいつものスキンシップが出来ないから残念だったね一夏」

 

 正式な立食会なだけあって、流石の鈴も弁えているようだ。正直なところ今の鈴に普段のスキンシップを取られたら俺は終始理性とフルコンバットをしなければならないところだった。

 

「鳳、無節操な一夏を可能な限り確りと見てやってくれ」

「任せて~」

 

 無節操とは失礼な.....と言いたいところだが、鈴みたく学園の生徒が全員ドレスアップされていたら目のやり場に困るのが事実。ドレスは露出が多い部分もあるからな。ISスーツとはまた違った露出は色気がある。

 

「じゃあ行こっか一夏」

 

 手を握られ歩き出す鈴。会場までエスコートしてくれているみたいだが、本来ならエスコートする側は俺で立場が逆なはずなのだが、鈴は手慣れているらしく不本意だが何も知識がない俺はこのまま鈴にエスコートして貰った。

 

・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 

「どうぞグラスです」

「ありがとうございます」

 

 会場に着くと既にちらほらと何名かの出席者が集まっていた。ウエイトレスの女性からグラスと皿を一枚受け取り、空いている丸テーブルで始まりまで待機する。

 セシリアから聞いた作法だとグラスと皿は左手で一緒に持って、料理は右から順に取っていって冷たいものと暖かい物は一緒にしないだったな。

 

「オリム~だぁ~」

 

 セシリアから聞いた簡単な作法を思い出していると、甘くのほほんとした聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。

 

「のほほんさん?」

「今晩はオリムーにリンリン」

「やっほー本音」

 

 やっぱりのほほんさんだった。しかし、のほほんさんも普段とは格好が違った。学園の制服でも電気ネズミと怪獣を合わせたような着ぐるみの洋服でもなく、会場にいるウエイトレスさんと同じメイド服みたいなのを着ていた。相変わらず袖口はだぼだぼだけど。

 よく見渡してみると、学園の先生達も係りとして会場で雑務をこなしている。

 

「のほほんさんそんな格好してどうしたんだ?」

「生徒会のメンバーとして立食会の役員をしてるの~」

「生徒会!? のほほんさんが!?」

 

 失礼かもしれないけど、のほほんさんが生徒会で働いていることを知らなかったし、想像できない。

 何を考えているのか全くわからないのほほんとした性格や態度に、常に眠そうな半開きの目にお菓子しか食べていないのほほんさんに生徒会の雑務の忙しさにやっていけるのか?

 

「ぶー、失礼なこと考えてたでしょ。これでも立派に書記なんだからね」

「おぉー、本音凄い」

 

 ぷくーと頬を膨らませムスッとするのほほんさんと、のほほんさんを褒め称える鈴。まるでのほほんさんを二人同時に相手にしてるみたいだ。

 

「本音、見え透いた嘘は止めなさい」

 

 会場で俺と鈴にグラスと皿を渡してくれたウエイトレスの人が近付いてきた。

 ヘアバンドと眼鏡を掛けた三つ編みの女性だけど二人は知り合いなのか?

 

「嘘じゃないのにヒドイよお姉ちゃん」

「まさかのお姉さん!」

 

 予想の斜め上をいく関係だった。良く良く見てみると雰囲気や髪型こそ違うが、のほほんさんとは顔立ちが似ている部分がある。のほほんさんが目をちゃんと開けていたらお姉さんと同じだろうに。

 のほほんさんのお姉さんもウエイトレス姿であることから、生徒会のメンバーだとは思われるけど姉妹揃って生徒会とは珍しいな。

 のほほんさんとお姉さんを比べながら観察しているとお姉さんが自己紹介をしてきた。

 

「初めまして。この子の姉の布仏 虚です。いつも妹がお世話になってます」

「えっと、織斑 一夏ですお世話になっているなんてとんでもない。こっちがお世話になってるぐらいですよ」

 

 実際に手助けしてもらっていることとかもあるし、俺なんかがお世話してるなんてお世辞でも烏滸がましい。

 

「本音から常々話は聞かせてもらっています」

 

 のほほんさんお姉さんに何か変なこと吹き込んでいないよな? ハチャメチャな生活をありのまま全て話されていると偏見な目で見られかねないから心配だ。のほほんさんに限ってそんなことはないとは思いたいけど。

 

「因みにどんなことを聞いているのですか?」

「内緒です」

 

 乙女チックにウインクされて流されてしまった。お堅い雰囲気なのにお茶目な返事をされたら聞くに聞けなくなった。

 ここで無理して聞き出すのは野暮なことで、空気が読めていないことになる。男なら軽く受け流す気前ぐらいないとな。

 

「始まりましたね」

 

 会場内の証明が一気に落とされ、暗闇に染まった会場の一点を照らすスポットライトの光。

 光は壇上の上に立つ一人のドレス姿の青髪の女性を照らしていた。誰かにそっくりで見覚えのある青髪の女性に既視感を覚える。

 

「本日はご足労のもと、IS学園立食会にご出席戴きまして御礼の言葉を申し上げます。こうして今回も立食会を開くことができますのは一重に皆様の日頃からのIS学園のご支援とご理解の賜物であります」

 

 壇上にセットされたマイクからは、感謝の言葉が並べられる。立食会の挨拶なのだろう。

 

「細やかではありますが、各国のお食事を取り揃えてあります。社交ダンスのお時間までどうぞご堪能下さい。高い位置から失礼ではありましたが、IS学園全校生徒並びに教師を代表としまして、生徒会長更識 楯無の挨拶とさせていただきます」

 

 周囲から拍手の音が沸き上がり、壇上で生徒会長の更識 楯無さんが、ドレスの裾を掴んでちょこんとお辞儀をした。

 ちょっと待て。生徒会長? 更識? もしかしなくても簪さんのお姉さん? なんだこの学園の姉妹率の高さ。しかも生徒会長なのかよ。まさか簪さんも生徒会メンバーだなんて落ちじゃないよな。

 

「それではそろそろ失礼させてもらいます。今日は最後まで楽しんでいって下さい。本音行くわよ」

「待ってよお姉ちゃん~オリムーとリンリンともっとお話ししたいよ」

「仕事が優先」

 

