PokéDun LEGENDS 風来のイーブイ   作:ゲーマーN

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12F 奈落山峡

 ――シュテン山道初級 9F 奈落山峡*1

 

『⋯⋯階層を上がって早々に二匹。おまけにコイツらは⋯⋯!』

 

「ピジョンにリングマ⋯⋯熱烈歓迎ってとこかな?」

 

「ピジョン!!」

 

「グマァッ!!」

 

 雲から生えたかのように高く突き出た山々の先端。奈落山峡――その名に違わず、山と山の間にぽっかりと空いた切れ目の先では、計り知れない奈落が口を開けていた。雲海に阻まれ、谷底の景色は望めないが、見えないこと自体がこの場所の異常な高さを際立たせている。

 待ち構えていたのもピジョンとリングマ――どちらも進化形という、これまでの階層とは一線を画す高レベルなポケモンたち。ナタネ村の村人たちが諦めるのにも納得が行くというものだ。

 

「まずはピジョンから! コズエは”スピードスター”! コッパは――」

 

「ピジョオッ!!」

 

”でんこうせっか”

 

 ――ゴウッ! 指示を遮るように放たれた”でんこうせっか”。コズエも同じ先制技の”スピードスター”で迎え撃つが、ピジョンは強靭な肉体と有り余るタフネスでそれを正面から捻じ伏せ、そのままコズエに襲いかかる――

 

『させっかよ!』

 

早業

 

”こおりのつぶて”

 

 ――寸前。コッパの”こおりのつぶて”がピジョンの翼へ命中し、体勢を崩させる。技の中断とまでは行かなかったが、弱点タイプの技を受けた影響で飛行速度(スピード)が減衰してしまう。コズエが躱すには、十分な間が生じていた。高さの平均が0.4mのチルットの小柄な体躯と、1.1mのピジョンの大きさ(サイズ)の違いが、この場では有利に作用する。

 だが、安心してはいられない。コッパとコズエがピジョンを引き付けている間、フリー状態のもう一匹がハルトに牙を剥く。

 

「グマァッ!!」

 

 リングマ――とうみんポケモン。ヒメグマの進化形。進化前のぬいぐるみめいた愛らしい姿からは一変し、厳しい顔つきに逞しい巨体と猛獣としてのクマの面が強くなっている。見た目通り性格は非常に凶暴で、縄張りに入った余所者には誰であろうと襲いかかる。

 おそらく”きりさく”だろうか――鋭い爪が唸りを上げ、大上段から振り下ろされる。人間の体など容易に引き裂くその凶爪を、ハルトは――

 

「――っと!」

 

 モンスターボールを投げつけ、リングマを捕獲待機状態にすることで押し留める。当然ながら、これは単なる時間稼ぎ。ダメージや状態異常を与えたわけでも、不意をついたわけでもない一投で捕まえられるほど、リングマは弱いポケモンではない。

 けれども、一秒以上の隙を作れれば十分。リングマの入ったボールから距離を取りつつ、コッパとコズエに次の指示を飛ばす。

 

「コッパは力業”でんきショック”! コズエは”こうそくいどう”準備!」

 

『応ッ!』

 

「チルッ!」

 

 半円を描くように旋回してきたピジョンが、上空から獲物――否、敵を睥睨する。リングマとの獲物の奪い合いという意識を、縄張りに侵入してきた敵の排除へと切り替え、研ぎ澄まされた眼光で間合いを測った。

 地を這う獣に空を飛ぶ翼はない。唯一の同胞たる雲竜の幼体(チルット)は取るに足りない格下だ。氷の獣(グレイシア)の手が届かない遠方(そら)から、一方的に攻め立てればいい。

 

「ピィィィジョオオオオッ!!」

 

 ”かぜおこし”――翼を羽ばたかせ、荒々しい風を巻き起こす。ひこうタイプの特殊技で最も威力が高い”ぼうふう”のそれには及ばないものの、コッパの”こおりのつぶて”を吹き飛ばし、”こごえるかぜ”を押し返すだけの風圧は備えている。Lv30にも満たないグレイシアの技範囲では対処不可能――グレイシアでは、だが。

 一旦イーブイに戻り、別の進化形へコッパは形を変える。体内に電気を溜め込み、吐息に混ざってバチリバチリと音を響かせるのは――サンダース。

 

「ダァァァッ!!」

 

力業

 

”でんきショック”

 

 一筋の雷光が、突風を貫く。いかに俊敏なピジョンといえど、技を放った直後では回避行動に移るまでに、どうしても遅れが出てしまう。ましてや、想定する余地すらなかったでんきタイプの技だ。空を飛べるという自らの優位性を過信していたピジョンに躱せるはずがない。

