空に憧れた。だから翼が生えた。 作:匿名
初投稿っぽいですね
□【疾風槍士】シエル・ガブリ
ばたんきゅー。
『うぅ……下等生物なんかに……』
5メテル――メートルと同じ──ぐらいの大きさの怪獣? が僕の目の前で倒れ伏している。
最初見た時は出来る女性って印象があったんだけど、いきなり怪獣になったんだよね。そして、襲ってきた。
びっくりしたけど襲ってきた割には弱かったので返り討ちにしたのが今さっき。
取り敢えず…………。
「君の〈エンブリオ〉って認識でいいのかな?」
『…………ごめん』
怪獣の傍らに佇む小動物。
ヤマアラシを彷彿とさせるフォルムをしたそれの動きが、厭に人間臭かった。
また、腕の部分に小さいが〈マスター〉特有の紋章があったのも判断材料になった。
彼ないし彼女が、この生物の〈マスター〉だと。
「見るに……ガードナー系列の〈エンブリオ〉かな? 人間状態は気になるけど……まぁいいや」
怪獣形態? から最初に見た人型に変化したガードナーを見ながら、尋ねてみる。
「……それで…………理由とかってある?」
『ごめんなさい』
間髪入れずに行われるヤマアラシの謝罪。
小さな身体を全部使って、全身で謝意を見せてくれる。
字面で見るとおもろいわ。
「まぁ、ノーダメージだからいいんだけどもね」
「……チョロチョロ動くせいで……羽虫め……」
『…………ほんとうにごめんなさい』
地面に転がった状態で顔だけ上げて、キッと睨みつけてくるガードナーと、そんな自身の〈エンブリオ〉を見て、もう一度謝ってくるヤマアラシ〈マスター〉。
ガードナー系列の〈エンブリオ〉って制御効かないのかな? 前に調べた時はそんなこと書かれてなかったけどなー。
ヤマアラシさんは装備やレベル的に初心者さんだが、このガードナーは戦った感じ、亜竜級はあった。第1形態で亜竜級ってステータスだけ見たら中々の性能だもんね。
「いやいや、別に攻撃自体は気にしてないよ。ゲームだし、PKも非推奨って訳でもないしね」
〈Infinite Dendrogram〉は最近のMMOでは珍しくPKに関して何も言わない。
だが、このゲーム内ではPKしても指名手配──所属国家のセーブポイントが使えなくなる状態にはならない。
代わりにNPC──ティアンを攻撃すればほぼ確実に指名手配になってしまう。そんな状況なだけに、ティアンは狙わず、〈マスター〉だけを対象にした殺しを楽しむ人たちも一定数いるらしい。まだ会ったことないけど。
「ただ、人に恨まれるようなことした覚えないし、君も積極的にPKする人じゃないでしょ?」
あっ、人ではないね。小動物だったわ。
『レヴィはちょっと……残念な子だから』
「ざ、残念な子っ!? ベヘモット、ひどいですよ!?」
ヤマアラシ──ベヘモットさんはレヴィと呼んだガードナーを見て、そう言った。
その発言をしっかりと聞いていたレヴィはショックを受けたように愕然とベヘモットを見つめている。
おもろいわ。見てて飽きないな、この2人。
こっちに実害はなかったし、良い縁に恵まれたって思っておくかな。なんか、色々とやらかしてくれそうな予感がする。
「まぁ、今はそこまで強くないし、上級職カンストで就いてる人だったら返り討ちにできる程度だから、問題ないけど。もし、無差別に
『分かってる、人は襲わないように言う』
それはそれとして、お説教はします。
初心者だからといって、これを見過ごしたら他の人にも迷惑が降りかかるだろうからね。
「っ! ベヘモット……こんな羽虫の言う事聞く必」
「はいはい。羽虫なのは分かったけど、自分が弱いことを自覚しましょうね」
動けないレヴィの頭を、翼を使ってポフポフと叩く。
結構自由に動かせて、飛行以外でもちょいちょい便利なんだよね。
「く、屈辱ですっ! こんな……人間ごときに……っ……触るなっ! うぅ…………情けない……ぐすっ」
わっ……泣いちゃった。頭に触れていた翼をさっと、どかすが彼女はすすり泣いたまま。
翼の代わりに今度はベヘモットが小さな腕で、レヴィの頭を撫でだした。
『よしよし』
「……っ……うぅ……」
「ごめんよ。そんなに嫌だったんだね」
と謝罪を口に出すが、考えているのは別のこと。
僕には勝つことができなかったけど、未だ第一形態。
公式サイトでは第七形態まであると書いてた。
僕の【ジズ】は形態があがったら、スキル倍率が上がった。これが他の〈エンブリオ〉も類似して上昇するものと考えられる。
僕の知る限りでは、レヴィは他のガードナーより高いステータスを持っていた。
代わりにスキルは何も使ってこなかった。
大半のガードナーは自前でスキルを持って自身の意志で発動できる。
僕の翼が飛行に特化したのと同じように、ステータスに特化したって考えるのが自然かな?
