PokéDun LEGENDS 風来のイーブイ   作:ゲーマーN

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【OPテーマ:花天、乱れ咲く】あやかしランブル!より


プロローグ
1F 鳥達を運ぶ風のように


 ――???

 

 白と青の縞合羽に三度笠を身に着けた少年が木々の合間を進んでいく。その背を追うのは、四足で歩き、ウサギのように長く伸びた耳を持つポケモン――イーブイ。エスパータイプのエーフィに進化しているわけでもないのに、イーブイはテレパシーで先を行く少年に語りかける。

 

『⋯⋯ハラ、減ったなぁ。最後にご飯食べたの⋯⋯いつだっけ?』

 

「覚えてないや。ダンジョン攻略中に食べたリンゴが最後だったと思うけど⋯⋯」

 

『オイラ、もうひっくり返りそうだよ⋯⋯』

 

 ふと、少年の耳に水の流れる微かな音が届いた。イーブイもそれに気付いたようで、少年の隣に並び、音のする方角へ目と耳を向ける。音の調子からして、然程激しい流れではなさそうだ。

 

『お、川だ。ここを越えれば、食いもんにありつけるのかなあ?』

 

「どうだろうね⋯⋯とりあえず行ってみようか、コッパ」

 

『おう! 頑張っていこうぜ、ハルト!』

 

 ハルトと呼ばれた少年は、三度笠の下から顔を覗かせ、柔らかく笑みを浮かべた。対して、イーブイのコッパも空腹を忘れたかのように元気に鳴き声を上げる。一人と一匹は、意気揚々と水場へ歩を進めた。

 

 

 

――1F 小さな谷

 

 件の川には小さな島を思わせる石の足場が点在しており、古びた木製の吊り橋がそれぞれを繋いでいる。水のせせらぎが足元から聞こえ、陽光は水面に反射して吊り橋の影を揺らしていた。

 

「あっ、あれは⋯⋯」

 

『こいつは幸先が良いぜ! ダンジョンに入ってすぐオレンの実を拾えるなんてよ!』

 

「だね。これで少しは食い繋ぐことができそうかな」

 

 ほっと息をつく。オレンの実は、ミカンに似た見た目をした青い木の実で、味も悪くはない。それだけで満腹になるようなものではないが――これ以上なく空腹の彼らにとっては、たった一個でも有り難く、十分過ぎるほどに価値のある拾い物だった。

 

『ま、今はここを抜けるのが優先だな。安全なとこでゆっくり食べようぜ』

 

「そうしよっか。ちょうどそこに、次の階層に続く階段もあるし」

 

 ハルトが視線を向けた先には、足場同士を繋ぐ橋の中でもひときわ長いものが架かっていた。運の良いことに、ダンジョンへ入ってすぐの場所に食料と階段の両方が揃っていたのだ。

 因みに、ここで言う”階段”とは次の階層へと進むための通路の総称を指す。それは必ずしも文字通りの階段とは限らず、裂け目や吊り橋、或いは崖下・崖上へと続く自然の坂道などというのも珍しくはない。

 

「⋯⋯にしても、ここまで分かりにくい階段も珍しいよね」

 

『だよなあ。行き先が外に伸びてる以外は、殆ど他の吊り橋と変わらないしよお』

 

 この程度の高さなら、落ちても死にはしないが――水に濡れるのは避けたいところだ。足を滑らせないように、一歩一歩木の板を踏みしめて渡っていく。およそ一分ほどをかけ、ハルトとコッパは無事に次の階層へと辿り着いた。

 

 

 

 ――2F 小さな谷

 

『おっ、今度はギタン袋が落ちてるぞ』

 

「どれどれ⋯⋯210ギタンか。子供のお小遣いってところかな?」

 

『ちぇっ、これじゃギタン砲の弾にもならないぜ』

 

 白地に赤で大きく「G」と記された袋を拾い上げる。中には銀色の硬貨が21枚。世界中に広く流通している通貨――ギタンだ。買い物に使うほか、ギタン袋は強力な投擲武器にもなり、10ギタンにつき1のダメージを与えられる。そしてギタン砲とは、このギタンを投げつける攻撃方法の俗称である。⋯⋯もっとも、200ギタン程度の威力では大したダメージにならないが。

