水属性こそ異世界にて最強と証明したいTS転生者 作:うん、でねー?
ウサギ討伐は上手く行った。
子供達が一人につき二匹分捕まえて、更に私が逃げたウサギを結構な数捕まえられるくらい上手く行ったのだ。
これがまぁ、今暮らしている宿に泊まった上で、更に貯蓄ができるくらいの報酬になる。
子供達も七等級並の報酬が手に入ってうっはうはだ。
とにもかくにも、複数人で獲物を追い立てられるのと、水場で一気に獲物を集められるのがよかったらしい。
ただ残念だったのは水魔術を使った水場の作成によるミコスラビットの狩猟はあまり現実的ではないらしい。
Cランクの水属性適性があるアイナでも、私ほどの大きな水場は作れないそうだ。
ただ、足場をぬかるませて簡易的な罠にするというのは、悪くない発想だそうな。
実際土属性魔術にそうやって足場を悪くさせる魔術があり、間接的だが同じことができるだろう、とのこと。
これくらいなら誰かがやってても良さそうなものなんだけど、本当に水属性は研究がされていないんだなぁ。
まぁ、これだけやっても他属性の代替にしかならないのが、悪いところがあるきもするが。
さて、この世界にやってきてそろそろ二週間が経とうとしている。
これは冒険者の研修期間である二週間が経過し、私が第七等級に昇格できる日が近いということだ。
で、今日は雨が降った。
水属性魔術師としては、雨の存在を喜ぶべきなのかもしれないが、現代人にとって雨は憂鬱なもの。
こんな日にわざわざ冒険に出る必要もない、ということで思い切って今日を休みとすることにした。
異世界にやってきて二日目の休みだ。
ちなみに一日目は、宿で男に襲われた次の日に、次の宿を探すためにとった休日である。
完全に丸一日フリーというのは、今日が完全に初めてということになるな。
といっても、異世界には娯楽が少ない。
やることがないので、結局ギルドにやってきてしまうわけだが。
なにせここには資料室がある、資料を読んで一日を潰すのも悪くないと思ったのだ。
「あ、レンさんこんにちは。今日は雨なのに仕事? 熱心だね」
「いえ、雨なので休みです。資料でも読んで退屈を潰そうかと。ほら、見ての通りいつものドレスも着ていません」
「あ、質素な冒険者の装いだ。それも似合ってるじゃん。……っていうか、そうやって普通の冒険者の装いもするなら、別にあのドレスいつも着てなくていいんじゃない? 目立つし」
「アレは一種の魔道具のようで、アレを着ている時と着ていない時で出せる能力が四割かわってくるようなのです」
水魔術に関しては特に服を着ていても着ていなくても変わらないのだが、身体能力に関してはかなり顕著だ。
目立つことを嫌って普通の服を着るか、フルスペックが出せなくて遅れを取ることを嫌うか。
どっちを選ぶか考えた時に、小心者の私としては後者の方がマシだと考えた。
それに、あの服は着心地が本当にすごくいいのだ。
見た目に反して、普通の寝間着よりよっぽど過ごしやすい。
男を安宿で迎撃した時も、あの服を着てたくらいだからな。
「あの服には自動修復もあるので、ずっと着続けていてもいいのですが、流石に洗わないのは精神衛生上よくないので、こうして休日に洗濯をしています」
「雨なのに」
「生活魔法があれば、簡単に乾かせますから」
「私は着心地がよくなるから、おひさまで干したいけどねぇ」
ギルドには雨だからか人が少なく、時間も意図的にピークからずらしてきているので、職員と冒険者がこんな風に雑談していても怒る人間はいない。
というか、私達以外もなんとなーく緩い雰囲気が流れていて、ギルド職員同士も雑談していたりする。
私はそんな緩いギルドホールから、奥の資料室へと足を向ける。
アイナと昼は一緒にギルドで食べようという話になって、それを了承してから別れを告げた。
さて、今日は何を読もうかな。
◯
資料室で、色々と情報を漁っていく。
今日は主にこの世界の神話に関する話。
ぶっちゃけ、情報としての優先度は低い。
というのも古代の神話が直接今の生活に関わってくることはそうそうないし、私自身そこまで情報として魅力を感じていないのだ。