もし第七まで成長したら、どれほど跳ね上がるのか楽しみになってくるね。
◇◇◇
□首都ヴァンデルヘイム
その後、彼女らとフレンド交換だけをして別れた。
初心者というのもあるし、これ以上彼女らの時間を奪うのは申し訳ない。いや、被害者の身ではあるんだけどね。
それと話してみてベヘモットはあまり人と喋りたくないんだなって、印象を受けたのもあったね。
動物型のアバターにしている時点で、普通とはかけ離れているのは分かる。
フレンド登録もちょっと嫌って空気出してたけど、自分たちに非があるのは理解しているようで、何か言ってくることはなかったけど。
「いやー、それにしても面白い人たちだったね。ログインしてからずっと空から狩り続けたから、久しぶりに他人と喋ったよ」
ドロップアイテムの換金や装備の購入以外で誰かと話したことなかったから、結構新鮮だった。
そして彼女らと別れてログアウトした翌日。
僕は皇都と呼ばれるドライフ皇国の首都の市場を回っている。というのも、昨日の出来事が濃くて忘れかけてたけど、【クリムゾン・ロックバード】を討伐しているんだよ。
その時にドロップした【宝櫃】を開封したら【紅蓮鳥の金卵】と幾つかの換金アイテムが手に入った。
【金卵】は従魔師なら大当たりらしいけど、生憎と従魔を持つ予定はない。だから、換金アイテムごと売っちゃおうという腹づもりなのさ。
なんで知ってるのかって?もちろん、彼奴を討伐する為に色々調べた副産物みたいなものだよ。
──おっと考えている間に、目的地に到着したみたい。
目的地は僕がこの国に来てからずっとお世話になってる雑貨店のことだ。街を散策している時に声をかけられたのがきっかけだったかな? 品揃えが良くてありがたいんだ。ちょっと入り組んだところにあるから、行くのが面倒なんだけどね。
店名こそ【魔王商店 中央大陸3号支店】と仰々しいが、かなりお世話になっている。
そこの店主から珍しいものが見つかったらぜひ持ってきてほしいと言われているんだ。別に普段からお世話になってるし、一番に持ってくつもりだったけどね。
そして、ここではモンスターの売買も請け負っているのらしい。というより、元々モンスター専門店だったがドライフという国の特性上、需要がなく皇国内にある他の専門店と合併したんだとか。
当然、【金卵】も正しい手順で孵化させれば、立派な【クリムゾン・ロックバード】になるので、取り扱ってくれると思う。
従来の方法でテイムするよりも都合がいいらしい。
というわけで!
「【紅蓮鳥の金卵】を売却したいんだけど、大丈夫?」
「おや、シエルかい? よく来たね。それと【金卵】は貴重だからね、もちろん買い取るよ」
………。
………………はいっ、換金終わり。
いやー良かった良かった。
無事【金卵】と換金アイテムの売却が完了しました。
さて、合計で30万リル。装備は既に新調済み。
特に使うことはないかな?
金が詰まった袋をマジックバックに仕舞いながら、店内を見渡すと、ふと気になるものがあった。
「ガチャ」
そう、ガチャ。しかし、ゲームの世界に何故?
気になった僕は、それを指差しながら店主に聞いた。
「オーナー、これは……」
「ん? あぁ、それかい。それはガチャといってね、数日前、この国の神造ダンジョン〈淫魔の宮〉から出土したレアアイテム。縁あって貰い受けたのさ」
〈淫魔の宮〉
聞いたことがある、詳細は伏せるけど『エッチなことしたんですね?』がどうたらこうたらなダンジョンだったはず。
そんな場所から出土したって、大丈夫なのだろうか?
「これって売り物なんですか?」
「まぁ、最終的には売っていいかなって思ってるけど、今はご自由に利用してどうぞって感じ」
詳しく聞くと、これは金銭を投入すると100倍から1/100の価値の範囲でアイテムを排出するというものらしい。最近になって、他の神造ダンジョンでも出土しはじめたと。
中は空っぽで、金銭を供物としてどこかから景品を召喚しているらしい。
投入金額は最低100リル、最大で10万リルだ。
レアリティは 高S〜F低 でCが等価値らしい。
うーん、明らかに運営が用意したやつですねぇ!
やるしかない!
「取り敢えず、30万」
先日の稼ぎである。
一発目!
10万を投入しレバーを回すと、カプセルが排出される。カプセルを開けると中のアイテムが開放される仕組みっぽい。カプセルの表面には「C」と書かれている。
ほっ、ひとまずは等価値。ハズレではない。
「では、ご開帳〜」
【【ジェム‐《クリムゾン・スフィア》】を手に入れた】
お!