 駄々をこねるのほほんさんの襟を引っ張り仕事に戻る二人。それと同時にスポットライトの光が消え、再び会場が闇に包まれる。

 直ぐに会場内の証明が一気に照らされ、立食会の始まりの合図と言わんばかりに、次々と出席者の人達が談笑と食事を始める。

 先程まで壇上で挨拶をしていた生徒会長の姿は、もう何処にもなく会場内にもそれらしき人物が見当たらない。生徒会長だけでなく、のほほんさんと虚さんの姿もいつの間にか消えている。

 

「不思議な人達だ」

 

 独特な雰囲気と謎に満ちた二人の人物のことが気になり出してきた。

 普通の生徒とは何処か何かが違うような気がする。千冬姉みたいではなく、もっと違う何かのようなんだ。

 

凰?音。在?里?,找了(凰鈴音。ここにいたか、探したぞ)

 

 中国語か? それらしき言語を喋る人物が鈴に近付いてきた。

 近付いてきた人物は何故かドレスではなくスーツ姿で、眼鏡を掛けた切れ目の女性だ。

 純粋に立食会を楽しみにきたようには見えず、仕事をしにきた女性のように思える。こんなところに来てまで一体何の仕事をしにきたのか。

 

??々管理官.....怎?了?(楊麗々管理官.....どうなさったのですか?)

定期??堵塞着(定期連絡が滞っている)

做,?不起.....(す、すいません.....)

 

 駄目だ、中国語は単語も全くわからないから二人の会話の内容が理解できない。

 同じ中国人同士でのプライベートでの会話なのは言葉がわからなくてもやり取りで理解はできる。やり取りの中で鈴がスーツ姿の女性に対して負い目を感じていて、気を落としている。

 理由や原因もわからず、中国人ではない俺には関係ないことかもしれないが、知り合いが気を落としているのだから何か力添えをしたい。

 

「あ、あの.....鈴が何かしたのですか?」

 

 日本語が通じないかもしれないが、意を決して俺はスーツ姿の女性に話かけてみた。

 

「済まない少年。これは我が国の話で君が出る幕はないのだ」

 

 どうやらこの女性は日本語が話せるらしく、流暢な日本語で返事を返された。

 日本人では? と聞きたくなるような流暢な日本語で顔立ちもアジア圏はそこまで互いに大差がないせいか、日本人に見えてしまう。

 

「ただ定期連絡が滞っているのを注意しているだけだ。凰鈴音に問題はない」

 

 定期連絡。代表候補生は定期的にそんなこともしないといけなかったのか。学園で勉学に従事しながら国との業務もこなさなければならないのは大変だな。

 国を代表する候補生なのだからそれが当然の義務なのかもしれない。女性の言う通り俺の出る幕ではなさそうだ。

 しかし何故中国語なんだ? 二人とも日本語が話せるのに態々中国語で話すなんて。何か聞かれたくない内容でも話すのか? .....これは考えすぎだな。陰謀論を掲げる変な奴と思われちまう。

 

「少年。済まないが凰鈴音を少し借りていく」

「ゴメンね一夏」

 

 結局一人になっちまったな。スーツ姿の女性山田先生と千冬姉を足したみたいな人だったな。バリバリのキャリアウーマン。千冬姉と愛称が良さそうだ。

 一人寂しく立食会の料理を更に盛り食べていく。日本食以外を食べれる機会は滅多にないから今のうちに食べれるだけ食べておきたいが、過剰に食べ過ぎていると冷ややかな目で見られそうだ。

 冷ややかな目といえば、なんかさっきから周りの視線が熱い気がする。誰かにずっと見られているような視線を後ろから常に感じる。振り返っても誰も俺の方を見ているわけでもなく、今度は前方を向いていた方から視線を感じる。

 各方面からのお偉いさん達が出席して、初の男性操縦者でもっと揉みくちゃにされるものばかりと思い込んでいたから変な被害妄想を抱えてしまっているのかもしれない。視線も俺の自意識過剰で本当は誰も見ていないのかも。

 談笑をしている人達が全員英語で会話をしているのが、更にそれを増進させている。世界の共通言語である英語での会話は上の人達からすれば、不思議でもない日常なのかもしれないが、中学英語を僅かにリスニングが出来る程度の英語力しかない俺には未知の世界。

 何を話しているのかがわからないから、裏で自分のことをはなしているのだろうと思い込む。

 ニュースなどで取り上げられていたから自惚れていたのか、それとも本心は揉みくちゃにされたい欲望でもあるのか。

 

Impoliteness and this talk, even later.(失礼、この話はまた後日にでも).....少しいいかな織斑一夏君」

「えっ? あっ、はい大丈夫ですけど」

 

 凄いがたいのいいゴツい叔父さんがなんか知らないけど話しかけてきた。アメリカのコマンドー部隊にでもいそうな体型していて、同じ日本人とは到底思えない。

 正面に立たれるとまた一段とでかく見える。身長190Cmぐらいゆうに越えていそうだ。どんな食生活してきたらこんな体型になるんだよ.....同性の俺からしてもでかすぎて逞しすぎて目標にしようとも思わないところにいる。

 顔も体型に似合う渋くい顔なんだが、むさ苦しさなどなく大人の男性のフェロモンを醸し出している。特に立派な髭なんかチャームポイントの一つだな。学生時代相当モテただろうなこの人。

 そんな見かけも年齢も俺なんかと比較にならない人が何のようなんだろう。別に鬱陶しいわけではなく、寧ろ話し相手がいなくて少し寂しかったなんて男の俺が言えない。

 

「君のことは娘から良く聞いているよ。あんな性格で自慢の娘なんだが、皆を困らせているのが傷だが」

 

 ん? 娘? 良く聞いている? はて? 目の前の叔父さんの娘さんと面識なんかあるか? この人が父親なら遺伝的に屈強そうな女性だと思うんだけど、生憎俺の知り合いにそんな人物はいない。見た目ではなく内面が屈強な知り合いや身内はいるけど。

 

「あのー、心当たりがないので名前を教えてもらえませんか?」

「霞だよ。倉持 霞。私は霞の父親の倉持 隆文。倉持技研の所長で君の白式の開発元の会社の人間だよ」

「はぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 本人の前でも失礼で、慎ましい会場のムードをぶち壊す見当違いの奇声に俺の周辺にいた出席者一同は一斉に俺の方を凝視してくる。

