キミとNEX→T!!   作:Ziz555

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──刹那、世界が色付いていく。


第10話:私の翼

 

「ずいぶん手こずらせてくれたね。勝手に家出をするなんて……そんな子に育てた覚えは無いんだけどな」

 

「育てた。のではなく、“造った”と言うべきですよ。それではまるで、下等な彼らと同じ様に変化しているようでは無いですか」

 

「で、でも!とにかく、無事で何よりでした。コアのロックは解除されていない様ですし、思考アルゴリズムも飛び出して行った時と殆ど変わっていませんし……」

 

 

 

 ――無機質な工場の一室に、ネクスは吊るされていた。

 

 

 

 四肢にあたるパーツには厳重なロックが掛けられ、機体は専用のハンガーに収容されている。

 

 カイザーPMCによって補修されていた武装や外装の全てが取り外され、その代わりに取り付けられた武装により、彼の様相は初めて起動した時ほとんどそのままの姿に変わっていた。

 

「でも……、そもそも、なんで飛び出したんでしょう……?」

「確かに。その点については疑問が残りますね。アナタには神秘はおろか、“自由意志”を持つほどの高度な知能を持たせたという事実は無かったはずです」

 

 そんな彼の周囲を取り囲むように設置されたモニターに、三人の少女の影が映っていた。

 

「これも“青輝石”のもたらす変数……って事なのかな。知れば知るほど厄介だね」

「“名もなき神々”の力をコントロールできるだけの情報を得て尚、計画を()()()()遅らせねばならなかったと言うのに。けれど、時間をかけた意味は証明されましたね。やはり、この“変数”は捨て置けません」

「“VariaBlue”ユニットも破損は見受けられません、今回のデータを元に再度チューニングを施せば、より完全なコントロールが可能になると思います!」

 

 三者三様に、ネクスについての議論を進める中。しかし、その議題であるネクスは、完全な沈黙を貫いていた。

 

「そう言えば。一緒にいた個体は?」

「ああ、彼女なら、今は旧居住区に放り込みました。目はまだ覚めていない様ですが」

「すこし乱暴すぎましたかね……?大きな怪我はしていなかったみたいですが……」

「バイタルデータのサンプルとして、貴重ではありますが。重要度はさほど高くはありません。彼女自身の危険度は限りなくゼロに近い。通常の量産ドローンでも十分抑え込める以上、後回しでいいでしょう」

「牙を抜かれて、文字通り歯牙にもかからない存在って所だね」

「え……?」

「やれやれ……またそれですか」

 

 モニターに映る影らの会話など、彼にとっては何の意味も持たない。

 

 彼は静かに待っているのだ。

 

 

 

 ――ただ、一人の少女を。

 

 

 


 

 

 

 ――――さい

 

 声が聞こえる。

 

「ん……うぅ……」

 

 ぼやけた意識のなかで、誰かに身体を揺すられていた。

 

 ――て……く……さい

 

 次第に私の意識は、鮮明な輪郭を帯びてくる。

 

「あ……れ……?っ!つぅ〜〜」

 

 そして、同時に身体が感覚を取り戻し、全身が痛みを訴えた。

 全身を打ち据えられ、変なふうに捩った様な鈍い痛みに顔をしかめながら、どうにか私は起き上がる。

 

「……どこ、ここ」

 

 目覚めた眼で、私が周囲を見れば、そこは未知の場所だった。

 

 荒れて、朽ち果てたコンクリートには、名前も知らない蔦が絡みつき、砕けた壁の向こうには、水没した廃虚の街並みが広がっていた。

 

 びゅぅ、と風が吹き抜けた。

 

 私がねていたらしい床のある一室は、屋根も壁も砕けて失せており、部屋と呼ぶのも憚られる様相だ。少なくとも、こんなところに私以外の人間がいるとは思えない。

 そして、風の運んできた“焦げたニオイ”に、私は振り向いた。

 

「目が覚めましたか?」

「あ、え……?」

 

 振り向いた視界の先には、見知った顔の少女が一人。……いや、正しくは“顔しか知らない”のだが。

 

