さて……私は学園生活で必要になるであろうもの、具体的に言えば下着・部屋着・外出服などの着替えや常に持ち歩いているISのデータやその他重要データの入った高性能ポータブルコンピュータデバイス通称『HPCD』、ISなどの設計を行う高スペックPCなどを週明け月曜日の午前中に荷造りして(実にその量大きめのキャリーケース1つ分)、昼過ぎに倉持を出ようとしたのだが……父さんがいきなりこう言ったのだ。
「ついでに今日使うらしい織斑一夏くんの『白式』を持って行ってくれ」
……と……実に面倒くさいことになった。大型トラックに白式を積み込むのに時間がかかるわ、それで移動してモノレールで運ぶとなったらまた降ろし、モノレールに乗せるのも時間がかかる……なんだって倉持に招待しないでIS学園で装着させるんだか……結果、到着したのが15時13分……予定より2時間も遅れた……ふざけるなよ……なんで私が見ず知らずの男のためにこんな事をせにゃならんのだ……
まったく……しかも着いたら着いたで整備しろとか言い出すに決まってるんだ……私は白式のことなんか知らないんだが……
今目の前でピットの搬入口のゲートが開いていく……私の右には真っ白なIS、織斑一夏専用機『白式』がある……おそらく第3世代型ISの中で最も燃費の悪い機体だ……これでどこまで出来るのか見させてもらうぞ?織斑一夏。
・―・―・―・―・―・―・―・
そして遂にやってきたセシリアとの決闘。あれから一週間、俺は千冬姉と箒の地獄の特訓であるヘルウィーク?を乗り越えここに立っている。
オルコットさんはもうアリーナに出撃をしており、俺はピットと呼ばれる一種の待機場所で、俺の専用機の到着を待っていた。予定通りならもうすぐ着くはずとのことだ。
「ありがとうな、箒に千冬姉。俺の為に時間を割いてくれて」
決闘の前に、俺なんかの為に自分の時間を削ってまで訓練に付き合ってくれた二人に感謝の気持ちを伝える。
「わ、私は頼まれたことをしたまでだ。それだけだ」
面と向かって礼を言われたことに照れたのか、目をそらしながら素っ気ない態度をとる箒。
案外可愛いところもあるんだな。あの時の特訓と普段の態度からは感じられないけどな。
「礼を言うなら相手に勝ってからにしろ。あくまでもあの訓練は付け焼き刃に過ぎない。あれを乗り越えたからといって操縦技術が格段に上がるわけではない」
「あぁ、わかっているよ。だけど、俺はこの決闘を抜きに考えて感謝しているんだ」
決闘のことだけを考えての感謝ではない。俺という個人が個人的に感謝しているんだ。
「お、織斑君!来ましたよ織斑君の専用機が!」
ピット入り口から駆け足で此方に向かってくる山田先生。どうやらやっと来たようだ。どんなISなのかは事前に伝えられてないから詳細は不明だけどな。
「これが「織斑一夏、お前の専用機……第3世代型IS『白式』だ」……え?」
ピットの搬入口から姿を現す俺の専用機と銀髪の少女……誰だろうか?IS学園の制服を着ているようだが1組では見たことがない……
それより、俺の専用機は白式というみたいで、全身が白で統一されておりパッと見の印象は何色にも染まる純白さから、純粋な心を表しているように感じる。あの子も銀髪だったよな……
「よし、織斑。早速乗ってみろ。乗るときは体を白式に預けるように意識しろ」
「あ、はい」
少しあの子のことを考えて呆けていた俺は、千冬姉に呼ばれると言われるように俺は自分の体を、白式に全て預けてみる。すると、すんなり白式が俺の体に装着され試しに手を動かしてみると、俺の動き通りに白式も動いた。