 はっ! となって気付いたときには色んな人達の視線が突き刺さっている後で、愚かで恥ずかしい行動をしたと申し訳なくなる。

 てか、この人倉持技研の技術者なのかよ。絶対に仕事間違えているだろ。工具持って生身で戦っている方が自然だ。

 

「はっはっはっ、驚くのも無理はない。私と娘は真逆だからな。母さん似でつくづくよかったよと感じているよ」

 

 大変失礼な反応をとったのに隆文さんは笑って流してくれた。器と心が大きいのだろう。些細なことは気にしない大胆な人なのかもしれない。

 

「すいませんでした。正直なところ信じられなくて驚いてしまったのですが、口に出すべきではありませんでした」

 

 常識知らずな発言だと思われても仕方がない奇声を挙げてしまったからな。

 

「うむ、やはり霞の言っていた通りの青年だな君は」

「.....霞さんはどんな風に俺のことを言っているのですか?」

 

 倉持からの評価。気にならないわけがない。本人からは鬱陶しく思われるようなことをしていたりしているから、俺の評価など低いかもしれないが評価の高低などはどうでもいい、重要なのは倉持が俺という人間のことを確りと見ていたことだ。

 

「真面目で健気で努力家で可能性に満ち溢れている好青年だよ」

 

 ベタ誉めじゃないか。気味が悪くなってきた.....いい評価を貰っているのは嬉しいが評価者が態度や言動と真逆なのを何て言ったけな? ツンデレだっけか? 倉持がツンデレ.....? 無いな。

 

「それ嘘ですね。お世辞でもそんなことは霞さんは言わないと思います」

 

 娘さんのことを悪く言いたくはないが、虚偽の評価の元で俺を評価されても困るし、隆文さんにも悪いからそこははっきりと伝えるべきだ。

 

「霞も随分と嫌われてしまっているな。はっはっはっ!」

 

 隆文さん。そこは笑うところではなく悲しむところだと思います。自分の娘が嫌われていて笑う父親はどうかと。嫌われているなんて事実を突き付けた張本人は俺で原因なんだけどな。

 

「物事をはっきりと言うその姿勢は私は好きだよ。言葉を着飾って取り繕うよりはよっぽど好感が持てる」

 

 なんで評価されているんだ俺は。そんなつもりで言ったわけじゃないのに。

 

「ところで一夏君は運命を信じているかね?」

 

 運命? ロマンチックなことには誰しも一度は憧れるが、一度だけでそこから先は現実を見てる。ロマンを求めるロマンチストなは話は別だが、俺はロマンは感じるが生粋のロマンチストではない。

 

「曖昧な答えですけど、微妙ですね。無いわけではないのですが必ずしもあるわけでもないので半々な物だと思っています」

「霞が君のクラスに転入してきたのはどうかね?」

 

 あれは倉持が技術者として白式の納入とタイミングが重なっただけで、偶然でもなんでもない必然的に仕組まれたことだから運命ではないはず。

 

「学園と倉持技研のほうで調整したことなので運命とは遠くかけ離れていると」

「霞は断ろうと思えば断れた。断らなかったのは霞自身が望んだ結果。確かに私達がそうなるべく仕組み君達は出会うべくして出会ったが、これも運命的ではないかね?」

 

 仕組まれたことだけで、仕組まれていなかったら俺達は出会わなかった。出会わなければ、倉持の虐め問題にも俺の特訓も存在しなかった。

 

「偶然だけではなく必然的な物も運命ということですか」

「そうなるべくしてそうなったのだから、これも運命。そうなるべくなったからこその出会い」

 

 哲学染みた話になってきたな。難しい議題で論争しても俺の頭がパンクするだけだから核心を突こう。

 

「その運命がどうしたのですか?」

「君.....霞の婿にならないかね?」

「はぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 本日二回目の奇声。いきなり何言い出すんだこの人は。初対面の人間に娘の婿にならないか? なんて常人だったら言わないぞ。

 

「嫌かね?」

「いやいやいや、俺達そんな色恋する間柄でもないし、俺と隆文さんは初対面で、霞さんともまだ出会って間もないし、第一俺は霞さんのことが好きではありません。だから嫌です」

「私は君を気に入り始めているのだ。聞けば霞のことを嫌いながらも気にかけてくれているではないか」

「一人のクラスメートとして接しているだけです」

「なぁーに、今は嫌いでも一緒に過ごしていけば気持ちも変わってくるよ」

 

 もう嫌だこの人。自分の相手ぐらい自分で決める。人から決められた相手なんて嫌だ。もし仮にそうなってもお互いにもっと知り得ていかなければならない問題だ。友達とは訳が違う。

 

「あ・な・た? 一夏君が困っているでしょ。いい加減にしなさい」

「痛い! 母さん痛い!」

 

 ミシミシと拳が脇腹にめり込んでいる.....隆文さんの背後から突然現れた美人な女性が隆文さんの脇腹に裏拳をぶちかました。

 隆文さんの奥さんだろうな。倉持似の物凄い美人で倉持を大人にした感じだ。

 

「ごめんなさいね一夏君。この人こんなのだか迷惑だったでしょ? 私は霞の母の倉持 静よ宜しくね」

「織斑 一夏です。困りはしましたけど、話していて楽しいので迷惑ではありませんでした。一人で寂しくしているよりもましでしたし」

「ふふふ、本当に霞の言ってる通りね。この後私達は色んな人達のところを回らないといけないからこの辺で失礼するわね。行きましょうあなた」

「待ってくれ一夏くんにこれを渡しておきたい」

 

 胸ポケットから出された一枚の白い紙をスッと俺に差し出す隆文さん。

 開いてみると隆文さんの連絡先が書き記してあった。倉持技研の住所と電話番号と隆文さん本人の番号。

 

「困ったことがあった私も頼るといい」

「私も力になるわよ。それとそろそろダンスも始まるから誰か相手を探しておいた方が良いわよ。霞も来ているから良かったら声を掛けてみたら?」

 

 ダンスって必ず参加しないといけないのか?ダンスなんて踊ったことないから極力参加したくないのだが、この先嫌でもそういったことをしなければいけなくなったときのことを考えると、嫌々で通す訳にもいかない。学園やIS関係者はこういったことが多いって聞いたからな。

 それより倉持も参加していたのか。ISの各方面の関係者だから倉持技研の人間として参加しているのか?

