キミとNEX→T!!   作:Ziz555

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 それが自分の果てだと知って。目眩がした日もあった。


第5話:“ロマン”の価値

 

 空の上で、複数の機影が宙を舞っていた。

 

 それらは、上昇と下降、旋回と停止を繰り返し、互いの距離を目まぐるしく変化させる。

 

 地上の戦闘では起こり得ない、常に変化し続ける戦況と、遮るものの無い空間において、足を止めることは敗北を意味する。

 だが、攻撃と移動を同時に行う事は至難の業だ。支えのない空中において、攻撃による反動を受けてしまえば、姿勢が崩れ、飛行がままならなくなる。

 

 故に、必ず――動きは、止まる。

 

「ひとつ!!」

 

 ヒスイの叫びとともに、“X(エクス)”のマスターギアから光条が放たれる。

 狙いすました一撃は、攻撃の為に足を止めたドローンの中核を寸分違わず貫いた。

 

 だが、それはドローンの狙い通りだ。

 

 ヒスイを取り囲むように転回されたドローンの内、一基が彼女の背後を捉える。

 反撃を行ったヒスイの動きも、同じ様に一瞬その場で止まっていた。

 

 前方のドローンは、ヒスイを誘う囮だったのだ。

 

 ……だが、ヒスイの“感”が、その動きを捉える。

 

「――見えたッ!!」

 

 頭に閃く様な感覚を受けたヒスイは、振り向くより早く、右マニピュレータのマスターギアを左脇下を通す様にして後方へ向け、トリガーを引く。

 

 ドローンがヒスイを捉えるより先に放たれた光条がドローンを撃ち抜いた。

 

 不意をついて尚。一手、ヒスイの方が速かった。

 

「ふたつ!!」

 

 計算を超えたヒスイの動きに、陣形の崩れたドローンと、彼らを従える航空機の動きが止まる。

 

 攻撃もせずに止まる事は――即ち。

 

「ネクスッッッ!!」

 

 ヒスイの声に応じるように、“X(エクス)”のジェネレーターが唸りを上げる。

 

 スラスターの出力が向上し、停止状態から急激な加速が行われ、あっという間に最高速へと到達する。

 

「ギッ……。っ、はぁぁぁぁッ!!」

 

 全身を襲ったGを、ヒスイは歯を食いしばって堪えると、そのままマスターギアの引き金を連続で引く。

 

「みっつ!よっつ!!」

 

 次々と航空機の防衛を担うドローンのすべてを的確に撃ち落とし……残るは、首魁のみ。

 

 左腕部発振器から、光の刃が形成される。

 

「これでッ!!」

 

 左腕を大きく二度振り抜き、航空機を正面からクロスの形に切りつける。

 そのまま、斬撃でできた破損部に、マスターギアの銃口をねじ込んだ。

 

「終わりっ!!」

 

 射撃と同時に、航空機を蹴って機体を反転。

 内部に接触距離でビームを受けた航空機は、内部から膨らむようにして爆発を起こし、ヒスイはそれに巻き込まれる事なく離脱する。

 

「今日も完璧だね!ネクス!」

 

 完全無欠の大勝利に、少女は花を咲かせるような笑顔を浮かべ、相棒の名を呼ぶのだった。

 

 

 

「本当にすごい性能ですね、“X(エクス)-VariaBlue(ヴァリアブルー)”は」

 

 少女とドローンの戦闘をモニタリングしていたオペレーターアンドロイドの男が、そんな言葉を漏らした。

 

「単独飛行能力に、超高出力の携行武装に……背後の敵までしっかりロックオン出来る緻密なセンサー機能一つ取っても、我々の技術を超えていますよ。勿論、その情報にしっかり反応できる彼女も凄いのですが……」

 

 記録された少女と“X(エクス)”の戦闘映像を巻き戻して見ながら、感心したように頷く男に、彼の後ろに立っていたチーフが口を開く。

 

「そうですね。……最も、“X(エクス)”に背後の敵をカバーするセンサーは付いてはいませんが」

「へ?」

 

 チーフの言葉に、男は呆けたような声を上げて、チーフの様子をうかがう。そんな彼に、チーフはシンプルに事実を告げた。

 

「アレは彼女の持って産まれた空間把握能力です」

「嘘でしょう!?彼女は背中に目でもついてるっていうんですか!?」

「冗談を。彼女は普通の人ですよ。……私達とそう変わらない、ね」

 

 チーフは両手を後ろに組みながら、ヒスイの映るモニターへと視線を向ける。

 

