PokéDun LEGENDS 風来のイーブイ 作:ゲーマーN
「ヌンダア!!」
「”あなをほる”!!」
開幕はイイネイヌの守りを捨てた高速突撃――”インファイト”。威力120のかくとう技。ノーマルタイプのコッパでは掠っただけでも致命傷になりかねない剛腕の一振りは、しかし自らの巨体による小回りの利かなさと、イーブイの小柄な体躯、そして早業――威力と効果を犠牲にして技の出を早める技術――この三つの要素が噛み合い、地面へと潜ったコッパには届かなかった。
「イイネイヌはどく・かくとうタイプ! それにもしかすると、いわタイプも混ざってるかもしれない! エスパータイプとみずタイプの技を中心に、力業で立ち回るんだ!」
『了解!』
青髭が特徴的な厳しい鬼瓦のような面――いしずえのめん。あるポケモンに持たせるといわタイプが付与され、特性も”がんじょう”に変化する。イイネイヌはそのポケモンではないが、被っている以上はいしずえのめんの恩恵を得ている可能性が高い。これまでにも、幾度となくこの類の例外を見てきたハルトは、イイネイヌを三タイプ複合のポケモンと見做して戦術を練り上げていく。
「力業! ”みずでっぽう”!」
「ヌンダ!?」
地面の下から勢いよく放たれた水鉄砲が、イイネイヌの巨体を正確に撃ち抜く。イーブイの進化形の一つ、シャワーズが覚えるみずタイプの基本技――”みずでっぽう”だ。力業とはいえ、元の威力は決して高くない。にもかかわらず、イイネイヌは明らかに動揺した様子を見せた。弱点を突かれた衝撃――やはり予想通り、いわタイプを持っているのだろう。
双方向に繋げたテレパシーを通じてハルトの確信を読み取ったコッパは、地中で位置を変えながら次々とイイネイヌに”みずでっぽう”を撃ち込んでいく。無論、その全てが力業――先程の早業とは対を成す、行動速度と引き換えに威力・効果・命中を高める攻撃方法――で放たれている。
「ヌンダァ……ッ!!」
一撃一撃の威力こそ大したものではないが、こうも立て続けに撃ち込まれれば、イイネイヌの苛立ちも募るというもの。顔の周りを羽虫が飛び回るような不快感に耐えかね、力強く地面を蹴って高く飛び上がった。空中で体勢を整え、その身に纏うオーラの輝きは――
「!? コッパ!!」
「ヌンダァアァァァァ――ッ!!」
持てる力の全てを込めて突撃する大技――”ギガインパクト”。本来なら、あなをほる状態のポケモンに殆どの技は届かない。だがイイネイヌは、その衝撃を以て大地を震わせ、まるで”じしん”のように地下へと攻撃を及ぼしてみせた。もしほんの少しでも地上に出るのが遅れていれば、コッパは地盤ごと押し潰されていたかもしれない。
しかし――
「今!! 力業”サイケこうせん”!!」
『喰らいなァッ!!』
「ヌンダ⋯⋯!?」
大技には相応の反動が伴うもの。特訓次第でその反動を抑えることも不可能ではないが――少なくとも、このイイネイヌはまだその域に達してはいない。隙を見せた巨体へ向け、細く靭やかな体躯に二股に分かれた尾を持つエーフィへと姿を変えたコッパが、額の赤い玉を強く輝かせ、そこから集束させたサイコパワーの閃光を放つ。4倍弱点の力業、それを生物の絶対的急所の一つである瞳に撃ち込まれては、流石のイイネイヌといえども溜まったものではない。
「マッシ! マッシ!」
「キチャア!」
そんな雑魚に何をいいようにされているのか、と言わんばかりにマシマシラとキチキギスが騒ぎ立てる。実際、能力差を考えればイイネイヌが一方的に圧倒していてもおかしくはない。それがこれほど苦戦しているのだから、仲間たちの嘲りも無理からぬことだろう。屈辱と怒りを糧に拳を握り締めたイイネイヌは――
「ヌゥゥンダアアアアアアアッ!!」
あらん限りの声を振り絞って天を衝くように咆哮した。筋肉が分厚く膨れ上がり、体中から陽炎を思わせる闘気が溢れ出す。その間にコッパは改めて”あなをほる”で身を潜めていたが――ハルトを見据えたイイネイヌは、仮面の下でニヤリと口角を吊り上げた。
「ヌンダフル!!」
何も地上に何時出てくるかも分からないモグラばかりを狙う必要はない。もっと簡単に捻り潰せる獲物がすぐ傍にいるのだから。己の勝利を確信したイイネイヌが、再び”インファイト”の構えに入った――刹那、
「ふっ!」
前に一回転――ローリングで擦れ違うようにして、ハルトはイイネイヌの脇を軽やかに通り抜けた。直後、寸前までハルトが立っていた場所へ強烈な拳が叩きつけられる。本人でさえ、すぐには空振ったことに気付かぬほどの瞬間的な回避劇。だが、それで終わりではなかった。
「落とせ!!」
『応!!』
「ヌンダアァア!?」
足元が崩れ落ち、イイネイヌの巨体が腰まで地中に沈み込んだ。イイネイヌ本人の体重と怪力を逆手に取り、力業で掘り抜いた落とし穴に嵌めたのだ。さらにダメ押しに、ピンク色の幾重にも層を重ねたような形状のタネ――”すいみんのタネ”をイイネイヌの口めがけて放り投げる。怒号を上げていた最中に口内へ飛び込んだそれを、イイネイヌは反射的に飲み込んでしまい――
「ヌン……ヌンダ……ヌン……ヌゥ……」
「コッパ! 今のうちに、必殺技で一気に体力を削るよ!」
『ああッ!』
「『力業! ”ブイブイブレイク”!!』」
――コッパの 必殺技!