「倉持霞、白式の説明を頼む」
「あ?さっき言っただろ?第3世代型IS『白式』だと。これ以上の説明があるのか?」
ち、千冬姉に向けてタメ口か……あの子も……じゃなかった倉持さんも度胸があるなぁ……
千冬姉は拳骨を食らわせようとしたが、見事に空振りした……え?倉持さん避けたのか?今?すごいな倉持さん。
「カタログスペック的な説明をしろと言っているんだ」
「そんなのISのデータベース開けば分かるだろ?最低でも本機データはデータベース内に保存されてるんだ。私に説明させるな」
「いいからやれ」
「やなこった、自分でやれ」
倉持さん、ほんとに度胸あるな……千冬姉もタメ口なのを注意しないし……てか、説明なし、自分で確認しろって……無茶苦茶な……
「別に壊そうが何しようが構わん。ある程度ならISの自己修復でどうにかなるしそれで時間がかかりそうなら倉持技研に足を運べ」
うわぁ……なんて適当な……
「ならば倉持、白式のメンテナンスを頼む……さすがに完全初期状態では些か無理がある」
「それこそ私の知ったことじゃない」
「お前は白式のメカニックとして来たのではないのか?」
「うちの父親からは何も聞いてないし言われていない。そもそも、私は此処に来るまでの約2ヶ月、白式の開発で製作の進まなくなった打鉄の第3世代型を作っていたのでな」
なんだよこの適当さ加減、程があるだろ?
「私に関係のないものを整備する意味がどこにあるんだ?」
「それでも初心者のために何かしらやることぐらいあるんじゃないのか?」
私は関係ないって言葉にカチンと来てつい、言ってしまった……
「ほう、初心者のために整備?それは初心者のために使いやすくしろということだな?」
「あ、ああ……」
俺を倉持さんのアイスブルーの瞳から発せられる視線で貫かれる。
「お前、なにも分かっちゃいないな」
「は?」
「まぁ、仮に……仮にだその初心者用のメンテナンスがあったとしよう……じゃあ、そのメンテナンス……いや、調整はどんな調整だ?私にはその概念が分からんしなんでそんなことをするのかも分からんな……お前、それでよくここに居るな?勉強してんのか?」
……なんだよコイツ……言いたいことばっか言いやがって……
「おい、倉持、それ以上はお前の担任としてやめて貰おうか」
「あーはいはい……わかりましたよ……」
え?コイツの担任が千冬姉?こんなやつ1組には居なかったぞ……
「だが織斑千冬よ、お前の弟は些か勉強不足ではないか?」
「俺だって勉強してるぞ!1週間もさぼってた奴には言われたくないな!」
なんで俺が1週間も居なかった奴に勉強不足だって言われなきゃならないんだ。
・―・―・―・―・―・―・―・
「俺だって勉強してるぞ!1週間もさぼってた奴には言われたくないな!」
……随分と威勢がいいな……そこは姉譲りか?
まぁ、それは良いとしてサボりか……私としてはそこまでの遅れだとは思わないが……
「では聞くが、お前はISのコアネットワークと言われて分かるのか?PICは?ISの機能は?」
「え……えっと……」
「この程度分からなくてサボりと私に言うんじゃない」
この程度のことが分からなくてどうする……ISの基礎中の基礎だぞ……
「ほれ、さっさと行って来い」
ほんとにどうでもいいやつだったな……
・―・―・―・―・―・―・―・
「織斑、時間だ。行ってこい」
「勝てよ一夏」
倉持さんのお陰でイライラしているこっちの気も知らないで、呑気に……えぇい!なるようになれ!乗り掛かった船なんだから!
