水属性こそ異世界にて最強と証明したいTS転生者   作:うん、でねー?

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9 これは、やるしかないかもしれませんね

 オークを倒してから、森の奥を観察しつつ考える。

 この森は、ミコスの街から離れた場所にある森だ。

 私が出てきた森ではない。

 アレはこことは正反対の場所にある「ディネス大森林」と呼ばれる森らしい。

 森全体の魔力に他とは違う特殊な作用があり、魔物が寄り付かない上に入った人間を迷わせるという。

 未帰還者が多く出る上に実入りも悪く、そもそも行き来に数日かかることで人は殆ど寄り付かない。

 

 対するこちらは「ミコスの森」。

 ミコスの街から歩いて数時間、ゴブリンをはじめとしたそこまで強くない魔物が適度に生息している。

 採取できる素材や、出てくる魔物の質の関係で新人冒険者向けの森として有名だ。

 六等級の冒険者が五等級冒険者の先導を受けながら、ここで実力を磨くのがミコスにおける鉄板らしい。

 そして、五等級になったら今度は街の外れにあるダンジョンに潜る……と。

 

 何にしても、一つ言えることはこの森にオークなんて出てこないということだ。

 オークは本来五等級の冒険者が、パーティを組んで相手する魔物である。

 言うまでもなく、こんなのが初心者向けの森に居たら危険すぎるぞ。

 しかもアイナから何も情報がなかったってことは、これは本当に直近で発生した異変ということだ。

 

 ただ、おそらくオークはまだ他の冒険者には発見されていないのだろう。

 もし森でオークが発生していれば既に騒ぎになっていてもおかしくない。

 時刻は正午前、冒険者は結構な数森に入っているはずだ。

 それでもなおオークが発見されていないのは、まず私のいる場所が結構森の奥側であるということ。

 ひと目につくのを嫌って、奥の方に陣取ったのだ。

 そして何より――

 

「朝早くからここで魔力を発生させてたことで、魔物はこっちの方に意識を向けてたのでしょうね」

 

 私の存在が、オーク達をこちらに惹きつけていた。

 何しろ、これまた人目につかない時間帯からここに居座っていたのだ。

 先程からひっきりなしに現れていたゴブリン達は、おそらく偵察。

 オークを始めとした本隊の――

 

「……これは、やるしかないかもしれませんね」

 

 私は、再びくぼみに水場を生成した。

 今度はさっきよりも更に魔力を水に込め、極上の”餌場”を形成する。

 こうすれば、発生した魔物はすべてこちらにやってくるだろう。

 それ以外の魔物もやってくる可能性はあるが、はたして今の森に”それ以外”の魔物なんて存在するのか。

 まぁ何にしても、やるべきことはきまっていた。

 

「先程、軽く練習しておいて、本当に正解でしたね」

 

 やってくる魔物は、全部倒そう。

 そうすれば私の六等級昇級への道も、大いに開けるはずだ。

 

 

 ◯

 

 

 やってくる魔物の大半は、ゴブリンだった。

 サイズは大小様々で、中にはオーク並のサイズではないかというゴブリンもいる。

 ゴブリンの場合、サイズはそのまま強さだろう。

 とはいえ、オークではない。

 そもそもゴブリンもオークも、そこまで動きは俊敏ではないから倒すことに苦労はしないのだ。

 というわけで、私はやってくるゴブリンを大量に倒していた。

 

 ……拳で。

 

 いや、違うのだ、聞いてほしい。

 最初は水魔術で倒すつもりだったのだ。

 水弾による溺死は、他の魔術に見劣りしない殺害方法である。

 しかし、ゴブリンはそれに抗った。

 というか、ちょっと呼吸ができない程度では死なない程度に頑強だったのだ。

 これはまずい。

 中には水を吐き出して、こっちに反撃しようとしてくるゴブリンもいた。

 間髪入れずに水魔術を叩き込んだけど。

 

