PokéDun LEGENDS 風来のイーブイ 作:ゲーマーN
「選ばれし者の予言⋯⋯『其の者、進化の獣を操りて、城を築き、この地を守るべし⋯⋯』。い、言い伝えは⋯⋯言い伝えは本当だったんじゃあ⋯⋯じゃああああああああああああ!!」*1
「「ババさまっ!!」」
がくっ。ひっくり返った老女を二人の村人が抱え、何処かへと運んでいく。え、今のなに? と困惑するハルトとコッパの前に、後退した白髪に口髭を蓄えた初老の男性が歩み出た。他の村人よりはいくらか豪奢――と言っても少し綺麗な程度だが――な服装をしているところからして、おそらくこの村の長なのだろう。
「旅のお方⋯⋯あなたが選ばれし者だとは⋯⋯」
「え、選ばれし者⋯⋯?」
「選ばれし者は、たった一人で城を作る定めなのです」
『な、なんだってェ⋯⋯!?』
滅茶苦茶にもほどがある話に思わず口を開けたが、村人たちは真剣そのものだった。どうやら冗談ではなさそう――どころか、その言い伝えとやらを本気で信じているらしい。その証拠に、ハルトたちの周りに集まる人々はざわざわと小声で囁き合い、期待と不安が入り混じった眼差しを無遠慮に二人へと向けている。
「どうかお願いです。村のために城を⋯⋯城を作ってくだされ」
村長らしき人物が深々と頭を下げると、村人たちの間から一人の若者が駆け寄り、必死の面持ちで懇願してきた。
「オレからもお願いだ。どうか城を⋯⋯城を~!」
「お願いです。城を⋯⋯」
「頼みます。お願いします」
一人、また一人と頭を下げる者が増えていく。最終的にはほぼ全員が頭を垂れ、「城を」と口々に唱え始めた。逃げ道はどこにもない。押し寄せる視線と声の圧に、まるでモンスターハウスにでも放り込まれたかのような息苦しさを覚えたハルトは――
「と、とりあえず⋯⋯詳しい事情を聞かせてはもらえませんか?」
――と言うのが精一杯だった。
☆*2
「それで、ここを襲ったポケモンたちはいったい⋯⋯」
「鬼の子分ですじゃ」
場所を移し、村で唯一ポケモンたちの手が及んでいない神社へ案内されたハルトとコッパは、村長から事の次第を聞くことになった。他の村人たちは先の襲撃で破壊された村の復興に奔走しているため、神社にいるのは三人のみ。静まり返った本殿にて向かい合い、ハルトは単刀直入に疑問の言葉を投げかけた。
「奴らはいつもやりたい放題やった挙げ句、帰って行きますのじゃ。鬼たちは皆、何も考えずに暴れまくるので、ほとほと困っておるんじゃよ。なのでせめて……せめてここに頑丈な石垣と立派な壁で作られた城があれば……」
『そんなのみんなで作ればいいんじゃないの?』
至極当然の問いに、村長は暗い顔のまま、しばし黙したのち首を横に振った。
「それがそうもイカンのじゃ。城の材料は山にあるんじゃが、ポケモンがいっぱいいてのう⋯⋯」
『ただのポケモンなんかにビビッててどうするんだよ。そんなだから――』
ゴロッ!!
