水属性こそ異世界にて最強と証明したいTS転生者 作:うん、でねー?
あれから、私は子供たちとともに、薬草を効率的に採取した。
若干ぬかるんだ地面に足を取られながらの作業ではあったものの、明らかに効率は普段よりもよかったらしい。
想像以上の収穫に、子供たちは目を輝かせていた。
とはいえ、私からしてみればもっと効率化のできる作業だ。
たとえばぬれてもいい服やフードを用意して、水を降らせながら作業をしたり。
足のぬかるみも、道具の類で対策可能だろう。
「家に、汚れてもいい服や靴はありますか? 明日はそれを使って作業しましょう」
子供たちにそれを提案するころには、すっかり私は「レンお姉さん」と慕われるようになっていた。
最初の怪訝な表情はどこへやら、だ。
子供たちを伴ってギルドに向かうと「レンさんって不思議な人ですね」とアイナさんに言われた。
まぁ、ギルドで子供を引率するかのように行動している冒険者は私だけなので、さもありなん。
報酬は、最初にアイナさんが言っていた報酬のほぼ倍くらいの量を確保できた。
これなら、しばらく安宿に泊まれば十分な資金を稼げるだろう。
「これなら、多少無理してでもいい宿をとったほうがいいかも。もし宿代が足りないのであれば、あたしが個人的に貸すよ?」
「いえ、それには及びません。短期的にはそのほうがいいかもしれませんが、長期的にはお金の貸し借りは悪手かと」
なんてやり取りをアイナさんとしつつ、私は宿をとることにした。
町のはずれにある、ぼろい宿。
愛想の悪い店主に受付をして、「夕飯が出る」という誘いは断る。
部屋に入ったら、水魔術ときれいな布で軽く体を拭いて、戸締りを確認してから就寝した。
木の板の上に布を置いただけの、ほとんどベッドとも言えないベッドだが、それでもこれまでの野宿生活に比べると、少しだけ安心できる気がするのだった。
◯
翌日からも、精力的に薬草採取を行う。
先日の効率が良かったことで、子どもたちはかなり協力的になってくれた。
汚れてもいい靴や服を用意して、私の言うことを素直に聞いてくれるのだ。
中でも微笑ましかったのは、貧しい家の子に余裕のある家の子が服や靴を貸していたこと。
どうせもう使われない代物だ、有効活用という意味ではこれ以上ない方法である。
そんなわけで皆でずぶ濡れになりながら、薬草を採取していく。
風邪を引いてしまうかもしれないが、この世界の治癒魔術は風邪すら直せてしまうとんでもチート魔術(現代比)なので問題はない。
多めに集めた薬草の報酬で、十二分に賄えるとのこと。
そういえば前回、私はこの魔術による薬草探知を「他の属性でもできる」と嘆いた。
しかし、水属性魔術を使ったことで他より優れている点が一応あったのだ。
というのも、魔力を含んだ水が地面を満たすことで大地に魔力が充満し、薬草が生えやすくなるのだとか。
これにより、ただ草をなびかせることしか出来ない風属性や、そもそも燃やしてしまうので探知ができない火属性よりは、水属性の方が薬草探知においては優れていると判明した。
まぁ、光属性でも同じ事ができるので、水属性は薬草探知にて最強とは言えないんだけど。
私の目指すところは、水属性が並び立つことのない最強であると証明することだ。
先は長い。
……なんてことを考えていると、一人の子どもが声をかけてきた。
「レンお姉さん、レンお姉さんは服が濡れると拙いんじゃないです? その服、とっても高価な服だと思うです」
「ああ、それについては大丈夫ですよ、マオちゃん。この服は特別性ですから。実はこの服、汚れても次の日には新品のようになっているんです」
「そうなのです? すごいです!」
マオちゃん。
この薬草採取をしている子どもたちのまとめ役らしい子だ。
そもそもこの薬草採取をしている子どもたちは街で暮らしている子達だそうな。
全員が将来冒険者になるわけではなく、確実に冒険者となると決まっているのはまとめ役であるマオちゃんだけ。
黒髪のセミロングで、清楚な雰囲気の少女である。
すごくしっかりした子で、子どもたちをよく見ているし人気もあるのだ。
将来、大物になりそうな予感。
「お姉さんは物知りだし、魔術もすっごく使えるです。服もお姫様みたいなのに、どうして冒険者になったです?」
「それについては色々ありまして。使える魔術も水属性だけですから、全然大したことないですよ」
マオちゃんは、現在七等級の冒険者らしい。
等級においても、冒険者歴においても、間違いなく私の先輩だ。
残念ながらまだこの世界における成人年齢である十五歳ではないので、正式に冒険者というわけではないものの。
数カ月後には十五歳となって冒険者となることが決まっていて、複数のパーティからオファーも受けているらしい。
実に優秀だ。
私としても、この世界の知識について色々教えてくれる人が増えて、とても助かる。
ただ、問題が無いわけではない。
というのも――
「子どもがぎゃあぎゃあ騒いでんじゃねぇよ!」
不意に、楽しく薬草採取をしていた子どもたちに罵声を浴びせるものが現れた。
それはボロい装備を身にまとった、やつれた十代半ばの少年である。
名前は……確かルベンとか言ったか?