 ただ、それでも問題があった。

 数が多すぎたのだ。

 今の私は、ぶっちゃけ戦闘技術は素人である。

 自動反撃と直接相手を攻撃しても動揺しないメンタルのおかげで何とか戦えているものの、水の操作技術には発展の余地があった。

 一体に精密な水弾を放つならともかく、十体以上を同時に相手するとなるととてもじゃないけどムリ。

 一撃当てれば傷を作ったりできる他の属性なら、まだ適当にぶん回しているだけで強いのだろう。

 しかし水属性は精密に頭へぶつけないと効果がない。

 本当に、なんというか。

 ……水属性が不遇な理由が解ってしまう光景だった。

 

 ただまぁ、それでも水魔術には使い道がある。

 私は相手を飲み込める大きさの水弾を作ることにした。

 コレをぶつけると、相手は流石に足が止まるのだ。

 そこへすかさず私が接近。

 拳でとどめを刺す。

 

 この巨大水弾の利点は、向こうがこちらに近づきにくくなるという点もある。

 なにせ当たればそのまま呑まれて身動きがとれなくなるのだ。

 ただ、これだけでかくても魔物にトドメをさせ無い時がある。

 オークが私の全力の拳を受けてもギリギリ生きている世界、生命の耐久力が前世とは違いすぎるのだ。

 拳でちゃんと始末しておかないと、足元を掬われるかもしれない。

 逆に、拳を叩き込んでから溺死でトドメを刺すこともある。

 そんなことをしているうちに、魔物は少しずつ数を減らしていった。

 

「後は……」

 

 やがて、最後に私は森の奥を見る。

 そこから――重く響く地響きが聞こえてくるのだ。

 何かがくる。

 おそらく、この魔物の群れの総大将。

 ボス、というやつだ。

 

「……オーク……いや、でかいですね!」

 

 現れたのは、今までよりも更に強大そうなオークであった。

 全長は数メートルを優に超え、見上げないとその顔が覗けない巨体である。

 体は完全に黒に染まり、闇属性という雰囲気を醸し出していた。

 まず間違いなく、オークの前にハイとかグランドとかの単語がつくタイプのオークだ。

 群れを従えているあたり、ジェネラルオークとかだろうか。

 間違えていると恥ずかしいので、とりあえず黒オークとしておく。

 

 黒オークは吠えると、一気にこちらへ向けて突進してきた。

 早い、これまでのオークとは比べ物にならない速度だ。

 だが、対抗できないほどではない。

 私は横っ飛びをしてオークに轢かれないようにしつつ、突撃。

 全力でオークに拳を叩き込む。

 

 瞬間、オークは痛みに咆哮しながらこちらを見た。

 ――倒しきれない!

 慌てて距離を取る。

 効いていないことはないだろうが、一撃で倒せなかった。

 コレまでになかった展開だ。

 とはいえ、全力の一撃がオークを一撃で吹っ飛ばせなかった時点で、格上相手にはまだまだ私のパワーが足りていないのは想定然るべき。

 然るべきではある、のだが。

 

「まさかこんなに早く現れることもないでしょうに」

 

 一言こぼしながら、私は構え直す。

 少し考える、こちらと向こうの戦力差について。

 普通に戦えば、おそらく低くない確率で勝てるだろう。

 しかし、確実ではない。

 何より、私は一発受けたダメージを耐えて戦闘ができるのか?

 より、確実な方法を考えるべきだ。

 

 ――いや。

 

 方法は考えてある。

 というよりも、ずっと命題としてきたじゃないか。

 この隔絶した身体能力に対し、水魔術に一体どんな利点があるのだろう、と。

 水属性は、異世界にて最強でないとならないのだ。

 だというのに、私にはそんな水魔術よりも便利で有用な能力――身体能力がある。

 それでは困る、水魔術の有用性を証明できない。

 かといって、身体能力を頼らないのも論外だ。

 便利に使えるものを使わずに縛りプレイができるほど、人生というクソゲーは甘くない。

 何より私はいい生活を送りたいので、わざわざこだわりで身体能力を縛りたくはないのだ。

 であれば、どうすればいいのか。

 