「だとしたら彼女、戦士の逸材ですね。ついこの前まで、戦いとは無縁の暮らしをしていたんでしょう?」

「北蔭高校の生徒だそうですよ」

「北蔭の?へぇ……、どんなどこにも天才は居るもんですね」

 

 どこか他人事のようにモニターの向こう側に映る少女の姿を眺める男に、チーフはすこし呆れたようにため息をついてから、コンソールのマイクをONにした。

 

「お疲れ様です。ヒスイさん」

『あ、チーフ。終わりましたよー』

 

 チーフからの通信に対し、ヒスイはにこやかな表情のまま、気さくに返事を返す。

 

「コレで四度目ですが……随分と手慣れましたね」

『そうですかね?でも、これも全部ネクスのおかげですよ。ねー?』

 

 自らの駆る相棒に語りかけるようにして笑うヒスイに、チーフは思わず表情を緩める。

 “戦士の逸材”等と言うには、その表情はあまりにも年相応な、無邪気な少女そのものだった。

 

「武装のメンテナンスと、コアブロックのチェックの為に一度こちらへ帰投してください。疲れた身体をしっかりと休めるためにも、ね」

『ありがとうございます。あ、メンテナンスには……』

「もちろん、貴方も立ち会って頂いて構いません」

『はい!じゃあ、急いで戻りますね!』

「くれぐれもヴァルキューレの監視には見つからないように。“X(エクス)”を回収されては困りますからね」

『わかってますよ!それじゃ、又後で!』

 

 ハツラツとした返事を最後に、通信は切断される。とは言え、彼女をモニタリングしているドローンは、その映像をモニターに映し続けているのだから、チーフからはその姿や声が見えているのだが。

 

「……いつも思うんですけど。彼女、本当に“X(エクス)”に愛着があるんですね」

 

 モニターに映る、独り言を話しながらクスクスと笑うヒスイを観ながら、オペレーターの男が言う。

 

「あんなに愛機に楽しそうに話しかける人。見た事ありませんよ」

「……もしかしたら、彼女には“エクス(X)”の声が聞こえているのかもしれませんね」

「機械の声ですか?あははっ。それは……“ロマン”がありますね」

「そうですね」

 

 チーフは静かに、頷いた。

 

「――“ロマン”は、大切ですから」

 

 

 


 

 

 

 私のネクスの出会いから、一月ほどが過ぎていた。

 

 

 

 “デカグラマトン”の刺客は、アレから何度か私達の元へと襲撃をかけてきた。

 カイザーPMC……もっと言うなら、“チーフ”の擁する特別兵装試験運用部隊の支援を受けている私は、彼らの出現に対し、後手に出ること無く、万全の迎撃態勢を取ることができていた。

 

 “ネクス”は、私のガレージで保管させてもらっている。

 私がネクスを手放すのを嫌がったから……、というのもあるが、緊急の出撃要請の際に、私がいちいちPMCの駐屯地へと出向くと言うのが効率的では無いからだ。

 とは言え、私のガレージは所詮、日用家電や普通のビークルを整備する程度の設備しか整っていない。

 最新鋭をブチ抜き、その遥か先の技術が使用されているネクスのメンテナンスや修理には、とてもでは無いが機材も資材も足りない為、定期的にチーフお抱えの研究施設にお邪魔させてもらっている。

 

 そして、チーフは私に本当に良くしてくれている。

 

 ネクスのメンテナンスに興味のある私を、必ずその場に立ち会わせてくれるし、出撃の後には決まって美味しい紅茶とお菓子を振る舞ってくれる。

 正直、世話になりっぱなしで、申し訳ないとすら感じてしまうレベルだ。

 特装隊――()別兵()試験運用部()の略称だ――の皆も、私の事をまるで娘の様に可愛がってくれる。

 ゴリアテの訓練用シミュレーターを遊ばせてくれたり、私が好きなメカの話をしたら、ちゃんとそれに答えて色々な経験談を聞かせてくれる。

 名機と言われながらも姿を消したモノの中には、現場に沿わない相応の理由があったり、実際に使ってみないと分からないような事を教えてくれるのは、とても新鮮な経験だった。

 

 

 

 楽しかった。

 

 

 

 誰とも話さず、何をするにも自分一人が浮いているような感覚のある学校にいる時なんかより、ずっと。

 まるで、ここに居るのが本当の自分のようで。私はいつしか、特装隊の皆との時間を、心の底から楽しみにするようになっていた。

 