「なんで、ここに……?」

「助けに来たんですよ。今はひとまず、ここから出ましょう」

 

 廃墟に似合わぬ、埃一つ付いていない真っ白なワンピースを身にまとった少女は、そんな言葉と共に、手に持っていた銃を私へ投げてよこした。

 片手でヒョイと投げられたソレは、私が抱えるには両手で持たねばならないサイズの銃――私の“マスターギア”だった。

 

「え?え?え?いや、ちょっ、ちょっと待ってください。そもそもここはどこなんですか?なんであなたがここにいるんですか?それに――」

 

 放り投げられたマスターギアを全身で受け止めながら、思ったことをそのまま口から出していた。

 私は今。目の前に広がるすべてのことを理解できずにいる。何一つ、理解が及ばない。なぜなら――。

 

「――どうやって、そんな」

「?」

 

 あどけなく首をかしげる少女の後。私が“焦げたニオイ”を感じた方向には――

 

 

 

 ――粉々に粉砕された、無数のマシンが転がっていた。

 

 

 

「あぁ」

 

 ぽん。と、少女が手を打った。

 

「私、強いんですよ♪」

「いや強いとかそう言う話????」

 

 否定をしない。と言うことは、確かにこの激しい戦闘の痕跡は、目の前の少女の行動の結果であることを示していた。

 見た所、分かりやすい強力な武器を装備している様子もない。それどころか、今更ながらに気づいたが――拳銃の一つを収めている様子も見当たらない。

 なら、一体、この“凄まじい破壊力で撃破された”残骸は――?

 

「私のことは良いので、とにかくここを離れましょう。敵の陣地に長居するのは、得策ではありませんから」

「敵って……あっ――」

 

 少女の言葉に、私はようやく、気を失う寸前の事を思い出した。

 エンジュと電話をして――なにも、言葉を出せなかったことを。ようやく、一つの言葉がカタチになった時に、強い衝撃を受けたことを。

 

「私のスマホ!?」

「さすがに壊れてましたよ。ガレージに残されてましたけれど……修理できる状態ではありませんでしたから、持ってきていません」

「エンジュは!?ネクスは!?」

「少なくとも。エンジュさん……、あなたの親友は無事です。そちらは、信頼できる人に任せてきましたので」

「親友“は”、って事は……」

 

 私の言葉に、少女は真剣な表情を浮かべたまま、小さく首を振った。

 

「ネクスくんは……わかりません。……私がここに来たのは、ネクスくんからのシグナルを受け取ったからです。けれど、その信号はこの付近でぱったり途絶えてしまいましたから」

「そんな……!」

「ネクスくんを奪い去った存在には見当がついています。……もとより、この区画はその勢力範囲であると目されていましたが……、これでハッキリしましたね」

「それって、まさか……」

 

 こんな強引な方法で襲撃をかけて、ネクスを強奪する輩なんて。私は一つしか知らない。

 

「“デカグラマトン”――!」

「厳密には、その流れを汲むもの達。だとは思います。……デカグラマトン本体は、昨年に消滅しているはずですので」

「えっ?」

「すみません、詳しい事情は後程。……とにかく今はここを抜けましょう。私は守勢が得意ではありませんので、あなたを守りながらの撤退戦は、危険が生じてしまいます」

 

 少女は、険しい表情を浮かべ、私へ手を差し出した。

 

「さあ、此方へ」

 

 ……状況は、これっぽっちも飲み込めない。

 目の前のこの人が、嘘をついている――とは、思えない。少なくとも、そんな感じはしなかった。

 私に嘘をつく人からは、もっと“イヤ”な感じがする筈だから。

 

 でも、じゃあ。ここから抜けて、逃げ出して――、それから?