射出口から射出された俺と白式は空中で、腕を組んで待っているオルコットさんの元まで上昇していった。
ISで飛ぶのがこんなにも難しいなんて……これは苦戦しそうだ。
「待っていましたわ。その目を見る限りでは、わたくしとの決闘を前に特訓を積んだようですわね」
対戦相手である俺の目を見たオルコットさんが、そう告げる。目を見ただけでそんなことが分かるのか……
「あぁ、対策も何も無しに戦うわけにもいかないからな」
「ふふふ、わたくしが期限を設定した甲斐がありましたわ。そうでなくては面白くありませんもの」
オルコットさんの表情は、余裕に満ちた笑みを浮かべていた。その余裕は間違っていない。ISを纏いオルコットさんの目の前に立ってみて気付く、操縦の困難。
俺が四苦八苦して飛んでいるのにオルコットさんは、平然と当たり前のように飛んでいるんだ。そのことだけでも俺とオルコットさんの実力差を表している。
だけど、余裕を出しすぎて足元を掬われないようにしないとな。時に素人はとんでもないことをするんだぜ?
《5》
「それではそろそろ対戦開始なので、挨拶といきましょうか……わたくしの名はセシリア・オルコット。わたくしのプライドにかけ、わたくしのブルーティアーズで貴方を打ち負かしてさしあげますわ」
《4》
へぇ、決闘の前に挨拶をするんだな貴族は。俺は貴族じゃないが、人に挨拶をされて無視するのは失礼だから返事をしよう。
《3》
「俺は織斑一夏だ。難しいことは言わないが、そう簡単に負けたりはしないぜ」
《2》
「それは楽しみですわね」
《1》
カウントダウンは一秒前を告げていた。いよいよ始まるのか俺と白式の初陣が……ここにきてなんか緊張してきたな。
俺に出来るのかという不安と早く戦ってみたい……白式を試してみたいという好奇心の二つが入り乱れている。
《0》
「Ok dance I and the waltz which blue tears play.(さぁ踊りなさい。わたくしとブルーティアーズの奏でるワルツで)」
白式に表示される警告のメッセージ。オルコットさんにロックオンされたみたいだ。
オルコットさんは開始のブザーと同時に後方に大きく下がり、ブルーティアーズのメインの武装《スターライトMKⅢ》を俺に向けていた。
開始から武器を構えてのロックオンまでの動作が早い……このまま棒立ちしていたら、只の的だ。横に回避しないと……
「At first it is preliminary taste.(先ずは小手調べですわ)」
スターライトMKⅢから放れたレーザーは俺が回避行動を取る迄いたところを正確に通りすぎていった。
なんて正確な射撃だ……あんなに放れた位置からぶれずに正確に狙ったのかよ。一体どうやったらそんなことできるんだ?
「Oh, I avoid this degree.(まぁ、この程度は避けますわよね) How about this?(これならどうでしょうか?)」
半ば関心をしていたら二発三発と、休む暇を与えない連続した射撃が俺を襲う。当たらないように上手く回避しようと白式を捻らせたりするが、上手く動けずダメージを受けてしまい、シールドエネルギーが減少した。
くそっ!白式の反応が早すぎて、俺の動きを過敏に反応して上手く回避ができない。
「どうしたのです?それでは只の的でしてよ?」
くっ!途端に日本語に直す当たり、本気を出していないのだろう。オルコットさんの目を見ればそらが分かる。英語で話しているときは目に力が籠っていた。
が、今は目に力が籠っておらず顔もはにかんでいる。
「永遠とアウトレンジから撃たれるぐらいなら、こっちから突っ込んでやる!」
白式の唯一の武器を呼び出し、オルコットさんまでの距離を詰めるべく白式を加速させる。
なんて加速力だ。こんなに速いとは思っても見なかった。距離400ぐらい離れていたのに、距離がもう距離50まで縮んでいた。このスピードなら白式のブレードの間合いまで直ぐだ!