 

「あの子おめかしして口調も元に戻しているから会ったらビックリすると思うわよ」

 

 へ? あの口調が素ではないのかよ。倉持があの口調でも全然違和感がない。元ってことは女口調なのか? .....想像できねぇ。

 

「さっ、行きましょうあなた」

「また会おう一夏くん」

 

 手を振り去っていく静さんと隆文さん。

 さて、ダンスの相手はどうしたものか、鈴が空いていれば鈴でも誘うか。鈴が踊れるかどうかは知らないが、まず最初は顔見知りの方がいいだろうしな。鈴がダメだったら簪さんにしようかな? クラス代表なら立食会に参加していると思うし。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「ほんとにこんなの着なきゃダメか?」

「パーティーが嫌いなのは知っているがスマンな……これも仕事だ」

 

 父さんはそう言って私に黒いワンピースドレスを渡して話をしていた応接室から出て行った。

 

「……はぁ………………」

 

 私はそのワンピースドレスを持ちながら深い溜息を吐いた。

 

「あ、済まないが口調もどうにかしてくれると助かる」

 

 ……私は応接室のドアを少し開けて言ってきたその言葉にコクリと頷いた。

 そして事は一昨日の電話から始まる。

 

父「霞か? 明後日のクラス代表リーグマッチ前夜祭で関係者が立食会をするらしくてな。学園の生徒も結構参加するようだ」

自「それで?」

父「お前もそれに参加してくれないか? ほら、一夏くんがクラス代表リーグマッチに出場するだろう? 白式は倉持の製作だからお前も参加しなければならないんだ」

自「……分かった」

 

 私は渋々ながらソレに了承し参加することになったのだ。倉持という苗字など無ければ……と言ったところで対して変わらない。どのみち、学園生が参加するのであれば私も参加しなければならなかっただろうからな。

 

「はぁ……気が重い……」

 

 私自身、お洒落というものに興味が無い。もし私がただのIS整備士だったらタンクトップにつなぎ(作業服)姿で永遠と作業していたことだろう……もれなく頬には機械油がついてくるのが目に見えるしその方が自分的にも嬉しい。

 だから、こういったワンピースだのドレスだのと言ったものには憧れすら無く、化粧などしたこともない。別にパーティーだろうがなんだろうが学園の制服に白衣でも問題無いと思うのだが……

 私はそんなことを考えつつも応接室を出て一度寮に向かい自室に入ると月光の待機状態のネックレスと眼鏡(ようやく出来上がった空月機能拡張バージョンの待機形態)を制服と白衣を自分のベッドに脱ぎ捨て黒いワンピースドレスを着た。

 

「あら、似合うじゃない」

「居たのね、楯無……」

 

 私の普段とは違う口調に驚いたのか楯無が固まる。

 

「どうしたの? そんな『なんでこんな子があんな男口調だったの?』みたいな顔をして」

「だって普段とは全く逆じゃない!」

「悪かったわね、全く逆で」

「まさかそっちが素!?」

 

 楯無がまるで新事実でも発見したような声を上げる。

 これだから嫌なのだ……女の口調というのは……

 

「楯無にはそう見える? 私としてはこれが限界なのだけど……」

「え、まさか演技なの? それで……?」

「演技よ。でも楯無が演技と感じないなら私の中の知らない自分がこっちのほうが素かもね」

 

 この口調はあまり好きじゃないんだよな……男が寄ってくるから……

 ああ、もしかしたら男どもが寄ってくるから男口調に近いあれを続けた結果、あれが素だと感じたのかも知れないな……むしろこっちのほうが素なのか……?

 

「……なんだか答えが出たような顔ね」

「多分こっちが素でしょうね。私の父さんも流石に娘はしっかり見てるのね」

 

 ……戻れなくなる……なんて事はないよな……? 戻れなくなったら織斑(アレ)とどう接すればいいんだよ。この口調で普段のは無理だし……

 

「兎に角、行ってくるわ」

「そう、行ってらっしゃい♪」

 

 楯無はそう言って私のことを見送った。

 私はドアを閉めてパーティー会場に向かおうとしたが……そこに居たのは織斑千冬……

 

「霞か」

「こんにちは……いえ、こんばんわかしら」

「……………………」

 

 織斑千冬が固まる……私は何か変なことは言ったか?

 

「……ああ、こんばんわだな。そんな格好をしているということは立食会に参加するのか」

「ええ、渋々ながらですが」

「お前はそういうのには参加しないものかと思っていたが……」

 

 少し顔を引き攣らせながらそう言う織斑千冬。

 

「父さんの言葉がなければ行くつもりなんて無かったわ。嫌なのばかりですから」

「嫌なの……とは?」

「私に近寄ってくる男ども……といえば分かるでしょう?」

「お前の普段の口調で言われればさぞ納得できただろうがその口調だとどうしても苛つくな」

 

 ……なるほど、つまるところこういうのがあったから私は普段の口調になったわけだ。要らん不評というかそういうものを買うから口調を変えた……なんとなーく理解できないわけではないな……

 

「嫌味じゃないのは理解してるのよね?」

「その口調で敬語が無いのも苛つくぞ」

 

 ……この口調、嫌だ……外見がかなり良い分何と言えばいいのだろう……リア充の「自分ってモテないよね」的な発言を聞くような感覚に近いのかもしれない。

 そもそも普段の口調での話し方を今の口調でやるとどうしても差が出るのだろうな……普段の口調は威圧感があるのだろうが今の口調は普通の女性(そもそも普通とは何なのかと問いたい)の感覚のため物腰柔らか(?)で上のものを敬う気配がないのは普通でない(?)のだろう。

 そもそも女性での接し方を忘れた自分は一体どうすればいいのだろうか?