代わりに、純粋な読み物として楽しんでいる。
こうやって休日を使って、適当に読む分には良い読み物と言えるだろう。
「この世界は、光と闇、二つの側面を持つ創造神によって作られた……」
曰く、その創造神はまず精霊と呼ばれる眷属を作った。
この精霊は属性ごとに分けられ、火とか氷とか、土とか風の精霊がいる。
光と闇の精霊は居ない、神がそれを兼任しているからだ。
で、精霊たちは各々に生命を誕生させていく。
中でも人類種――エルフやドワーフなどのファンタジー種族を含む、この世界の人類全体を指す――と魔物は創造神が作ったらしい。
人類種はこの世界の主役であり、魔物は人類種にとっての試練。
ちなみに、ミコスラビットは魔物ではない、普通の動物だ。
魔物とは体内に魔石と呼ばれる特別な器官を有する生物を指す。
逆に人類種は、スキルを有していて他者とコミュニケーション可能な存在をまとめて人類種と呼ぶそうな。
「まぁ、ありがちと言えばありがちですが……魔石ですか」
魔石は、この世界の文明を支える非常に重要な存在だ。
資料室である程度本を読み漁っていると、アイナが昼食にしないかと声をかけてきたので、それを了承して一階に降りる。
で、食堂にもなっているホールで食べ物を頼んでから、天井に浮かぶ魔石の存在に目を向けた。
「この世界には、ありとあらゆる場所に魔石が存在していますね。天井の照明とか」
「魔物の魔石を、いろんな方法で加工するんだよね。そして魔力を通すか、生活魔法を魔石に行使することで効果を発揮する」
「生活魔法も便利なものですね。炊事洗濯掃除、この世界の衛生面をほぼすべて担っているといっても過言ではありません」
「この世界って……相変わらず大げさだなぁ、レンさんは」
アイナと、そんなことを話しながら出てきた料理を食べる。
パンとサラダとスープとミコスラビットの焼肉。
特にサラダには特製ドレッシング、ウサギ肉にはソースがかけられていて大変美味だ。
この世界の文明レベルは見た目以上に高く、食事に関しても前世とそう味になんら変わりがないくらい美味しいものが出てくる。
それもこれも、着火の生活魔法を使えば、後は前世のコンロ並の性能を発揮する火の魔石などのおかげだ。
「レンさんって、本当に不思議な人だよね。まるで本当にこの世界の人じゃないみたい」
「そうですね……まぁ、詳しく詮索しないでいただければ」
「解ってるよ。レンさんがいい人だっていうのは、これまでの付き合いで解ってるもん」
アイナやマオには、私が世間ずれしていることをあまり隠していない。
特にアイナは、私がこの世界の通貨の単位すら知らなかったことも、把握されている。
それでいて、こうして流してくれるのだから、私は本当にいい出会いに恵まれたものだ。
感謝しなくては。
「ただ今回、神話について調べていて……一つ気になったことがあります」
「気になったこと?」
「……水の精霊に関する記述が存在しないことです」
どことなく、そう口にして気持ちが沈む。
まさかこんなところですら、水属性差別を受けるとは思わなかった。
魔術に関する属性は、すべてそれを司る精霊が存在する。
火であればサラマンダー、土であればノームといった具合に。
だが、水に関する精霊だけは、記述が見つからなかったのである。
「ああそれね、私昔大きいギルドの資料室で調べたことがあるんだ」
「アイナも水属性に適正がありますからね」
「そうそう、で、解ったんだけど……」
そうしてアイナは、なんとなく気落ちした様子で告げた。
「……名前が、忘れ去られてるんだって」
私もアイナも、ある意味水属性の申し子みたいなスキル構成をしている。
そう考えると、基盤となる水属性の精霊の名前が忘れられているというのは、何とも悲しくなってしまう事実だ。
ちょっと「そもそも水属性の精霊は存在しない」とか、そういう理由で特別だったりするんじゃないかとか考えてワクワクしてたけど、残念ながらそういうわけではなさそうだ。
少しがっかりである。
――が、実際のところはどうなのか、このときの私達にそれを判断する材料は残念ながらないのであった。
世界観説明に見せかけたフラグ回みたいな……