一夏が出て行った後、千冬は試合の終わったセシリアに通信を入れた。
「オルコット」
『……な、何でしょう?』
「もう1戦やって貰うが大丈夫か?」
『何故いきなり?』
「しばらく休んでいた奴がな、代表候補の実力が知りたいのだそうだ」
『随分と私のことを下に見ているようですわね……エネルギー補給の時間を』
「良いだろう。30分で終わるな?」
『はい』
千冬はそこでオルコットとの通信を切り、霞の方を向いた。
「承諾は得たぞ」
「生徒に向けて随分と酷いことをするな?それとも、私程度にあそこまでやられたのが恥ずかしいか?」
「黙れ」
「おー怖い怖い」
霞はISを展開した……だが、ソレは千冬の知るISではなかった。
ラファールでも、テンペスタでも、打鉄でも……ましてや空月でもないIS。
「なんだその機体は?前とは違うようだが?」
「声、震えてますよ?」
霞の指摘にギリッと奥歯を噛むと千冬は言った。
「質問に答えろ!」
「私の概念実証機『空月』を競技用の機体へとコンバートした『月光』ですが?」
「この短期間で馴染ませ終わるはずがないだろう!ISのコアも違うのだろう!?」
霞は眉をぴくりと動かす。
(なんだ、そこまで分かるのか……世界最強の目は伊達じゃないか……)
「答えろ」
千冬の声が激昂したものから落ち着いたドスの利いた声に変わる。
「聞きますが、もし違うと言ったら?」
「そのコアはどうしたのだ?」
「そう思いました……でも、面倒くさいですね……説明するのも信じてもらえないのも面倒です……だからこれを渡します」
霞が千冬に投げて渡したのは棒状の情報記憶端末だった。
しかもピンク色のメカウサギマークが印刷されたモノ……すなわち篠ノ之束が使っている彼女しか知らないロゴマーク。
「では♪」
霞はピットのカタパルトに脚部を接続し、アリーナへと飛び立った。
・―・―・―・―・―・―・―・
私がアリーナに入って10分……イギリス代表候補生はようやく出てきた。
「よう、代表候補生」
「私にはセシリア・オルコットという名前がありましてよ?」
「何?リリウム・ウォルコット(難聴)?」
ここにリリウムの子孫だか祖先が居たとは……
「セシリア・オルコットですわ!」
「……あっそ…………」
何だ、違うのか……ならいいや……私は右手に伊弉諾尊、左手に伊弉冉尊、調整の完了した炸薬瞬間加速式大太刀を展開する。
「遠距離型の私に向かってカタナとは……彼のようには行かなくってよ!」
「そうなのか?」
試合開始、私は前方に炸薬式瞬間加速器(クイックボマー)で加速した後その慣性をISCで蓄積しITSで更に加速した。
「速い!?」
「お前が遅い」
私はオルコット本体を斬らずにそのまま通り過ぎた。そう、一切、何もせずに通りすぎただけだ。
私は反転しオルコットの方を向いた。
「何のつもりですの?」
「さっさと本気を出せ。決闘じゃないからって本気を出さない理由にはならないぞ?」
「Very well. I show seriousness.(良いでしょう。本気を見せてあげますわ)」
最初からそうしろ馬鹿が。
オルコットはビットを展開して再び死角からだけ攻撃を仕掛けてくる。
「またこれか……バリエーションの無いやつだ」
「How about that?(それはどうでしょう?)」
……死角からだけじゃなくて全方位からのレーザーとミサイルによる攻撃……でも、この程度か?AC4のメアリーより酷いな……
それに、ビットの間合いの取り方が酷い、常に動かすものを一々停止とか馬鹿か?これで代表候補生とは……戦術も知らんのかこの小娘……まぁ、とにかくは