「大体、なんでここだけ雨が降ってんだよ。おい泥水女! てめぇの仕業だろ!」
彼は以前言及した穀潰し冒険者の一人で、子どもたちに突っかかってくる厄介な奴らしい。
私に対しても泥水女と罵声を浴びせてくる、水属性しか使えないことを知っているので、舐めているのだろう。
とはいえ、雨対策をしていない人間にとって局地的な雨が迷惑なのは事実。
私はすぐに魔術の使用をやめた。
子どもたちは残念そうにしているが、ルベンが怖くて口には出さない。
無論、ルベンがそれだけで満足するわけはないのだが。
「ルベン、雨を降らせたことは謝るです。けど、だからといって子どもたちに罵声を浴びせるのは許さないです!」
「チッ」
マオちゃんが咎めると、すぐに鉾を収める。
なんでも、以前マオちゃんに喧嘩を売って負けたことがあるらしい。
だから、自分より強者のマオちゃんがいる時は、罵倒を辞めるのだ。
私が毅然と言い返してもいいのだが、マオちゃんは自己評価が低そうなのでこういうところで責任を発揮できるタイミングでそれを全うするのは、いい経験になるだろう。
ルベンが去っていった後、ほっと胸を撫で下ろすマオちゃんには申し訳ないけれど、私は基本的に穀潰し冒険者と子どもたちの諍いには、口を出さないことにしていた。
とはいえ、子どもたちと穀潰し冒険者の間で明らかに軋轢が発生してるんだよな。
子どもたちはこれまでと比べて随分と薬草の採取が捗っているのに対し、穀潰し達は何もないからだ。
要するに、穀潰しは子どもたちに嫉妬している。
これが、何か大きな問題にならないといいのだけど。
アイナさんには相談してるけど、流石に大きな問題になるようなら、私も何か行動を起こしたい。
どうしたものかな。
なお、雨はやんでも魔力を含んだ草は光を強く放っている。
だから子どもたちは変わらず薬草採取を効率的に進められるが、ルベンはそもそも視力強化ができないらしい。
一人見当違いな場所で、薬草ではないものを採取していた。
◯
厄介なことは、それ以外にもとどまらない。
さっきの私に対する罵倒、泥水女は最近一部の冒険者がしきりにそれを連呼している蔑称だ。
といっても、大抵は私のいないところで言っているだけ。
気にすることではない。
そもそも、私という異物が色々とギルドに不和をもたらしているのは事実なのだ。
容姿がいいから、一部の俗な男性冒険者が露骨に視線を向けてくるし。
中には、気になっていた男性冒険者が私を見ていて嫉妬した女性冒険者もいるだろう。
やたら高価な服を着ていて、それでいて水属性しか使えない才能のない冒険者。
受ける依頼も子どもか穀潰ししか受けない薬草採取だけ。
まぁ、なんというかバカにされるのもムリはない立場。
とはいえ、気にする必要はあまりなかった。
ギルドではアイナさんが、
「ギルドで受付するときは絶対あたしのところに来て、そうしたら周りに変なこと絶対に言わせない。レンさんのことバカにしないし、むしろ尊敬してるんだよ、あたし」
と言ってくれているし、実際アイナさんがいる間は私に変な視線を向ける奴はいない。
要するに、ストレス要因にならないから、放っているのだ。
いずれ実力と等級が上がれば、そういったやっかみも消えるだろうし。
資金さえ集まれば、別の街に拠点を移してもいいのだから。
――状況が動いたのは、私が冒険者になってから一週間ほど経った頃のことだった。
この世界の暦は基本的に前世とそう変わらない。
だから、アイナさんに教えてもらった暦から色々と計算をしつつ、十日薬草採取をしたら次のステップに進もうと思っていた。
安宿に泊まるのもやめて、ちゃんとした安全な宿に拠点を移すのだ。
少なくとも、泊まって一週間は問題が起きなかったので、私としてはこのまま順調に進めば良いと思っていた。
しかし、事件は起きる。
ところで話が変わるのだけど、これは森で私が検証した内容の話。
私は水魔術の研究以外に、自分のチート美少女ボディについても検証を行っていた。
というのも、明らかに普通じゃないスペックをしているからだ。
全力で木を殴りつければ根本からそれをへし折ることのできる筋力は言うまでもない。
加えて、不意の出来事に襲われても、体が勝手に反応するのだ。
具体的には私が森で夜寝ている時、近くの草むらががさりと揺れたことがある。
その途端に私はバッと起き上がり、即座に反撃に移れる態勢に入っていた。
前世ではそんな芸当できなかったから、これも間違いなくチートボディの影響だろう。
これなら戦闘も、この反射だけでかなりやれるのでは? と思えるくらい。
んで、もう一つ。
私の泊まった宿には、よくない噂があったのだ。
具体的に言えば、泊まった女冒険者が男に襲われるというもの。
といっても、これはぶっちゃけ安宿であればたまに起きることだ。
アイナからは、どの宿もそんなもんだから、多少費用はかかってもいいからいい宿を取るべきだ、と。
しかし襲われない冒険者もいるし、何より一応鍵はちゃんとかけることができる。
ただこの宿、安宿のくせに何故か夕飯がサービスになっている。
朝食じゃなくて夕食? というのがポイント。
つまりこれら二つが何を示すかと言えば――
夜中、ふと目を覚ましたら眼の前に男冒険者が私を組み伏せようとしていたので、反射で蹴り飛ばした。
当然、男の急所を蹴り上げたもんだから、宿中にそいつの絶叫が響き渡ることとなるのだった。