「想像以上に速いですわね……しかし!」
それでもオルコットさんは構わず射撃を続ける。
俺と白式の行く手を阻むようにレーザーが撃ちだされている。俺に距離を詰められないように、正確な射撃から一転して狙いを付けずに連射に変えたようだ。
「構うもんか!」
俺は被弾覚悟で、オルコットさんに突っ込むのを止めない。
元々俺の動きを抑制するための射撃で、命中率を考えてはいないモノだからハイパーセンサーと白式のスピードをフル活用して、レーザーを避けていく。
「大したものですわ。しかしこれは今までのようには避けられませんでしてよ」
レーザーを全て回避し、オルコットさんの目の前まで辿り着き剣を降り下ろすが、オルコットさんはいとも簡単に俺の一撃を避け、俺の後方に回り込んだ。
後方に回り込まれた俺は、後方からの回避を予期して急旋回して、オルコットさんの方を向き直す。
「GO blue tears!(お行きなさい、ブルーティアーズ!)」
そんな俺を待っていたのはオルコットさんからの射撃ではなく、オルコットさんのブルーティアーズから射出された何かだった。
「何だあれは?」
ブルーティアーズの背部から射出されたソレは自立飛行し、俺を囲んでいく。
「これが、わたくしのブルーティアーズの真骨頂のビット兵器ですわ!」
ビット兵器?一体何なんだ?
すると突然何もないはずのところから攻撃を受けた。攻撃によるダメージはそれほど大きくはないが、何も無いとこらからの攻撃に、俺は混乱する。
「何だ今のは!?」
慌てて後ろを見るが、ソコにあったのは先程ブルーティアーズから射出され奇妙な物体だった。……まさかこれが俺を攻撃したのか!?ビット兵器ってのまさか、ブルーティアーズから射出されたモノ全部か!?
ブルーティアーズから射出されたモノは全部で四基。それらは全て俺を取り囲んでおり、俺が移動しても離れずに付いてくる。
やはりこれがビット兵器とみて間違いない。ビット兵器ってのは要するに全方位からの攻撃を可能にするものなのか……だとすれば厄介だ。一対一でさえ苦戦しているのに、敵が更に四人も増えたようなモノなのだから……
「しぶといですわね……ですが、そろそろフィナーレですわね」
こうしている間にもビット兵器の攻撃は続く。一つを避けても残りの三つからの攻撃が避けらない。
「どうすれば……」
徐々に減っていく白式のシールドエネルギー……このままでは俺は負けてしまう。どうにかしてビット兵器の攻略法を見つけなければ……
しきり無しに続くビット兵器による攻撃。攻略法を見つけたいが、中々見つからない。
やがて、考え込んでいる俺にある一つの憶測が生まれた。
「もしかして、このビット兵器は……」
なんの確信もない憶測の域を脱していないものだが、試す価値はあるのかもしれない。
それを確認するため、ビット兵器の攻撃を回避しながら俺は自分のある一点にハイパーセンサーの感知の注意を配る。もし俺の考えが正しければ、ビット兵器の一つは彼処に来る!
そしてその時は訪れた。
「やっぱりだ……このビット兵器は俺の死角からしか攻撃してきていない」
俺の考えは正しかったようで、ビット兵器は俺が注目していた場所に移動し、攻撃に移っていた。これでようやくビット兵器の攻略法を掴めたぞ!