 

「早く、急がないと――」

「ネクスは」

 

 ネクスの信号は、ここで消えたと言っていた。

 

 と言うことは、少なくともこの近くにネクスは未だいるはずだ。

 

「ネクスは、どうなるんですか」

「私達があとで責任を持って迎えに行きます。大丈夫です、私達にはその為のチームがあります」

「逃げて、それから私はどうなるんですか」

「…………デカグラマトンに狙われた以上、その再発を防ぐ為に、私達が保護します。ですが、安心してください、普段の学校生活に支障が出ないよう、最大限の配慮を――」

「そんな事を聞いてるんじゃない!!」

 

 私の心が、震えていた。

 

「私は、私とネクスは!どうなるんですか!」

「…………それは」

「エンジュに言われて気づいたんです!私、もう、逃げるのは嫌だって!」

 

 震えているのは、怒っているから?それとも、恐れているから?泣いているから?

 

「分かんないって、分かるわけないって勝手に決めつけて!目の前の事を分かんないって棚に上げて、ごまかして黙って、それで!一人でずっと逃げて行くのは、もう嫌なんです!」

「…………」

「私は……!私は未だ!ネクスにも!エンジュにも!ちゃんと謝れてない!!ここで逃げたら――、心の底から、二人に謝るなんて、できない!できなくなる!」

 

 怖くって、辛くって、情けなくって、腹立たしくて。

 

 全部全部ひっくるめて、“今までの自分”のままでいるのが、今の私は、“イヤ”なんだ。

 

「……デカグラマトンは、危険です」

「知ってます」

「また、撃墜されるかもしれません」

「知ってます」

「親友さんにも、心配かけるかもしれません」

「知ってます」

「……貴方の進もうとする先は、きっと、もっと、危険な道です」

「知ってます」

 

 分かってる。分かってなかった自分の事が、今なら分かる。

 ネクスに乗って、チーフに問われたあの問いに、私が出したあの答えは、私のホントの答えじゃない。

 見知って焦がれた、アニメや漫画のなりきり遊び。

 覚悟があるって、特別なんだと浮き足立って、曖昧で、中途半端で、無責任な間違いだった。

 

 だから、私は逃げたんだ。

 

 死ぬのが怖くて。墜ちるのが怖くて。傷付くのが怖くて。

 

 カッコよくて、キラキラして、夢みたいな憧れでごまかした。汚くて、痛くて、辛くて、怖い現実に。

 

 だけど。そんな逃げ腰じゃ。私は全部をなくしてしまう。

 全部のことに理由をつけて、背中を向けて、私以外のせいにして、逃げ出してたら――“進めない”!!

 

「なら――」

 

 

 

「それでも!!」

 

 

 

 私は、今度こそ。前に一歩進む為に。心のカタチを声にする。

 

 

 

「私は――ネクスを救い出すッ!!!!」

 

 

 

 もう、この先にどんな未来が待っていても。私は――逃げないッッ!!

 

 

 

「………………」

 

 私の言葉に、少女はポカンと口を空け、呆然とした様子で固まっていた。そして、しばらくの後、次第にその表情は笑顔に変わり――。

 

「……プッ。……ふふっ、あははははは!」

「えっ!?えっ、その!!あの!私!本気で」

「いえ、ええ。大丈夫、大丈夫ですよ」

 

 お腹を抱えて笑い出した少女に、私は自分の恥ずかしい言動を自覚した。途端に顔が熱くなり、言い訳の言葉を探してしまう。

 

 けれど、そんな私を手で制した少女は、ひとしきり笑うと、大きく息を吸い込んで呼吸を整えた。

 

「あー……はぁ、ふふっ。本当に、あなたはあの人によく似ています」

「……それって、前にも言ってた人、ですか?」

「ええ。はい。私のよく知るとある人に、やっぱりあなたはよく似ています」

 

 真剣だった表情は、いつの間にか穏やかな笑みを浮かべて、温かな視線が私へ向けられていた。

 

「それで。ネクスくんをどうやって助け出すんですか?」

「えっ?」

「助け出す。んでしょう?何か策はあるんですよね」

「……ええっとぉ……」

「ふふっ…………。本当に、そんなとこまでそっくりなんですね」

「笑わないでください!今考えてるんですから!!」

 

