キミとNEX→T!!   作:Ziz555

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 春が終わり、夏が始まり、日々が過ぎるほど──

 ──空の青が深まってゆく。


第1話:新しい相棒

 

 

 

 空に憧れていた。

 

 

 

 青く、高く、どこまでも広がるあの、自由な世界に。私はずっと……憧れていた。

 

 私の名前は、陽風(はるかぜ)ヒスイ。なんてこと無い平凡な学校、“北蔭(へいおん)高校”に通う、ピカピカの一年生だ。

 

 趣味は……機械弄り。

 

 女の子らしくない。……なんて事は、私が一番良く知っている。

 けれど、好きなものは好きなんだから仕方が無い。油まみれになりながら、ひたいに汗を浮かべて、鋼鉄と電気のカラクリと真剣に向き合う静かなその時間が。完成したマシーンに乗り込み、それと対話をする瞬間が。他の何よりワクワクしたし、ゾクゾクするし、ドキドキするから。

 

「よいっ……しょっと」

 

 ぐい、と最後にボルトを締めてから、私は身体をぐいと伸ばした。

 預かっていたバイクの整備は、コレで完了だ。

 

「ヒスイちゃん、お疲れ様」

 

 ガレージの入口側から聞こえた声に、私はそちらへ視線を向ける。すると、そこには見慣れた一人の男性が立っていた。

 

「松のオジサン、来てたんですか?」

「丁度さっきね、ほれ。差し入れ」

「わわっ……。ありがとうございます!」

 

 小麦色のふわふわな毛皮で包まれている彼は、人懐っこい笑みを浮かべながら私へ缶コーヒーを投げてよこした。

 

「ヤナギの爺さんが死んで……一年になるのかな?もう、すっかりヒスイちゃんのガレージになったねぇ」

 

 ガレージの壁に背を預けながら、松のおじさんはもう一本の缶コーヒーのプルタブを引き起こした。

 

「そうなんですかねぇ……。正直、未だに実感が湧きません」

 

 私も、近くの椅子に腰を掛けてから差し入れのコーヒーの蓋を開ける。缶の中に充満していたガスが、ぷしゅっと音を立てて抜けるとともに、香しい珈琲の香りが鼻腔をくすぐった。

 

 

 

 “ヤナギさん”と言うのは、私がバイクの整備を行っていた、このガレージの元々の持ち主だ。

 私がまだ幼い頃。偶然迷い込んだこのガレージで、彼は私の面倒を見ながら様々な乗り物を整備してくれた。

 油まみれになりながら、ひたいに汗を浮かべつつ、それでも楽しげにマシーンに触り、楽しみを語ってくれるその姿は――私にとって、衝撃的だった。

 

 その光景は、私の心にビビッと来た。

 

 それから私は、時間さえあればこのガレージに転がり込んで、ヤナギさんの機械いじりをずっと眺めていた。

 そうしていつの間にか、そんなヤナギさんの手つきを真似て、ヤナギさんに教えられて、たくさんのマシーンに触れて。私は、ヤナギさんと同じぐらいに機械に強くなっていた。

 

――このガレージは、お前さんにやるよ。

 

 ヤナギさんが最後にガレージに来た時の言葉だ。

 

 一年前、歳で体調を崩したヤナギさんがガレージへ来れなくなった頃。私が、ガレージに持ち込まれる機械の修理を彼の代わりにこなすようになっていた。

 ヤナギさんは元々、この街の皆に頼られるメカニックで、このガレージはいわばこの街のマシーンの救急病院だった。だから、そんなガレージにヤナギさんの代わりに私が居着くことを最初は皆も認めてなかったけど、真面目に多くの仕事をしているうちに、私は街の皆に受け入れられた。

 

 ヤナギさんは、そんな私にこのガレージを託して。そんな私の姿を見届けてから、空の向こうへ旅立った。

 

 私が高校生になる前の、夏の話だった。

 

「…………」

 

 コーヒーに口をつけて、ぼんやりとガレージの入口の先を見る。

 開けたシャッターの向こうには、青空が広がっている。

 だんだんと近づく、夏の足音を感じさせる日差しがアスファルトに反射して、うっすらとその表面を白飛びせていた。

 コーヒーのまろやかな薫りと澄んだ苦みが、労働によって溜まった疲労と熱に心地よかった。

 

「そういえば」

 

 ふと、松のおじさんが口を開いた。

 

