キミとNEX→T!!   作:Ziz555

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 越えられなくて、転げ落ちていく。



第8話:「貴女が、この子のパートナー?」

 

「――テストプログラム終了。ステータス、オールグリーン」

「お疲れ様です。これで“X(エクス)”の修理は完了ですね」

 

 キヴォトス某所、カイザーインダストリー。特殊兵装開発部――研究所。

 HOD(ホド)との戦いに敗れ、破損していた“X(エクス)-VariaBlue(ヴァリアブルー)”の修理を行っていたらしい技術者たちは、その工程の完了を確認すると共に、安堵のため息を付いた。

 

「装甲や武装の修理。問題なく行えましたね、チーフ」

「図らずしも我々の研究が正しかった事を確認できたのは、不幸中の幸いでした。部分的とは言え、リバースエンジニアリングも行えましたし。無意味な損傷ではなかったと言えるでしょう」

 

 部門責任者である男は、差し出された資料を受け取ると、パラパラとその中身を確認してから――それをそのままシュレッダーへと流し込んだ。

 

「デカグラマトンの預言者。想定以上に厄介な相手ですよ」

BINAH(ビナー)との交戦記録を確認するに、“X(エクス)”の最大出力であれば撃破は可能かと踏んでいましたが……。所詮データはデータです。実践とは違いますね」

 

 男は、強化ガラスの先に鎮座するパワードスーツ――“X(エクス)”へと視線を向ける。

 

「彼女には過ぎた代物か、それとも……」

 

 無機質な瞳は、ただそこに光を反射させ、あるがままのモノを映す。

 

「どーなんですかね。ログをみるに、適合率は高かった様に見受けられますけど。……“CAUTION”やら、“Accept”やらの表記だけ見てアレだけ察し良く動けるパイロット、ほんとに他に見ませんし」

「“機械の声が聞こえる”のだそうですよ」

「なんだそりゃ。……“X(エクス)”の操縦補佐AIに、人間的なコミュニケーションをとれるほどのスペックがあるとは思えませんよ?」

「ええ。そうですね」

 

 淡々とした返しに、スタッフの男は肩をすくめて首を横に振るうと、己の作業へと戻るべく、目の前のモニターへと視線を戻す。

 

「そーいや。どーするんですか、チーフ」

「何がですか?」

「“御殿様(プレジデント)”の催促ですよ。結局、一昨年に一本、ケッタイな棒切れ作っただけじゃないですか。……しかも、アレ先代が残してたの少しイジっただけだし」

「私は好きでしたよ?このご時世に“刀”に拘ったアレは」

「いや俺もイジってる時は楽しかったですけど」

「ならそれでいいではないですか」

 

 “X(エクス)”を眺めたまま、微動だにしない男に対し、スタッフの男が大きく肩を落としてため息をこぼす。

 

「で。どーするんです。そろそろ限界だと思いますけど?」

「“Vtユニット”が完成すれば、十分納得はしてもらえるでしょう。……その為の“X(エクス)”の稼働データです」

 

 “Vtユニット”。その単語にスタッフの打鍵する指が止まり、モニターに向けられていた視線は、“X(エクス)”を眺める男へと向け直された。

 

「それまで持ちますかね。彼女」

「さあ、どうでしょうか。彼女はどこまでいっても“ただの学生”です。戦士ではないのですし、戦士になる必要があるとも思いません」

「勿体ないなぁ……。ちゃんと育てたら、特装隊(ウチ)のエースになりますよ。アレ」

「冗談を。私達は“先生”という柄でもないでしょう?」

「そりゃ、そう、だ」

 

 カタンッと、キーボードが一際大きな音を立てる。

 

「それに」

「それに?」

 

 チーフは、どこか楽しげに声を弾ませて――。

 

「彼女が“X(エクス)”の適合者として覚醒するなんて。ロマンがあると思いませんか?」

 

 荒唐無稽な、根拠のないその言葉に、スタッフの男は苦笑を漏らす。

 

「チーフ。ますます先代に似てきましたね」

「そうですか?……まあ――」

 

 

 