 

「ま、無いよりはマシだよ。ほら、塵も積もれば山となるって言うしね」

 

『そうだな。⋯⋯っと、どうやら敵さんも現れたみたいだぜ』

 

「タチョ?」

 

 茶色い卵のような体に、縞模様の大きな尻尾を持つポケモン――オタチ。尻尾を支えに体を立たせて遠くを見渡す習性があり、敵を発見するなど危険を察知すると騒ぎ立てて仲間に危険を知らせるという。見慣れぬ姿に首を傾げたオタチは、次の瞬間、口を開いて大きく息を吸い込み――

 

「タッ――」

 

「コッパ! ”でんこうせっか”からの”にどげり”!」

 

『おうよ!』

 

 吐き出すよりも速く、まさに電光石火の如く飛び出したコッパがオタチを蹴り飛ばす。ノーマルタイプのオタチに、かくとうタイプの技は効果抜群だ。続けざまに二発目を容赦なく叩き込み、勢いのまま川底へと突き落とした。

 

『いっちょ上がりぃ!』

 

「うん、基本に忠実な良い立ち回りだったよ」

 

『へへんっ、どんなもんよ!』

 

 素直な賞賛を送ると、コッパは胸を反らせて得意げに鳴いた。敵に何もさせない――まさしく、戦いにおいて基本にして理想とも言える動きだった。半年前、出会ったばかりの頃はお世辞にも強いとは言えず、基本の「き」の字すら怪しい戦いぶりだったのだが、共に過ごしてきた時間の中で随分成長したものだと感慨深くなる。

 

「マリル!」

 

「リルル!」

 

「今度は2匹同時⋯⋯コッパ、次は自分の判断で動いてみようか」

 

『マリルだな。だったら、コイツはどうだい?』

 

 マリル――みずねずみポケモン。丸みを帯びた体からギザギザの尻尾が伸び、その先端にも球体が付いた、全体的に丸々とした容姿をしている。体色は水色を基調として、腹回りは白、耳の内側は赤。分類名の通り、みずタイプを主体とするポケモンであり、タイプ相性はでんき・くさ・どくの三つが弱点。知識は武器だ。そこまで把握できていれば、対処するのはそう難しくない。

 

『変化の術! からの――』

 

 先程同様、”でんこうせっか”で間合いを詰めたコッパの体が光に包まれる。首周りや腰の体毛が針のように逆立ち、全身に眩い雷光と黄色の奔流が駆け巡る。サンダース――イーブイの進化系の一つ。進化の石を使わずして自らの姿を変えたコッパは、まずは1匹目のマリルへと体の内側より溢れ出る電気を一纏めにして解き放つ。

 

『”でんきショック”だ!!』

 

「リッ⋯⋯!?」

 

 多くのでんきポケモンが覚える基本技。イーブイは決して覚えないその技が、ただ見た目がサンダースに変わっただけではないと、他の何よりも雄弁に示していた。弱点タイプの攻撃をまともに受けたマリルは、目を回してその場に崩れ落ちる。

 

「リルッ!」

 

”たいあたり”

 

 先に倒れ伏した仲間の仇を取ろうと、残ったマリルが怒りのままにコッパへと襲いかかる。勢いをつけて体当たりしてきたが、元のイーブイへ戻ったコッパは難なくそれを回避する。再びその身に光を纏い――

 

『”マジカルリーフ”っ!』

 

「――マリッ!?」

 

 今度は体の数カ所から緑色の芽のようなものを生やす、若草を思わせる姿に。その名もリーフィア。また別の進化形に転じたコッパは、何処までも敵を追跡する不思議な葉っぱを撒き散らす。もちろんマリルは避けようとするが――まるで意思を持つかのように、或いはエスパータイプに操られたかのように、避けたはずの木の葉が軌道を変えて戻り、背後からマリルを打ち据えた。

 

「技の選択は悪くない。進化と退化の流れも滑らか⋯⋯あとはLv上げかな? ”ほうでん”を使えるようになれば、今みたいに複数と戦うとき、だいぶ楽になるからね」

 