「ヒスイちゃん。学校は今日は休みなんだね?」

「……学、校……?」

「もうお昼すぎだけど、その様子だとずっとバイクの整備をしてたんだろう?珍しいね、何かの代休――」

 

 さて。ここでもう一度私の自己紹介をしておこう。

 

「――わ」

「わ?」

 

 私の名前は、陽風(はるかぜ)ヒスイ。

 

「忘れてたぁ〜〜〜〜!!!!」

 

 

 

 “北蔭(へいおん)高校”に通う……、学生だ。

 

 

 

 


 

 

 

「おーやおや。またまたコレは重役出勤ですなぁ。……ん?この場合は、重役登校?……ま、どっちでも良いかぁ」

 

 息を切らせて教室に駆け込んだ私を出迎えたのは、無数の冷たい視線と、そんなおどけた言葉だった。

 

「か……からかわないでよ、エンジュぅ……」

「こんな大遅刻してくるヒスイにも責任があると思うなーん。だってもう、昼休み終わってるよ?」

 

 やれやれ。と言わんばかりに首を横に振るう彼女の名前は、太刀川(たちかわ)エンジュ。私の幼馴染だ。

 絹のように滑らかで、サラサラと流れる黒く長い髪を揺らしながら、エンジュは誰もが羨む整った顔立ちを(しか)めて私の顔を覗き込んだ。

 

「まーたガレージで機械弄り?……夢中になるのはいいけど、ちゃんと学校来ないとダメだよ」

「ご、ごめんなさい……。って、なんで分かるの……?」

「幼馴染でしょ?そのぐらい解るよ」

 

 両手を膝において息を整えている私に、エンジュは席を立ってゆっくりと近づいてきた。

 

 スラリと伸びた彼女の左手が、私のうっすらと汗ばんだ頬に触れる。

 

「エンジュ……?」

「……なーんてね」

 

 優しく添えられた、細く柔らかなその指が、私の頬を少しばかり強く拭った。

 

「顔にオイル。付いてるよ」

「あっ……」

 

 エンジュの白い指先についた黒ずんだオイルは、私が直前まで機械弄りをしていたことの何よりの証拠でもあった。

 急いでガレージを飛び出してきたせいで、身支度の欠片も出来ていなかったことを、私はそこでようやく思い出す。

 

「えっ、あっ。えっと!」

「洗いに行ってきな、カバンは席に置いといてあげるから」

「う、うんッ!ありがと!!」

 

 碌なものの入っていない、殆ど空っぽのカバンをエンジュに放り投げて、私は一目散に洗面所へと駆け出す。

 そんな私の背中には、いつものエンジュの優しいような、呆れたような視線が向けられている気がした。

 

 

 

 顔を洗い終えた私は、遅れてみんなと同じ授業を受ける。……と言っても、キヴォトスでの学習は、それぞれに渡された教材と専用のBDを各々が再生する自習形式が殆どだ。

 専門的な技術が必要な実技をする時は、安全を期して監督役の職員が付くことはあっても、教えを説いてくれる“先生”が居ることは……殆ど存在しない。

 “シャーレ”と呼ばれる、連邦生徒会に付属する組織に、“先生”と呼ばれる人たちが居ることは知っているが……会ったことはないし、きっとそんな人と知り合う事は無いのだろう。

 

 “北蔭(へいおん)高校”は、至って普通の学校だ。

 

 特段優れた要素もなく、なにか特別な教育機材が揃っている訳でもなければ、有名な先輩や卒業生がいる事もない。

 

 “普通”な、学校。

 

 机に頬杖をついて、私は窓の先の空を見上げる。

 

 透明なガラスに隔てられた。手を伸ばしても決して届くことの無い、綺麗で、広くて、自由な空。

 

「(……あーあ)」

 

 そんな空を見上げながら、私はぼんやりとした後悔を胸中に浮かべる。

 

「(勉強、もっとやれば良かったかなぁ)」

 

 元々、私はこの北蔭(へいおん)高校に通いたかった……というわけではない。

 

 キヴォトスには、“ミレニアムサイエンススクール”という、科学技術関係にすこぶる優れた学校が存在している。

 そこでは、日夜多くの生徒が技術の最先端を追求し、新たな可能性に向き合っている。

 その中には当然……私の大好きな“メカ”だって含まれる。

 