 今のままでは、水属性が身体能力の引き立て役にしかならない。

 私は水属性を使うファイターとして有名になってしまうだろう。

 だから、水属性の存在が有効であるとひと目で解る戦術を考えなくてはいけない。

 身体能力を、水属性の引き立て役にするのだ。

 すなわち――

 

「……行きますよ」

 

 私は拳を構え、腰を落とし、何時でも攻撃に移れる態勢に入る。

 そして同時に――

 

「水球」

 

 水(・)の(・)玉(・)を(・)両(・)手(・)の(・)側(・)に(・)浮(・)か(・)せ(・)た(・)。

 さぁ、まずはこの黒オークを水(・)魔(・)術(・)で撃退しよう。

 

 ――黒オークに迫る。

 相手の攻撃をかいくぐって、私は一気に飛び上がった。

 空中で、黒オークの顔面に向けて拳を振るう。

 拳が届く距離ではない、しかし拳の側に浮いた水球がその場で射出され――

 

「弾けてくださいっ!」

 

 黒オークの眼前で弾ける。

 するとどうなるか。

 水しぶきというのは、光を反射して白く煌めくものだ。

 今の時刻は昼、空には太陽がさんさんと照りつけている。

 その光によって、黒(・)オ(・)ー(・)ク(・)は(・)視(・)界(・)を(・)奪(・)わ(・)れ(・)た(・)。

 ソレだけにはとどまらない。

 視界を奪った水は、そのまま黒オークの顔面に叩きつけられるのだ。

 私は、ほぼそれと同時に拳を土手っ腹に叩き込む。

 

 黒オークの絶叫が響いた。

 

 反撃を飛ばしてこようとする黒オークに、私は更に水を生み出す。

 その水は、黒オークの放つ拳と激突した。

 致命傷には至らないが、拳の勢いは明らかに弱まり、私は悠々と距離を取った。

 

 そこからは蹂躙だ。

 黒オークのあらゆる攻撃を水弾でいなし、逆に水弾を頭部にぶつけることで視界と呼吸を奪う。

 この戦い方の良いところは、私の拳と水の動きが連動しているということ。

 直感的に、水をどう飛ばせばいいのか理解できる。

 手足の延長のように水を操るのだ。

 そうしていれば、黒オークはゆっくりと動きを鈍らせていく。

 何度も何度も水を顔面に浴びれば、呼吸ができなくなってしまう。

 呼吸困難により動きを鈍らせた黒オークとの戦いは、更に一方的になっていた。

 

 これこそが、私の考えた水属性の優位性と身体能力を組み合わせた戦い方。

 これの有効な点は、相手が生命であれば、呼吸をしていれば、どんな相手にも有効であるということ。

 威力が足りないのが水属性最大の欠点。

 だが、呼吸という現象は生命であればどうしても発生してしまう。

 私の拳が効かない相手でも、生きていれば、呼吸をしていれば――私は確実にそれを屠る。

 すなわちこの戦い方は――水魔術の真価とは、

 

 

 格(・)上(・)殺(・)し(・)。

 

 

 気がつけば、黒オークは動かなくなっていた。

 口からは大量の水をこぼし、たったまま呼吸という行為をやめていたのだ。

 私はしばらく、警戒しながら黒オークを観察する。

 奥から追加の黒オークがやってくる様子はなく、黒オークも動きを見せない。

 

「……終わりましたね」

 

 かくして、私は黒オークに勝利した。

 最後に巨大な水弾を生み出し、黒オークにぶつける。

 その勢いによって黒オークが地面に倒れ伏す音が、辺り一帯に響き渡った。




これじゃあ水属性魔術師じゃなくて水属性グラップラーよ!
使えるものは使うタイプなので使っているだけで、実際はもうちょっと水属性に頼った戦い方をしたいと思っています。

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