彼女(メカニック)は空を舞う   作:地雷伍長

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第02話

 あ、ありのまま今俺が置かれている状況を説明しよう。360°右を向いても左を向いても、女子しかいない。

 女子。女子。女子。女子!

 この光景を第三者が、特に男子が見たら誰もが嫉妬と憧れの眼差しで見ることだろう。男なら誰もが、一度は夢見るハーレム。

 しかし、そんな男子達に敢えて問いたい…… 君達は男一人女子に囲まれた時の重圧に耐えられるのかと。結論から言えば、俺は無理だ。

 冷静に考えてみれば、特別何かに秀でていた訳でも女子からチヤホヤされていたわけでもない、只の中学生だった俺がこんな状況でなに不自由なく暮らせると思うかね?

 女子と接点が無かったわけではない。人並み程度の付き合いと言うものは当然あった。が、それもあくまでも人並みであって、今現在とは話が別である。

 

「……君。……君」

 

 況してや、ここは普通とはかなりかけ離れた学校。本来なら男子の俺は入学することは出来ない特別な学校。どうしてこうなっちまったのか、頭を抱えるしかないよな。

 

「織斑君聞こえてますか?」

「は、はい!何ですか!?」

 

 突然顔を近づけられて、名前を呼ばれたら誰もがビックリするはずだ。それが女性からならば尚更のことである。勢い良く立ち上がると、目の前には眼鏡を掛けたショートカットの女性が立っていた。

 

「自己紹介……織斑君の番ですよ?」

 

 どうやら、自己紹介の最中で俺で詰まっていたようだ。必死に現実逃避をしていたから全く気が付かなかった。

 

「自己紹介ですか……」

 

 自己紹介とはいっても、今の今まで別の事を考えていたから自己紹介の内容なんか考えていないな。どうしたもんか……

 それとは別に周囲からの視線が妙に鋭い気がする。

 入学後のクラスメートとの顔合わせで、自己紹介の内容次第では、今後の学生生活に支障をきたしてしまう。周りが女子ならば、余計に重要だ。

 自己紹介での大切な事は、如何に自分の事を簡潔かつ適切な表現で説明するかである。ならば……

 

「お、織斑一夏です。よ、よろしくお願いします」

「「「……………………」」」

 

 な、何だ?この静まり返りようは?何か変な事を言ったか俺?けどこのまま黙っていたら暗いやつだというレッテルを張られてしまう。他にも何か言わないと....

 

「……以上です」

 

 他に俺を紹介するのに何が必要だと言うんだ?これ以上なく、簡潔で適切な俺の紹介だと思うんだが?

 周囲を見回してみると、皆机に頭をぶつけている人や、椅子から滑り落ちる一歩手前の状態の人などがいた。

 

何かのコントか?

 

 すると突然、俺の頭部に重くて鋭い拳骨が振り落とされた。振り落とされた拳骨は、俺の頭蓋骨を粉砕しかねない威力を誇る一撃であり、余りの激痛に俺は拳骨を振り落とした人物を見つめる。

 

「まともに自己紹介すら出来ないのか?貴様は」

「げっ!セレンさん!」

「誰が3○歳だ!」

 

 再び振り落とされる拳骨。しかもさっきと寸分狂わずに同じ場所に落とされた。この拳骨を振り落とした人物こそ、俺の実の姉である織斑千冬だ。

 些細なことで、拳骨を食らわせるなんて酷い暴君だよ。最後の一発に関しては、千冬姉の自爆なのに……

 

「馬鹿者が……」

「冗談だよ、千冬姉」

「学校では織斑先生だ」

 

 拳骨を落とされた部分を、押さえながら静かに席に座る。席に付くと、また妙な視線を感じた。視線の方向を見ると、1人の生徒が此方をじっと睨んでいた。

 黒髪にポニーテールに凛としたあの顔は....箒か?懐かしいなぁ。小学校以来か?全然変わっていないんだなあいつ。

 箒も俺の視線に気付いたのか、そっぽを向いてしまった。

 ……あれが久し振りに再開した幼なじみにする態度かよ....別の反応を期待していた俺がバカみたいじゃないか。

 