「1基」
ちょうど近寄ってきたやつを右の伊弉諾尊で斬る。
「な!?」
「……これを使うまでもないな」
私は伊弉諾尊と伊弉冉尊を格納し右手に脚摩乳(あしなづち)、左手に手摩乳(てなづち)を展開する。刀の間合いなんてさっきの炸薬瞬間加速式大太刀に比べれば無いに等しいが、それでもコイツには武器がある。
「あら、出し惜しみしている余裕があるので?」
「あるからこれを出したんだよ」
私は両手の2柱の切っ先をオルコットに向けて、引き金を引いた。放たれた弾丸はオルコットに直撃しシールドエネルギーを少量減らした。
「なっ!?」
「ほら、お前に余裕なんて無いぞ?」
周囲に浮いているビットに向けて脚摩乳と手摩乳の切っ先を向けて撃つ。レーザー型もミサイル型も一瞬で落ちた。
「なんだ、あっけないな?やっぱり候補生だけあってこの程度か……拍子抜けだな……」
私は武器を格納して出てきたピットに戻ろうとする。
ふむ……一々しまうのが面倒だな……鞘でも用意するか……だが炸薬瞬間加速式大太刀はどうする?あれは鞘に仕舞ったところで抜刀はでき……るな、十分に反りは付けたから出せるはずだ……なら抜刀術か……鞘の中では……
「お待ちなさい!」
「なんだ?この程度と分かったんだ、もう用はない」
考え中なんだ、話し掛けて来るなよ……
「だからと言って勝負を投げ出すのですか!?」
「意味が無いと言ったろう。無意味なことは嫌いなんだ」
「勝負を付けなさい!」
ッチ!ウルサイな……
私は右手に伊弉諾尊を展開して炸薬式瞬間加速器(クイックボマー)で方向転換し前方に炸薬式瞬間加速器(クイックボマー)で加速、ITS作動させ更に加速、伊弉諾尊を振りかぶり炸薬加速でオルコットを斬り裂く。刀の軌道は完全な円運動になるように伊弉諾尊側の炸薬式瞬間加速器(クイックボマー)に調整を加えた……刀の速さは円運動で決まる、そのためにギリギリのラインで調整してシールドエネルギーを斬り裂けるようにした。威力過多じゃなくなった分だけマシだな……って……
「夜刀の試し切りが出来なかっただろうが……どうしてくれるんだ?え?」
一瞬でやられ呆然としているオルコットに私はそう言った。
ふむ……もうしばらく時間が潰せるかと思ったんだが……ああ、織斑一夏が居たな……
「織斑一夏を呼べ」
私は第1ピットに通信を入れた。
・―・―・―・―・―・―・―・
《それでは、セシリア・オルコット対倉持霞のエキシビジョンマッチを開始します!》
俺とオルコットさんの試合終了後に倉持とオルコットさんの対戦が発表された。
代表候補生と日本を代表する倉持技研の跡取りの対戦に興味を示さない学生はおらず、俺との対戦以上に賑わっていた。
そして、観客席に移動して間も無く試合は始まった。
倉持の機体は、その華奢な体格には似合わない大型の太刀を両手に装備しているだけで、それ以外は特別な機能があるようには見えなかった。
そして最初に動いたのは倉持だった。
倉持のISが動いたと思った瞬間に、倉持のISが激しい爆発とともに目にも止まらない速度での加速を見せた。
それも一度では無く、二段階の加速でありあっという間にオルコットさんの横を通りすぎた。通りすぎただけで倉持は手持ちの太刀で攻撃をしなかった。
一体何処にあれほどの加速を実現させる機能が施されていたのだろうか?白式の加速とはまた違った方式によるモノなのであることは何となく想像できるが、通常のスラスターで出来るものなのか?
