乙女ゲームのバッドエンド世界線で、断罪された悪役令嬢が俺の遺書を拾ったら【病みルート】に突入した   作:メソポ・たみあ

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第15話 占いなんてしなければ

 

 俺とシャルロッテは繁華街に出て、あちこち見て回った。

 

 衣服の店を見たり、装飾品(アクセサリー)の店を見たり、異国から輸入された珍しい織物を扱う店を見たり――。

 あとは軽食を買って、お互いに食べさせ合ったりもした。

 

 この辺はどちらかと言うと中流階級の人々が訪れるエリアなのだが、シャルロッテはこういう場所を好んでいる。

 上流階級ばかりが訪れる形式ばった場所というのは、彼女はあまり好きではないようなのだ。

 

 俺としては、シャルロッテが羽を伸ばしてくれるなら場所は問わないかな。

 

「二人きりのデート、すっごく楽しいわねアドニス!」

「ああ、キミが楽しんでくれているようで俺も嬉しいよ」

 

 ――シャルロッテがここまで屈託のない満面を笑みを見せてくれるのは、なんだかんだ久しぶりかもしれない。

 

 屋敷に火が放たれ、俺が重傷を負ってから、彼女の笑顔にはどこか陰が宿るようになっていた。

 少なくとも俺にはそう見えた。

 

 けれど今は、そんな陰は微塵も感じない。

 俺には、それが堪らなく嬉しい。

 

「ねえアドニス、アレを見て!」

「うん?」

占い(・・)ですって! 私たちの恋愛を占ってもらいましょうよ!」

 

 シャルロッテが不意に指差した先にあったのは、小さなテーブルに水晶玉を置いただけのこじんまりとした占い屋だった。

 

 占い師はシワシワながら優しそうな顔をした老婆で、シャルロッテは我先にと彼女の下へ駆けていく。

 

「お婆さん、私たちを占ってくださいな!」

「おやまあ、お綺麗な貴族様だこと。お連れの旦那様も美丈夫様ですねぇ」

「やだっ、アドニスが私の旦那様だなんて……!」

 

 占い師の世辞に照れ照れと頬を赤らめるシャルロッテ。

 俺たちは一応まだ夫婦ではないし、俺はまだ旦那ではないのだが、否定するのもなんだしシャルロッテも嬉しそうだからそのままにしておくか……。

 

「それで貴族様方は、どんな占いをご所望でございますか?」

「ええっと、私たちの恋愛運とか、将来の夫婦仲のこととか、子供は何人産まれるかとか……!」

「シャルロッテ、それたぶん全部同じ種類(ジャンル)だから……」

 

 どうどう、と高揚を抑え切れないシャルロッテを制する俺。

 占い師の老婆は水晶玉に手を当て、魔力を込め始める。

 

「では、お二方の恋愛運を占ってしんぜましょう。きっと幸せな未来が――」

 

 彼女はそう言って水晶玉を見つめるが――突如、言葉が途中で途切れる。

 

「? お婆さん?」

「お……おおおッ……!」

 

 不思議そうに首を傾げるシャルロッテ。

 一方、老婆は手をカタカタと震わせ始める。

 

「あ……あなたたちは、何者(・・)かッ……!?」

「な、何者って――」

歪んでいる(・・・・・)! あなたたちの未来は酷く(いびつ)で、真っ暗だッ! あなたたちは運命に呪われているッ……!」

 

 老婆は両目をギョロリと剥き出しにし、錯乱したかのように声を荒げる。

 どう見ても、正気を失っている。

 

「お、おおお恐ろしい恐ろしい……! 特に――!」

 

 老婆が震える手を掲げ、人差し指をゆっくりと突き出す。

 その指先にあるのは――

 

「――〝俺〟?」

「あなたは死ぬ(・・)! 生きていてはならぬ! 運命に殺されるッ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬんじゃあああぁぁぁッ!!!」

 

 

 

 ▲ ▲ ▲

 

 

 

「……」

「シャルロッテ、そんなに気にするな」

 

 繁華街の中を重苦しい表情で歩くシャルロッテ。

 そんな彼女の肩に、俺はポンッと手を乗せる。

 

「あんなの所詮ただの占いだ。当てになんてならないよ」

「でも……っ!」

 

 怒りと悲しみと不安と――シャルロッテはごちゃ混ぜになったやり場のない感情を顔に浮かべる。

 

 ……いや、言いようのない不安を覚えているのは俺も同じか。

 

 ――あの後、占い師の老婆は完全に錯乱してしまい収集がつかなくなった。

 それにあのまま彼女の下に居るとシャルロッテが暴走し始めそうだったので、早々に退散。

 

 だがシャルロッテは〝(アドニス)が死を占われた〟ということに対し、悶々とした感情を拭い切れずにいる。

 

 正直、それは俺も同じ。

 老婆の言ったことは……あまりに的を得ている気がする。

 