来る場所が死角だけなら、一番近くの死角のビット兵器を一つづつ破壊するだけだ。
「うおおおお!」
一番近くに来たビットを、白式の加速力と反応スピードを駆使しブレードで破壊する。
ビット兵器を一つ破壊したことにより、攻撃される方向と数が減り他のビットにも意識をすることができるようになった……1基破壊しただけでこれだけ心の余裕が出来るとはな。
それだけではなく、この攻防でもう一つわかったことがある。
「分かったぜ。この攻撃は俺の死角からだけで、ビットを操っている間はお前はビットに集中しているあまりに、攻撃が出来ない!」
もしビットが、機械制御によるものだったらオルコットさんからの攻撃も来るはずだが、それがこなかった。これが意味するのは、ビットは本人の思考制御でありとてつもない集中力が必要ということを。
後は簡単だった。
一基を破壊できた後も二基三基四基と立て続けにビットの破壊に成功していった。
「まさか、ブルーティアーズが落とされるとは……」
「もらったぁ!」
立ち尽くすオルコットさんに向かって、俺は正面から斬りかかる。
「ブルーティアーズを落としたことは誉めて差し上げます……ですが、ブルーティアーズは四基だけではなくてよ?」
「マジかよ!?」
斬りかかろうとした瞬間に、オルコットさんの腰のところからミサイルのようなモノが撃ち出された。
慌てて攻撃を取り止め、ミサイルを回避すべく縦横無尽に飛び回るが、ミサイルを一向に降りきれず、段々と白式に迫ってくる。
「くっそぉ!」
「I do it by the end.(終わりですわね)」
とうとうミサイルが白式の命中し、激しい爆発音と爆風に俺は包まれた。
・―・―・―・―・―・―・―・
私の目にはイギリス代表候補生と織斑一夏の戦っている姿が写っていた。
「とんだ期待はずれだ」
私は誰にも聞こえないようにボソリと呟く。
織斑一夏は代表候補生の射撃をなんとか避けているがギリギリであって、余裕はない。そもそも、細かに動くのがあの白式の動きではない。
確かに高機動型ではある、だがあの機体は本来機体のスピードを上げ、トップスピード状態を維持しつつ一撃離脱を図るのが定説(セオリー)だ……だが織斑一夏はどうだ?大きな動きをせず、ちょこまかちょこまか動き持ち味であるスピードを殺している。
て、いきなり回避を捨てて直線機動かい……てか代表候補生も馬鹿だな、直線機動の動かぬ的に牽制用射撃か……愚行としか言い様がないな……そして織斑一夏は攻撃を空振り……オルコットは虎の子のビットを使用……
……イギリス代表候補には呆れるな、ビットと自分を同時に動かせないのか……しかも死角からしか攻撃しないとかふざけているにも程がある。本来であればビットは全てで波状攻撃を仕掛けて相手の意識を1つに集中させないようにあるためのものなのに……攻撃戦術も知らないんだな、代表候補のくせに……
「織斑千冬」
「ここでは織斑先生だ」
「このアリーナは何時まで貸し切りだ?」
「敬語も使え。このアリーナは大事を取って5時までは貸し切っているが、それがどうした?」
「あのイギリス代表候補生と模擬戦をしたい」
「……理由を聞かせてもらおうか」
……ふむ……そう来たか……まぁ、そんなのいくらでも浮かぶし。
「素人と戯れているあの代表候補の実力が見たいから」
「そうか、良いだろう……あれは使わないんだろうな?」
「威力調整済みのものなら良いでしょ」
「……分かった」
ふむ、了承してもらえたようで何よりだ。ダメだと言われたら強引に乱入してやろうというところだね。
そこで織斑一夏がミサイルの爆炎に包まれた。
「あの馬鹿め機体に救われたな」
・―・―・―・―・―・―・―・
「あぁっ!織斑先生、織斑君が……!」
「あの馬鹿め機体に救われたな」
ビットを落とした所までは褒めてやろう。初心者にしては上出来だ。寧ろそれ以上の結果だろう。観客に来ていた生徒達の誰が、こんな激戦を想像しただろうか?
