空に憧れた。だから翼が生えた。 作:匿名
空飛べるキャラを書きたくなった。
□2043/7/15 ドライフ・上空 シエル・ガブリ
「…………っ…………あは」
<Infinite Dendrogram>が現世にサービス開始された今日。
僕はチュートリアル後のドキドキ空の旅in落下を味わっていた。
ああ、怖いわけではないよ。むしろその逆さ。
「……身体に感じる重力……耳に聞こえる風切り音……肌で感じる空気の流れ」
超高度から今なお落下しているけど、多分僕の顔は満面の笑みが浮かべているんだろうな。
「そして何より…………天に広がる広大な空っ!!!」
ガバッと左右に伸ばした両腕で空を仰ぐ。
全身で空気抵抗を感じ、その心地よさに浸る。
「いいねぇ、買って正解だったよ。あははははははっ!!!!」
ずっとこの感覚に浸っていたい。そう思った直後。ふと、それまで全身で感じていた落下の感覚がなくなった。
「──おっと、地面到着ですか」
気が付けば地面に寝っ転がっていた。自由落下はお終いのようだ。中々楽しかっただけに少し残念。
「うーん、とてもリアリティが高いね」
背中に感じる土の感触と草の匂い。
視界いっぱいに広がる、天井の空。
どれをとっても、非現実とは思えない程に精巧な景色。
それを目いっぱい楽しむこと数十分。
いい加減起きなければと思い、のそのそと動き出す。
「よっこいせっと…………うん?」
地面から背中を離し立ち上がる。
と同時に、チュートリアルで左手の甲に嵌め込まれた宝石──第0形態の<エンブリオ>が輝き始めた。
輝きの後には宝石は消え、一対の翼が重なったような紋章が左手の甲に残る。
そして…………。
「────いいんですか!?」
背中から伝わる感触。地面に写る影、視界に入り込む純白に包まれた羽毛。
間違いなく、僕の背中には白い翼が生えている。
驚きを隠せない。
まず、僕がドライフ皇国を選んだ理由は機械先進国だったからだ。
僕は空に憧れている。
母が宇宙飛行士で父は航空操縦士という生粋の天空夫婦の間に産まれた僕が、空を夢見ないことはなかった。
だから、他国よりも早く空に行けると思えた機械の国であるドライフ皇国を初期国に選んだのだ。
結果としては、国に落下して数十分もしないうちに自身に翼が生えたのだが。
「これが、僕の<エンブリオ>…っ………」
【飛翼連理 ジズ】
TYPE:フュージョンアームズ
到達形態:Ⅰ
ステータス補正
HP補正:-
MP補正:-
SP補正:-
STR補正:-
END補正:E
DEX補正:-
AGI補正:C
LUC補正:-
ヘルプを見ながら確認していくと何とも尖った性能みたいだ、うちのジズは。
そもそも、チュートリアルで説明を受けたTYPEとは少し異なる。冠詞にフュージョンがついてる。
アームズは武器や道具だと聞いていたけど、翼も含まれるんだね。背中にくっついているから
まぁ、TYPEはいいや。別に何か影響あるわけでもないし。
次にステータス補正がAGIとENDにしかない。
まぁ、理由は分かるとも。この翼で自由に空を飛ぶなら速度を示すAGIは必須だ。ENDは多分だけど防御力? いや、耐久力か? Gとかの影響を抑えるためだったりするのだろうか。このゲーム内での物理法則が確定していないから、詳細は分からないけど。
空を動き回るのにENDも必要になってくるという事だろう。
それ以外に補正はない。
飛行することしか頭にないですって言わんばかりだね。とても素晴らしい、グッドだ!
そしてスキルもあるようだ。
《飛翔》Lv.1:
地面との接触がない状態では、AGIを+100した後に2倍にする。
パッシブ
おおう。本当に飛びたいんだなぁ、僕って。
でもいいよ。
初期ステを確認すると、AGIは15だ。
ジョブに就いてないからね、仕方ない。
そして飛行すれば、これに+100して115。115を2倍にして230。
Lv.0からすれば間違いなく破格のAGIだ。
「行ってみますか、初フライト」
バサリと背中の白翼を大きくはためかせ、自らの身体が浮かび上がるのを実感する。
「お、お、おお…………」
現実のような世界でありながら、非現実をこの身で体験する。なんて贅沢なことか。
思うがままに空を泳ぐこの感覚が何ともたまらない。
「…………すげぇ」
思わず漏れ出た感嘆の呟き。
一瞬の停滞の後、再び動き出す身体。翼を大きく羽ばたかせ、自在に空を流れていく。
地面スレスレ、もしくは数メートル上空を滑空しながら、このゲームの凄まじさを改めて実感する。
「…………もっと、高く…………いけるか?」
動きの確認のため、落ちても大丈夫な範囲でしか飛んでいなかった。
しかし人間かな。安全だと分かれば欲望がこの身を突き動かす。数メートルの高さなど、マンション経験がある者からすれば、見慣れた光景だろう。
非現実。それをもっと知るために、僕はより高く遠くへと行こうとしていた。
青い空をグングンと高く舞い上がっていく。
秒速にして50m/sくらいだろうか。
地面より太陽を間近で感じれるほどに、真に雲を掴めるくらいまでの高度に到達し上昇を止める。
「素晴らしいよ、本当に」
目の前に広がるは無窮の青空。
大学合格しててよかった。少なくとも入学までは<Infinite Dendrogram>を遊び倒せる。
なんて感慨に耽りながらも、クルクルとその場を回る。
誰にも邪魔されない一人だけの空間を存分に満喫する。
「…………よしっ。この調子でどこまで行けるか試してみるかな? 宇宙まで事前に用意されるって言ってたけど、流石に嘘だよね?」