オルコットさんもその加速には驚いており、此処からでは二人のやり取りは聞こえないため、二人が何を喋っているのかはわからない。
人をバカにするのが好きな倉持はオルコットさんのプライドを逆撫でしたのか、オルコットさんは初っ端からブルーティアーズを展開し倉持を取り囲んだ。
幾ら倉持とはいえ、あの全方位射撃には手こずるだろう。それだけではなく、ミサイルも混ぜているのだから尚更である。
俺も何とか攻略は出来たが、それも何度もの思考を巡らせた上での骨肉を削っての功績だ。そこに至るまでに大分削られてしまった。倉持も例外ではないはず……
ましてや、俺の時とは違いミサイルもある。
などと思っていたのだが、倉持は初見でビット兵器を見切っただけではなく、ミサイルを避けながら何と早くも一基目を破壊してしまったのだ。
倉持の太刀さばきに箒は険しくも、じっくりと眺めていた。剣道の実力者として倉持の太刀さばきに興味があるのだろう。
一基目のビットを破壊した後に、倉持は太刀を格納し今度は両手に刀を呼び出した。
呼び出した刀で何をするのかと注視していたら、刀の剣先から銃弾が撃ち出された。
どうやら、あの刀は銃と刀が一体化している武器のようだ。
刀から撃ち出された銃弾は吸い込まれるように、綺麗にビットに命中した。太刀さばきだけではなく、銃の狙いも良いのかよ……
ビットを全部破壊し終えた倉持は、あろうことか勝負の途中でオルコットさんに背を向けたのであった。
この意味不明な行動に首を傾げるが、千冬姉の言葉を思い出す。
――本来なら意味の無い対決なのだが、上の実力を知る良い機会でもある。当の本人は単なる興味本意と暇潰しのようだがな――
倉持が背を向けたということは、この勝負に飽きたと見て良いだろう。
が、そんなことに納得できるのはこの場に誰もいないだろう。オルコットさんも倉持の行動には眉を潜めていた。
『織斑、ピットに戻ってこい』
突然千冬姉から連絡が入った。戻ってこいとはどういう意味なんだ?まだ勝負はついていないのに……
『この勝負、倉持の勝ちだ。奴の次の攻撃で全て終わる』
「はっ?何を言って……」
千冬姉の言葉に反論しようとしたが、その必要は無くなった。
倉持がオルコットさんに向き直り、右手にまた最初の武器を呼び出した直後に倉持はオルコットさんを切り裂き、勝敗が決していた。
何が起きたのか分からなかった。オルコットさんは勿論。俺や箒やこの場にいた観客者全員があまりにも一瞬過ぎる出来事に理解が出来ていなかった。
「な、何だ今のは?太刀筋が全く見えなかったぞ」
今まで黙っていた箒も、流石にこれには驚愕しており剣道を極めた箒でも、その太刀筋が見えていなかったようだ。
《しょ、勝者!倉持霞!》
試合終了を告げるブザーが鳴り響き、呆気なく試合は終了した。
俺が手こずったオルコットさんを赤子の手を捻るように、倒した倉持に俺なんかが勝てるのか?
・―・―・―・―・―・―・―・
「千冬姉。倉持は一体何をしたんだ?」
ピットに戻っての開口一番に、千冬姉にあの対戦で最後に倉持の攻撃の詳細の説明を求めた。
あんな訳のわからない攻撃をされたら一瞬で勝負が着いてしまう。それだけは何としてでも避けたい。千冬姉ならあの攻撃の正体と詳細がわかるはずだ。
「……悪いが、私もアレが何なのかは分からない。知っているのは倉持だけだ」
冗談だろ?千冬姉でも見切れなかったのか?あの攻撃を……しかも、詳細を知っているのは倉持だけかよ。てことは、あの攻撃の攻略法は自分で掴むしかないということになる。
「安心しろ。倉持は一発目からアレは使ってはこないだろう」
「何でそんなことが分かるんだ?」
倉持は人を見下す態度をとるような奴だ。試合開始早々に試合を終わらせにくるかもしれないんだぞ。
「倉持がこの対戦に臨む理由は、興味本意からくる暇潰しと言ったな」
「あぁ」
暇潰しという自分の欲求を満たす為に他人を振り回す魂胆はそもそも気に入らない。振り回される此方の身も考えて貰いたいものだ。
「そんな奴が、早々に試合を終わらせにくるはずもないだろう。恐らくあの攻撃を仕掛けるとしたら……織斑、お前に対する興味を失ったときだ」
成る程、つまりは倉持が俺に興味を抱いている間に勝負を仕掛ければ良いんだな。人を嘗めた態度を逆に利用する作戦か……それしか方法は無さそうだしな。
零落白夜……これを使って倉持に一撃を与えれば俺の勝ち……だが、オルコットさんとの試合のようにならないように、使いどころには気を付けないとあっという間にエネルギー切れになっちまう。
確実に零落白夜を当てれるように、通常攻撃で油断と隙を作る。簡単そうに思えるが、全然簡単ではないな。倉持の実力は代表候補生のオルコットさんを越えている……正攻法では太刀打ちできない。
