──目の前を貫く煌めき
私は、
吹き抜ける風が、体を包む浮遊感が、全身で空を切る感覚が──空を飛ぶ感覚が私の心を満たしてゆく。
ほんの数日の間離れていただけなのに、なんだかとても懐かしくて、嬉しくて。
「
__何でしょうか。
「楽しいね!飛ぶの!」
__そうですね。貴女と飛ぶ空は……最高です。
ここが私の居場所なんだって、はっきりわかるから。
「ヒスイさん!」
ナイルさんの声が聞こえ、私はくるりと身を翻して姿勢を整える。飛び出してきた工場の方を見下ろせば、視界の先に白い機影が見えた。
巨大な四脚の上に、二門のガトリング砲とミサイルポッド、大型の砲身と広域通信用のブレードアンテナを備えた純白の機体。
「アレは……!」
「デカグラマトンの……預言者!」
__照合完了。対象、第一の預言者“
「V.C.E.……って、全部盛りじゃないですか!?」
__
「え?でもあれV.C.E.って……」
__短期運用、自陣から逃げようとする対象の追撃を優先とした統合戦闘形態というところでしょう。
「一年の時間はデカグラマトンにとっても技術的な進歩を起こすに十分だった、と言うことですね……!」
「なるほど?」
ナイルさんと
__警告。ロックされています。
あの四脚は──
「──私達の、敵ってことだ!!」
ケテルの巨大な砲身が唸りを上げ、宙空の私たちに砲撃が行われた。
続けて、ミサイルポッドから無数のマイクロミサイルが噴き出して、私達の逃げ場を奪うように拡散していく。
左右へ避けて近接信管が作動してもこちらの被弾は免れない攻撃。なら──!
「
__マスターギア、オンライン。ライフルモード起動。
「撃つ!」
マスターギアを
誘導するミサイルと比べて直線的な軌道の砲弾を撃ち抜くのは造作もなく、当然撃ち抜かれた砲弾は此方へ着弾する前に爆発した。
「ナイルさん!」
「続きます、前へ!」
ミサイルの包囲網を抜ける為に、私達は前へと進む。ここから撤退するのが私達の目標ではあるが、デカグラマトンの預言者に背を向けて逃げるのが容易ではない事ぐらい簡単に想像がつく。
だから、まずは──!
「リベンジマッチの予行演習だ!
__軽くひねりましょう。
──目の前の壁を乗り越えるまで!
砲弾の爆風を突き抜け、私はケテルへ向けてバーニアを吹かして加速する。
背後から迫るミサイル群は、ナイルさんのフェザービットが全て撃墜してくれたから、背中を守る必要はない。
私の接近を感知したケテルのアイセンサーが光り輝くと、そこら中の建物の中から一気に飛行ドローンが飛び出してきた。
数はゆうに百を超えており、私の視界が敵を知らせるアラートで赤く染まる。
「ナイルさん!」
「広域殲滅は私がやります、ヒスイさんはケテルを!」
「頼みましたよ!」
今の
──けど!今の私は一人じゃないから!
「Naillユニット、アンロック。リミッター解放、出力安定……」
ナイルさんの背中から生える山吹色の翼が一段と大きく光り輝き、その両の手に握る直剣を重ね合わせた。激しい輝きと共に両の剣から黄金の輝きが溢れ出し、天を貫く刃を作る。
