水属性こそ異世界にて最強と証明したいTS転生者   作:うん、でねー?

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4 それぞれの憧れ

 ギルド受付嬢のアイナは、一言で言えば秀才だった。

 大体のことはなんでもできて、器用で、容量がいい。

 美人であることも相まって、幼い頃から周囲は彼女を意識していた。

 いいお嫁さんになる、と何度言われたかわからない。

 しかしアイナの夢は冒険者だった。

 それ自体は別におかしなことではない。

 この世界の人間なら冒険者には一度は憧れるものだ。

 アイナの場合は、自分の力で生きて行きたいという欲求が強かった。

 結婚して家庭を持って、という生き方よりも自分で自分の道を決めて、その道を突き進む生き方をしたかったのだ。

 そして、その願いを最も確実に叶えられるのが、冒険者だったというだけのこと。

 

 

 しかし、アイナの夢は儚くも散ってしまった。

 

 

 アイナに冒険者の適正がなかったからだ。

 冒険者の適正、すなわち戦闘系のスキルである。

 それが一切アイナには備わっていなかった。

 否、正確には水魔法がCランクという高い適正で備わっていたのだが、水属性だけで冒険者をすることは一般的には不可能だ。

 何せ戦闘には向いていない、水しか生み出せない、その水にしたって生活魔法で事足りる。

 三重苦といっていいくらい、水属性は弱かった。

 

 他にも、アイナはさまざまなスキルをDランクで取得していた。

 だが、それらは全て計算などの事務に向いたスキル。

 一般的にDランクといえば「かなり器用にそのスキルを扱える」というランク。

 そんなスキルを多数所有した状態で、戦闘に関わらない幼少期を送っていれば、秀才とか誉めそやされるものだとアイナは思った。

 

 結局、アイナは冒険者の夢を捨てきれず、ギルドの受付になった。

 スキル的には天職と言ってもいい職業だし、冒険者の未練ゆえに仕事も真面目だ。

 時折どこか憂いのある表情をすることも相まって、アイナの人気はさらに高まった。

 まあアイナにとって冒険者は本質的に嫉妬の対象なので、恋愛に発展することはなかったが。

 

 そんなアイナに転機が訪れたのは、つい最近のことだった。

 一人の少女が、冒険者登録を申請してきたのだ。

 その少女の名はレン、美しい青みがかった白髪の少女である。

 服装からして、明らかにいいところのお嬢様、応対も丁寧で世間ズレしている感じもしない。

 なのにほとんど常識と呼べるものを知らない不思議な少女。

 そう言った「訳あり」が冒険者になることは珍しいことではないので、アイナは疑問を顔に出さず応対した。

 そして、スキル鑑定を行ったのである。

 

 

 Aランクの水属性適正、規格外の結果だった。

 

 

 この世界において、Aランクのスキルは非常に希少だ。

 Cランクで一流、Bランクで天才とされる世の中なのだから、本当に飛び抜けていると言っても過言ではない。

 だが、同時に水属性である。

 自分のことも相まって、アイナは思わず顔に驚きが出てしまった。

 一生の不覚だ。

 

 しかしレンは動じなかった。

 水属性が不遇であることは彼女も感じ取っていたはずだが、構わず冒険者になったのである。

 水属性が天性のものであること以外は、どちらかと言うとアイナと同じ事務気質の人間だ。

 やり取りもハキハキと行なっているし、顔もいい。

 本当にどこからきた人なのだろうと疑問に思ってしまうくらいには、雰囲気のいい人だった。

 だからアイナは、自然とレンを意識してしまったのである。

 

 それからレンは、思わぬ形で名を上げた。

 最初にレンが受けたのは薬草採取の依頼だ。

 それ自体は別におかしなことではないし、そもそもアイナがおすすめした依頼である。

 ただレンは十六歳の少女である。

 薬草採取の依頼を受けるにはいささか遅い年齢。

 いわゆる穀潰し冒険者に分類されかねない立場だ。

 現場では、子供達と一悶着あるだろうな、とは内心アイナも思っていた。

 

 

 が、しかしその予想に反してレンは子供達を一回の依頼で懐柔した。

 

 

 レンが子供達を引き連れてギルドに現れた時、アイナは思わず目を剥いてしまったくらいだ。

 子供達は基本的に、穀潰しの冒険者とは険悪である。

 まあ、これは穀潰し冒険者が子供達にちょっかいをかけているのだから当然だが。

 だからこそ、子供達も警戒しているはず。

 その警戒をたった半日で解いてみせたのだ。

 そして直ぐに子供達のまとめ役であるマオと仲良くなり、レンは子供達のグループに加わった。

 

