彼女(メカニック)は空を舞う   作:地雷伍長

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第05話

「それでは、わたくしと決闘をなさるつもりなのですね?」

「四の五の言うよりは、お互いに簡単で納得のいく解決策だと思うぜ」

 

朝一から決闘など物騒極まりないが、お互いに一歩も引かずグダグダ言い合いをするぐらいなら、直接対決をして雌雄を決する方が早い。

何故このような事態になったかと語る前に、話を一度遡って今日を迎えた所から始めたいと思う。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「起きろ一夏。何時まで寝ているつもりだ?」

 

……もう朝か、早いな。まだ寝足りないというのに。……よし、もう5分ぐらい寝ていよう。5分ぐらいなら別に問題は無いはずだ。

 

「……後5分」

「えぇい!さっさと起きろ!」

 

 俺がうずくまっていた布団は、箒によって取り上げられてしまい肌寒さがまだ残るこの季節に、容赦なく放り出された。

 ……箒?

 

「って!お前は何をしているのだぁ!?」

「うわぁ!何で箒がいるんだ!?」

 

 男の朝といものは大変なモノだ。自分の意思とは関係なしにバベルの塔が聳え立ってしまう。これは男の性であり逃れる術はない。

 それを箒に目撃されてしまった。幼馴染みとはいえ、見られたくないモノも当然存在する。況してや女であるなら尚更のことである。

 それよりも何故箒が俺の部屋にいる?

 

「何をいっているのだお前は!?私とお前は昨日から同室の部屋で過ごすことになったのだぞ!?」

「同室の部屋?……はっ!」

 

 ここで俺はようやく自分が何処に居るのかを思い出した。昨日があまりにも濃い1日であったため、自分の中で夢だと変換していたのだった。そして自分が今感じている風や気温等から、夢ではない現実だと理解する。

 

「完全に忘れていた……」

 

 現実だと認識したところに、更なる残酷な現実を認識する。……この状況……完全に不味い。どう考えても絶望の二文字しか浮かび上がってこない。昨日の今日で、しかも朝から刃傷沙汰なんてのは勘弁だ。

 だが、目の前にいるのは箒だ。どれだけ弁明をしてもきっと通じない。現に今も顔を真っ赤にしてプルプル震えている。

 ……俺の命も時間の問題か。

 

「……一思いにやってくれ」

 

 全てを諦め、運命を受け入れる。

 上段への構えまでの一挙動一挙動が、カメラのコマ撮りされたものを映像で流されるかのように、スローモーションかつ鮮明に目に焼き付けられる。

 どうやら俺はこれから先、朝にも細心の注意を払って生活をしていかなければならないようだ。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「いい加減機嫌を直してくれよ」

「ふんっ!」

 

 頭にできた大きなたん瘤を氷水で冷やしながら、学園までの道中を歩き続ける。

 何とか無事?に箒のお仕置きから生き延びた俺は箒と共に学園へと向かっていた。未だに箒の機嫌は悪いままで、俺としても何時までも雰囲気が悪いのは気分が悪くなる。

 

「これからは気を付けるから」

 

 どっからどうみても俺に落ち度は無いのだが、どちらかが折れなければ、終わりが見えてこない。箒はこんな感じだから結局は俺が折れることになるんだけどな。

 

「破廉恥なやつめ、一体何を考えていたんだ」

 

 何を考えていたんだって言われても、置かれている状況が状況なんだから、しょうがないだろ?

 15といったら、それなりに意識が大きくなってくる年代だ。敢えて何がとは言わないが、これでも抑えれている方だとは思うけどな。

 俺は危ない人間でもなければ変態でもない。TPOは確りと弁えている。今回に関しては不可抗力でどうしようもなかった。

 

「あら?これは織斑一夏さんではありませんか」

「オルコットさん」

 

 まさかの教室に入って一番最初に顔を合わせたのが、オルコットさんかよ……昨日のことで完全に因縁を付けられたようで、オルコットさんの目が妖しく光っている。

 

「昨日の続きはSHR後にしましょうか」

 

 何故そんなにムキになっているのかはわからないが、異様な執着心が全面的に押し出させれている。貴族の誇りと名誉からなのか?素人がエリートと対等な立場なのが気に入らないのか?