「織斑先生、会議は終わったのですか?」

「あぁ、ようやく片付いたよ」

 

 それにしても……千冬姉が教師か……スーツ姿は似合っているけど、教師という役職は千冬ねぇには合ってなさそうだな。暴力的なところとか。

 

「よく聞け貴様ら。私が織斑千冬だ、一年間みっちりしごいてやるから覚悟しろ」

 

 うん、千冬姉は教師じゃなくて鬼教官だな。教育じゃなくて、しごきって言ってるし……

 

「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」

 

 うおっ!何だこれ!?女子の悲鳴ってこんなに耳に響くモノなのか!?これだと隣のクラスにも聞こえて、迷惑になるだろ。

 耳を塞ぎながら、横目で箒を見ると箒も煩わしそうに耳を塞いでいた。やっぱり同性でもこの声量は耐え難いんだな。

 

「私千冬様に会うために入学しました!」

「憧れの千冬様が目の前に!」

「千冬様の為なら私何でもします!」

 

 何処に行っても、千冬姉の人気は底知れずだな。俺ときたら、何時も千冬ねぇと 比べられてばかり……ダメだ、入学早々にネガティブになっては!

 

「全くどうして毎年毎年、バカどもばかり集まるのだ」

 

 まぁ、だけどクラスに知り合いがいたのはせめてのも救いだな。これが全員初対面だったらと想像するだけで、ストレスで体がもたなかったな。

 

「山田先生。山田先生も自己紹介を」

「は、はい!え、えーと。私がこのクラスの担任を勤めます山田摩耶ですよろしくお願いします」

 

 山田先生……自己紹介俺と変わらないじゃないか。なのに千冬ねぇは俺ばかり責めるのかよ!世の中理不尽だ!

 心の中で叫んでいると、SHR終了のチャイムが鳴った。

 

「それでは次の時間からISの基礎知識の授業を始めていきます」

 

 げっ!次の時間からもう授業に入るのかよ。今日1日ぐらいはオリエンテーションで日課が終わると思っていたのに、世の中そんなに甘くないんだな。

 

「ちょっといいか?」

 

 1人席でうなだれていると、聞き覚えのある声で呼び出された。声の持ち主は先程俺を睨んでいた、幼なじみの篠ノ乃箒だ。

 

「あぁ、いいぜ」

 

 特に断る理由もないく、それに箒とは久し振りに再会だから積もる話もあることだから 、素直に後を付いていった。

 どうやら屋上に向かっているみたいだ。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 そのころ、倉持技研の技術主任室では私、倉持 霞(かすみ)が唸っていた。

 

「うあー……威力下がんねぇー……」

 

 簪との模擬戦をしたあの日から炸薬瞬間加速式大太刀の威力を下げるべく何度も試行錯誤をしながらやっているのだが……どうしても絶対防御を切り裂いてしまうのだ。競技用でない空月でアレだったから競技用となるともう手がつけられない……かと言って大概のことはやり尽くした……あと残るは炸薬を極端に減らすか加速機構を減らすか、最悪の場合IS側に一定の速度以上を出さないように制限をするか……うん、一つ一つ試していこう。

 あの武器の長所を崩してしまうものなのでやりたくないのだがこのままでは世間に公表できるものではない……日本がISを軍用として使うのなら別にこのまま出しても問題はないのだ……そう、威力。巫山戯た程に馬鹿高い切れ味をどうにかしなければならない……

 

「あーあ……これさえ無ければ学園行ってたんだけどなぁ……」

 

 別に私は恋を求めてIS学園に行くのでもなければ千冬信者でもない……そもそも雪片は嫌いだし、織斑千冬という人間自体そこまで好きではない。なんだあの見下すかのような目は、特に気に入らん。

 ではなぜIS学園に行きたいのか……答えは簡単、あの学校の設備だ……特にIS整備改造系の設備は倉持以上にある。それに2年次からの科分け……人によっては2つの科を兼任しても良いんだそうだ。整備科とIS製作科、この2つはとても気になる……特にIS製作科は整備科である程度の技術を会得して3年次からという話だが学園に直接話を付けて私は速攻でIS製作科に入れることになった。1年次から授業受けずにそこに入り浸っていいという許可も得た……なのに……なのに……!