 

「ピジョオオッ!!?」

 

 直撃――動けなくなるほどのダメージではないものの、もはやピジョンに戦闘続行の意志は残されていなかった。痺れて自由が利かなくなった翼を必死に動かし絶壁の下へと逃げていく。

 

「――グ……マァァァ……グマァァァァァァッ!!」

 

 一方、モンスターボールによる拘束を力尽くで振りほどいたリングマは、その鬱屈を吐き出すように憤怒の咆哮を轟かせる。この様子だと、二度目の足止めはまず失敗すると考えるべきだ。

 モンスターボールでの捕獲は全ポケモンに共通する小さくなる習性を利用しており、本能に「自分が衰弱状態にある」と勘違いさせることで自分からボールの中へ逃げ込ませる。なので、失敗を繰り返して本能が慣れてしまえば、「自分はまだ元気だ」と実際に弱るまでボールに入らなくなってしまう。ポケモンが落ち着くのを待つか、HPを削りきって瀕死状態にするしかない。

 

「⋯⋯来る!」

 

 ドシン、ドシンと鈍い衝撃が連なり、踏み込むたびに土埃が跳ね上がる。体重を前に乗せ、地を蹴り一気に加速する。リングマは”とっしん”を覚えられるポケモンだが――技としての”とっしん”にせよ、そうでないにせよ、100kgを超えるリングマの巨体から繰り出される突進は、それだけで十分に脅威だ。

 逃げ道を押し潰すように迫り来る猛獣を正面から見据え、ハルトは――冷静に、一言。

 

「――今!」

 

「チルッ!!」

 

”こうそくいどう”

 

『オラァッ!!』

 

力業

 

”にどげり”

 

 イーブイの進化形は軒並みチルットの倍以上の体格を持つ。進化状態では負担が大きいため、再度退化してからコッパはコズエの上に飛び乗り、”こうそくいどう”の勢いを借りた全力以上の”にどげり”を、リングマの鼻先へと叩き込む。

 互いの速度も相まって、衝突点に集約された力は尋常なものではない。いくら体力自慢のリングマといえども衝撃に耐えきれず、後ろに大きく仰け反り、二、三歩とたたらを踏んで――

 

「コズエ、”チャームボイス”!!」

 

「チル、チルル~♪」

 

 ――甲高く伸びる魅惑の歌声に残された意識を絡め取られた。まるで糸が切れた人形のように力なく膝をつき、どさりと音を立てて倒れ伏す。目を回してリングマは完全にダウンしていた。

 

「ふう⋯⋯お疲れ様。これでひと安心――」

 

「ヘルッ!!」

 

「――じゃ、なさそうだね」

 

『おかわりは頼んでねぇんだけどな、ったくよ……』

 

 ようやく落ち着ける――ハルトたちがそう思ったのも束の間、隣の山から吊り橋を渡ってきたのはヘルガー。ダークポケモンという非常にややこしい分類に属する犬型のポケモンだ。

 ドーベルマンに似た細く靭やかな体躯は漆黒に覆われ、背中には肋骨状の、胸には髑髏のような外骨格を持つ。本来犬耳がある場所には大きく反り返った角が生え、長く伸びた尻尾の先端は尖った三角形になっているなど、まさに悪魔を彷彿とさせる風貌をしている。

 

『⋯⋯たしか、ヘルガーはあくとほのおの複合タイプだったよな。ならオイラはシャワーズで行くとするか。おっしハルト、これ以上おかわりが来る前にさっさと片付けちまおうぜ』

 

 多少Lvが上でも相手が1匹だけなら苦戦することはない。接近されるまでは”スピードスター”でダメージを蓄積させ、敵の攻撃前に弱点タイプの技で畳みかけるというシンプルな戦術。自由に進化、或いは元のイーブイに退化できるコッパの特性”しちへんげ”を用いたいつもの戦い方で、付け入る隙を与えぬまま押し切り、消耗らしい消耗もなくヘルガーを追い払う。

 そうして、新たな強敵の出現と連戦に若干の疲労感を覚えながらも、そこらへんに落ちていたばくれつのタネを拾ってから、この第九階層を探索すべく一行はゆっくりと歩き出した。

 

「リキッ!」

 

「ハリテ!」

 

「ヒノー!」

 

 ゴーリキー、ハリテヤマ、ヒノヤコマ。あくまで体感や進化レベルからの判断だが、第七・第八階層のポケモンがLv20~25程度なのに対して、第九階層のポケモンはLvが26~30ほどはある――というのが、ハルトの見立てだった。