「――“ヤナギさん”には、お世話になりましたから」

 

 

 


 

 

 

 「またねー」

 

 ある日の夕方。数人の少女たちが手を振りながらそれぞれの帰路へ着く。

 雑踏の中、人混みの向こうへ歩き去っていく彼女たちを見送るのは、二人の少女だった。

 

「今日も楽しかったね、ヒスイ」

 

 沈みかけた赤い夕日に照らされて、端正な顔立ちの少女の笑顔が輝く。そんな彼女に名前を呼ばれた、翡翠色の髪の少女は、ほんのわずかに頬を緩めて応えた。

 

「そうだね、エンジュ」

 

 

 

 ――HOD(ホド)に撃墜されたヒスイは、突如として乱入してきた謎の生徒の協力により、なんとかミレニアムから離脱する事ができた。

 

 当然、逃げるヒスイをHOD(ホド)は逃がすまいと攻撃を仕掛けていたが、それら全てを遮断した“助っ人”の力もあり、ヒスイは怪我一つ無く逃げ帰ることができたのである。

 

 だが、今までとは比較にならない損傷を受けた“X(エクス)”は、修理の為に一度特装隊に預けられる事となり――ヒスイは、一時の日常を取り戻すこととなった。

 

「しかし、驚いたなぁ。まさかヒスイが一緒に来るなんて」

「なにー?その言い方ー。誘ってきたのはエンジュでしょ?」

「でも、ここ最近ずっと付き合い悪かったし。……新しく始めたバイトが忙しいんだっけ?」

「あー……。うん、まあ。……ちょっとね」

 

 ヒスイがエンジュの問いに、煮え切らない答えを返すのは今に限った話ではない。少しでも都合が悪いことがあると、にごったような返事で誤魔化し、話したがらない。それが、“陽風ヒスイ”という少女だと言うことを、太刀川エンジュは知っていた。そして、それを深く追求しても、なんだかんだと、エンジュにはよく分からない話をされるだけなので、深くは聞かない。そういう距離感で二人はこれまで過ごしてきていた。

 

 だが。

 

「……ヒスイ、何かあった?」

「えっ」

 

 一歩。エンジュがヒスイへ歩み寄る。

 

「何か変だよ。ヒスイ」

「そう、かな?……私って、いつも変じゃない?」

 

 にへら。と、下手くそな笑顔を浮かべて、ヒスイはエンジュの顔を見た。

 その下手くそな笑顔も、エンジュにとってはよく見慣れた表情だ。

 エンジュに無理に連れ出された時のヒスイは、決まってそんな顔をする。つまらないならつまらないと、そう言えばいいのに。なんて、そんな事をエンジュはいつも考えていた。

 けれど、今日のは違う。何となくだが、()()()()()()()とは違う。

 エンジュはそう確信して、ヒスイに問い続ける。

 

「やっぱり。何かあったんだ」

「何も無いってば」

「アルバイト?……カイザーグループと関わるの、辞めたほうが良いんじゃない?」

「チーフはそう言うのじゃないよ」

「最近、ガレージも閉めっぱなしらしいし、やっぱり何か――」

 

 

 

「うるさいなぁ!!」

 

 

 

 拒絶するようなヒスイの声に、エンジュは息を呑む。

 

「……なんでも、無いってば」

 

 視線をそらし、エンジュに決して目を合わせようとしないヒスイの表情は、エンジュにはうかがいしれない。

 どんな気持ちで、何を考えていて、何に苦しんでいるのか――。

 

「……帰るね。今日は誘ってくれてありがと」

「あっ……」

 

 ヒスイは、まるでその場から逃げるようにして踵を返し、走り去ってゆく。

 そんな彼女を呼び止めようとして手を伸ばし、けれど、かけるべき言葉を見つけられなかったエンジュの手は、空を切る。

 

 

 

「――言葉にしてくんなきゃ、何もわかんないよ。ヒスイ」

 

 

 

 視線の先で小さくなっていくヒスイの背中が。どこか、もっと遠くにあるように見えた。

 

 

 


 

 

 

 はしる。

 

 

 

 ――ああ。

 

 

 

 はしる。

 

 

 

 ――なにも、知らないくせに。

 

 

 

 はしる。

 

 

 

 ――私の寂しさも、息苦しさも。

 

 

 

 はしる。

 

 

 

 ――何にも知らないくせに。

 

 

 

 はしる。

 

 

 

 ――エンジュは、私に無いもの、全部持ってるくせに!!