「
黄金の刃の一薙ぎは大量の飛行ドローンを粉砕し、膨大なエネルギーにより粉砕されたドローン達が空で連鎖的に爆発していく。
圧倒的な破壊力をもつナイルさんを脅威と認定したらしいケテルは、その主砲の狙いをナイルさんへと向けた。
極大の剣を振るうナイルさんはすぐには動けない。もちろん、このままでは回避も防御も不可能なまま砲撃を受けてしまうだろう。
「さ、せ、る、かぁぁぁぁっ!!」
地上に構えるケテルへ肉薄するための急降下を行いながら、私はマスターギアのライフルを連射する。
連射力を優先した低収束のビーム弾はケテルの装甲に当たり、弾けるばかりで表面にわずかな焦げを作ることしかできない。
だけど、それでもわずかな衝撃は砲身に乱れを作り、砲撃の阻害となる。
__パイロット!
私へ照準が向けられた事を知らせるアラートと
こちらを標的と定めたマイクロミサイル達は、まるで意志を持つ羽虫のように私の周囲へ吸い寄せられる。
直線的な軌道のモノ、逃げ場を潰すように先回りするもの、大きく迂回するモノ。
視界のすべてが鉄と強化プラスチックの弾頭と、それが撒き散らす排気煙で真っ白に染まった。
「……見えるッ!」
だけど、今の私には……その全ての動きが手に取るようにわかる。
旋回、上昇、降下、迎撃。
「──ヒスイさん!」
「大丈夫!」
ミサイルに紛れて私に突撃をかける飛行ドローンに対して、左手のビームサーベルを展開して切り払い対処し──
「狙われています!!」
「──ッ!?」
──剣を振り抜く大振りの動き。慣性に身体が支配されていた瞬間。その身動きの取れない一秒にも満たない硬直を、ケテルは見逃さなかった
砲撃はすでに放たれていた。
ミサイルと煙と飛行ドローンの囮に紛れた計算され尽くされた“詰み”の一撃。
剣を振るったそのままでは機体を反転させて離脱するのも困難な状況。
回避は、出来ない──!
__パイロット!!
「……
瞬間。
私の体が……“
「!?」
「今のは……!?」
いつの間にか、直撃コースだったはずの砲弾は、弾道を逸れて私の背後を飛び抜けてゆく。
回避も、防御もしている暇などなかった。なら、一体なぜ。
そう考える私の視界の端に、小さく映る見覚えのない文字列が有った。
「……“NEXTjump”……?」
__肯定。当機の機能を使用しました。
突然の事に、その場の時間が止まっているように見えた。この場の誰もが、今の現象に戸惑っていた。
__“NEXTjump”は、VarierBlueユニットにより制限されていた当機の機能です。パイロットの神秘と共鳴することで使用可能となりました。
「神秘……?共鳴……?」
__肯定。コレは、私達の……
けれど。今は戦闘中で、当然、無防備に会話している私達の隙を見逃すはずもなく、ケテルは再び私に攻撃を開始する。
無数のミサイルと砲弾が放たれ──
__……新しい“力”です。
──そのすべてを、私達は置き去りにする。
「速い……!いえ、コレは……!?」
私達の機動を見て、ナイルさんは目を見開いていた。
それはある意味当然なのかもしれない。
“NEXTjump”。その機能、その効果は……“跳躍”。
ただし、翔ぶのは……“時間”だ。
私と
それが、“NEXTjump”。
「──翔ぶよ!
__システムオールグリーン。行きましょう、パイロット。
激しい発光を伴い、私の機体は“跳躍”を繰り返す。
攻撃を行う直前の一秒後の私へ。
回避を行う一秒後の私へ。
勝利へ向かう、
「はぁぁぁぁッ!!」
放たれた無数のミサイルをかいくぐり、放たれた砲弾を翔び超え、ケテルへ肉薄してゆく。
「
__ビームライフル、出力最大。
光線の減衰距離を超え、確実に当たる射程圏にとらえた私はビームライフルの出力を上げて両手で構える。
「撃つ!!」
込められたエネルギーをトリガーで解放し──
「──
__跳躍します。
──直後、NEXTjumpにより1秒後へ翔ぶ。
NEXTjumpは移動ではない。とにかく、“一秒後”への跳躍であるその行動を攻撃の反動があるときに使えば──!
