キミとNEX→T!!   作:Ziz555

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 聞こえて。目指して。届いてほしくて。



第6話:夢物語の出発点

 

 その日は、澄み渡る青空が広がる、清々しい天気だった。

 

 そんな天気に負けず劣らず、私の心も晴れ晴れとしている。

 だってそうだろう。今の私がいるのは、夢にまで見た理想の地。私が焦がれて止まぬ、期待の世界。

 

 

 

 

「――ミレニアムだぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 両手を握り、腕を振り上げ、体を大にして声を張る。

 興奮の限り、暴れる気持ちを抑えられずに、身体を通して世界へ示す。それでも全然、足りないぐらいに。

 

「ヒスイさん。もう少し落ち着きましょう。周りの方に迷惑ですよ」

「アッ……スミマセン……ツイ……」

 

 溢れんばかりの興奮をチーフに指摘され、冷静さを取り戻した私は、体を縮めて周囲を見る。通りがかる人々からは、異様なものを見るような視線が向けられており、私は先ほどまでの行いが途端に恥ずかしく思えてきてしまった。

 

 とても顔が熱い。

 

 そんな私を見て、後ろの方でチーフが快活な笑い声を上げていた。

 

 


 

 

 

 ――――ミレニアムEXPO。それは、ミレニアムサイエンススクールで開催される、技術と文化の祭典だ。

 

 新進気鋭の技術者(ロマンチスト)がその渾身の作品の是非を比べる“ミレニアムプライス”という催しもあるが、こちらは栄誉ある賞を懸けた品評会であり、それ故に“優れた”物ばかりが集う場となる。

 

 だが、“EXPO”は文字通りの“見本市”である。

 

 優劣ではなく、日頃彼女たちの追い求める“技術(ロマン)”を、思い思いの形で、全霊でもって自由にアピールできる場だ。

 そこに求められる優劣はなく、あるのは溢れんばかりの情熱。

 自由に、それぞれの技術者(ロマンチスト)が追い求める理想の形を表現できる祭典。年に一度の、ミレニアムの文化祭のような物。

 活気と熱気に溢れた会場は、確かに私の感性(センス)を強く刺激するのだ――。

 

「――と言うわけで、私は毎年。プライスよりEXPOの方が楽しみなんですよね」

「随分熱心に語りますね。ミレニアムサイエンススクールに興味があるとは仰っていましたが……まさかこれほどとは」

「私の熱意は伊達じゃありませんよォ!」

 

 思わず、私の鼻がフンフンと音を立てる。そんな私の調子に、チーフは変わらない調子で笑みをこぼすのだった。

 

 私たちは今、ミレニアムEXPOの会場内を二人で歩いていた。右を見ても左を見ても、最新鋭の技術に満ちあふれた空間は、私に常に新たな刺激を与えてくれる。

 家電、銃器、ゲームに、新しい素材等。“テクノロジー”に関していれば、その展示物には規則も制約も存在しない。

 海洋に関する展示があったと思えば、キヴォトスの過去に迫る展示もあり、それら全てに計りしれぬ“情熱”を感じられた。

 

 関係者限定の公開日である為か、意外にも会場の人混みは酷くなく、私は興味の惹かれるままに、様々な展示物を体験していた。

 

「エンジュさんもご一緒できれば良かったんですがね」

 

 私がEXPOの空気(ねつ)を満喫していると、ふと、チーフのそんな声が聞こえた。

 

「友達との約束があったんじゃあ、仕方ないんじゃないですか?先約すっぽかす訳にもいかないと思いますし」

 

 私は、AI研究部の展示物である、VRシミュレータに挑みながらチーフへと言葉を返す。

 装着されたゴーグルの先に展開された空間に、“ダルマ”が現れ、私はそれに備えられたVRガンで狙いをつけた。

 

「エンジュは私と違ってクラスの人気者ですから、どうしてもしがらみが多いんですよ」

「ヒスイさんは違うのですか?エンジュさんとは特別仲がいいようでしたが」

「まさか。こんな性格の女の子。ウケると思います?」

 

 ガチガチとVRガンのトリガーを引くと、ダルマへと向けて弾丸が発射される。

 ダルマは、私の挙動を読んで回避行動をとりながら距離を詰めんとするが、弾丸が命中すると押し返される。そして、私は規定距離までダルマに近づかれたらGAMEOVER。というルールだ。

 

「……なかなか難しい話かもしれませんね」

「でしょう?」

 

 私の動きを学習し、どんどんとダルマの回避速度が上がってくる。

 私の攻撃パターンを学習し、最適な回避行動を叩き出し、“どんな生徒が相手でも”、最終的には適応するというのが“ウリ”のAI。とのことだった。

 

「まー。それは慣れてるのでいいけど。……それに」

「それに?」

 

 ダルマの動きが、いよいよ目では捉えられなくなってきた。飛んだり跳ねたり、単なる横移動ではなく、上下左右に奥行きも加えた軌道は、現実ではありえない動きをしている。ここまでの成長に辿り着いたのは、私の前には二人だけだったらしい。

 オーディエンスと、開発チームから歓声が上がる。

 

 私の動きに注目が集まっていた。

 

「――エンジュはこういうの、興味無いですから」

 

 

 

 ズガガガガッ!!

