乙女ゲームのバッドエンド世界線で、断罪された悪役令嬢が俺の遺書を拾ったら【病みルート】に突入した 作:メソポ・たみあ
父様と母様に義手のお披露目をした、その日の夜――
「……」
俺は自室の机に腰かけ、〝遺書〟が綴られた自分の手帳を見返していた。
「やっぱり……どう見ても俺の書いた文章だよな……」
書体の癖も文章の流れの癖も、まさに俺そっくり。
書体に関しては若干ぎこちないというかカクカクして見えるが、それでも俺の字だとわかる。
まるで――まだ扱い慣れない義手で書いたみたいな文字だ。
誰かの悪戯で書かれたにしては質が悪いというか……真に迫りすぎている。
さながら――未来の俺か、あるいは別世界線の俺が書いたしか思えないような、そんな〝遺書〟だ。
「〝断罪ルート〟は終わっていない……
……奴って、いったい誰のことなんだ?
『黒のアネモネ』の登場人物とあるが……。
俺は情報を整理するため、改めて『黒のアネモネ』というゲームのことを思い出してみる。
――『黒のアネモネ』。
ジャンルは恋愛シミュレーション乙女ゲーム。
エンディングは全十二種。
総文字数は三百万字オーバー、想定プレイ時間は全エンディングコンプで約六十時間。スチル総数は百三十枚。
舞台はゼノーヴァ王国という架空のファンタジー異世界。
主人公はシャルロッテ・グラナートという十七歳の貴族令嬢、もとい悪役令嬢。
ストーリーは分岐型のマルチエンディング形式だが、物語の大筋として貴族社会の変革を目指すというのは共通している。
その変革の最中に様々な人物や組織と関わり、時に助け合い、時に敵対し、それら出会いと別れの全てはシャルロッテという少女に大きな
シャルロッテにとっての恋愛対象であり、攻略対象でもあるヒーローは全部で五人。
1、アドニス・マクラガン。
2、ディード・マクスウェル。
3、リュカオン・ウォード。
4、オルフェウス・アッシュバートン。
5、テセウス・アーク。
この五人は立場も社会的階級もバラバラで、各々が様々な想いを秘めてシャルロッテと関わっていく。
キャラによっては中々シャルロッテになびかないツンデレ的なヒーローもいれば、物語をかき乱すジョーカーとして振舞うトリックスター的なヒーローもいる。
シャルロッテの幼馴染兼メインヒーローとして位置付けられる俺ことアドニスは、一応純粋な性格の正統派ヒーローとして設定されているらしい。
五人それぞれにグッドエンドとバッドエンドの二種類が用意され、さらにトゥルーエンドと〝断罪ルート〟のバッドエンドが実装されているため、ゲームのエンディングは全部で十二種。
乙女ゲームとしては中々のボリュームだろう。
登場人物に関してもかなり多く、シャルロッテの身近な人物であるハンナさん等は全てのルートで登場するが、一方で各ヒーローのルートにしか登場しないキャラも少なくない。
例えば俺の両親であるキュニラスとミュラはアドニスルートのみに登場する、典型的なルート限定キャラだ。
なので全ての登場人物を把握しようと思うと案外難しく、ネームド脇役や敵キャラ等も全て含めると、もう何人になるやら……。
勿論、最初期からシャルロッテと関わるキャラだって少なくない。
物語開始時点で彼女と親しい登場人物というのは俺を含め何人かいるが、〝断罪ルート〟に入った後ともなればその数は膨大になってしまう。
だから俺の知らない〝遺書〟に書かれてある〝奴〟だけでは、特定のしようがない。
「やれやれ……わからないことだらけだな。そもそもこの〝遺書〟自体、いったいなんだっていうのか……」
気味が悪いなんてモンじゃない。
〝遺書〟ってだけで縁起が悪いのに、いつ誰が書いたかわからない自分の遺書を読ませられるなんて、寒気がする。
俺は言いようのない不安を感じ、重い気分になっていたが――
『――ア、アドニス? 起きてる?』
〝コンコン〟というノック音と共に、部屋のドアの向こうからそんな声が聞こえてくる。
「シャルロッテ?」
『えっと、入っていい?』
「勿論、どうぞ」
俺は〝遺書〟が書かれた手帳を、机の引き出しにしまい込む。
その直後、シャルロッテがドアを開けて部屋へと入ってきた。
「どうしたんだ、こんな夜更けに?」
「あっ……えっと、その……。そ、そう! アドニス、今日はまだ義手へ魔力を充填できてなかったよね!?」
「え?」
「だ、だから、魔力を充填しに来たの!」
「えーっと……確かにやってもらってないけど、魔力ならまだ持ちそうだし……。明日ハンナさんにやって貰えば充分だろうから、キミの手を煩わせるのも――」
「――私、邪魔?」
「え? いや、邪魔だなんて言っ」
「わ、私、落ち着かなくて……なにかアドニスにしてあげなきゃ、もう自分が許せなくなりそうで……っ。でもそうだよね、こんな時間に邪魔だよね、いない方がいいよねいらないよね必要ないよね」
「待て、落ち着くんだシャルロッ」
「――あ゛っっッ、でも無理っ、アドニスに必要とされないなんて無理ッ。お、お願い、必要だって言って? 私が必要だって私が欲しいって私が好きだって言って? お願い、お願いお願い、言われればなんでもするから、どんなことでもやるから、だから――」
「シャルロッテ」
俺は彼女の名前を呼ぶと――生身の左腕と鋼鉄の右腕で、ギュッと彼女を抱きしめた。
「キミを愛してる。俺にはキミが必要だ」
「――――…………本当?」
「ああ、神に誓って」
俺がそう言ってあげると、シャルロッテは「……え、えへへ、そっか……」とようやく落ち着きを取り戻してくれる。
……この後、俺は胃痛を感じながらもう何度目かもわからない長いため息を、心の中で吐いた。
久々に小説情報見たら評価たくさん頂けててマジで驚きました……!
評価を入れてくださった皆様、本当にありがとうございます……!
今後ともお付き合いくださいますと幸いです。