「撃つ!!」
──再び最大まで収束されたエネルギーがビームライフルより放たれた。
そして、私は再び“
「もう……一発!!」
三度、ビームライフルから強力な光線が放たれた。
ほぼ同時に放たれた三発のビームはケテルの四脚へと襲い掛かり、回避をしきれなかったケテルはその脚のうち二脚へ被弾、損壊を受けて体勢を崩す。
「
ジェネレーターが唸りを上げて、ビームサーベルの刀身が強く輝きを放ち、私の身の丈ほどにその刃を巨大化させた。
ケテルはそんな私を近づかせまいと私へ向けて再び弾幕を張る。
だけど。
「そんなの!今の私達には──!!」
着弾の瞬間、私の身体は一秒先へジャンプする。
弾を置き去りにして、私の体はその先へ。
「──届かないッ!!」
ビームサーベルを振り抜き、ケテルの砲身を切り飛ばす。
預言者であるケテルの装甲は厚い。装甲の上からダメージを与えるのは至難の技だ。だから、本命の一撃は、
マスターギアの銃口を切断した砲身部にねじ込み、トリガーを引いた。放たれた熱線はケテルの内部を貫き、その弾薬部を誘爆させる。
どれだけ装甲が厚くとも、デカグラマトンの預言者がマシーンである以上……内部からの崩壊に弱い事実は変わらない!
ビームライフルの直撃を受けたケテルの装甲は、内部の爆発を受けてボコりと膨らみ、歪んでゆく。
後は、爆発する前に離脱するだけ……!
機体を反転させ、空へ向けて飛び立つためにスラスターを吹かした──その、瞬間。
ケテルの脚部に仕込まれていたワイヤーが射出され、
「しまっ……!」
__離脱不能……パイロット!
ケテルの感情の無いアイセンサーが、こちらを見据えていた。……逃さないと、まるでそう言っている様で。爆発に巻き込んででも、私達を止めようとしている様で──。
「させません!!」
爆発の寸前。山吹色の閃光が走り、私たちを拘束していたワイヤーが切断され、私は機体ごと強く空へと引っ張り上げられた。
あまりの加速に一瞬気が遠くなりそうになったけど……どうにか意識を繋ぎ止めた次の瞬間、ケテルが大爆発を起こした。
「間一髪、ですね」
「す、すみません……ナイルさん……」
「
大空の上まで私のことを引き上げてくれたナイルさんに頭を下げると、ナイルさんは優しく微笑んで私の頭を撫でてくれた。
私のほうが大きいのに、なんだかナイルさんがお姉さんのように感じて……すこし、恥ずかしくなってしまった。
「さあ、今のうちにここを出ましょう。追撃の態勢が整う前に」
「は、はい!」
ナイルさんに先導されて、私はデカグラマトンの支配域から飛び去った。編成の軸になるケテルが撃破された事で、私達を追撃する為のドローンは存在せず。追っ手を振り切った私達はそのままその空域を離脱していくのだった。
「け、ケテルちゃん……!」
「まさか、本当にNuillを使いこなすなんて……」
「想定外。……だけど、このまま逃がす訳にはいかない」
「どうするつもりですか、ソフ」
「決まってるでしょ。追撃をかけるんだよ、オウル」
「で、でも……ケテルちゃんは……」
「アイン」
完全に大破してしまったケテルの修理は……現実的ではない状態だった。デカグラマトンのエンジニアである三人の少女たちの手を以てしてもその復活は困難な状況である事は火を見るより明らかで。
「ケテルの
「幸い、シンギュラリティの拠点がミレニアムサイエンススクールである事は判明しています。……あのどこぞの馬の骨がどこから湧いて出たのかまでは私にもわかりませんが」
「……なんだ、オウルも結構気にしてるんだ」
「当然です。あんな盗人に思い通りにされてはたまったものではありませんからね。アインも」
「う、うん……。Nuillに意識が芽生えていたのは想定外だったけど……確保できれば調整はできると思う」
「じゃあ、やることは決まりだ」
「もう一度……ホドに出てもらおう」
──戦いは、始まったばかりだ。