 

 

 

 私のトリガーを弾く指が、さらに加速する。

 ターゲットの動きは、もう完全に目では追えない。

 

 だが――見るまでもない。

 

 歓声が、どよめきに変わる。

 

 

 

「私、人に合わせるの――苦手なんですよ」

 

 

 

 今の私に――“避けなくていい”なんて、簡単すぎる。

 

 

 

 見る必要が無いのであれば、VR世界を見せるゴーグルは必要ない。

 私はゴーグルを外してから、チーフの方へと振り向いた。

 

「ね?」

 

 銃を肩に担いで、最後のトリガーを引いた。

 

 それと同時に、モニターからブザーが鳴る。

 

「――お見事」

 

 タイムオーバー。……だるまさんは、転んでしまいましたとさ。なんて。

 

 呆気にとられるみんなの中で、一際驚きと、悔しさをにじませている子を見つけた私は、ゴーグルとガンを定位置に戻すと、その子へ声をかけた。

 

「ねぇ。この子を作ったの。キミ?」

「えっ?……いや、みんなで作ったから、べつに私のじゃ……」

「でも、一番力入れてたんじゃない?」

「それは――」

 

 なんで。という視線が私へ向けられた。それを問われた所で、“なんとなく”なんていう、技術者としては失格な答えしか返せない私は、「ビビッときたから」なんて言葉で彼女の線をはぐらかす。

 

「この子、少し素直すぎるんじゃないかな」

「素直、ですか?」

「うん。たぶん、強い乱数とか殆ど入れてないでしょ。だから、読みやすかった」

「えっ。いやっ、でも――」

「……なんて、口出ししておいて悪いんだけど。私、プログラム詳しくないから」

 

 そこまで話して、私は自分の失敗に気づいた。素人のアドバイスほど、下らないものはないというのは、私にだって分かる話なのに、プログラムのプの字も理解していない私に言われた所で、それは邪魔以外の何物でもないだろうに。

 

「じゃあ……!わ、私はこの辺で!」

 

 いたたまれなくなった私は、思わずその場から逃げるように駆け出した。

 変わった気でいても――カッコ悪いのは、相変わらずだなぁ、私。

 

 AI研究部のブースからしばらく離れたあたりで、ようやく私は足を止める。

 

「はぁ……やっちゃった」

 

 作品に込められた情念と、私が攻略した時に見せたあの子の執念のような悔しげな感情に、思わず余計な口出しをしてしまった。知ったかぶりの、気持ち悪いオタクの早口は悪い事だと知っているのに。

 

「会場を走ると危ないですよ」

 

 膝に手を置いて、少し上がった息を整えていると、追いついてきたチーフの声が聞こえた。

 

「すみません、つい」

「衝動的になってしまうのは、それだけの熱意の証左ではあります。これ以上は何も言いません」

 

 チーフはいつもと変わらない落ち着いた声で私を諭す。

 本当に、この人は――“大人”だ。

 

「しかし。なぜ分かったのですか?」

「へ?」

 

 唐突な問いに呆ける私を置いて、チーフは歩き出す。そんな彼に置いていかれないよう、私もあとへと続いた。

 

「貴方は時折、“全てを見透かした”ような動きをする。今回のゲームにおいても、貴方はターゲットの出現位置が分かっていたように見えます」

「まあ……なんとなく」

「“なんとなく”。ですか」

 

 振り返らないチーフの表情は、私には見えない。けれど、納得はしていない事は分かる。

 この人になら、話してもいいかもしれないと、そう思った。

 

「聞こえるんですよ、“声”が」

「声?」

「はい。“機械の声”です」

「――ほぅ」

 

 私には、みんなには聞こえない“声”が聞こえることがある。

 ヤナギさんの元で長く機械に触れていた私は、いつからか“機械の声”が聞こえるようになっていた。それは、心を持たないはずの物質の中に秘められた、不思議な彼らの“意志”のような物。

 ……本当は、周りの人の“心の声”も少し聞こえているんだけど。それはまあ、今回話さなくてもいいかなって。

 

「曖昧ではっきりとはしないんですけど、何となくわかるんですよね。その子が“どう動きたい”のか。何でしょう、メカニックの勘……なんですかね?」

 

 私なんて、街の小さな修理屋さん程度のアマチュアなのだが。

 

 ……しかし、この話は。私にとって当たり前の“機械の声(コレ)”は、世界にとっては非常識で、イレギュラーで、“理由の解らない(キモチワルイ)”物だと知っている。

 チーフなら、子供の戯言と流してくれるだろうか。なんて、そんな事を思いながら、いつの間にか俯いていた視線を上げると――。

 

「……道理で“X(エクス)”をあそこまで動かせる訳ですね」

 