 

「……すみません」

「いや、責めたつもりでは……」

 

 なんだろう……この違和感……なんか違うような……

 

「……これにて失礼するわ」

「楽しんでくると良い」

「そうするわ」

 

 私は立食会会場に向かった。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「……随分来てるわね」

 

 その立食会会場となっている体育館入口で飲み物を受け取って周りを見回してみたが人だらけ……もともと学園の体育館が1万人規模で収容できるような異常な大きさのためそこまでぎゅうぎゅう詰めというわけではないのだが……ちょうどその時に壇上から楯無が降りていくのが見えた。今開式の言葉的なものを生徒会長として言っていたのだろう。

 そしてやはりと言うか、関係者というだけあって男もそれなりの数がいる。多分100人は超えているだろう……男としては年齢を考慮しなければの話だが選り取り見取り、学園の女子は結構なレベルのが多いから。

 というか、なんかワルツが流れ出していると思ったらただの立食会じゃなくてダンスパーティーもか……はぁ、やな予感……

 

「お嬢さん」

 

 ほら来た。これだからパーティーは嫌いなんだよ……

 

「何かしら?」

「一曲お相手願えますか?」

 

 そう言ってきたのは青年……この歳でここに居るって事は何かの関係者か……それにしても白い髪に左目の五芒星……身成自体は良いんだが……なんだこのハリボテ感……

 

「そうじゃないバカ弟子。言葉だけではなく手を差し出しながら言うのを忘れるな。こういうとき男はリードする側だ」

 

 そう言って間に入ってきたのは左目だけに眼鏡を掛けて顔の右側に仮面を付けた赤髪の壮年の男。左手にはワイングラスが握られている。なんだろう……何か珍しいものを感じるな……

 

「すいません師匠……」

「まぁ、良い……おっと、間に入って失礼した。バカ弟子、失礼の無いように……倉持の嬢さんだからな」

 

 赤髪のおじさまはそう言って私に小さく礼をして人混みの中に紛れていった。身のこなしが慣れてるな……パーティーの常連っぽいが……

 私は眉を顰める……あの赤髪、私が名乗ってもいないのになんで私のことを知ってる……

 

「あの……」

「あ、すみません。すこし考え事を……」

「あ、師匠のことですか? すみません、無礼な人で」

「いえ、それより話の続きは踊りながらでもよろしいでしょうか?」

 

 そこでちょうど曲が切れて次の曲に切り替わるところだった。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 ダンスパーティーはこれが初めてと言うわけではない。父さんや母さんの付き添いでそこそこの数は通ったしその中でダンスの仕方も覚えた。

 慣れればそこまで難しいものではないのだからすぐに覚えた。後は楽しんだだけ……だったような気がした。ここ1年ぐらいはパーティーそのものから離れていたためそこらへんはよく覚えていないのだが……

 

「僕はアレン・ウォーカーと言います。貴女は?」

「知っているのに聞くのですか?」

「女性に名を聞くのいけないことですか?」

 

 紳士だな。しかも朗らかな笑顔を崩さない……

 

「倉持霞よ。ウォーカーさん」

「アレンで良いですよ。倉持さん」

「なら、私も霞で良いわ」

 

 ……この口調になるとどうしても自分のガードが甘くなる気がする……私の気のせいだろうか……?

 

「貴方が師匠と呼んでいた人は?」

「あの人はクロス・マリアンと言います。僕の……同伴者ですかね」

「そう、なら後で踊るとしましょう」

 

 会話をしながらもダンスを続ける。

 しっかしアレンも身のこなしが上手い……一体何処で学ぶんだこんなこと……

 

「い、今師匠と踊ると言いましたか!?」

「貴方の同伴者である彼と踊るのは別に普通でしょう? それとも、なにか不都合でも?」

「……そうですね。いえ、何も問題はないんですが……」

 

 そこで一曲が終わる……互いに礼をして別れる。

 ……アレンの左腕の……いや、左手の感触、あれは生身の腕じゃないな……なんだ? あの腕……今の技術なら触る程度なら生身と対して変わらない感触を再現出来たはずだが……

 

「お嬢さん、一曲お相手願えますかな?」

 

 低い声、後ろから聞こえたその声の主はアレンが師匠と呼ぶクロス・マリアンだった。

 差し出された手を取りながら私は答えた。

 

「ええ、喜んで」

 

 踊る私とクロス・マリアン。コイツほんとに慣れてるな……

 

「バカ弟子から説明は受けましたかな?」

「名前だけは」

「まぁ、名前は好きな様になんでくれて構いません。霞嬢とお呼びしても?」

「構いませんわ」

 

 随分手馴れてるな……結構な女性に手を出してきてるんだろうな……

 

「貴方方は一体何者なのでしょう?」

「そこまで気づきますか……でもまぁ、その内会えますよ。その時にお教えしましょう」

「ここで話すつもりはないと?」

「ええ」

 

 何だ……コイツ……事を構えているわけでもないのに……

 しばらく無言のまま踊る私とマリアン……そして曲が終わり礼をして別れる瞬間、ギリギリ聞こえる声で発せられたであろう声がハイパーセンサーが捉える。

 

「また何処かで……紅月」

 

 ……その名前を知っているということはIS傭兵関連か……なんで活動もしていないのに名前(ウラ)とこっち(オモテ)が割れた……?

 ……考えても仕方が無い。どのみちどこかの戦場で会うことになるのだろうことはほぼ確定だしな。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「参ったなぁ、相手が見つからないぞ」

 

 弱った実に弱った状況だ。ダンスの時間になったのだが相手が見つからずに寂しく一人端っこで黄昏る羽目になった。

 溜め息しかでない。鈴を見つけて誘ってみたのは良かったが既に先客がいたらしく、残念ながら断られてしまった。

 企業や軍属関係で男性の出席者も多く、いや寧ろ男性の方が圧倒的に多いかもしれない。女尊男碑の煽りを受けているからといって男性の基盤がそう簡単に揺るぐものでもなく、幹部や役員は男性が務めているのが現状。経験や歴史に勝るものはないという証拠だ。

 これによって、女性は相手に不自由がないわけだが男の俺の立場が全くといっていいほどない。年上の女性も立派なパーティーでは右も左もわからない素人を相手にして恥をかくぐらいなら経験豊富な大人の男性を相手にしたくなるわけだ。