 そんな私は、けれど学生の本分として、学校に通わなくてはならない。それがどれだけ退屈で、つまらなくて、嫌気が差していても。

 

 今日も、そんな学校での時間を終えた私は、誰よりも早くカバンを持って教室を出た。

 街の皆に頼まれた修理の依頼もない今日は、又、チーフの所に遊びに行こうか。なんて、そんな事を考えながら。

 

「ヒスイーっ!」

 

 校舎を出た辺りで、私の名を呼ぶ聞き慣れた声が聞こえた。

 

 呼ばれた声に振り向けば、やっぱりそこには彼女が居た。

 駆け足気味に私に近寄ってきた彼女を、私はいつものように両手を広げて受け止めた。

 

「どしたの、エンジュ」

 

 私に抱きとめられたエンジュは、一度私の背中に手を回して抱きしめてから、パッと身体を離して、手の位置を私の両肩の上に変えてから私の目を見て言った。

 

「今日、クラスの皆とカラオケ行くんだけど、ヒスイも行こうよ!」

 

 確かに。昼休みにそんな話をしていたような気もする。

 その時の私は、机に突っ伏しながら、昨日の戦闘を思い返しながらイメージトレーニングをしていたので、詳しい事は分からない。

 けれど、エンジュはこうして度々、クラスの皆と遊びに出かける時に、私を誘ってくれる。

 

「いつも思うけど……私、別に歓迎されて無いと思うんだよね」

「ダメダメ!ヒスイはただでさえみんなと話さないんだから、こういう時にしっかりコミュニケーション取らないと、みんなヒスイのこと誤解してるんだから」

「そうかなぁ……?」

 

 エンジュの言葉に、私は過去のお出かけの事を思い出す。

 用事がないなら!と、半ば無理やりエンジュに連れ出されたそれらの経験において、私はどうにも浮いていた様に感じる。

 最初の頃は、お互いにどうにか会話をしようとしていたのだが、二回、三回と数を重ねる事に互いの距離感が明確になっていったような気がしてならないのだ。

 別に、私とてみんなと仲良くしたくない訳では無い。けれど、私の興味はいつも油臭いものに向けられているせいで、どうにも話が合わず、どちらかが曖昧な相槌を返すだけにしかならない。

 最先端のファッションやアクセサリーの話をされても、私に興味が無いように、彼女らにとって、最先端のデバイスには興味が無いのだ。

 私のことを気にかけて連れ出してくれるエンジュには感謝している。している、のだが――。

 

「今日は仕事無いんでしょ?行こうよ!」

「あー……。ごめん、今日はちょっと行きたい所があって」

「ヒスイが、仕事以外の用事……?」

「うん。ごめんね、誘ってくれてありがと」

 

 謝罪と感謝を示してから、私は踵を返して校門へ向う。エンジュには悪いけれど、特装隊のみんなの所に行くほうが――私にとって楽しいから。

 

「待って待って!」

 

 スタスタと歩き始めた私の横に追いついたエンジュが、横から私の顔を覗き込む。

 

「ちょっと、なんかヒスイ、最近付き合い悪くない……?」

「そう?」

「そうだよ。なんか、新しい“仕事”を初めたってころから、変わっちゃったみたいというか……。なにか、悪い事に巻き込まれたりとかしてない?」

 

 ――“悪い事”。

 

 …………。

 

 “デカグラマトン”に狙われている、という事実は、ある意味危険なのは確かだし、そういう意味ではエンジュの懸念は当たっているような気もする。

 けれど、ネクスと過ごす毎日は楽しいし、チーフや特装隊の皆の事を“悪い”とは、私はどうにも思えない。というか、それを“悪い事”と認めるのは、どうにも彼らに失礼な気がしてならなかった。

 

 総じてプラスとマイナスの要素を合わせてみるなら、これは“プラス”なのだと判断した私は、エンジュの問いに答えを返す。

 

「……だ、大丈夫だよ」

 

 どもっちゃった。

 

「嘘だ!!!!今の間は絶対に嘘!!何か私に隠してるでしょヒスイ!?」

「いや、もう、本当に大丈夫だから……大丈夫なんだよエンジュ……」

「いーーや!これは絶対何か隠してる!ヒスイは昔から嘘を付くの苦手だし!危ない事に何でもすぐに飛び込むくせあるんだから!」

「そ、そんなまるで好奇心の塊の子供みたいな……」

「去年、プールでワニのメカが暴れた時に“メカ!?見に行きたい!!”とか言って飛び出しそうになってたの忘れてないよ!?」

「ウッ……」

 