そんなアナウンスとともにカプセルの中から赤い宝石のようなもの──ジェムが出てきた。
「オーナー、これ教えてください!」
「ほう、ジェムか。しかも、この属性と魔力量は【
マジすか、めっちゃ当たりじゃん。
「緊急時に、敵に向かって放つだけでもかなりの火力になるはずだよ」
つまりは、一回目は大当たりってこと。やったぜ。
それじゃ二発目、いっきまーす!
ガチャリ………………「E」
「ぐふっ」
い、いま、強烈なボディブローを喰らった気がする。
Eランク……価値にして1万リル程度。
くっ、仕方ない。ガチャなんだから、それくらいは許容範囲内。それに最低ランクじゃないだけ、マシだ!
いくぞ、オープンッ!
【【魔法タイプライター:小型】を手に入れた】
おっと?
何やら、如何にも魔道具ですって感じの名前だな?
「オーナー! こっちは?」
「うん、それはレジェンダリア産の文字入力式のマジックアイテムだね。入力した文字がそのまま空間に投影される物さ」
「ほへー、そんな道具まであるんですね」
「あるとも…………しかし、小型の方は生産者が高齢でもう作ってないと聞いたんだけど、そういうのも出てくるのだな」
色々と教えてもらえました。
売ってもいいけど10万リル以上にはならないし、それくらいなら持ってたほうが、いずれ何かに使うかも?
よしっ! 当たりかはずれか分からないようなのは置いといて…………最後っ!
【ロックバード】の稼ぎ、最後の希望をいざ!
10万を投入し、ゆっくりとレバーを回す。
コロリと落ちてくるのは…………「X」…………ん?
「あれ、何だろう、Xが描いてある」
「なに? 本当だね。レアリティにXがあるなんて聞いてないけどな」
「まぁ、珍しいのは間違いなさそうなので、開帳」
【【水晶之調律者搭載式量産型動力炉】を手に入れた】
パカリと開くとカプセルよりかは大きいが、それでも片手で持つことができるぐらいの機械塊だった。
…………なんか凄い名前だったな。
「ふむ……見る限り、先々期文明の品といった所かな?」
「オーナー、先々期文明ですか? 確か、2000年くらい前の」
「そう、昔は現代よりも超越した魔導科学が発展していたからね。というか、たった一人が発展させすぎたという方が正しい」
ほへー、なんか凄いとしか言えない。
そんな時代の品なんだな、この機械。
「そうなんですね。確かに、かなり機械チックな名前ですもん。コレ」
「ほう、名前を聞いてもいいかい? この手の品は《鑑定眼》が上手く効かないんだ」
「いいですよ、【水晶之調律者搭載式量産型動力炉】だったと思います」
「っ!? いや、煌玉人にそんな名前は無かったはず。三代目の作品か? それにしては命名規則が…………」
何かしら考えていらっしゃるようです。でも、僕にはわかるよ。男だからね、カッコいいよね。
この人が男がどうかは、ローブを深く被ってるから分からないんだけどね。
「……ふぅ。取り敢えずはおめでとう。かなり貴重な品なのは間違いないよ、出来れば売ってほしいのだけどね」
「あー、ごめんなさい。何かに使えるかは分からないけど、持っておきたいので」
絶対何処かで使う機会は来ると思うんだ、ここ機械の国なんだし。
「まぁ……そうなるよね、仕方ないさ。けど、もし他に似たようなのを見つけたら今度は売ってくれないかい」
「そうですね、見つけたら教えます。今日はありがとうございました!」
そう言葉を交わし別れる。
店を出て入り組んだ路地を抜け、大通りへ戻る。
本日の戦果を振り返りますか。
まずは一つ目 【ジェム‐《クリムゾン・スフィア》】
確か、【紅蓮術師】の奥義だっけ? それが込められているらしい。
魔術師系統か〜。AGIもある程度上がってきたし、魔法職に手を出してもいいかな?ちょっと検討しときますか。
次に二つ目 【魔法タイプライター:小型】
スマホみたいな小さな機械板のボタンを押すことで、対応する文字を出力してくれる装置っぽい。
最後の三つ目 【水晶之調律者搭載式量産型動力炉】
めっちゃカッコイイ名前の何か。
先々期文明品らしいので、いずれ機会があれば使いたいな、ぐらいの気持ちで持っておきますわ。
いいね! 30万も使った甲斐があるってもんよ。
あー、もっと引きたくなってきた。
今日はもう街ですることはないから、ガチャ代を稼ぎに行くとしますか。
◇◇◇
□数時間後 ヴァンデルヘイム郊外
「ここで逢ったが百年目です! 覚悟しなさい!」
『ほんとにごめんなさい』
ビシリと僕に向かって指をさす美人さんと、その肩に乗るヤマアラシ。ベヘモットとレヴィのペアだ。
うーん、やっぱりこの人たち面白いな。
ガチャは出たもので話の展開を作れるのでいいですね。
これからも引かせる所存!
あ、評価感想ありがとうございます〜。