 気を取り直して相手を探していたら簪さんを見付けたのだか簪も相手が決まっていたらしく競争率が非常に高い。

 こういうところが女尊男碑関係無しに女性が優遇されているとつくづく感じる。男は若い女性が好きなのは世の常。

 鈴にも簪さんにも言われたのが、『折角だから誰か知らない人と踊ってみたら?』だそうた。

 人見知りってわけじゃないが、会話するのなら兎も角ダンスに誘うとなるとハードルが高すぎる。俺がダンスが上手かったりパーティーとかにも何回も出席しているのならここまでうじうじすることもなかった。

 

「勇気を振り絞っての一歩が踏み出せない」

 

 先のことを踏まえここで怖じ気づくわけにもいかないが、如何せん実行に移せない。頭ではわかっていても体が動かないの典型的なパターン。

 世間一般でいう肉食男子なら玉砕覚悟で突っ込むのかもしれいが、俺は肉食系でもなく女性関係には興味があっても年相応の羞恥上奥手になる年頃の普通の男子だ。所謂ヘタレ。

 

「悩んでいる内に一曲目が終わった」

 

 一曲目の演奏が終了し、二曲目に入る前に相手を変える僅かな時間が設けられている。この隙に声を掛けたいところだが、一曲目を傍観していた俺が二曲目からあの輪の中に突入することがてぎるだろうか。

 つまりは、行動しなければしないほどハードルはうなぎ登りに上がっていき結果的には何も出来ずに終わってしまう。行動あるのみ。与えられたチャンスを生かせなかったり失敗してしまうのは、心の何処かで後ろめたい気持ちがあるからだ。

 かといって直ぐに気持ちが入れ替わるかといったらそうではない。何事もタイミングが大切だ。都合のいい言葉を探して逃げているだけかもしれないが、相手を絞り込んでいるだけだ。手当たり次第にぶつかっても空回りしそうだからな。

 一番は3組のクラス代表を見付けれれば良いのだが、3組の生徒とは面識がないから誰がクラス代表なのかも知らない。一曲目のダンスにはおぼわしき子は見当たらなかったから参加していないのかもしれない。

 最悪倉持を誘うしかない。一曲目を踊っている集団の中に倉持がいた。白髪の俺と同年代の奴と踊っていた。静さんの言う通りドレスアップした倉持が一番映えていた気がする。

 ぼぉーと眺めているなかで目の前に倉持が来たときは息を飲んだ。社長令嬢なだけあるのかダンスも上手く手慣れていた。何よりも生き生きと燦々としていた。社交辞令だったかもしれないが、それでも何時しか見た笑顔のように輝いていた。

 それに特訓に付き合ってくれた時のお礼も何も言っていなかったから、ダンス中にお礼でも言おう。面と向かって言うのは恥ずかしいからな。まぁ、誘えればの話。

 

「よし行くか」

 

 断られるかもしれないが、誘えそうなのは倉持 ぐらいなのも事実。倉持がダメだったらダンスは諦めよう。

 足を踏み出した直後に俺の右手が誰かに掴まれた。

 

「織斑一夏君だよね? 相手がいないなら私と踊らない?」

 

 俺の右手を掴んでいたのは、艶のある黒髪のロングで左目の下にある泣き黶が印象的な穏やかそうで可愛い女の子だった。

 女の子はダンスの相手として俺を誘ってくれている。女の子も俺の後ろから現れたと言うことは一曲目はダンスには参加していなかったということだ。

 誘おうとしていた倉持の方を向き直すと、白髪の男子と入れ替わりで赤髪の三十代ぐらいの男性とパートナーが成立していた。

 妥協ではないが、倉持に相手が決まった段階で俺は相手を失っているのだから、このまま何もしないよりは折角の誘いを無下にするわけにもいかない。

 

「相手がいなくて困っていたから此方からもお願いするよ」

「私も見てるだけで良かったんだけど折角だから一曲ぐらい踊ろうかなと思っていたのよね」

 

 女の子に引っ張られながら俺達はダンスの集団の中に加わった。女の子に手を握られるのは鈴で馴れているはずだったのに、知らない女の子の手は知っている子よりも新鮮で、ひんやりと冷たく相手の体温が手から伝わってくる。緊張しすぎて手汗をかかないか心配だ。

 

「緊張してるの?」

「知らない女の子といきなり手を握ればそりゃあな」

 

 下心があるわけではないが、ダンスを踊る上で手は握らなければならないときもある。その時に少し意識してしまうだけだ。

 

「私も同年代の男の子と手を握り合うのは初めてだよ」

「そ、そうか」

 

 なんか初々しい甘酸っぱい空気になっているせいか、余計に意識してしまう。特に俺の方が背が高いから目線を合わせようと相手の顔を見ると、自然と胸元にも視線が行ってしまう。

 制服と違い胸元も露出しているから、嫌でも目に入ってしまう。あまりジロジロ見ていると変態扱いされてしまうだけでなく、刺激も強いから目線を合わせられない。

 

「あはは、胸元が見えて恥ずかしいんだ」

「恥ずかしくない奴なんかいないだろ」

 

 顔を横に背けながら女の子にそう答える。相手は知古の中ではなく全くの初対面。知古の中だと平気なわけでもないが、多少の免疫はあるが初対面の相手だとそうはいかない。

 

「そんなんじゃダンスが始まったときに苦労するよ?」

「.....俺初心者なんだけど大丈夫なのか?」

「私は踊れるからリードしてあげるよ」

 

 心臓がバクバクと気持ちが高まっているから、リードしてあげるなんて言われた暁には顔が更に紅潮してしまう。

 

「名前はなんて言うんだ?」

 

 必死に意識を保つために話題を変えて質問することにした。それにダンスを踊るのだから名前ぐらいは聞いておきたい。

 

「『風見 理恵』だよ。聞いたことあるでしょ」

「えっ?」

 

 風見.....理.....恵.....? 『霞を虐めの総元締めは風見 理恵っていう3組のクラス代表よ』脳裏に簪さんの言葉がフラッシュバックで思い出される。

 おいおい、なんつー数奇な日だ。これから対立するかもしれない集団の黒幕と鉢合わせどころかダンスの相手だと?