 そこからの評価は、完全に真っ二つである。

 

 レンに対して好意的なもの、侮蔑の感情を抱いているもの。

 感心しているもの、侮っているもの。

 顔がいいからこそ、レンは男たちから明らかに狙われていたし、一部の女性冒険者からも嫉妬されていた。

 だが同時に、子供達を一瞬で絆し、更には薬草採取の効率化までやってのけたという。

 他の者とは違う何かを、アイナはレンに感じていた。

 

 しかし、だからこそ懸念事項がある。

 レンが頑なにいい宿を取ろうとしないことだ。

 安宿で女性冒険者が襲われる事件のことを、レンだって把握しているはずなのに。

 それでも「問題ないから」と、少しの間安宿を拠点にすると決めてしまったのだ。

 レンは水属性魔術にしか戦闘系の適正がない。

 そのことは、既に多くの冒険者が知っている。

 必ず誰かが、レンを襲うだろう。

 コレまでの経験から、アイナはそう感じていた。

 

 そして、事件は起きてしまう。

 ただし、レンは襲いかかってきた男冒険者を撃退したが。

 

 確かに、撃退できるなら安宿に泊まることも問題はないのだろう。

 ただその撃退方法が凄まじく、寝ていたと思ったら一瞬で目を覚まし急所にケリを叩き込むという壮絶なものだったのだが。

 本人は「水属性の地位向上のため、水属性で倒すべきだった」などと呑気にしているが、()()()()()ことだ。

 だってレンには戦闘系のスキルがない。

 相手を一撃で吹き飛ばすケリを起きて即座に叩き込む、スキルがなくても不可能ではないだろう。

 しかし、それにはかなりの修練と魔力による身体強化の精度が必要。 

 であれば、一体どうやってレンはそれほどのケリを叩き込めたのか。

 まさかレンは()()を有している……?

 

 アイナの考えは、しかしレン自身に加護に対する自覚がなさそうなことから、一旦横に置かれることとなる。

 そもそも、起きた問題は男冒険者の撃退だけではなかったのだ。

 まず、下手人はルベンだった。

 穀潰し冒険者の一人で、レンに突っかかったことのある男だという。

 そのことの憂さ晴らしのため、レンを襲おうとしたのだろう。

 宿()()()()()()()()()()

 今回の一件、下手人はルベンだったが、宿の主人も共犯だった。

 というか、宿の主人が泊まっている女冒険者を罠にハメていたのだ。

 夕飯を出すと言って薬を混ぜ、意識の混濁した女冒険者を男に売り渡していたのである。

 当然ながら犯罪なので、宿ごと主人はルベンとともにしょっぴかれていった。

 とんでもない話だが「薬漬けにした冒険者を奴隷として売り払っていた」なんて話もあり、一筋縄では行かなそうな問題だ。

 

 とはいえ、それを解決したレンは、今日も変わらず冒険者として依頼をこなしているのだが。

 薬草採取に穀潰しがちょっかいをかけてこなくなった、と嬉しそうである。

 まぁアレだけのことをしたのだから、当然と言えば当然だが。

 

 ――レンには、いくつもの疑問がある。

 一体どこからやってきたのか、どういう身分の存在なのか。

 その水属性の適正と身体能力は、どうやって手に入れたのか。

 だがそれは、結局のところレンの魅力を引き立てるスパイスでしかない、ともアイナは思う。

 

 レンは自由なのだ。

 かつてアイナが捨ててしまった夢を、何喰わぬ顔で叶えてしまうような。

 それでいて本人は至って自然体、「水属性がこの世界で最強であることを証明する」なんて、どこまで本気かわからないことを言っている。

 だからこそ、アイナは憧れてしまった。

 否、アイナだけではないだろう。

 レンと関わった多くの人物、マオ達子供達は言うまでもなく、見方を変えればルベンすらレンは魅了してしまった。

 

 何より、薬草採取の際に「水で魔力を反応させ、薬草を採取し、更には地面に水を含んだ魔力を満たすことで薬草の成長を促進させる」というやり方は、完全に盲点だった。

 アイナにとって、そして多くの人々にとって水属性魔術とはただ水を生み出すだけのもの。

 あまりにも不人気であるが故、研究がほとんどされていないのだ。

 もし、そんな水属性の地平をレンが切り開いてくれるなら。

 アイナの捨ててしまった夢も、報われるのだろうか――

 

 果たしてレンは、これからどのような道を進んでいくのか。

 いつしかアイナは、目が離せなくなってしまっていた。




お読みいただきありがとうございます。
水属性で強くなりながら、周りを焼いてく感じのお話です。
よろしくお願いいたします。
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