 

「……しょうが無い。やろうかな……」

 

 私は白衣を来て炸薬量の調整から入ることにした。

 

「あーあ……アイツさえ居なければ秘密にして過ごすんだけどね……」

「んー?それって誰?」

「テメェだ篝火ヒカルノ」

 

 篝火 ヒカルノ倉持技研第二研究所所長で随分とぶっ飛んだ思考回路をお持ちのトンだ変態技術者だ。

 こいつの何が危ないって危ないものだろうがお蔵入りされたものだろうが何でもかんでも売りに出すISに載っけることだ。物によっては競技に使用できない武器までISを調律(アイツは調教だと言うが私的にはエレガントじゃないから調律と呼ぶ。第一、ISは動物などの人の下に居るものではなくパートナーなのだからせめてそう言った扱いをしろと言いたい)して載せるから厄介なことこの上ない。

 

「年上には敬語!」

「アンタみたいなのに使う必要性はない。ちなみに織斑千冬も同じだ」

「世界最強にまで敬語は使わないって言ったの!?」

「だから言ったろうが、あんなのに敬語を使うこと自体無意味だ。何が世界最強だ、何がブリュンヒルデだ?ISの定義を測り違えたただの馬鹿だ」

 

 ISとは飛ぶためにあるのだ、世界最強を決めるためでもどこが強いかを決めるものではない。

 

「そこまで貶すんだ……自分も武器を作ってるくせに」

「生憎、空を自由に飛ぶための機械は揃ってしまってね。暇つぶしだ、作った武器を使って誰かをぶちのめそうとか、世界最強になるつもりもない」

「ほんとにそうかねぇ……」

「別に信じてもらわんで結構だ。邪魔するな」

 

 私はそう言って作業に没頭した。

 まぁ、アイツが部屋から出て行く時にこんな事を言ったやったが……

 

「白式だかっていう飛ぶんだか戦うんだかどっちつかずの主武器とやらは叩き斬りたいがな」

 

 部屋の外で壁を殴ったような音がしたが……まぁ、アイツが殴っただけだろう……気にすることもない。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「どうしたんだ?こんなところに呼び出して」

 

 学校の屋上ってのは予想以上に景色が良いんだな。校舎の屋上から見渡す学園内は、とても広大で自然にも恵まれていて見ていて飽きない風景だ。

 こうして見てみると、IS学園の敷地の広さを改めて実感する。下手したら迷い子になりかねない広さと施設の数だ。とても学校には見えない。その分金が掛かっているんだろうな……もしかしたらメガフロートにしてうんと金を掛けてやろうと政府の連中共が張り切って予算を出しすぎたのだろうか……どのみち自分には関係のないことだが。

 

「ひ、久し振りだな。覚えているか?私のこと」

 

 振り向き様に何を言い出すかと思えば、そんなことか。箒の顔をよく見てみると、教室にいる時のしかめっ面ではなく、弱々しい目で不安そうになりながら、若干目を反らし気味にこっちを向いている。

 それと気のせいか、頬を赤く染めている。

 

「忘れるわけないだろ。箒」

 

 箒と名前を呼ばれた瞬間、箒は目を大きく開き真っ直ぐ俺を見つめる。

 

「お、覚えていてくれたのか?」

 

 幼なじみの顔を忘れろという方が難しいだろ。それにこう見えて俺は、物覚えはいい方だと自覚しているし、篠ノ乃道場では良く箒とは剣道の稽古を一緒にやっていた。

 

「あぁ、ビックリしたよ。まさか箒もIS学園に入学していたなんて」

 

 箒は他の家庭とは事情が少し違うから、その関係での入学なのかもしれないが、その事は下手に触れない方が良さそうだから、そっとしておこう。

 

「ビックリしたのは私のほうだ。一夏がISを動かすなんて」

 