正直なところ私もここまで一夏が、戦えるとは思ってもいなかったよ。
・―・―・―・―・―・―・―・
「この結果は当然のことでして、貴方が恥じるべきことではありませんでしてよ?」
わたくしは爆風に包まれた、織斑一夏にわたくしとここまで戦ったことに敬意を表し、お辞儀をする。
「It was fun.(楽しかったですわよ)」
観客の歓声をバックにわたくしほ会場を後にしようと背を向けました。
「何処に行くつもりだ?まだ俺は負けていないぜ?」
……!?そんなバカな!まだ動けるというのですか!あれだけの攻撃を受けておいて……
爆風が何かによって勢い良く薙ぎ払われ、姿を見せる彼……それはわたくしが戦っていた方の機体なのですが、形が少し変化していました。
「まさか、貴方!今まで初期設定で戦っていたのですか!?」
爆風が薙ぎ払われたそこには、再び姿を表した彼の乗機の形状が今までとは違い、形態移行を果たしていました。
・―・―・―・―・―・―・―・
「まさか、貴方!今まで初期設定で戦っていたのですか!?」
俺が爆炎を薙ぎ払い姿を見て健在していることを確認したオルコットさんは、俺にそう投げ掛けてきた。
初期設定やらなんやら言っているが、なんのことか分からないが自分でも確認してみると、白式の形が変化していた。恐らくこれが授業で習った形態移行なのだろう。
「これで、白式は本当に俺のモノになったんだな」
《零落白夜使用可能》
れい……らく……びゃくや? 白式の雪片の特殊能力か何かか?……迷っている暇はないな。勝つためには惜しみ無く使わせてもらう!
躊躇うことなく零落白夜を発動する。すると雪片の刃がビームのようなモノを形成した。……これならいけそうだ!
「いくぞぉぉぉ!」
雪片を両手で握り、ブルーティアーズに真っ直ぐ突撃する。形態移行する前までの白式よりも断然にスピードが上がっていた。
「くっ!ブルーティアーズ!」
再度発射される二発のミサイル。さっきのことこから学習し、避けれないのならばミサイルを破壊するだけだ!
再び迫りくる二発のミサイルを今度は回避行動をとらず、スピードも落とさずに迎え撃つ。ミサイルが命中する前に両手の雪片で二発のミサイルを全て一刀両断する。
「……っ!?」
ミサイルが一刀両断されたのに驚いたのか、動きが一瞬止まったオルコットさん……その隙を俺は見逃さない。この日の為に特訓してきた剣道の相手の隙を付く攻撃……それを今発揮する!
「しまった……!インターセプ「遅いっ!」……っ!」
オルコットさんが動くよりも先に俺の攻撃の命中の方が早い!
オルコットさんの首筋に迫る雪片の刃。防御も回避ももう間に合わない一撃。これが決まれば……!
《試合終了。勝者、セシリア・オルコット》
そんな俺の淡い期待を砕く、試合終了を告げるプザー。これには俺もオルコットさんも目を丸くしていた。
「嘘だろ……白式のシールドエネルギーが……」
白式のシールドエネルギーは残り僅かだったがゼロではなかった。なのに、白式のシールドエネルギーがゼロと表示されていた。見間違いでは無かったのだが……
・―・―・―・―・―・―・―・
勝てなかった……口先だけではなかった。オルコットさんの実力は……代表候補生の実力は身に染みて理解した。選ばれたエリートとはいうものの、選出される迄に絶え間無い努力を積んでいたのだろう。
「惜しかったな一夏。見ているコッチははらはらしていたが、一夏の無事な姿を見て安心したぞ」
ピットに戻った俺に箒が歩み寄り、称賛の声を掛けてくれた。
勝って良い報告をしたかったが、世の中上手くはいかない。相手は人が遊んでいる間に努力を積んできた人間で、かたや俺は与えられた日常をただこなしてきただけの人間。その差は歴然である。
「折角千冬姉と箒が特訓してくれたのに、不甲斐ない結果で終わっちまって申し訳ない」
ピット内にいる二人に対して、軽く頭を下げ謝罪する。俺なんかの為に時間を割いてくれたのに、結果を残せなかったんだ、二人には申し訳ない気持ちで一杯だ。