ならば、素人ならではの発想で戦ってやる。
「分かったぜ千冬姉!やってみる!」
「何が分かったのかは分からないがまぁ、ものは試しようだ。やってみろ」
「あんなやつに負けるなよ一夏」
倉持を大分待たせちまっているな……そろそろ行くか。
俺は白式を展開し、ピットのカタパルトからアリーナへと飛び出す。
・―・―・―・―・―・―・―・
「よう、待たせたな」
一夏がアリーナに入って来たのは霞が通信を居れて10分後だった。
「女子は待たせるものじゃないって聞いたこと無いか?まぁ、私は気にしないからいいが……」
霞は月光の左のマニピュレータで頭を掻く。よほどISの制御技術が出来なければ出来ない芸当だ。初心者がやれば、絶対に怪我をするほどのことを霞はやってのけていたが……ISのことを殆ど知らない一夏には関係のないことだった。
霞の右腕には何も無い。ただ腕をだらりと垂らしているだけで準備するつもりもないように見える。
「随分上から目線だな」
「ああ、不愉快か?」
「あまり快くはないな」
「そうか。どうでも良い答えだ」
霞は一夏が若干イライラしているのを確認しながら頭を掻くのを止めて左手を握ったり開いたりした。いつもであればこんなことはしないのだが霞は左右マニピュレータに違和感を感じたのだ。
(……反応がコンマ002秒遅れてる……普段のレスポンスならその-8桁以下の反応誤差だったような……まだ耐久度の問題があったか……)
「どうかしたのか?」
(ま、今回は問題ないか)「いいや?なんでもないぞ……では、始めようか」
一夏はそう言われてまだ武器を展開していないことに気付き白式唯一の武装である雪片弐型を展開し、構えるが霞は構えるどころか武器の展開すらしなかった。
そのことに対して一夏は更にイラッとして言った。
「フザケてるのかよ?」
「いいや?至って真面目だが?」
「ならなんで何も展開しないんだ?」
「そんなのお前に関係ないだろ?それとも、武器も展開していない女子を斬るのは憚るか?」
一夏は一呼吸置き、そして言った。
「好きじゃないな」
霞は溜息を1つ溢してから言った。
「あっそ……お望み通り展開してやるよ」
そう言って霞が展開したのは先のセシリア戦で使われた剣銃型ブレードの脚摩乳だった。攻撃力もさしてなく精々あるのは初見のみの驚きのみの実用性があるのか無いのか分からない兵装だ。
――試合開始――
ようやくここで試合開始のブザーが鳴った。
・―・―・―・―・―・―・―・
試合開始のブザーが鳴った。
最初っから全力で行かせて貰うぜ!
「うおおおおお!」
試合開始と同時に白式を最大出力で加速され、真っ直ぐ倉持に突っ込む。倉持は銃剣型の武器を呼び出したまま、未だに構えず突っ立っている。
俺の動きを観察しているのか、倉持の表情は無表情だった。....その余裕が何時まで持つかな?
倉持との距離があと1Mと差し迫ったところで、俺は白式の角度を30°傾け、急下降する。そして、下降後に再度角度を30°上昇させ雪片をで掬い上げるように、顎を狙う。
倉持は冷静に俺の動きを見切っていたため、敢えなく攻撃は避けられる。
「まだまだぁ!」
掬い上げる時の勢いを殺さずに、体を右に捻ることで今度は上からの斬り下げを実施する。
今度の攻撃は完全なる死角からの攻撃。倉持は此方を視認していないため、すんなり攻撃が決まると思っていた。だが、倉持は武器で簡単に防いでしまった。
「くそっ!」
防がれるのは一応頭に入れていたが、ここまで簡単に防がれるとは想像していなかった。
防がれたのを確認した俺は空いている左足で倉持の横腹に目掛けて蹴りを狙う。
本来なら女子に蹴りを食らわせるのは俺のポリシーに反する行為だが、致し方ない。
左のミドルキックが空いている横腹に迫るが、倉持はそれすらも見切っていたのか、左手一本で難なく受け止めてしまった。
「....まじかよ」
これには流石に戸惑いの色を隠せずに動揺する。そんな俺を倉持はほくそ笑み、左手一本で俺を投げ飛ばしてしまった。
くそっ!長期戦は不利だから、エネルギーの持続を無視したインファイト攻めで攻撃しているのに、全く通用しない。あいつはまだ一度も攻撃していなければ、その場から一歩も動いてすらいないのに。
投げ飛ばされた距離は2~3Mだが、俺の攻撃の勢いは止まってしまった。
倉持は銃剣型の武器を此方に向け、二・三発銃弾を発砲してきた。
その銃弾に対して俺はハイパーセンサーからの視覚情報から銃口を確認し、最小限の動きで弾を避ける。が、動きがまだ、完璧でないため一発目は避けれたが二発目は直撃してしまった。
銃弾事態にそれほどダメージは無いが、エネルギー消耗が激しい動きをしていたせいか、無視できないダメージであった。
けれど、このまま呆然とするぐらいなら直感的な動きで攻撃し続けてやる!