 当然、去年の私の第一志望はミレニアムサイエンススクールだった。……けれど、私は別に、頭が良いというわけではない。

 特技だと思っている機械弄りだって、ちゃんとした教材から勉強したわけじゃなく、ヤナギさんの見様見真似で習得した、曖昧であやふやな技術だ。

 正直、私自身“その仕組み”が“どんな結果”を、“どういう経緯で”引き起こすのか、理解し切れていないのだ。

 見様見真似で、なんとなく。どーしたらどーなるのか。ふわっと、なんかわかる。

 

 だから、どうにかなってしまう。

 

 それを誰かに説明なんて出来ないし、文字にしたり口にしたりなんて私にはできなくて。……そうなれば、当然“テストの点数”に繋がるわけもなくて。

 私の技術は、“修理”と“チョットした改造”にばかり長けているから、胸を張って提出できる作品だってありはしない。

 

 となるとやっぱり、それでもミレニアムに行きたいのなら、入試試験に受かる他に手立てはなくて。

 ただ、その。私は……勉強、するより。機械を弄くり回している方が……好きで。

 

「…………はぁぁぁぁぁ」

 

 負けたのだ。眼の前の誘惑に。

 

 後悔先に立たず、とは誰が言ったのだろうか。全く持ってそのとおりだと、私はしみじみ実感する。本当に、過去の私に耳にタコができるほどに言って聞かせてやりたい程だ。手にたこを作っている場合ではない。本当に。

 

 思わずこぼれた大きなため息に、隣の席の子が少し驚いたように私の方を見て。私はそれに気付くとすぐに謝罪の意を込めて頭を下げる。勉強の邪魔をしてしまったのは、私の望むところではないのだから。

 

 私は、意識をテーブルに移された学習用の映像へと戻す。

 そこでは、無機質に情報を垂れ流すだけの光景が延々と続けられていて。……やっぱりどうしても、そこに意味があるだなんて。私には思えなかった。

 

「(これ、どういう仕組なんだろ)」

 

 ふと浮かんだその疑問に、私の頭はいつの間にか埋め尽くされていて。授業の内容は――結局、欠片も頭に入ってはこなかった。

 

 

 


 

 

 

「疲れたぁ〜……」

 

 学校での授業を終え、私は帰路へとつかず、いつものようにガレージへの道を進んでいた。

 

 町外れにぽつんと作られたそのガレージは、騒音被害を意識した結果、近隣に住宅の無い、小高い裏山に作られている。と、ヤナギさんから話を聞いている。

 

 だから、この道を進むのは、いつも私一人だ。

 

 部活もせず、家にも帰らず、友達と遊びもせずに。私はあいも変わらず“いつものガレージ(私の居場所)”へ足を運ぶ。

 

 

 

 ――それが私の日常(まいにち)で、私のやりたいことだった。

 

 

 

 学校のみんなは、そんな私の事を、いつも珍妙な動物でも見るような目で眺めていて。何処かそこには距離がある。

 それは私にも責任があって。だって、みんなでカラオケとか、ゲームセンターとか、ショッピングとか。そんなの、私には退屈すぎるから。……“やりたいこと”が合わないんだから、一緒にいたって仕方がないのはお互い様なんだ。

 

「ふんふ〜ん♪」

 

 けれどそんな私の足取りは軽い。だって、それも仕方ない事だ。

 なんたって今日は、あの“ミレニアムプライス”で賞を獲得した、最新鋭のパワードスーツのレプリカが私の家……じゃなくて、ガレージに届く日なのだ!!

 

「みっれにっあむー、さいしん、さいこう、さいぜんせん〜♪」

 

 べつに学園で学べないとして。学校は所詮学校。単に学びたいのであれば、その技術を勝手に私が得てしまえば結果は同じ事。その大規模コンクールで受賞したほどの作品の技術に触れることができれば、当然私にもチャンスはある筈だ。

 幸い私は“勘”が良い。細かい技術や内容がわからなくても、理解さえできれば再現と発展、改造はきっとなんとかなるだろう。

 

 それのベースとなるモノが、最新鋭で最前線の最高評価の作品なら、その結果は推して知るべしと言ったところだ。

 

「むっふふふ〜♪」

 

 鼻歌と笑みが止められない。

 きっと今の私の顔は、だらしなく緩んでいるのだろう。はしたない物だとしても、どうせそんな私の顔を見るような人は、この道にはいない。

 

 いつの間にか、授業の疲労で落ち込んでいた私の足取りは軽くなり、スキップを踏むようにしてガレージへと向かう。

 