 感心した様子でこちらを振り返るチーフの姿が、そこにはあった。

 

「――信じるんですか?」

「“X(エクス)”での数々の戦闘に加え、先ほどの光景を見せられれば納得もします。貴方には、何か特別な力が有るのだと。そう言われた方が自然だとは思いませんか?」

「で、でも!」

「ヒスイさん」

 

 チーフは、私の言葉を遮った。

 

「我々の様な“探究者”は、この世界にない物を作り出す事が使命です。探し出し、発見し、解析し、理解する。それこそが、我々の命題です」

 

 ぐるりと、周囲に設けられた数々のブースを示しながら、チーフは続ける。

 

「御覧なさい。此処にある全ての要素は、“あり得ない”と笑われた“非現実(フィクション)”を“現実(リアル)”にする為の試みです。それは、ともすれば愚かな行いと笑われることもあるでしょう」

「それは――」

「良いではないですか。ならば、共に笑いましょう」

「――え?」

 

 チーフは、表情の見えないそのフェイスカバーの奥で――確かに、笑っていた。

 

「開発には――思わず笑顔になってしまうような“ロマン”が必要ですから」

 

 その言葉に。師匠(ヤナギさん)の面影が重なって。

 

 

 

 ――メカは“ロマン”だぜ、嬢ちゃん。

 

 

 

「――――はいッ!!」

「ははは、いい返事ですね。やはり子供は、元気に笑っている方がいい」

「チーフもよく笑いますけどね」

「ええ。“ロマン”には、少年の心も大切ですので」

 

 チーフは、はっはっは。と、冗談めかした笑い声を上げながら踵を返して進み始める。

 特装隊のみんながチーフを慕っている理由が、なんとなく私にも理解できた。

 そんなチーフの背中を追いかけて進むと――、ふと、一際大きなブースが目についた。

 

 他の出展より、明らかに大きく確保されたその区画の中心には、大きな“ナニか”が鎮座している。

 

「……鉄の、箱?」

 

 複数の角張ったユニットの集合体であるそれは、私に無骨な印象を与えた。各ユニットがケーブルで接続されていなければ、それが何らかの機械であるとは気づけなかっただろう。

 

 ――なんだろう。なにか、気になる。

 

「気になりますか?」

 

 いつの間にか、チーフの視線も私と同じ方向へと向けられていた。

 

「はい。……アレ、多分、パワードスーツ……ですよね?それも、ミレニアムの最新式、“戦乙女(ヴァルキリー)シリーズ”のフレームを使ってる」

「その様ですね」

 

 私とチーフの足は、いつの間にかその展示物の前で止まっていた。

 

 私の知らない、けれど、どこか、なにか。自分の中に“引っかかる”ものを感じるその機体に、私の視線は釘付けとなっていた。

 

「……こんなパワードスーツ、見たことない。私の知る“戦乙女(ヴァルキリー)シリーズ”は、もっと――」

 

 

 

「説明や解説が必要ですか?」

 

 

 

 ふと、背後からそんな声が聞こえた。

 

「――“戦乙女(ヴァルキリー)シリーズ”というのは、昨年、ミレニアムのエンジニア部が開発、発表した、最新のパワードスーツです。そしてそれは、“パワードスーツの小型化”という、一つの大きなブレイクスルーの発端ともいえるシリーズでもあります!シリーズの大きな特徴として、それまでのパワードスーツに比べて非常にカジュアルで、スマートな造形をしているという点が上げられるでしょう!」

 

 その声の持ち主は、つらつらと慣れた様子で“戦乙女(ヴァルキリー)シリーズ”の解説を始める。

 

「そしておそらく、お二人は目の前の“コレ”が、“戦乙女(ヴァルキリー)シリーズ”のフレーム的特徴を備えながらも、戦闘を前提としたような大量の火器や装甲を積載している事に疑問をいだいたのですよね?」

 

 私たちの疑問に対し、過剰とまで言える説明をするその少女は、ミレニアムの生徒証を首からかけていた。

 ミレニアムの制服を独特な着崩し方をした、その金髪の生徒は、自慢げにそのメガネを輝かせながら、豊満なモノをもつその胸を自慢気に膨らませた。

 

「えっと、あなたは……?」

「おおっと!すみません!申し遅れました!」

 

 私の当然の疑問に対し、少女は「私としたことが……」等と溢しながら照れくさそうに頬を掻いた。

 

「はじめまして。私は、ミレニアム・サイエンススクール二年。エンジニア部所属の豊見コトリと申します。以後お見知りおきを!」





 ようやく原作キャラが登場です。もう6話ですよこの作品。

 ちなみに“二年”は誤字ではありません。この作品の独自設定です。
 この作品のキヴォトスでは妙にパワードスーツ技術が発展していたり、エンジニア部がパワードスーツを開発しているのも、とある独自設定から来るものだったりします。とある事をやりたくて、その為にその要素が必要だったので……。
 所謂“二次創作”とは少し毛色が違う拙作ですが、今後も是非お付き合い頂ければと思います。

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