 

「頼むからこれで終わりにしてくれ」

「貴方次第ですわ」

 

 また今日も、トホホな1日になりそうだ……

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「今日のSHRなのですが、この時間を使って皆さんにこのクラスの代表を決めて貰いたいと思います」

 

 クラス代表?何だそれは?代表と付くぐらいなのだから厄介な役職なのは想像するのに難しくないな。

 

「先生?クラス代表って何ですか?」

 

 どうやら、俺以外にもクラス代表が何なのか分からない人が大多数のようだ。入学して二日目で分かる人の方が少ないよな。

 

「簡単に言えば、学級委員のようなものでクラスの為に率先して動いてもらう人ですね。後、クラス間の交流とクラスの団結を深める一環として、クラス代表同士でのリーグマッチというのがあります。優勝クラスには学食のデザート半年フリーパスが贈呈されます」

 

 デザート半年フリーパスと聞いて、ほぼ全員が「おぉっ!」と歓喜の声を挙げた。女子からしてみれば、デザート食べ放題なのは魅力的なのだろう。男の俺からしてみれば、嬉しいけどそんなに目を輝かせるものでもないな。貰えたら良いなぁ程度だな。

 

「それでは早速決めていきたいと思います。推薦・自主問いませんから、どんどん意見を出しあってください」

「はいっ!私、織斑君がいいと思います」

「あっ!私も」

 

 誰が言ったのか分からないが、クラスメートの誰かが俺を推薦で挙げ、それに釣られ他の人も次々と賛同の声を挙げていった。……俺はやるつもりなんかないのに。

 

「おいっ!待ってくれ俺は!」

 

 気が付けば、箒とオルコットさんを除く全員が織斑コールを挙げ、先生達も他に候補者がいないということで俺 でクラス代表決定にしようとしていた。

 

「皆さん、盛り上がっているところに水を指すようで申し訳ありませんが、少し安易に考えすぎではありませんか?」

 

 そう声を挙げたのは、オルコットさんだった。盛り上がっていたクラスは一旦静まり、皆オルコットさんの言葉に耳を傾ける。

 

「先生も言っていた通り、クラス代表は学級委員のような立場の役職で団結や親睦を深める一環としてのリーグマッチ、その為の代表者……しかし、クラス代表にはまだ別の意味が込められていなくて?」

 

 別の意味?察しが悪いからオルコットさんが何を言いたいのか理解できない。

 

「つまり、クラス代表とは現在の私達の実力を指標するためにあるのではなくて?ここで不甲斐ない結果を残せば、選ばれた方は勿論選んだわたくし達の見る目が無いと、下に見られてしまう可能性がありましてよ。そうですわよね先生?」

 

 すげぇな、この短時間でそこまで裏読みをしていたのか。これが、エリートか……伊達や酔狂で昨日みたいな事を言っていたわけじゃ無かったんだな。

 クラス全員が、オルコットさんの言葉を真摯に受け止め考え込んでいた。

 

「よく気が付いたな、オルコット。オルコットの言うと通りクラス代表リーグマッチは貴様らの実力を指標する意味も込められており、情けない結果になればそれ相応の目で見られることもある」

 

 じゃあ、尚更俺がならないほうがいいな。多分……というな確実にこの中で、実力・知識ともに俺が最下位。俺が出るくらいならオルコットさんが出た方が絶対に良いよな。

 

「ならオルコットさんで良いだろ」

「残念だが、織斑。推薦の枠ではお前で決定になっている。このまま誰も自主的に立候補の申し出なければ、お前がクラス代表だ」

 

 マジかよ……このまま誰も出てこなければ、無条件で俺になるのかよ。頼むから誰か出てきてくれ。

 

「……先生。わたくしは立候補します」

 

 ありがとうオルコットさん……貴女は女神だ。

 

「そうか……では候補者が二人になったから二人にはクラス代表を決めるために対戦でもしてもらおうか」

 

 対戦!?じょ、冗談だろ?代表候補生のエリートと俺が対戦なんかしたところで、瞬殺されるのがオチだろ。何を考えているんだ千冬姉は!

 

「冗談キツいぜ千冬姉」

「冗談ではない。ここはIS学園だ。ISの基礎知識と操縦者の育成するための養成機関だ。従来の学校なら話し合いで終わらせればそれでいいかもしれないが、ここは特殊な環境だ。折角居るのだから、自分達のプラスになることをした方が為にはなるだろ。特に織斑……お前はなおのことだ」

 

 そうか……ここはIS学園。俺も任意ではないが入学してしまったからには操縦者として最低限のことは出来るようにならないといけない。一見無謀に見えるこの対決も教育上の観点から言っていたのか。

 理屈は理解した。だけど、理屈だけで納得は出来ない。

 

「安心しろ織斑。オルコットにはハンデを背負ってもらう」

 

 対等な条件で戦えば、一瞬で終わってしまうかもしれないことは千冬姉も分かりきっている。その為にオルコットさんにハンデを背負わせるようだ。

 

「けどなぁ」

「あら?目の前の事から逃げるのですか?やはり男性は……日本の殿方はその程度の存在なのですね」

 