『おう! いろんなとこに行くためにも、今よりもっともっと強くならないとな!』

 

 

 

 ――3F 小さな谷

 

 威勢よく答えるコッパだったが、それ以降は野生のポケモンに出くわすこともなく、さらに階層を進んだ。どうやらここにはオタチとマリルしか生息していないらしく、時折現れては襲いかかってくるそれらを退けながら、一人と一匹は追加の食料と出口を探して歩き回る。

 

「すいみんのタネにばくれつのタネ、どっちも便利な道具なのは違いないんだけど⋯⋯」

 

『腹の足しにはならないしなぁ』

 

「『⋯⋯はぁ』」

 

 ため息と共に肩を落とす。食べれば眠ってしまうすいみんのタネと、口にすれば正面に爆風を吹き出すばくれつのタネ。確かに役立つ場面は多いが――いかんせん食いでがない。二人揃ってお腹を抱えたままトボトボと歩いていると、本日三度目となる階段が見えてきた。

 

「あれが出口だと良いんだけど⋯⋯」

 

 吊り橋を渡った先は、これまでとは様子が異なっていた。川岸に出ただけでなく、ダンジョンらしからぬ一本道が森の中へと続いている。⋯⋯ああ、やっと出られた。そう二人は胸の底から安堵の息をつき――

 

「ぽに! ぽにぽに⋯⋯」

 

 ――悲鳴のような声が聞こえた。

 

「今のは⋯⋯!?」

 

『この気配⋯⋯ポケモンが罠にかかってるんだ。助けてやろうぜ!』

 

 駆け寄れば、そこには鬼の顔を模した碧の仮面を被ったポケモンが、トラバサミに捕らわれていた。袢纏のように上半身を覆う衣と、鬼のような角が上下に二対ついた襟が特徴的で、その衣は濃淡の異なる緑を張り合わせたような模様を成している。⋯⋯ぽつり、とハルトはそのポケモンの名を呟いた。

 

「⋯⋯オーガポン」

 

『知ってんのか、ハルト?』

 

「うん。でも、今は早く助けてあげないと……ちょっと待ってね。すぐに外してあげるから」

 

「ぽに⋯⋯?」

 

 そう言って微笑みかけつつ、ハルトはオーガポンの足に噛みついたトラバサミの金具へと手を伸ばす。カチャカチャと慣れた手つきで弄り回し――ほどなく、重い金属音を響かせて口が開いた。

 

「大丈夫? ほら、オレンの実を⋯⋯」

 

 自由になった足を動かしてみたり、嬉しそうに動き回るオーガポンに、ハルトはさっき拾ったばかりのオレンの実を差し出す。それを受け取ったオーガポンは、仮面越しにじっとハルトの顔を見つめていたが――

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯!」

 

 ――突然、はっとしたように体を震わせると、脱兎の如く逃げ出してしまう。あまりにも唐突な反応にハルトたちが面食らっているうちに、オーガポンの姿は既に小さくなっていた。

 

『なんだあ? あいつは。せっかく助けてやったのに!』

 

「まあまあ。⋯⋯多分、何か事情があるんだよ」

 

『事情ねぇ⋯⋯分かった、行こうぜ』

 

 多分とは言っているものの、相棒の顔に確信の色を垣間見たコッパは、それ以上何も言わずに先を促す。去っていく二人の背を見つめていたオーガポンは、手元のオレンの実に視線を落とし、もう一度顔を上げて小さく鳴き声を漏らした。

 

「⋯⋯ぽにお」




登場人物紹介

名前  :ハルト
元ネタ :【救助隊DX】より『主人公』/
     【ポケ娘 不思議のダンジョン】
     【ポケモン牧場物語 再会のミネラルタウン】
     【Pokémon LEGENDS Realization】より『ハルト』
手持ち
・コッパ   (イーブイ)

名前 :コッパ
性別 :オス
種族 :イーブイ Lv25
タイプ:ノーマル
特性 :しちへんげ(何度でも自在に進化・退化できる特性)
元ネタ:【風来のシレン】シリーズより『コッパ』/
    【ポケットモンスターSPECIAL】より『ブイ(イーブイ)』
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