 俺は、いや俺とシャルロッテは、本来死んでいるべき人物だ。

『黒のアネモネ』の〝断罪ルート〟で共に炎に飲まれ、この世界から消えるはずだったキャラクター。

 

 そんな俺たちの未来が(いびつ)で真っ暗というのは……不穏極まりない。

 縁起が悪いどころか、真に迫りすぎていて――背筋に寒気すら感じる。

 

 しかしまあ、考えたところで仕方ない。

 それに現に俺たちはこうして生きている。

〝断罪ルート〟の運命すらひっくり返したのに、今更占いに怯えるなんてのもおかしな話だ。

 

「俺はなにがあろうともキミの傍にいる。俺たちの運命は、俺たちが切り開くんだ」

「アドニス……」

「ほら、今はデート中だろ? 楽しむのを忘れてないか?」

「! そ、そうだったわね……! 今はアドニスとのデート中だったわ!」

 

 自分たちが今デートをしている最中だと思い出し、少しだけ表情が和らいでくれるシャルロッテ。

 

 そんな会話をしている内に、俺たちは繫華街を抜けて大通りに出る。

 しかし大通りには大勢の人混みができており、なにやら賑わっている様子。

 人混みの向こうに視線を向けてみると、

 

「アレは……そうか、今日は王国軍パレードの日だったか」

 

 真っ直ぐ道が続く大通りの中央を、小綺麗な軍服で身なりを整えた何百人もの兵隊や騎馬、それと軍楽隊や馬車等が進んでいる。

 ゼノーヴァ王国軍の兵士たちだ。

 

 この国では時々、軍隊の士気高揚と市民への軍の強さを誇示することを目的に、こうして軍事パレードが行われている。

 

 軍事パレードと聞くと、前世が日本人だった俺としてはあまりいい印象はないが、いつ他国と戦争になるかわからないゼノーヴァ王国にとっては大事な事業だ。

 

 現在ゼノーヴァ王国は戦争状態に陥ってはいないが、火種は常に燻っている状態。

 幸いなことに『黒のアネモネ』の作中では、どのシナリオにおいても他国と戦争になる描写はなかったが。

 なにはともあれ、強大な軍隊を持っているぞと内外にアピールしておくに越したことはないのだろう。

 

 なによりこういう軍事パレードは子供に人気で、将来軍隊に入ってもらうために行っているという側面も強い。

 実際、大勢の幼い子供たちが最前列で目を輝かせながらパレードを眺めている。

 

「せっかくだ、もっと前でパレードを見てみようか」

 

 俺はシャルロッテと一緒に比較的人混みの少ない場所を探し、最前列まで行ってみる。

 間近でみるパレードの迫力満点で、軍楽隊の演奏も相まって実に華やかで煌びやか。

 子供がコレを見たら憧れてしまうのもわかる。

 

「わぁー……! 皆息ピッタリに歩いてて凄いわ!」

 

 シャルロッテも賑やかなパレードを楽しんでくれているようで、可愛らしくはしゃいでくれる。

 

 しかし――

 

「……ブルルっ?」

 

 パレードを進行していた軍馬の一頭が、突然足並みを乱す。

 俺には、軍馬の瞳の色が変わった(・・・・)ように見えた。

 

「ヒ、ヒヒーンッ!」

「おいなんだ!? うわッ!」

 

 軍馬は騎乗していた兵士を振り払って地面に叩き落とし、まるでなにかに取り憑かれたかのように暴れ始める。

 突然の出来事に兵士たちは騒然となり、行進も演奏もやめて慌てて軍馬を抑えようとするが――

 

「ヒヒーンッ!」

 

 ギョロリ、と軍馬の目がこちらへ向けられる。

 いや、より正確には――シャルロッテ(・・・・・・)の方へ。

 

「え――?」

「ヒ、ヒ、ヒヒーンッ!!!」

 

 暴走した軍馬は、一目散にシャルロッテへと突っ込んでくる。

 明らかに踏み潰すか弾き飛ばそうとする勢いで。

 

「……ッ!? シャルロッテ、下がれッ!」

 

 俺はシャルロッテを庇うように彼女の前へ出て、腰から剣を引き抜く。

 そして襲い来る軍馬を迎え撃とうと構えた――その、刹那。

 

 突っ込んできた軍馬の大きな身体が、何者かに一刀両断(・・・・)された。

 

「な――に――?」

 

 軍馬の身体は真っ二つになり、即死。

 俺が剣を振るうよりも速く軍馬を叩き斬った人物は、ゆっくりと俺たちの眼前で立ち上がる。

 

「……危ないところでしたね、シャルロッテ・グラナート」

 

 スラリとした細身の長身と、赤毛の長髪。

 鋭い目つきをした美貌の持ち主。

 僅かに反りのある片手剣(サーベル)を携えたその男に、俺は強く見覚えがあった。

 

 ――〝ディード・マクスウェル〟。

 

 そこに立っていたのは、彼は俺と同じように『黒のアネモネ』の攻略対象(ヒーロー)の一人であった。

 

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