 そんな挑発じみた言葉を投げ掛けてきたオルコットさんを俺は眉間に眉を寄せながら見つめていた。

 

「機嫌を損ねましたか?しかし、わたくしは事実を仰っているだけですわよ?」

 

 その通り。オルコットさんが言っていることは紛れもない事実。俺は対戦に対して頑なに否定的だったからな。だが、その事で顔をしかめているわけではない。

 

「……そこまで言われて黙っているわけにはいかないな。……良いぜ、やってやるよ。瞬殺されようがどうなろうが戦ってやるよ。全力でな、だからオルコットさんも全力で来い!」

 

 俺の中の闘争心に火がついた。俺が顔をしかめていたのは、女の子にここまで言われているのが我慢できなかったからだ。

 本当に自分が情けないぜ。俺だけではなく、殆どの男にも言えることだ。こんなんだから女尊男婢の世の中が更に加速するんだ。

 ISが世に現れてから世界は女尊男婢の社会体制となり、男は女よりも下に見られ、扱われている。男も男で諦めてしまっているのが当たり前になっている。

 俺はそれには納得してないが、もしあのまま逃げ続けていたら俺もその一人になっていたな。

 

「全力……それでは、わたくしと決闘をなさるつもりで?」

「あぁ、その方が簡単でお互いに納得のいく解決策だと思うぜ?」

 

 ここで最初のシーンに戻る。

 変にハンデを背負って貰って戦ったところで、それは全力ではなく手を抜いているのと変わらない。

 それで、俺が負けても「やっぱりハンデを背負って貰っても勝てないな」で終わってしまい、万が一勝っても、周りや俺も「ハンデがあったから」になってしまう。

 それならば、お互いに全力を出して勝つ方も負ける方も綺麗に終わらせる方が、スマートだ。

 

「決闘と言うからにはわたくしも、手加減は致しませんしハンデも背負いませんわよ?貴族の決闘にその様な無粋なものは不要ですから」

「不味いよ織斑君」

「男が強かったのはISができる前だから、意地になる必要はないよ?」

「ハンデを貰った方が、良いって絶対に」

 

 口々に俺の心配の声が挙がってくるが、男に二言は無い。一度言ったからには、それを貫いてやる。

 

「本来ならば、決闘は直ぐに執り行うモノなのですが、一週間後にしましょう」

「そうしろ織斑。丁度一週間後にお前の専用機が届くからな」

 

 専用機!?俺にか?

 専用機という言葉に驚いたのは俺だけではなく、クラス全員から驚きの声が挙がっていた。

 

「一年のこの時期に専用機!?」

「良いなぁ。私も専用機が欲しいな」

 

 専用機……授業でも出たが、簡単に言えば個人に対して国や企業から直接支給されるモノで、量産機とは違い生産性を考慮していないことから優れた性能を有しているだったな。

 

「専用機ですか……これで立場的には対等になりましまわね」

「そうだな」

「一週間後が楽しみですわ」

 

 こうして、俺とオルコットさんの波乱の幕開けとなった。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「と、言うわけだから俺に操縦技術を教えてくれ千冬姉!」

 

 あれからは特に何事も起こらず、平和的に時間が進み昼休みを迎えた俺は、昼食を早々に済ませ職員室にいる千冬姉の元にやって来た。

 

「オルコットとの対戦までに私に鍛えてもらいたいのだな?それと織斑先生だ」

 

 軽く千冬姉にこづかれる。

 対戦までの期限は一週間。短い時間の中で悠長に訓練をしている暇は無い。千冬姉の実力は折り紙つきだから教えを乞う相手は間違えてはいない筈だ。

 

「これは、弟としての頼みではなく織斑一夏という生徒が教師である織斑千冬先生に対しての頼み事です」

 

 物の頼み方もこれで正しいはず。

 

「織斑……気持ちは分からないでもないが、ISに限らず物事には順序というものがあってな、先走っても意味はない」

「駄目ですか……」

 

 頼みの綱が、切れちまったか。他を当たるとしたら誰が良いだろうか?流石にオルコットさんに教わるのは気が引けるからなぁ。

 

「誰も見てやらないとは言っていない。生徒の相談に乗るのが教師だ。ただ私だけではなくもう一人の助っ人を用意する」

「助っ人?」

 

 山田先生かな?担任と副担任の間柄だし……

 

「放課後にこの紙にしている場所に来い。話はそれだけだ」

 

 メモ帳の一枚を手渡され、千冬姉は職員室の奥へと行ってしまった。

 けど。これで千冬姉の手助けも得られたから一番の問題点は解決されたな。後はやってみてからの話だ。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 わたくしは非常にガッカリしてしまいましたわ。クラスメートの先を考えていない発言に、自分の置かれている立場・状況を理解できていない男性。