「はああああ!」
もう一度倉持に対して突撃を仕掛ける。倉持は溜め息混じりに武器を構え迎え撃とうとする。
「残念だったな!」
迎え撃つために武器を振りかざし、カウンターを仕掛ける倉持。これが最初の動きやただの突撃なら完璧にカウンターで捉えられていたが、今度のもただの突撃でなければさっきと同じ動きじゃない!
「抜き胴だ!」
剣道の技の一つの抜き胴。タイミングよく、相手の横をすり抜けその流れで胴打ちをする技だ。
振りかざしたのが災いして、タイミングを合わせやすかった俺は抜き胴を狙ったのだ。
今度こそ完璧に捉えたと思った。その上この攻撃は通常の雪片の攻撃ではない。倉持との距離が近くなった瞬間に零落白夜を発動させてある。
俺の勝ちだ!
・―・―・―・―・―・―・―・
……まぁ、及第点といったところか。
現状迫っている織斑一夏の白式による零落白夜による抜き胴……確かに普通の戦法であればこれも有効……まぁ、今回のコイツのダメだった場所といえば『言葉に出してしまった点』だな。こればっかりは呆れモノも言えん……余程の馬鹿だなコイツは。
さて、あまり考え事をしている余裕はないな……私の腕は振り上げているし刃は上を向いている……避けてもいいがかすりでもしたら少しまずい……しゃあなしだ、出番だ夜刀。
私は左手に夜刀を逆手に呼び出してディラックの海を展開しながら雪片弐型の零落白夜の部分に当てる。
さて、読者諸君に質問だが数式においてマイナスにマイナスを掛けるとどうなるか知っているだろうか?答えは簡単プラスになるだけ……つまりマイナスのエネルギーとマイナスのエネルギーがぶつかり合ったこの1合は……お互いを突き飛ばすプラスのエネルギーとなり自分たちを襲うのだ。
私も織斑一夏もエネルギーの放出によってアリーナの両端へと叩きつけられる。
「ごふっ………………」
ダメージ自体はないが衝撃はある……肺から空気が全て出されるような感覚……一瞬だけ視界がブラックアウトするがすぐにISの操縦者保護機能で回復する。
「まったく……こんなことになるなら回避しときゃよかった……」
1合でも打ち合ってみるかなんて考えたのが運の尽きか……
私は地面に立つ、右手の脚摩乳を拡張領域に収納して夜刀を右手に持つ。
「って……ここでかよ」
右腕全体のアクチュエータにレッドアラート……やっぱし耐久性能に問題があったか……今直してる時間はない、左でやるしか無いか……利き腕じゃないんだがなぁ……
私は再び夜刀を左手で持つ。
「洒落になってないな……これが終わったら改修だ、月光……」
私は左手だけで夜刀を正面に構えた。
・―・―・―・―・―・―・―・
くそっ!一体何が起きたんだ!?俺の攻撃は確実に当たった筈だ。なのに、攻撃が当たった手応えが無くアリーナの端まで吹き飛ばされていた。
吹き飛ばされていたのは俺だけではなく、倉持もアリーナの端まで吹き飛ばされていた。その倉持のISの手には、今までに見覚えの無い刀が握られていた。
オルコットさんを倒した時の刀とはまた別の武器のようである。幾つ武器を持っているのかは謎だが、俺達が吹き飛ばされたのは、恐らくあの刀の能力?によるものと見ていいだろう。
どんな能力を秘めている武器なのはわからない。が、だからと言って怖じ気づくわけにもいかない。俺だけでなく、倉持も吹き飛ばされているということは、あの武器は特定のターゲットのみに作用する能力ではなく、自分も含めた範囲内のモノにも、作用するものなのだろう。