 思い出したようにクスクスと笑い続ける少女に、私は未だに熱い顔のまま、必死に声を張り上げた。

 声を張り上げた所で、何が変わるというわけでもないのに、だ。

 実際問題、馬鹿なセリフを言ったものだと思ってしまう。何が“必ず助け出す”だ、少し考えれば、私一人の力でこの状況を打開できるとは到底思えない。

 私は戦闘が得意ではない。それは、ネクスと戦いを繰り広げてきた今もさほど変わりはない。もちろん、単独で敵拠点に攻撃を仕掛けるなんて、以ての外だ。

 

 せめて、ネクスがいれば――、というのも変な話なのだが。ネクスが居れば、ネクスを助け出す事も――。

 

「しょーがないですね」

「?」

 

 ふたたび、少女の手が差し伸べられる。

 

「……あの?」

「私の翼を、貸してあげます」

「はい?」

「助けに行くんでしょう?ネクスくんを」

 

 ほら、はやく。と、少女は差し出した右手を軽く振る。

 

「えっと……、これは、どういう」

「いいから。私の手を取ってください。ほら、来ちゃいますよ?」

 

 そう言って少女が左腕で示した先には、異常を嗅ぎつけたらしい無数のアンドロイドがこちらへ向けて進行している様が見えた。

 その数は、十や二十で収まることはない大群で――。

 

「ええっ!?ちょっ!早い早い早い!」

「だから急ぎましょうって言ってたんですよ。もー。仕方がない所まで似て無くていいんですよ!ほら!早く!」

 

 ぐい、と少女の手が差し出される。そして――

 

 

 

 ――その手を取れと。少女は言った。

 

 

 

「……えぇーい!!ままよ!!」

 

 

 

 言葉のままに、手を取った。

 

 それと同時に、私の視界が光に染まる。

 目を開いているのも困難な強い光に、思わず私は目を閉じた。

 

 ほんの一瞬見えた光は、綺麗な山吹色だった。

 

 温かい光が私を包むと同時に、背中に少し、妙な感覚が増えた。

 背負った。と言うよりは、くっついた。……いや、おそらくこれは――“生えた”と言うべきなのだろうか。

 

 肩甲骨のあたりから、確か熱量を感じて、私はようやく目を開く。

 

「……あれっ!?えっ!?どこに行っちゃったんですか!?」

 

 目の前にいたはずの少女は、そこにはいない。

 

『ちゃんと居ますよ。ここに』

「え?」

 

 声が聞こえたような気がして、私は右手に意識が向いた。確かに、少女は消えた筈なのに、右手に握った何かの感触は消えていない。

 そうして視線を向けた先。そこには――一本の西洋剣が握られていた。

 

 山吹色の光を放つ刀身は、どこか近未来的な柄に取り付けられており、柄にはトリガーらしき構造も見受けられる。

 

『どうですか?カッコいいでしょう?』

「うん、カッコイ――じゃなくて!」

『だから言ったじゃないですか、“私の翼を貸してあげます”って』

「いやっ!いやっ!でもこれはさぁ!?」

 

 よくよく見れば、どうやら背中についた感覚は文字通りの“翼”らしい。

 温かな山吹色の光を放ちながら、私の背中に確かな存在感を放っているそれは、もはや私の理解を超えていた。

 

『さ、行きましょうか。使い方は……ヒスイさんなら大丈夫です』

「雑だなぁ!」

『大丈夫。私がちゃんとサポートしますよ』

 

 サポートすると言われても、いや、まあ確かに、使い方は“なんとなく”イメージできてはいるのだが!!

 

『そうだ。私の事は……“ナイル”とでも呼んでください』

「今自己紹介するの!?」

『だって。“そういうお約束”なんでしょう?』

 

 まるで私の心を言い当てるかのような素振りを見せた少女――ナイルは、クスクスと笑っていた。

 剣の姿なのに、笑っているのがわかるというのも変な話なのだが……、いや、もう理解は後に回そう……。

 

 実際問題、危機は目前にまで迫ってるのだから。

 

「……ああ!もうっ!」

 

 私は気を取り直し、左手にマスターギアを、右手にナイルを握りしめ、背中の翼へ意識を向けた。

 

 

 

「――陽風ヒスイ!ナイル!逆境を……斬り開きます!!」

 

 

 






 ヤリタカッタダケー
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