 俺が、IS学園に入学する羽目になったのは偶然であって、自分から希望した訳ではない。

 全ての元凶は、高校入試の為の試験会場を訪れた時だった。俺の希望していた高校と、IS学園の試験会場は偶然にも同じ会場だった。

 係員に場所を聞いても、場所を良く把握していなかったがために俺は、一人で探し始めてしまった。

 あの時勝手に動いていなければ、俺はここにいることはなかった。

 そして、とある一室にあるモノが置かれていた。それがISだった。

 興味本意から俺は、ISに近付きISに触れてしまった。ISは女しにか操縦出来ず、男には反応すらしない代物だった。なのに、俺が触れるとそのISは何故か反応し、駆け付けたIS学園の職員に見つかり世界初の男性でのIS適合者として、半ば強制的にIS学園に入れられちまった。

 

「不幸か幸運かは分からねぇけど、入っちまったからには卒業まで頑張るしかないな」

 

 卒業後の進路がどうなるかは、正直想像がつかないな。まぁ、先ずは学園に上手く馴染むことが先だな。卒業後の進路はそれからでも遅くはないし。

 

「そういえば、去年の女子剣道大会で優勝したんだってな。ちょっと遅いけどおめでとう」

「なっ!何でお前が知っているのだ!?」

「何で知っていると言われても、朝の朝刊のスポーツ新聞の一面に大々的に載っていたのを見ただけだ」

「一年も前のことだぞ!?」

 

 自分の知り合いが、活躍したら鮮明に記憶されるだろ。それに一年だけだったら、そんなに昔なわけでもないしな。

 

「なんだっていいだろ?」

 

 笑顔でそう答えると、箒は調子が悪くなったのか俯いてしまった。疑問に思い顔を覗き込もうとするが、箒は顔を背ける。

 

「調子が悪いなら保健室に行ってこいよ」

「そ、そうではない!」

 

 バッ!と顔を勢い良く上げる。どうやら調子が悪いわけではないようだ。そうとわかって安心する。てっきり入学初日での、緊張からくる異常だと思っちまった。

 

「なぁ、一夏?私は少しは女らしくなっているか?」

 

 何だ急に?女らしくなっているか?別に大した変化は見たところ一点しかないから、別に箒は様変わりはしていない。

 

「別に全然変わっていないぞ」

 

 敢えてその一点だけは伏せておいた。ストレートに言って、変な言い掛かりを付けられても困るからだ。

 

「なっ!何処も変わっていないと言うのか!」

 

 どうやら箒は俺の解答にご立腹のようだ。触れないように気を遣ったのは逆効果だったみたいだ。それならお言葉に甘えて、ストレートに言わせてもらうか。

 

「まぁ、待てよ。変わってはいないが、ある一点は成長しているぜ」

「一点?」

「箒、胸大きくなったな」

 

 瞬間に繰り出される、箒の鳩尾への鋭い右ストレート。言葉を聞いてから行動に移るまでの、間隔が極端に短かった。これも剣道での鍛練の成果なのか?

 

「こ、この変態が!何処を見ているのだ!何処を!」

 

 箒は両手で胸を被う。

 俺はというと、痛烈なダメージにより堪らずその場に倒れ伏し呻き声を上げる。

 何も言わなかったら言わなかったらで、不機嫌になり。告げたら告げたで、叩かれる。どっちに転んでもダメなようだ。全く、どう転んでも結局は不機嫌になるんじゃないか。

 そこへ、空気を読まない休み時間終了を告げるチャイムが鳴り響いた。どうせならモット早いタイミングで鳴ってほしいものだ。そうすれば痛い思いをせず済んだのかもしれないのに。

 

「授業が始まる。さっさと戻るぞ」

 

 俺を攻撃した張本人は足早に屋上を後にし、俺は一人屋上に取り残された。

 

「初日からこれじゃあ、先が思いやられるな」

 

 屋上に仰向けになり、空を仰ぐ。俺の呟きは、誰にも聞かれることもなく敷地内に吹く風の音にかき消され、虚しさだけが俺に残った。

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