このことから、倉持もやたら滅多にあの武器を乱用するとは思えない。俺の攻撃に合わせて呼び出し、使用したとのだから後手に回る時に使うものなのだろう。緊急防御時やカウンター狙いの武器。
....ならば、防御される前に....カウンターを合わせられる前に攻撃を当てればいい。
白式のシールドエネルギーは残り僅か、次の攻撃がラストチャンスだろう。
俺は先程の攻撃よりも確実に攻撃を当てれるように、思考を駆け巡らせる。そして、あることを思い付いた。その思い付きは突拍子で、実現可能なのかどうかも怪しいが、この閃きに賭けてみることにした。
....一か八か。
白式のスラスターを出力最大で稼働させ、倉持に向かって全力のスピードで突撃する。狙いは倉持の数メートル手前の、本来ならブレードのレンジ外の位置。ソコに辿り着く迄に、翼のスラスター部にエネルギーを溜め込む。
俺の発想は、白式のエネルギー出力をギリギリまで抑え込み圧縮させ、一気に爆発させるという考えだ。
思い付きからの行動で、蓄えるエネルギーの微調整も難しく、成功確率は極めて低いだろうが最後の賭けには相応しいと思っている。
そして、狙い目の位置まで移動が完了した。蓄えていたエネルギーを一気に爆発させる。
ここだぁ!
爆発させたエネルギーは凄まじいモノであり、一瞬の加速力で数メートル離れていた距離も、圧倒的な加速力によるスピードで埋めることが出来た。既に雪片による攻撃体勢は整っており、これならあの武器による防御並びにカウンターは不可能な筈だ!
・―・―・―・―・―・―・―・
あいつ、最大速度で突っ込んできやがった!なんとか左手で構えてはいるし、攻撃を受けることは出来る……だが、あの速度となると受け止められんぞ……
私は夜刀を強く握りしめる。右腕のアクチュエータは動きが重く感じるほどヤバイ……動かそうとか以前にISとしての機能がまず失われかけている……
……左手だけで何とかしないとな……
織斑一夏との距離は徐々に詰まってきている……高機動型故に移動速度はかなりのものだ……って考え事をしている余裕はない!私はどうとでも対処できるように構える……本来なら構えることはなく自然体で居るのだがそれは利き腕が使える場合のみだ、今は構えるしか無い。
残り10メートル、そこで織斑一夏が動いた。一瞬で距離を詰めたのだ……これは瞬時加速(イグニッションブースト)!初心者がか!?
「くっ……」
私は回避行動を取ろうとするが炸薬式瞬間加速器(クイックボマー)にも不具合が出ていたようで動かない。精密すぎたのか戦闘には向かなかったようだ。
「ちっ……」
最大速度と瞬時加速の速度が合わさって更には零落白夜だ?
まぁ、初心者のものだがその技術を我流で半ば習得したのは褒めてやろう。だが、この程度で負けると思うなよ?
私は夜刀のディラックの海の濃度を高めに設定し織斑一夏の攻撃を受ける。初めはほぼエネルギーが拮抗していたようだがやはりお互いに吹き飛ばされた。
「ッぐぅぅぅぅ………………!」
壁間際で織斑一夏の攻撃を受けた私はすぐに壁に叩き付けられ恐ろしい衝撃を背中に受ける。
「まったく……相性最悪だな……」
――勝者、倉持霞!――
ここでこのアナウンスか……なんとなく夜刀の性質は理解できたな……にしても右腕も左腕も赤アラートか……整備しなきゃマズイな……まさかここまで脆いなんて思いもしなかったぞ。
でも、まぁ……織斑一夏。少しは手応えのある奴だったな……伸び代があるし向上心もある……先が楽しみだな?この期待、裏切らないでくれよ?