 高まっていた気持ちが下降していき、顔の紅潮も相手に対する恥ずかしさも失せ、風見の笑顔が邪悪な笑みに見えてきた。

 何のつもりなのか? 向こうは俺のことを知ってて自分から近付いてきた。俺達が自分達と相反する存在だとは周知しているにもかかわらず近付いてきた理由がわからない。おめおめと黒幕本人が顔を出すことに何の利益もないはずなのに。

 

「そんな険しい顔しないでダンスを楽しみましょうよ。途中で離脱して嫌な思いをするのは自分よ?」

 

 ダンスの始まりを告げる曲の前奏が流れ始める。始まったからには途中で投げ出す訳にはいかない。俺達の関係など出席者の大多数には全く関係のないことで、俺の勝手な都合で純粋にダンスを楽しんでいる人達の気を削ぐわかにもいかない。癪だがダンスを踊るしかない。

 踊りながら俺と風見は俺達にしか聞こえない声量で言葉を交えていく。

 

「どうして近付いてきたんだ?」

「ただの挨拶のつもりよ。私の正体がわかった瞬間に態度を変えるなんて、あなた意外と人によって態度をコロコロ変える人だったんだ」

「相手が相手なだけだ。普段なら俺自身当たり障りなく接している」

「ふぅーん」

 

 曲に合わせながら俺達はステップを刻み体を触れ合う。俺の内心と一致しないが。

 

「私のことを何処まで聞いている?」

「虐めグループのリーダー」

「それ以上のこともないわけだけどね」

 

 険しい顔をしているとは自分でもわかっている。そんな俺の表情を見て楽しんでいるのか、風見は笑顔のまま言葉を続ける。

 

「私が霞を虐めている理由は聞かないんだ」

「どうせ下らない理由だろ。虐めをする連中は皆下らない理由で相手を虐める」

「そうとは限らないけどね」

「倉持がお前に何かしたのか?」

 

 虐めの9割は『気に入らない』だとかの利己的な理由による虐め。残りの1割で過去に自分が酷い目に合わされたとか相手にも理由があるケースがある。

 虐めを決して擁護するわけではない。相手に理由があって仕方がないことかもしれないが、俺は虐めを許さない。

 

「何もないよ。強いて言うなら私が楽しいからかな?」

「楽しいからだと?」

 

 人を痛みつけて快楽を得るなんて犯罪者の思考回路と同じだ。責めて倉持にも理由があって風見が虐めをする切っ掛けがあったのなら、和解の道も残されていたのかもしれないが、これでは救いようがない。

 

「救いようがないと思ったでしょ? 間違ってはいないわよ。私は自分が楽しければそれでいいから救われまいが救われようがどうでもいいのよ。私は自分の本質の『快楽』に従っているだけ。霞も自分の本質に素直だからそういったところでは似ているはずよ」

「例えそうであってもお前は許されないけどな」

 

 自分が楽しければそれでいい。自分の本質に素直に従っている。まんま快楽犯罪者の言い分だな。

 

「物事の本質さえ掴めれば後はどうでもいいものよ。勉強だってそうよ。下らない筆記試験なんてやる価値もない。そんなことしなくても私は社会で生きていく術は身に付けている。語学も問題なく英語以外だって話せる」

「下らないと勝手に自分で決めつけて疎かにする時点で間違ってるな」

「何が間違ってるのかしら? 言いなりになって周りと同調して同じことをするのが正しいのかしら?」

 

 風見の言葉に反論の言葉が見つからず口がこもる。直ぐに言葉が見つからなかったのは日常生活をそんな風に考えたことはなく、それに対する答えが導きだせないからだ。

 

「何だっていいけど、私が霞を虐める理由は理解できたでしょ?」

「止めるつもりはないんだな」

「私は霞を虐めるのに快楽を見出だしているの。これ以上なく上等のね。だから霞以外を虐めるつもりなんかさらさら無いわよ。その代わり」

 

 その代わりと、一旦言葉を区切り風見は数秒間溜めた後に続きを言った。

 

「霞を虐めていいのは私だけよ。誰にも渡さないし誰にも邪魔はさせない」

 

 風見理恵という一人の人間の歪んだ本性を垣間見た。酷く歪んだ本性と欲望はゆっくりと時間をかけて風見を蝕んでいき、今に至るのだろう。

 

「ダンスも終演ね。筋がいいわね。練習すればもっと上手くなるわよ。それなりに楽しめたわ」

 

 演奏が終了し風見は誉め言葉を残し、集団の輪の中から一足先に歩き去っていった。

 ダンスはまだ続くようだが三曲目を踊る気にはなれなず、拍手が巻き起こる会場を出ようと人々の間をすり抜けていく。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「ふぅ……」

 

 私は曲が終わって人の間をすり抜けながら小さく息を吐いた。

 今ので何人目だ? 多分、八人目辺りだろう……一体何曲やるつもりなんだ? パーティーの参加人数によっては10曲以上やることは多々あるが……今回だとどうだろうな……時間的に見てまだまだ先は長そうだ。

 ウェイトレスから飲み物を受け取り少し口に含む。微炭酸の飲み物が喉を通り、明らかに私に取り入ろうとする輩の演技の笑顔を流す。私がパーティーに参加しないのは心地の悪い顔を見ないためでもあるのだ。

 社交性のない私にとってああいったものは実に不愉快だ。

 壁際に寄り掛かり目を閉じる……マナーのなっていない行動だが、別に気にする必要はない。私自身、これを退屈だと感じているし、パーティー自体への参加も強制させられたものだし。

 

「If your daughter is doing leave, don't you play with us?《お嬢ちゃん、暇してるなら俺達と遊ばない?》」

「Is the fact in such wall tedious?《こんな壁際に居るってことは退屈なんだろ?》」

 

 全く、人の壁を利用してこういった欲に溺れた奴らが居るのも変わらないな……年齢は20少しぐらいの男たちが私を囲む。ここは社交場であって遊び場ではないことを理解していない馬鹿共が……

 

「結構よ。《Please don't worry about it.》十分に楽しんでるもの《Because I'm enjoying myself sufficiently.》」