ジャバウォックを名乗るチュートリアルを担当した管理AIに聞いたところ、宇宙すらも再現されているらしい。
流石に嘘だと思いたい。ただのテクスチャではなく、この広大すぎる領域をゲームとして処理するなんて、出来るわけがない。
それを確かめるためにも、改めて強く白翼を羽ばたかせた直後────。
強烈な悪寒に襲われた僕は、身体を大きくねじりながら自身の位置をずらす。
瞬間、先程まで僕の頭があった場所を何かが通り過ぎた。
全く捉えきれなかった。
僕なんかよりはるかに速い何かがいたのだけは分かった。
そんな事を考えていると同時に、僕の腕と片翼が消し飛んだ。
衝撃で身体が弾かれ、片翼なことも相まってバランスを保てず、墜落していく。
回転しながら落下する中、視界の端には【出血】の状態異常が表示され、既に半分を切っていたHPが凄い勢いで減り始める。
回り続ける視界に一匹の怪鳥が入り込む。
大きな嘴、その矛先は間違いなく僕に向いていた。
「なるほどね、流石はゲーム。そう簡単には空で自由にはさせてくれないって訳ね」
そのモンスターの頭上に浮かぶ名前。
【クリムゾン・ロックバード】
「おっけー。その名前、覚えたから」
推定、上空2000mからの自由落下。
『──KIIIIIAAAAAAAAAAAAAA!!』
落ちる僕を巨大な嘴で食らいつく。
グシャリ
そんな何かを食べる音が耳に届いた頃には、僕のHPは吹き飛んでいた。
【致死ダメージ】
【パーティ全滅】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
◇ ◆ ◇
□
「そりゃいるよね、人より大きな飛行生物。ゲームの中なんだし」
怪鳥に食い千切られた後、覚めるように現実に戻ってきた。
あーあ、油断したなぁ。直前に気が付けたはいいけど、身体が、速度が足りなかった。
もっと速く動けるようにならないと、あの世界の空では生き残れないね。
「だったとしても、この数分で随分と楽しめた」
時間にして1時間も経ってない。現実世界でも20分しか経過していない。だというのに、非常に満足度は高かった。
てか、本当に3分の1しか経過してないのか。驚きを通り越して呆れが来るね。
あー、ログイン制限って鬼畜だな~と脈絡なく思う。
あの感覚を24時間も禁止されるなんて、結構もどかしいぞ。
ふと、機器に埋め込まれたディスプレイを見ると【ペナルティ期間中です。あと23時間57分41秒】と書かれている。
いや、長いな。
────今日は早めに研究所に行くか。
◇ ◇ ◇
研究所、便宜上そう呼ばれているが正式名称はもっと長い。正直覚えてない。
そこは地球外で活動する人たちと通信を主とする施設だ。
現在、僕の母は月にいる。
数年前に、火星にエネルギープラントを設置し取り残された少女を救出しようと形成されたプロジェクトに参加したはいいが、失敗しロケットごとそのまま月に不時着したという。
流石にびっくりしたよね、あれは。
月に不時着し、今は数年前から始まった長期月移住計画で住んでいる人たちの世話になりながら、待機している状態らしい。
宇宙航空会社の星間移住用ロケットが完成するまでは戻ってこれないとのこと。
まぁ、普通に元気そうにやってたからそこまで気にしてないけど。
母親に連絡と取るためという名目でこの施設内の使用許可をもらった僕なのである。
「という感じで、凄かったわけよ。新作VRゲームは」
『─そうなのね。ゲームは私がお世話になってる人もしているんだけど、あまりよく分からないわ。でも、アンタが元気そうで私は嬉しいよ』
「確かに、母さんがゲームやってるところ見たことが無いなぁ」
『─私も戻ってこれたら、月単位で休暇貰えるからその時にでもやってみようかしら?』
現在、母と通信中だ。距離の問題もあってか、少しだけラグがある。と言ってもそこまで気にならないくらいだけれど。
それにしても、隔週で通信しているから分かってるがやっぱり変わってない、元気そうでなりよりだ。
ある程度の雑談を挟んだ後、母との通信を終えて研究所を出る。
後は帰りにスーパー寄って食材買い込むぐらいかな?
多分、この夏休みはずっと〈Infinite Dendrogram〉に専念することになるだろうし、無駄な時間は過ごしたくない。
「というより、僕もあっちの世界で強くならなきゃだなー」
強くなるよりかは速くなる方が先決だね。
速ければあの怪鳥からだって逃げられるし、ともすれば宇宙まで行けるかもしれないとなれば、俄然やる気が出るというものだ。
「やること済ませて、明日の再ログインに備えますかね」
その日は食材の調理や家事を済ませ、〈Infinite Dendrogram〉の公式サイトを網羅するがごとく調べ続け、明日に備えるのであった。
一人暮らし夏休み生活を全力で謳歌してやるぞ!
【飛翼連理 ジズ】
〈マスター〉:シエル・ガブリ
本名:天空 九楽浮
TYPE:フュージョンアームズ 到達形態:Ⅰ
紋章:重なる翼
能力特性:飛行
スキル :《飛翔》
モチーフ:旧約聖書の解釈違いによって生まれた、存在しない空を象徴する怪物"ジズ"
備考:翼の形状で、肉体と融合するアームズ系列の<エンブリオ>。
名前由来:シエル:フランス語で天空
ガブリ:九楽浮→喰らう→捕食擬音語"がぶり"
ベヒーモスとレヴィアタンがいるなら、この銘の〈エンブリオ〉がいてもいいやろと思った。
調べて気づいたんですが、旧約聖書に登場しないんですね。
ジズって。
でもいいですね、原作には存在しないオリ主には合ってます