「気にすることではない。今日の反省を次に活かせば良いのだからな」
「篠ノ之の言う通りだ。反省すべきところは反省をし、自分の糧とすることだ。それに、そこまで今日のことを卑下にする必要もない」
「負けたのにか?」
あれだけ大口を叩いていながら結局は負けたんだぞ?いい笑い者になったりするだろ普通。
「この試合で誰が、ここまでの接戦を予期した?誰が一夏がここまで戦えると思っていた?代表候補生相手に初心者が、一歩も引くことなく互角に近い戦いだった。及第点どころか上出来な部類だ」
何やら過剰評価されているみたいだが、俺は思った通りに動いただけに過ぎない。それがこんなにも高評価に繋がるとは考えていなかった。
「そうか……上出来か……」
俺を評価してくれていることが、素直に嬉しかった。あの千冬姉はお世辞を決して言う人ではないのだから……
「だが、これに慢心するな。まだまだお前は成長することができるのだからな」
そうだ……たった一回高評価を受けただけで浮かれていてはダメだ。高評価を受けたからこそ、その維持と更なる向上を求めて日々鍛練しないと……
「ところで、千冬姉。何で白式は最後にエネルギー切れを起こしたんだ?」
終わったことを掘り起こすのは、後ろ向きな考え方だからあまり好ましくないが、どうしても最後のエネルギー切れだけは納得できなかった。
あれが決まっていれば、結果は変わっていたかもしれなければなおのこと。
「零落白夜、白式の雪片に備えられているエネルギー無効化攻撃だ。あれは自身のエネルギーを消費して行う攻撃だ。そんなことも知らずに使っていたのか?ただでさえ、エネルギー消耗の激しいピーキーな欠陥だらけの機体に誰かさんの真似事の能力を積んだ機体を使って、あの程度で満足しているようでは底が知れる」
あいつは……白式と一緒にやって来た倉持技研だかの技術者……人が苦労したことに対して投げ掛ける言葉か?
ピットの奥から現れた銀髪の小柄な技術者は、辛口な評価と自身の企業のモノに対する暴言を浴びせてきた。
初対面の時もそうであったが、一言一言に棘が鋭く他者を寄せ付けようとはしていない。
「言いたい放題言って……」
「事実を述べたまでだ……それと早く出てってくれ、次は私が戦うのだからな」
戦う!?コイツが?誰とだ?そもそも技術者のコイツが戦うことなんか出来るのか?
「何だその顔は?私が戦える人間には見えないか?馬鹿にするのも大概にしろよ?お前の倍以上の実力はある」
そこまで言うか……ならばじっくりと見物させて貰おうか。そこまでご託を並べれるのなら、相応の実力があるのだろう?
「倉持……準備は終わったのか?」
「ブリュンヒルデ、お前からもコイツに言ってやれ」
千冬姉のことをお前呼ばわりだと?そんなことしたら千冬姉からの鉄拳制裁が降ってくるぞ?
しかし、俺の予想は大きく裏切られた。
「……織斑、倉持の実力は本物だ。その実力ははっきり言えばオルコットを軽く越える」
千冬姉から鉄拳が降らないたと?それに実力は千冬姉のお墨付きで、オルコットさんを軽く越えるだと?冗談にしては笑えないが、千冬姉はお世辞を決して言わない……つまるところ、本物だということ。
こんな奴が……人を馬鹿にするコイツが実力者だと?
「理解できたならさっさと観客席に移動したらどうだ?邪魔な上に次に私が戦うのはお前だから、今のうちに観客席から対策でも練っていろ」
「俺とも戦うのかよ」
「本来なら意味の無い対決なのだが、上の実力を知る良い機会でもある。当の本人は単なる興味本意と暇潰しのようだがな」
……はっ!上等だよ。実力差が何れだけあろうが関係無い……その鼻っ柱をへし折ってやるよ!
相手の挑発を、正面からしか受けることの出来ない単細胞なのは今更言うこともないが、すんなり受け流したり冷静に相手に返しが出来るほど器用ではない。
正面からきたことには正面から返す。このスタイルが揺るぐことは恐らくこの先も無いだろう。
まんまと倉持の挑発に乗った俺は、足早にピットを後にし観客席へと向かった。