 前者はともかく、後者は頂けません。所詮男性など価値のある生き物ではないのです。いつも母に頭を下げていた情けない父親の姿を思い出します。

 しかし、多少の見所はあるかもしれませんわね。わたくしの挑発に簡単に乗った単純な方ではありますが、専用機持ちを前にしてあのような啖呵を切れる男性は珍しいですわ。

 彼の真価を問う舞台は整いました……一週間後に全てが分かりますわ。二度もわたくしをガッカリさせるような事の無いようにはしてもらいたいですわね、

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

――放課後――

 

「ここが、指定された場所だけどここって剣道場じゃないか」

 

 千冬姉から手渡されたメモを頼りにして居場所に来てみたら、其処はIS学園の剣道場だった。ISの操縦と剣道って何の関係があるんだ?

 

「来たか一夏。待っていたぞ」

 

 すると道場の奥から、剣道の防具一式を纏った箒が現れた。

 何で箒がここにいるんだ?俺は千冬姉に頼んだんだけどな……それに何で防具を?今から剣道をするのか?まさか相手は俺だとか言うなよ……

 

「遅かったな織斑」

 

 いつの間にか背後に千冬姉が立っていた。状況がよく判らない俺は千冬姉に訓練の詳細を聞くことにした。

 

「千冬姉、どうして剣道場に呼んだんだ?今から操縦の訓練をするんだろ?それにどうして箒もいるんだ?」

「私が千冬さんと一緒に一夏のコーチをするからだ」

 

 じゃあ、千冬姉がいっていた助っ人って箒のことだったのか……だけど、箒を選んだ理由がわからないな。大勢いる中で箒を選んだ理由が。

 

「織斑……ISというものは自分の動きがそのまま反映される。つまり操縦者が不甲斐なければISの性能を発揮することは出来ない。ISを操縦する前にやることは操縦者の基礎能力の向上が求められる」

「お前は仮にも剣道をやっていたのだから、分かるだろ?剣道は相手を良く見て適切な防御と隙を付く攻撃をしなければ勝てないことを。だから一夏の訓練に剣道を入れたんだ」

 

 成る程な、千冬姉が訓練に剣道を入れたのにはそんな理由があったのか。剣道なら箒の上をいく生徒はこの学園にはいないから適任だな。

 

「早く防具を付けろ。基本動作から入って一夏の今の状態を見てやる」

 

 ここまでスムーズに進んだのだが、剣道をやる上で一つ問題が重くのし掛かっていた。

 

………………………………

 

………………

 

……

 

 

「どういうことだこの体たらくは!基本動作も挙げ句の果てには防具の付け方も忘れるとは何事だ!中学で何をしていたのだ!」

 

 そう。俺は確かに剣道をやっていたが、それは小学生までで中学に進級してからはまともに剣道をやっていなかった。そのつけが今になってやって来た。

 ……昔と言えば、あまり昔のこと覚えていないな。

 

「さぁ、立て!また一から叩き込んでやる!」

 

 今目の前にいるのはただの篠ノ之箒ではなく、剣道よ鬼師範の篠ノ之箒であった。剣道となると途端に目が変わるなぁ。

 この後俺はみっちり箒に絞られ、剣道の稽古は日没まで続いた。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「よし、今日はこのぐらいにしてやろう」

「あ、ありがとうございました」

 

 息も絶え絶えになり、大の字で俺は道場に倒れていた。こうしてみてみると、箒の凄さが良くわかった。全く疲れている素振りを見せずに、淡々と片付けを済ませている。それに比べ俺は一歩も動けなかった。

 これは箒が凄いだけではなく、俺が軟弱なだけじゃないのか?こうとわかっていれば、中学時代にもっと鍛えておけばよかった。三年間帰宅部の報いか……

 

「と、取り敢えず毎日これをこなせばいいんだな」

「何を勘違いしている?まだ訓練は終わってないぞ?」

 

 信じられない事を千冬姉は平然と告げ来た。

 

 訓練がまだ終わってないだと?俺の体はもうボロボロなのにこれ以上まだなにかするのか?初日からこれじゃあ本番の来週には満身創痍になっていそうだ。

 

「私はスパルタでな。私に教えを乞うたからには私のやり方でやらせてもらう。安心しろ消灯までには終わる」

 

 つまり消灯までやるのですね。本当にありがとうごさいます。

 

「さっさと行くぞ」

 

 千冬姉は動けない俺の首根っこを掴み引き摺り出し、道場の外へと向かう。そして、二回目の俺の悲鳴が学園内にこだましたのは有名な話だ。

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