・―・―・―・―・―・―・―・
「がはっ....!」
再び俺を襲う激しい衝撃。背中からの衝撃により、肺の中の酸素が一気に失われ軽い呼吸困難に陥った。
《試合終了。勝者、倉持霞》
ここで、試合終了告げるブザーと勝者を告げるアナウンスが入ってきた。白式のシールドエネルギーはゼロになっていた。零落白夜に加え、爆発的にエネルギーを消費したのだから当然の結果であり、俺の賭けは失敗に終わった意味でもある。
緊急防御やカウンターの能力と俺は勘違いをしていたようだ。あの刀の能力はそんな次元のレベルではなく、もっと何か別のモノのようだ。こうして吹き飛ばされている俺が、そう物語っている。
「これで、俺は二敗か....」
呼吸も大分楽になり落ち着いたところで、俺は自分の戦績を鑑みる。
二連敗....初心者ながらも、その結果は俺の現状と男としての威信を粉々にするには充分すぎる結果である。しかも、相手は俺を完全に舐めていた相手でありそれが、俺を更に失墜のどん底にへと落としていった。
悔しい....もっと強くなりたい....
アリーナの地面の土を右手で抉り、それを強く握りしめる。俺の中で今後の目標や決意が固まった瞬間であった。
「おい、織斑一夏」
「....何だよ。俺を貶しに来たのか?」
俺の対戦相手であり、勝者でもある倉持は悠然と先程まで対戦をしていた素振りを見せない涼しい顔で、俺の元まで歩み寄ってきた。
初対面時等の倉持の態度を見れば、貶しに来たのだろうと警戒するのは当たり前である。
「それも、面白いがそれよりも気になることがある。....お前....最後のあの移動技....知っててやったのか?」
最後の移動技?....あぁ、俺が賭けに出るときに使ったアレか。あんなものがどうしたのだというのだ?
倉持の顔はふざけてはおらず、無表情たが発せられた言葉は真面目な疑問から来るモノであるようだ。
「....俺の勝手な思い付きだ」
「....そうか」
俺が解答すると、倉持は納得したのか踵を返しスタスタと去っていった。何しに俺の元に来たのかは謎であり、俺に対しても何も言ってこなかったのは不思議なことである。倉持の性格からして、何かしら暴言を吐いてくると思っていただけに、不思議さは一層増していた。
・―・―・―・―・―・―・―・
果たしてわたくしは本当に第一試合に勝ったと言えるのでしょうか?そして、第二試合のあの敗北でわたくしの醜態を晒してしまった....
あの方の最後の一撃....あれを受けていたら負けていたのはわたくしの方でした。今回は戦闘形式が試合に則ったモノであったからシールドエネルギーがゼロになった時点で勝敗が付いていた。
あの方の攻撃はまるで、教官が教え子に指導をするかのような攻撃でした....ビット操作時のわたくしの弱点を突き付けていた。
しかし、あれが試合ではなく実戦だったら?ルールも何もない本物の戦闘だったらどうでしょう?
決闘と言いながら試合に則った形で戦ったわたくしは、最後の一撃を前に動きが遅れてしまった。....ようするに覚悟が足りなかったのですわ。
代表候補生というブランドを鼻にかけていたわたくしの脆弱さをあの方は気付かせてくれた。
試合には勝ったが勝負には負けたと言うところでしょうか?第二試合目に関しては、完全なる言い訳のしようの無い敗北。最後の攻撃は何をされたのかは解りませんでしたが....
「紛い物はわたくしの方だったようですわね」
代表候補生として選ばれてから敗けを知らず天狗になっていたわたくしには丁度良い薬でしたわね。
「織斑一夏....認めましょう。貴方の力を。そして倉持霞....貴女を目標としましょう」
たった一回の敗北かもしれないが、されど一回。敗けは敗け。敗者は素直に勝者を称えるものですわ。そして、敗北したわたくしには改善すべき点が幾つもあります。
敗北を乗り越え、改善点を改善し次に対決するときは今回のようにはいきませんでしてよ?
わたくしも腕を更に磨きますから、貴方も鍛練を惜しまないように....
「It was good that I could meet to you.(あなた方に会えて良かったですわ)」
今更気づいたけどこの回、オールドタイプさんの書き方から直してない……まぁ、いっか……