メイソン・インガムから眺め見える
「凪いだ……のか?」
「その様で」
戦場には波というものがある。
スポーツの様に攻守の入れ替えが……という訳でもないが、お互いがお互いに人が行っている行為のために、緊張がそう長く続くものでもなく、数の暴力とでもいう人海戦術を使った波状攻撃でもない限りは訪れるものである。
今がその波の谷間なのかはわからないが、相手方が少数だったためか被害が起きていた状況が一時的に止まった形となっていた。
「今のうちに生存者の救助と被害状況の確認をいそげ!」
「輸送船に関しては壊滅、輸送艇は少数が現存しています。また、僚艦のカナリアス、ナバーラは無傷、サンタ・マリアは小破、なお戦闘行為は可能との事」
「ハリネズミ化が功を奏したのか、誘爆しない積み荷で助かったのか……」
「そのどちらともと思っておきましょう」
画面に映し出されている戦況報告をみてボソリと漏らした言葉を副官には聞こえていたのか、そう返してきていた。
さらに耳打ちする形で次の言葉が紡がれた。
「
「そういう物でもあるまい、1個小隊だけではな」
そうして、被害状況が映し出されている画面に視線を向ける。
艦隊としての損耗率が半数を超えている状況を表示してはいたが、戦闘行為が行える艦だけは無事で、輸送をメインとしている艦艇ばかりが被害甚大という、結果だけをみてみれば無惨という表現しか浮かばなかった。
ここまで顕著に輸送艦船にだけ被害が出ているとなると、輸送船団としての戦略的な意味を無くしている。
(いや、まて。敵が1個小隊だけという事を鑑みれば、輸送船団や規模などの内容が「わかって」襲ってきたというのが正しいか?)
内部に
「例の
「敵不明機と交戦中です」
「どうやら、やっこさんは戦闘機に首ったけのようですな」
被害の半数以上をもっていかれた
ならば今、打てる手立てといえば……
「近くにモビルスーツを運んできた巡洋艦がいるはずだ。索敵ドローンも全部使え」
「索敵ドローン、1番から7番まで全機射出します」
この「メイソン・インガム」のピケット艦能力は伊達ではない。
色々な方法での情報収集能力を持たせられており、その中の一つにこの索敵ドローンがある。
ある程度の距離や隠れている相手を探し出すなりができ、なおかつ無線ではなく光学通信によって状況報告がおこなえる無人索敵機である。
欠点として「通信障害を起こさないために光学兵器の類(主にビーム兵装)を使用した戦闘行為が出来なくなる」という条件がつくのが難点ではあった。
また、情報を持ち帰るために、情報収集時の防衛対策を底上げする手段も持たされてもいる。
その一つといえる装備を今回は使用する。
「それと同時にビーム攪乱膜と小型ECM無人機も出せ。相手が巡洋艦ならば一応の気休めにはなるだろう」
「はっ!ビーム攪乱膜を準備!終わり次第順次散布。ECM子機の準備」
「攪乱膜準備!」
ビーム攪乱膜とは、メガ粒子砲などのビーム粒子を減衰させる機能を持たせたジェルの様な物なのだが、それはビーム粒子に対する拡散能力をもたせているチャフの様なものである。
散布前には内容物を攪拌する時間が必要ではあるが、散布してしまえばある程度のビーム兵器を拡散させることで弱体化させることが可能である。
ただし、これも味方のビーム兵器を減衰するという事にもなり、
また、同時に使用しているECM無人機はその名の通りジャミング機能付きの小型無人機であるが、対ミサイル用に対する気休めともいえ、誤作動させるのが難しければ予測進路上に移動させては体当たりさせる代物である。
これらは運用面にいろいろと制限があるため、使いどころというのが重要でもあるが、今回ばかりは出し惜しみをするのは最悪手と判断する。
「モビルスーツの兵装も実弾兵装への換装も忘れるな。それと今のうちに休憩を取らせておけ」
「はっ。では、アルファ隊から行っていきます」
「モビルスーツ隊へ通達、アルファ隊から……」
戦場の波は静まっているはずなのに、ここ艦橋では慌ただしい波がうねりを上げていた。
* * *
「4番ドローンロスト!下方11時、暗礁宙域近郊です!!」
「やはりいたか。さて、どうするかだが……」
「艦種は、ムサイ級と映像照合確認がとれました」
「数は?!」
「そこまでは……」
「ほかの領域の索敵機を回し……」
「いや、そこまでする必要は無い。ほかの区域の索敵はそのまま続行しておいてくれ」
「はっ!」
「よろしいので?」
「増援部隊への警戒を厳にするべきだろう」
「なるほど……たしかに」
モビルスーツの数の状況から言って巡洋艦ならば一隻のみのはず。
こちらの手駒は巡洋艦一隻とハリネズミが3隻にモビルスーツ隊が2小隊。
「それにしても、なぜムサイは攻撃を仕掛けてこないのでしょうか?」
「おおよそ幾つかの予想はつくが、どれかは確定はできまい……だが、それが好機であると思っておこう」
「そうですね」
(おおよそは
実際、索敵ドローンは全方位に張り巡らす恰好であるが、見ようによっては無作為に放出しているミサイルとも思われる事すらあった。
(それとも、別の何かを待っているのか……、だとしても、現状でコチラが使えるコマはそう多いわけでもなく……)
手持ちの
* * *
幾十にも張り巡らされるビームの網とでもいう中を、直感だよりに縫うように避け続ける。
敵の位置が把握できずに一方的な攻撃を受け続ける事に、戦場独特の緊張によって精神を疲弊させられ続けていたが、それでも緊張の糸を切らすわけにもいかず……。
「本当にシツコイ!!スモークにフレア!全部ぶちまけろ」
「は、はいっ!!」
目くらましにはなるとは思ってはいないが、それででも先程から直感が危険
「先程から攻撃が来る方向がバラバラです!まるで複数の敵機がいるとしかっ……」
「なら、こっちに引き付けてるって証拠だ……なっ!!」
「ひぐっ」
放たれる5条の光の隙間を縫うように直感便りの回避予測のコースに無理やりねじ込む。
「なんっとぉ!!」
だが、横に大きくはみ出している主翼部分が擦るように被弾する。
「中尉!主翼に被弾です!」
「
そう愚痴りながらも、その放たれた光源の元を確認しようとするが、すでにそこには相手がいる様な気配がない。
だが、わかった事もある。
ある程度の攻撃の波がすぎると、凪の時間がくるという事が。
「ビーム兵器の冷却なのかわからんが、こういう間があるのは助かるが……」
こちらにしても、状況が好転しなければ何らかの対応ができるわけでもなく、とかく相手をみつけなければ現状が大きく変わる事すらかなわないと焦りが出始める。
「せめて、相手さんの場所さえわかれば……」
キャノピーから見える
注意深く、そして深く潜るように……感覚を
「んっ?」
それは視界の隅に些細な違和感を感じた。
急遽、その違和感を感じた側に機体を回しては、肉眼に映し出される星々の光の中に意識を流す。
「中尉、どうしたんですか?」
「静かに……」
すると意識を集中させたその先の
「見つけた!!」