『――ウワッ!?』
横合いからの不意の衝撃に弾かれ、コッパの体が勢いよく吹き飛んだ。何事かと思いきや、そこにはアルマジロのように体を丸めたポケモンの姿が。黄色いレンガ状の外皮――この特徴的な見た目は、と考える間もなく、そのポケモンはムクリと起き上がった。
「カジョ!」
「これ! マルえもん!」
『イテテテッ! なんだよ、コイツは!?』
「サンドの子供じゃよ。親とはぐれて山から下りてきたので、ここで飼っているのじゃ。まだワンパクでのう。ところ構わず、体当たりしまくるんじゃよ」
サンド――ねずみポケモン。身に危険が迫ると体を丸めて身を守る。そのまま転がることで砂漠を高速で移動する。また、乾いた皮膚は非常に硬く、高いところから落ちてもバウンドして衝撃を受け止められる。サンドの覚える”ころがる”が”まるくなる”状態で使うと威力が2倍になるのを考えれば、意識外からの攻撃だったとはいえ、それなりに戦闘経験のあるコッパが弾き飛ばされたのも、納得が行くというものだろう。
『迷惑だよ、もう⋯⋯イテテ』
「今のはコッパが悪いと思うよ。大切な家族を馬鹿にされたら、それは誰だって怒るでしょ」
『うっ⋯⋯そ、そりゃあ⋯⋯確かに⋯⋯すまねえ、オイラが悪かったよ』
反省の意を示すコッパを前にしてようやく満足したのか、マルえもんは身を翻し、ゴロゴロと音を立てて神社の外へと消えていく。全高二尺(約60cm)にも満たない小さな体から放たれたとは思えない猛烈な突進――同じポケモンであるコッパには共感しづらいかもしれないが、まさにそれこそが村人たちが山に行けない理由なのだと、ハルトは悟っていた。
「⋯⋯村の者では、マルえもんにも敵わんのじゃよ」
「ポケモンは怖い生き物ですからね」
「うむ。マルえもんや、村に住み着いておるニャースのように、人と友しく過ごしてくれるポケモンもいなくはないのじゃが⋯⋯多くは人間を獲物か邪魔者としか見ておらん。山にも強いポケモンが多くてのう⋯⋯」
村人たちとて、これまで何もしなかったわけではないのだろう。自らの手で城を築こうと山に挑んだ者も、一人や二人はいたはずだ。だがその度に――何度も何度も。幾重にも積み重ねた敗北と失敗の記憶が、彼らの心に根深いトラウマとして刻まれてしまった。いつの日か誰かがこの恐怖と苦痛から解放してくれる、そんな言い伝えを支えに待ち続ける日々の中で現れたのが――
「そんな折りにあなたが鬼の子分どもを追い払ってくださった。それも――言い伝えの通り、進化の獣を従えて⋯⋯」
――ハルトとコッパの二人組だったのだ。
「改めてお願いします。どうか⋯⋯どうか村のために城を作ってくだされ」
⋯⋯二人に、この頼みを引き受ける道理はない。一飯の恩義も、イイネイヌたちを撃退したことで十分に果たしている。そもそも、城作りなんてたった一人と一匹で成せるものではない。仮に協力するとしても、ポケモンの扱いに長けたハルトが山で城の材料を集め、それを村人たちが組み上げるというのが現実的な落としどころだろう。
だが――
『このお花、綺麗に咲いたのに⋯⋯』
小さな女の子――いや、村の全員が泣いていた。物理的に恵みを与えるのではなく、それを得る方法を教えるほうが大事なことくらい、重々承知している。けれど、このナタネ村には新しく何かをする時間がない。村の建物を再建するだけで、そのための資材を集めるだけで精一杯。必要だと分かっていても、それ以上の望みに手を伸ばす余力が残されていないのだ。
こんなにも助けを必要とする人々を見過ごすなど――ハルトには、どうしてもできなかった。
「⋯⋯分かりました。これも何かの縁、僕たちにできる範囲でですが、ご協力します」
『へっ、そう来ると思ってたぜ。ま、見て見ぬフリなんざ、オイラたちの性にゃ合わねぇしな』
「おお⋯⋯なんと⋯⋯なんと有り難いことじゃ⋯⋯」
村長は再び深々と頭を下げ、涙を滲ませながら感謝の言葉を紡ぐ。その姿には、ナタネ村全体の思いが込められていた。ハルトは小さく微笑み――場を和らげるように、あえて冗談めかした調子で付け加える。
「あ、でも衣食住の保証はお願いしますね。あとお風呂も。流石にタダ働きはちょっと⋯⋯」
「もちろんじゃよ。ワシが責任を持ってそちらは用意させていただきますぞ」
斯くして――ハルトとコッパは、鬼の脅威にさらされているナタネ村を救うため、”城作り”という名の壮大な冒険へ身を投じることになる。これは、彼らにとって初めての大きな試練であり、同時に、世界各地を渡り歩く長い旅の幕開けを告げる序章でもあった――。
ハルトの手持ち
・コッパ (イーブイ) Lv26