 おまけに、たった四部屋しかない階層にもかかわらず、二度もメタモンと遭遇している。一度目は木に、二度目はぼんぐりに擬態しており、不意打ちを仕掛けようとしてきた。不幸中の幸いと言えるのは、やはりメタモンは”へんしん”以外の技を覚えないのが普通であり、無尽蔵の滝で捕獲した”すいへいぎり”を覚えた個体が例外だったと判明したことだろうか。

 

「くろいろたまいしが6個も……! ヘビーボールにするか、それともギガトンボールを作るために取っておくか……うーん、これは悩ましいなぁ……」

 

 収穫も少しばかり。ギタン袋二つで合計約200ギタンを回収したのを除けば、大きなリンゴが1個と、くろいろたまいしが6個まとめて落ちていた。

 くろいろたまいしは、ちゃぼんぐりと組み合わせることでヘビーボールを作成でき、そこに鉄の欠片を追加すれば上位版のメガトンボールになる。さらにちゃぼんぐりを1個、くろいろたまいしと鉄の欠片を2個ずつ使えば、最上位のギガトンボールにも加工可能だ。

 すぐにでも捕まえたいポケモンがいるわけではないが、先んじてヘビーボールを用意しておくのも有りだし、ギガトンボール製造のために各種素材を貯めておくのも選択肢のひとつだろう。

 

「いよいよ次は第十階層――もうそろそろ、山頂に到着してもおかしくないと思うけど」

 

『だな。じゃ、ちゃっちゃと次の階に進んじまおうぜ!』

 

「チルチルッ!」

 

 

 

 ――シュテン山道初級 10F 奈落山峡

 

 そして、辿り着いた第十階層は、異様な空気に包まれていた。生態系の頂点が住み着くがゆえ、ボスフロアなどと呼ばれるダンジョン最奥部特有のだだっ広い空間ではない。第九階層同様の通常階層だというのに、ポケモンの気配が微塵も感じられなかった。まるでここに暮らすポケモンたちが何かに怯え、息を潜めているかのように……。

 

『⋯⋯なんだかよ、妙な胸騒ぎがするぜ』

 

「⋯⋯うん、僕も嫌な予感がする」

 

「チルゥ……」

 

 一歩、また一歩と、最初の部屋の中央へ向かってハルトたちが歩みを進めると――

 

「エアァァァァァ――――――ムドォォォ!!」

 

 崖下より飛来した影が、第九階層から続く吊り橋を銀色に輝く翼で両断する。上空で身を翻し、淀みなく舞い降りてきたのは、頑丈な鋼の鎧に身を包む鳥形ポケモンだった。曲刀を重ねたような片翼四枚の羽は鋼色を帯び、下三枚の内側だけが赤くなっている。大振りのナイフのような尾羽根と、頭頂部の一本角が特徴的なポケモン。その名は――

 

『エアームド!? だが、コイツのデカさは⋯⋯!?』

 

「――オヤブンエアームド⋯⋯!!」

 

「エアァァァ――ッ!!!!」

 

 ――オヤブンエアームドが 襲いかかってきた!

*1
【推奨BGM:天馬峠】風来のシレンより




ハルトの手持ち
・コッパ  (イーブイ)  Lv27 → 29
・コズエ  (チルット)  Lv15 → 18
・メタモン         Lv20

持ち物
・大きなリンゴ
・しゅんそくのタネ
・ばくれつのタネ
・ばくれつのタネ
・オレンの実
・オボンの実
・分身の巻物
・土
・木
・ほぞんの壺[5]:A
・ほぞんの壺[5]:B
・ほぞんの壺[6]:A
・モンスターボール×48 → モンスターボール×47

ほぞんの壺[5]:A
・リンゴの芯
・モモンの実
・モモンの実
・クラボの実
・ちゃぼんぐり×16

ほぞんの壺[5]:B
・くろいろたまいし ×6
・空き
・空き
・空き
・空き

ほぞんの壺[6]:A
・大きなリンゴ
・しゅんそくのタネ
・ワープのタネ
・バクスイの巻物
・バクスイの巻物
・たまいし×9

シュテン山道初級9~10F 奈落山峡
・ピジョン
・サンドパン
・ゴーリキー
・ドードリオ
・メタモン
・グライガー
・リングマ
・ヘルガー
・ハリテヤマ
・マネネ
・ガントル
・ワシボン
・ヒノヤコマ
・ゴーゴート
・オンバット
エアームド
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