 あ、アレはだって。水辺で十全に稼働しながら相応の危機をばら撒く、水生生物の見た目をしたメカと言われたらロマンを感じてしまったと言うか……、いや、その。

 

「……だ、ダイジョウブダヨー、ヤダナー」

「絶対ダメじゃん!?」

 

 その状況と何が違うの。と言われた時に反論できる自分が見当たらなかった。南無。

 

 純粋な善意で私のことを心配してくれているエンジュの言葉に、私はどうしたものかと頭を悩ませながらも歩みを進めていると――。

 

「――なんだろ、アレ?」

 

 不意に見えた人集りに、私の口から疑問がこぼれた。

 私の言葉に、エンジュも視線の先を追う。

 

 校門の付近に、何やら数人の生徒が立ち止まり、一点を見つめている。

 

「誰か居るのかな」

「それだけでこんなに足止める?」

 

 校門へ向かうにつれ、自然と人集りとの距離が縮まり、次第に彼女たちの言葉が耳に届くようになる。

 彼女たちはヒソヒソとしきりに、どうやら校門の前にいるらしい“大人”の話をしていた。

 やれ、背丈が高いだの、“カイザーPMC”だの、高そうなコートだの、誰を待っているのかだの。そんな話を――。

 

「…………ん?」

 

 私はどうにも、彼女らの話している“大人”の外見的特徴に覚えがあった。

 カイザーPMCに所属している背丈の高い大人で、高そうなコートを着こなす人。

 

 まさか。

 

 人集りの向こう、校門の前に立っているその大人と、私の視線が交差した。

 

「ち、チーフ!?」

「お疲れ様です、ヒスイさん」

 

 そこに立っていたのは、私の思い浮かべていた大人。“チーフ”その人だった。

 

「なんでここに!?」

「少しこの近辺で用事がありまして。ついでに――おや?」

 

 何かあったのかと、私は思わずチーフへと駆け寄る。すると、チーフはいつもの調子で私を見てから、何かに気づいたように私の隣へと視線を向けた。

 

「貴方は……ヒスイさんの御学友でしょうか?」

「えっ……と」

 

 気がつくと、私の後に隠れるようにしてエンジュが立っていた。人見知りをあまりしないエンジュにしては珍しく、チーフの言葉に戸惑うような素振りを見せるエンジュだったが、そんな姿を見てチーフは軽く頭を下げた。

 

「ああ、すみません。伺うのであれば、先に名乗るべきでしたね。……私はカイザーインダストリーで働いている者です。皆からは“チーフ”と呼ばれています」

「あっ、はい。ご丁寧にどうも……。私は、太刀川エンジュと申します」

「貴方がエンジュさん。……お話は、ヒスイさんから聞いていますよ」

「ヒスイから?」

「ええ。何かとお世話になっているようで」

「ち、チーフぅ……。その話は……」

「ダメでしたか?お二人は随分と仲の良いご友人だと思っていたのですが」

「それは、そうだけどさぁ……」

 

 面と向かって、私がエンジュの話をしていたという事実をエンジュに伝えられてしまうと、私はどうにも恥ずかしさが抑えられなかった。

 チーフの言うように悪いことでは無い。それは、分かっているのだが――。

 

 そんな私とチーフのやり取りを、エンジュがぽかんと口を開けて見ていた。

 驚きと困惑の入り混じった視線は、私とチーフのどちらに向けられるでもなく、私たちの中間あたりをさまよっていた。

 

「と、とりあえず!チーフ!私に何か用が合って来たんでしょ!?」

 

 これ以上ボロが出る前に話を変えるため、エンジュが呆けている間に話を進めるべく、私はチーフに一歩詰め寄る。

 するとチーフは、どことなく笑っている様な雰囲気を漂わせながら、コートの内ポケットから一枚の紙片を取り出す。

 

「ヒスイさんにはお世話になっていますから、恩返しをと思いまして」

「恩返し……?」

「ええ」

 

 そう言いながら、チーフはその紙切れを私に差し出す。

 

 そこに書かれていたのは――。

 

 

 

「ミレニアムEXPO(エキスポ)の関係者招待をいただきましてね。同行者として、如何ですか?」

 

 

 

 ――夢の国(エキスポ)への、招待状。

 

 

 

 私は両手でチーフの手からチケットをひったくって。

 

 

 

「ぜっっっっったい!行くっっっっ!!!!」

 

 

 

 興奮のままに、歓喜の叫び声を上げた。





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