 最新鋭のパワードスーツちゃんが。私を待っているのだから。

 

 そうこうしているうちに、私の視界にガレージが見えてくる。

 

「待っててね〜私の可愛い可愛い相棒ちゃーん♪」

 

 新しい出会いに心を躍らせ、期待に胸を膨らませ。私はガレージのシャッターを開ける。

 

 搬入口から運び込まれたであろうその“パワードスーツ”は、ガレージの奥、私の視線の先に鎮座していた。

 

「おおっ……!!」

 

 封印のシールが貼られた新品のボディは、保護のためのフィルムが被されているために白く光る。

 フィルムの下に見え隠れする、運搬用のホルダーを兼ねたマネキンに装着された、流線型を描く滑らかな黒い装甲は、画面の配信の向こうで見えたあの“パワードスーツ”の姿そのものだった。

 

 それは、キヴォトスに流通するゴリアテなどの戦闘用パワードスーツとは異なり、使用者の身体能力向上による肉体労働の補佐を始めとした様々な運動補助を目的としたパワードスーツで、非常にスマートな造りをしている。

 強化外骨格型と言う、介護用や運搬業務等に用いられるタイプの原義的なパワードスーツの構造に回帰したデザインは、体に沿って四肢に装着するようなそれらのフレームを持ち、しかしスリムながらその十分な駆動機構を内部に収めている。

 驚くべき点はそのサイズ感に対する出力だ。現行のパワードスーツは出力を上げるために大型化する傾向にある中、このパワードスーツは利便性を追求するために極限まで洗練された小型化を施されている。だが、だからといって出力が落ちるということはなく。一世代前のパワードスーツと遜色のない出力と稼働時間を実現している。

 それには明確な技術のブレイクスルーがあると言われており、それが一体何に依る物なのか、日夜ネットのオタク達の間で議論が交わされているが――、今は、そんな御託はどうだっていい!!!!

 

「待ってたよ〜〜〜〜!私の新しい相ぼ――――」

 

 期待に高鳴る胸に押されるまま、ぴょーん。と、飛びかかるようにして、私は手に持っていたカバンを投げ捨てながらその場を蹴り出し。

 

 

 

 激しい衝撃が、ガレージを襲った。

 

 

「ぐへぇ!?」

 

 大凡女の子が出していいものでは無い声を漏らしながら、私は地面へすっ転ぶ。

 凄まじい破砕音と振動に、私は何が起こったのかの理解が及ばす、目を白黒とさせつつも、ひとまず身体を起こそうとして。

 

「……ん?」

 

 視界の先に、コロコロと黒い破片がいくつも転がってゆくのを見た。

 

 その色合いには、なぜか激しく見覚えが。というか、今さっきまでまさに見ていたような気すらする。

 

 いや、まて。これは、つまり。“そういうこと”なのか??

 

 混乱する頭が、眼の前の現実を否定する。だって、あり得ない。一体何が起これば、“そういうこと”になるというのだ。

 まさかそんな、“非日常(フィクション)”みたいな事があり得ていいはずが無い。

 

 脳裏にガンガンと鳴り響く警鐘に、私の背筋から急速に熱が失われていき、最高潮だったはずの私の興奮は、とたんに恐怖に変化してゆく。

 

 そんな私の頭を冷やすかのように、びゅう、新鮮な空気をはらんだ風が吹き込んだ。……そんな大きな窓は、私のガレージには無いはずなのに。

 

 考えながらも、私は両手で体を起こして。視線を前へと向ける。眼の前の現実を、確かにその目に映すために。

 

「――――わ……」

 

 そうして。私は現実を知る。

 

 下を見れば散り散りに散らばる、鉄と木の破片。上を見れば、大きく開いて、見えないはずの青空が覗ける視界。そして、正面を見れば――――。

 

 

 

「私の、ガレージがぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

 

 

ガレージの天井をぶち抜いてくる落ちて来たらしい “()()()()”に押しつぶされて、粉々に粉砕された私のパワードスーツが、見るも無惨なスクラップと化していた。

 

 こうして、私の“日常(まいにち)”は、音を立てて崩れ去るのだった。





 開幕かなり飛ばしております。
 面を食らった人や、なんか違うなと思った人も沢山いるとは思いますが。又もや懲りずに私のやりたいことをブルーアーカイブの世界を借りてやっていきたいと思いますので、ぜひお付き合いいただければと思います。


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