眠ってしまい完全に身動きを封じられたイイネイヌに向け、コッパが全力を解き放つ。ブイブイブレイク――トレーナーとの絆が強いほど威力を増すイーブイの専用技。ハルトとコッパは、わずか半年の付き合いながら、血の繋がりをも凌ぐ絆で結ばれている。力業との相乗で、本来の最高威力を優に超える一撃がイイネイヌの急所へと突き刺さる――!
「ヌ……ヌゥ……ッ、ヌンダ⋯⋯ァ⋯⋯!?」
体力を完全に削り切るまでには至らない――それでも、イイネイヌに深い痛手を負わせるには十分すぎる威力だった。目を覚ましたイイネイヌはどうにか落とし穴から這い出したものの、そこで膝を突く。マシマシラとキチキギスも馬鹿にしている場合ではないと気付いたようで、苦悶に呻くイイネイヌのもとへと駆け寄った。
「ヌンダ! ヌンダ!」
「マシキャー!!」
「キチキッチー!」
何を言ったのか。イイネイヌの咆哮を聞いたマシマシラとキチキギスは、即座にハルトとコッパを取り囲むようにして戦闘態勢を取った。⋯⋯それは、二人が最も恐れていた展開だった。頭に血が上りやすく、力押しに偏る荒くれ者のイイネイヌだからこそ、絶望的な能力差を覆して優勢を保てていた。しかし、頭脳戦や搦め手を得意とするマシマシラとキチキギスが相手ではそうもいかない。まして、格上相手に三体一となれば、そんなもの不利どころの話ではない。万事休す――ここまでか、とハルトが歯噛みした、その時だった。
「モモワーイ!」
「ヌン!?」
「シラ!?」
「キチ!?」
なぜか急に、イイネイヌたちは驚いたように動きを止めた。やがて「運の良い奴らめ、覚えていろよ」とでも言いたげに唸り声を上げると、他のポケモンたちを引き連れて一斉に踵を返す。
いったい何が――そんな疑問が胸に浮かんだものの、命拾いした事実に変わりはない。ハルトとコッパは、全身の力が抜けたかのようにドサリとその場にへたり込み――
「い、言い伝えは⋯⋯言い伝えはホントじゃったあっ!!」
「!?」
『な、なんだ!?』
「ババさま!」
「ババさま⋯⋯」
今度は、イイネイヌたちが去っていったのとは反対側から、怪しげな声が響いてきた。左右に割れて道を開けた村人たちの奥から、占い師を思わせる赤紫のローブを纏い、深くフードを被った老女が、桃の意匠を施した杖を頼りに現れる。彼女はハルトたちへと鋭い視線を向け――
「選ばれし者の予言⋯⋯『其の者、進化の獣を操りて、城を築き、この地を守るべし⋯⋯』。い、言い伝えは⋯⋯言い伝えは本当だったんじゃあ⋯⋯じゃああああああああああああ!!」
ハルトの手持ち
・コッパ (イーブイ) Lv25 → 26
チュートリアル戦闘
・ボスバトル
・早業・力業
・ローリング
・相棒わざ
名前 :――
性別 :オス
種族 :”鬼面の”イイネイヌ Lv70
タイプ:どく/かくとう/いわ
特性 :どくのくさり/ばんけん/がんじょう
持ち物:いしずえのめん
元ネタ:【風来のシレン2 鬼襲来!シレン城!】より『ガラハ』
【ポケットモンスター スカーレット・バイオレット】より『大きくなったイイネイヌ』