「またまた冗談を《Again, a joke.》」

「見栄を張らないで楽しいことしようぜ?《Will show off you and do you a fun thing?》」

 

 下卑た笑みを浮かべながら近寄ってくる男共。

 あーあ……だから嫌だったのに……こういう場を弁えない奴らにはどうすれば良いんだっけな……アソコ潰せばいいんだっけ? いっそ切除したほうがこの先IS業界だと楽かもな……

 

「じゃ、楽しませて貰おうかしら?《Then, will you delight?》」

「お? 漸くその気になった?《Was it the intention gradually?》」

 

 囲んでいた男の一人が腰のベルトに手を掛ける。

 

「それじゃあ面倒でしょ?《Then is it troublesome?》私が外すわ《I'll take off.》」

 

 私はその男の前に膝をついて腰のベルトを外すと見せかけ……月光の右腕を部分展開してそいつの股間を握り潰した。

 グチャリ……という音が聞こえるのと同時に股間部分に紅い染みが広がる。

 

「GYAAAAAAAAAA!!!???」

「どうかしら?《How is it?》自分の欲を満たそうとして裏切られる感覚は?《The sense which is going to satisfy the desire, and is betrayed?》」

 

 股間を握りつぶされたその男はその部分に手を当て蹲った。

 他の男達が何かを言おうとした時、そいつは人の壁を掻き分けて来た。

 

「こんな場所で何してるんだよ!?」

 

 現れたのはこの会場で何度か姿を見たスーツ姿の織斑一夏。来るならもうちょっと早くても良かったな。もしくは来なくても良かったのだが……

 

「……って、え……?」

 

 織斑一夏は蹲っている男とその下に広がる紅い広がりと私の右腕の月光の紅く染まったのを順番に見てそう声を漏らす。

 

「倉持……お前何したんだよッ!?」

「私に不節操なことをしようとした輩にオシオキしただけよ?」

「オシオキって……」

 

 私は股間を指さした後に右手の月光の拳で握るジェスチャーをした。

 

「お前――」

 

 コイツと話すのに他のは邪魔だな。

 

「其処のみたいになりたくなかったら早くどこかへ行きなさい。《It looks like the one there, if it doesn't want to be, go somewhere early.》それともあなた達のも潰して欲しい?《Or do you also want you to crush yours?》」

 

 男たちはソレを聞くと首を横にブンブン振りながら股間を潰された奴を抱えて居なくなった。

 いつまでたってもああいうバカは居なくならないな……女尊男卑に染まってこれだからああいうのは絶対に居なくならないのだろう……どうしようもない世界だな。

 

「それで、何のようかしら? 織斑一夏くん」

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「それで、何のようかしら? 織斑一夏くん」

 

 普段の刺々しい口調とは逆の物腰柔らかい口調の倉持のその聞き方はその姿と言葉で人を魅了するだろうが……今はそんなものを感じている暇は無かった。

 何か叫び声が聞こたと思って人混みを割っていくと其処には股間に手を当て蹲った金髪の男と紅い広がり、そして拳部分が紅く染まった月光の右腕に部分展開した倉持の姿。色白の肌に銀髪、黒いワンピースドレスを着て灰色の拳が紅い灰色の月光の右腕……美しくも残酷な姿の倉持……そして他の男を手玉に取るような優しくも怖いような言葉(英語だったから意味は分からなかったが)……

 行動が普段と同じで口調が違うだけに何かギャップを感じる……

 

「アレの心配をする必要はないわ。この女尊男卑の世界で女に手を出そうとしてヤケドをしたとしても警察は私を捕まえには来ないし、コネを使おうにもそんな奴らを庇う必要もないもの。

 私にはなんの悪影響もないし、あっちは何をしようが悪影響しか無いのよ」

 

 口調は優しいのに内容はいつものように酷く刺々しい……ギャップなんてものは一瞬で無くなった。

 

「何も怖がらなくて良いのよ?」

 

 倉持は血だまりを月光の右腕の手の平から出た黒い何かで消して、月光の部分展開を解除しながら笑顔を向ける。

 柔らかな笑み……に感じるがどちらかと言えば妖艶に感じるのは何故だろうか?

 

「別に普段の私と変わらないでしょ? 口調が違うだけで、他は何も変わらないわ」

 

 そりゃそうだが……

 

「なんの用も無いなら一曲踊りましょう?」

 

 笑顔を浮かべながら手を出してくる倉持。俺はその手を取るべきなのになぜか手を取れなかった。

 

「怖いのね? 上手く踊れる自信がないから」

「理恵から適当に教えられたんでしょ?」

 

 なんで知ってるんだ?

 

「なんで知ってるんだって顔してるわね。別に大したことじゃないわ、踊っているのを見て、ソレ以降踊ってる姿を見てないだけの話だし」

「………………」

 

 見られてるのか……

 

「ここの会場のほとんどの人たちは織斑一夏くんの事を見てるわ。目線を感じないのはそれだけさり気なく見てるからよ」

 

 やっぱり見られてるのかよ! しかもどんだけ目線の運びが上手いんだここの人たち!!

 

「まぁ、男性が女性と話すときに目を見て胸の部分が入ってしまうしそれをバレないようにするために必至だもの、目線運びがうまくなるのも頷けるわ」

 

 男の心が見抜かれてる!? IS業界の女性怖っ!

 

「ほら、ダンスパーティーなのだし楽しみましょう? アレも忘れたいし」

「……はい」

 

 俺は倉持の手を取り、ホールへ向かった。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 織斑一夏のダンスは予想以上に上手かった。足運び、手の場所、周りを見ながらの動き……私がリードするつもりだったが逆に私がリードされていた。

 

「あの……倉持」

「何かしら?」

「えっと……俺のこと特訓してくれてありがとな」

 

 何か言い淀んでいると思ったらそんなことか……別に自分のためだし……とはコイツに言っていないからしょうがないか。

 

「どういたしまして」

 

 私は笑顔を浮かべ答えた。

 

「………………」

 

 突然に織斑が顔を赤くする。私は何かしたか? 特には何もしていないような気がするんだが……

 その後は終始織斑は無言で何も言わなかった。コイツ、結構饒舌だった気がするんだがなぁ……

 

 

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