PokéDun LEGENDS 風来のイーブイ 作:ゲーマーN
『おい! ありゃ外の光じゃねぇか?』
第一・第二階層は新緑の森、第三・第四階層は竹林原野。シュテン山は二階層ごとに異なる顔を見せてきた。これまでの例に倣うのであれば、第五・第六階層を占める寂れた坑道の次に待ち受ける第七階層では、また、がらりと環境が変わるはずだ。
ようやく息苦しい暗闇の外に出られるとあって、歩こうとしても自然と早足になってしまう。山道の長い廃坑を抜けた先、そこは――
「外だ⋯⋯」
――木々が鬱蒼と茂る森だった。第一階層で見かけたポケモンの進化形、たとえばピジョンやキマワリが、この階層にいるのかなと考えるハルトだったが、それにしては様子がおかしい。森の中を歩くうちに気付いたが、ここは不思議のダンジョンではないようだ。ナゾノクサやキャタピーといった野生ポケモンはちらほら見かけるものの、こちらを遠巻きに眺めるだけで、襲ってくる気配がまるでない。どうにも人に慣れている節が随所から感じられた。
『まさか、もう山頂ってわけじゃねぇよな⋯⋯?』
「それはないと思うけど⋯⋯」
山の全体像を把握していない以上、断言はできないが――シュテン山ほどの高さであれば、最低でも山頂は九階を超えるはずだ。ひょっとすると十五階層近くあるかもしれない。いずれにせよ、たったの六階層で山頂というのは考えにくい。
とすれば、今いる森は中腹に当たるのではないか。長いダンジョンには中間地点が存在する場合がある。その推測を裏付けるように、ほどなくしてハルトたちは開けた場所へ辿り着いた。
――シュテン山 中腹*1
「キテレツな身なりですね。アナタ、面白いです!」
「!?」
いきなり声をかけてきたのは、青と黄色を基調とした服を身に着けた青年だった。胸元の白地には銀杏の葉の刺繍があり、上部に巻布を括り付けた旅用の背嚢を背負っている。その青年は爽やかを通り越して、どこか胡散臭い笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。
「はじめまして。ジブンはウォロ、イチョウ商会の者です」
「⋯⋯これはご丁寧に。僕はハルトと言います」
「ハルトさん。なるほど、良いお名前です」
差し出された右手を握り返すと、ウォロと名乗った男は満足そうに大きく頷く。握手を交わしながら――ハルトは、彼の腰ベルトに収まったモンスターボールへと視線を注いでいた。ボールの数は全部で6つ。今日日、6匹ものポケモンを連れているとは珍しい。
ウォロもまた、ハルトの連れ歩くコッパとコズエの2匹へ、興味深そうな眼差しを向ける。そうして手を離したあと、腰のベルトに手をやり――
「なんと! ポケモンをお連れとは⋯⋯実に興味深い⋯⋯! 珍しいヒト、モノ、コトを確かめるのは商人の性! どうです、お互いのポケモンで腕比べをするのは?」
――取り外したモンスターボールを軽く持ち上げて見せてきた。目と目があったらポケモンバトル、とは誰が言った言葉だったか。一人のポケモントレーナーとして、挑まれたバトルから逃げるような真似はできない。思考や逡巡もなく、ハルトはウォロの申し出を受け入れた。
「いいですよ。そのバトル、受けて立ちます」
「ますます好ましい! アナタ、とても面白いです!」
では、と案内された先は広場の中央に敷かれたバトルコート。騒ぎを聞きつけたのか、向かって右側の崖沿いに立つ建物から筋骨隆々の大男と、ハーフツインテールの小さな女の子がひょっこり顔を出してきた。
その傍には、顔つきが精悍なものとなり、髪の量が大幅に増え、まるでカヌチャンを大人に成長させたようなポケモン――デカヌチャンが寄り添っている。
「使用ポケモンは1体。ポケモンの体力⋯⋯HPが0になったら負けですよ。では景気付けに腕比べ開始~!」
――イチョウ商会の ウォロが 勝負をしかけてきた!*2
「さぁトゲピー、行きますよ!」
「トゲッ!」
「コズエ、君に決めた!」
「チルルッ!」
ウォロが繰り出したのは、はりたまポケモンのトゲピーだ。白地に赤と青の三角や菱形の枠状の模様が入った卵の殻を着込んだ丸い身体が特徴で、殻は頭部がある上部だけが割れ、短い四肢が飛び出している。
タイプはノーマル、またはフェアリーの単タイプ。姿や生態は同じだが、タイプが異なる亜種が存在するポケモンの一種だ。コズエ――チルットとの相性は、良くも悪くないと言っていい。
「コズエ!」
「トゲピー!」
「「”スピードスター”!!」」
互いの初手は”スピードスター”。正面からぶつかり合った星型の光弾は、瞬く間に無数の粒子へと砕け散り、雪のように淡く溶けていく。もし夜であったなら、さぞ幻想的な光景になったのだろうが――今はまだ昼。燦々と降り注ぐ太陽の輝きが儚い余韻をあっさり掻き消してしまう。
しかし、バトルに集中する二人の目には眩むような光さえも障害物とならない。対峙する相手の一挙手一投足を見逃すまいと全神経を研ぎ澄ませていく。
「(⋯⋯? あれは⋯⋯!?)」