 

 

 

 ゆっくりと、私の足が止まる。

 むしゃくしゃとした心のままに、俯いたまま全力で走っていた私は、膝に手をついて、乱れた息を整える。

 

 ――エンジュには……感謝している。

 

 エンジュは、みんなとどこか致命的に“ズレ”ている私を、みんなと一緒に過ごせるように気を使っていることは、昔から気づいていた。

 共通の話題ができるように、ショッピングにも誘ってくれるし、遊びの機会があれば必ず私にも声をかけてくれる。

 今日だって、私がいつもと違うことに気づいて、心配の声をかけてくれた。そんなことは、痛いほどによく分かっているんだ。

 

 言葉にしなくったって、伝わっているんだ。

 

 俯いて、目を合わせられない私に向けられたエンジュの視線は、憐れみのソレなんかじゃない。心の底から、私のことを心配してくれている。そんなの、見なくたって分かってしまう。

 

 でも、それでも。()()()()()()()()()()

 

 エンジュには関係ない。言ったって、わかりっこない。

 

 

 

 誰も――私の言葉を、理解できない。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 周りの音が五月蝿くて。人の声から逃げたくて。私に向けられる無数の視線が煩わしくて。がむしゃらに走り続けた私が立っていたのは、私のガレージの前だった。

 

 人気の少ない裏山に建てられたガレージの静けさは、私の心に落ち着きをくれる。

 

 ここは、静かだから。

 

「すぅ……ふぅ……」

 

 バクバクと音を立てていた心臓が、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。

 深呼吸をして顔を上げると、ガレージのシャッターの下から、光が漏れていることに気がついた。

 

 ――そう言えば、今日はネクスが帰ってくる日だったっけ。

 

 

 

 ……HOD(ホド)に負けて、ネクスが特装隊で修理をしてもらっている間。私はネクスに一度も会いに行っていない。

 

 理由は……なんとなく、だ。

 

 何となく、ネクスに会うのが……怖かった。

 

 

 

 かと言って、ガレージに帰ってきているはずのネクスを放置するわけにもいかない。ちゃんと直っているのかが気にならないかと言えばウソになる。

 

 心臓の五月蝿さは鳴りを潜めたが、心のソワソワは収まりきらない。

 けれど、踏ん切りをつけて、私は一歩を踏み出した。

 

 シャッターへ近づいて、その下に指をかける。

 

「……?」

 

 クスクスと、小さな笑い声が聞こえた。

 

「中から?」

 

 聞いたことのない声だった。特装隊の人の声では、明らかにない。

 鳥が囀るような、可愛らしい印象を受ける、そんな声。

 

 私は、ガラガラと音を立ててシャッターを持ち上げながら、ガレージの中を覗き込んだ。

 

「誰かいるの?」

 

 すると、そこには、

 

 

 

「……ああ、ごめんなさい。お邪魔してます」

 

 

 

 最初に受けた印象は、とにかく、“蒼”だった。

 

 小柄な背丈のその少女は、蒼い、鮮やかな髪をしていた。

 腰に届くのではないかとすら思える程の長い髪は、絡まる様子もなく、柔らかな印象を受ける。

 白いワンピースに身を包み、そのワンピースに負けず劣らす白い肌をしている少女は、まるで妖精のようにも見える。

 

 幻想的で、神秘的で。どこか、現実離れ雰囲気のある……そんな少女だった。

 

 彼女は、淡い水色の瞳を私へ向けて――優しく、微笑んだ。

 

 

 

「はじめまして。……貴女が、この子のパートナー?」

 

 

 

 





 ストックが尽きたので次回更新は未定となります……。なるべく早く書こうとは思っていますので、ご容赦を……。

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