トゲピーが両掌を鳥のくちばしのような形に取り、その構えのまま体の横までゆっくりと持っていき――そこで、手と手の間に集まる”それ”の気配に気付いたハルトは、目を見張りながらも、慌ててコズエへと指示を飛ばす。
「”チャームボイス”!!」
「チルルゥ~~♪」
「トゲェッ!」
コズエが美声を響かせるのと同時、トゲピーは体内の潜在エネルギーたる波導を練り込んで作り上げた球体を撃ち放つ。迫りくる青い弾丸をコズエは”チャームボイス”で迎撃するものの、力業の一撃を完全には打ち消しきれず、右の翼に軽くはないダメージを負ってしまう。
負傷により高度を下げた隙を見逃すウォロたちではない。右腕を前へ突き出し、ウォロは追撃の一手を命じる。
「今ですトゲピー! ”いわくだき”!」
「プリィイイイイイイッ!!」
「”つつく”で迎え撃て!」
「チルゥッ!!」
今の状態では避けきれないと判断したコズエは、まだ無傷の左の翼で受け、止め、流すことで被ダメージを最小限に抑えつつ、逆にトゲピーの額へとくちばしの先端を渾身の力で捻り込む。コズエの両翼とトゲピーの額に走った傷跡が、それぞれの痛みとなって互いの体を弾き飛ばす。
「コズエ、大丈夫!?」
「チルッ⋯⋯!」
「トゲピー、まだいけますか?」
「トゲェ⋯⋯ッ!!」
「よし! ”つつく”!!」
「今度こそトドメを! ”いわくだき”!!」
再び空中へ躍り出たコズエが、くちばしを鏃と変え、流星の如く降り注ぐ。対するトゲピーは先ほどと同じように、両脚で力強く地面を蹴り出し、前方に跳びながら岩をも砕くような拳を――
「”こうそくいどう”!!」
刹那、急激に加速したコズエを捉えきれず、トゲピーは標的を失った拳の勢いに引っ張られ、自身の重心を大きく崩してしまう。体勢を整える暇もなく、速度に乗ったまま体当たりを敢行したコズエによって、残り体力を削り切られたトゲピーは為す術もなく吹き飛ばされた。
「トゲピー!!」*3
呼びかけながらトゲピーの元へ駆け寄ったウォロは、「お疲れ様です」と労いの声をかけ、モンスターボールに戻した。くるりと振り向いた彼は、最初と同じ笑顔――とは言い難い、悔しさを滲ませた表情で語りかけてきた。
「お見事です! なんと卓越した指示、いやいや楽しい時間でしたね」
「ええ、本当に。まさか”はどうだん”を使うトゲピーだなんて⋯⋯驚きました」
「でしょう? ジブンも自慢のポケモンですからね!」
”はどうだん”はトゲピーの段階では覚えない特別な技――最終進化形のトゲキッスになって、ようやく習得できる技だ。それを力業、即ち皆伝した技として繰り出したトゲピーは、並外れた才を備え、相応の鍛錬を経てきたのだと窺い知れる。トレーナーの手腕もまた然り。このトゲピーがトゲキッスへと進化する頃には、きっと、とんでもない実力のポケモンになっているはずだ。
「ポケモンを競わせるのは楽しいです。競わせて育てれば、さらに技も覚えて強くなりますしね」
「分かります。⋯⋯けど、ポケモンを連れている人はあまりいませんから⋯⋯」
「はい。皆さん、ボールを使えばいいのに⋯⋯」
はぁ、と揃って肩を落とす。こうして自分以外のポケモントレーナーと顔を合わせるのも、久方ぶりのことだった。ましてやバトルともなれば、さらに輪を掛けて希少な機会である。人間とポケモンとの距離が未だ遠いこの世界において、ポケモンと深い絆を結ぶ者は依然としてごく少数にとどまっている。
「おっと、それではお互いのポケモンを元気にしましょう!」
沈黙の時間がしばらく続いたのち、ふと思い出したようにウォロが声を上げた。彼が懐から徐ろに取り出したのは、『傷薬』と書かれた紙が貼られた紫色の瓶。ここは遠慮せず厚意に甘えるべきだろうと考えたハルトは、コズエの翼の傷へと差し出された瓶の中身を指先で馴染ませるように塗り込んでいく。キズぐすりの効果は抜群で、塗った箇所から見る見るうちに傷が塞がり、打撲による腫れも引いていった。
「ウォロさん、ありがとうございます」
「チルチルッ♪」
「いえいえ、お気になさらず! これも宣伝です。ポケモンの技! 道具! 使いこなせば世界は広がるでしょう! ご入用の際はぜひイチョウ商会をご利用ください! ジブンはそちらの建物で店を開いていますので」
と告げたウォロは、バトルコートの奥――山頂に続いていると思しき道のすぐ横手に構える、銀杏の葉の紋を大きく刺繍した一枚布が目立つ建物を指し示す。手持ちは少ないが、品揃えだけでも見ておこうと、ハルトはその背を追って歩き出した。
登場人物紹介
名前 :ウォロ
元ネタ :【Pokémon LEGENDS アルセウス】より『ウォロ』
手持ち
・トゲピー Lv10
・???
・???
・???
・???
・???
ハルトの手持ち
・コッパ (イーブイ) Lv26
・コズエ (チルット) Lv11 → 12
持ち物
・しゅんそくのタネ
・オレンの実
・オレンの実
・モモンの実
・モモンの実
・クラボの実
・ちゃぼんぐり×6
・分身の巻物
・土
・木
・ほぞんの壺[6]:A
・モンスターボール×49
ほぞんの壺[6]:A
・大きなリンゴ
・しゅんそくのタネ
・ワープのタネ
・バクスイの巻物
・バクスイの巻物
・たまいし×9