女神「輪廻転生しろ」 ワイ「はい……」   作:まっすァき

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3回目の現世+2

あー、ほんと最悪だ。

 

 目の前に広がる陥没孔は、今や大地に開いた直径は馬車三台分にも広がり、その縁は砕けた敷石の破片や版木の残骸が散乱している。路面の下から現れたのは、固い土の誇りを失った悲惨な現実だ。

 そして道路の底は、何十年もの間、雨水が侵入し続けた末に生まれた巨大な沼になっていて、水面は黒く重たく粘つき、腐敗したガスが時折、音を立てて弾けていて、その匂いは、冷たい泥の湿気と、古くなった下水の生臭さが混ざり合った、陰鬱なものになっている。

 

 我が国の誇りだったはずの版築の断面は、泥水に浸されたことで、セピア色に変色し、スポンジのように膨張している。層と層の間に染み込んだ水が粘土の結合力を奪い、今や指で触れるだけでボロボロと崩れ落ちていっている。この泥水は深淵の底から絶えず湧き上がり、崩壊した層をさらに洗い流そうとしている!と、息継ぎもせずに言い放った声が聞こえる。

 

 

「なぁ、見てみろよ。旦那、この泥水、生温かいんだ。足首まで浸かって、まるで生きているみたいだろ。俺たちの土を吸い上げて、この道全体を腐らせてやろうって、地べたが笑っているんだよ。また明日も、この冷たい泥の中でバケツを揺らしているのか。いつになったら終わるんだい。俺たちの公役が終わる日と、この道が完全に崩れる日と、どっちが先に来るんだ……?もう、何もかもが水浸しになっているみたいだ。」

 

「おいトーマス!正気に戻れ!」

「お前だけが苦しいんじゃないんだ!」

 

「はあ、だってそうだろう!?監督の旦那!」

「ずっと俺たちを高いところから見ていて、何が楽しいんだい!俺たちゃきっと気が違えてしまったんだ!」

「そうでなければこんな事にならない、ならないんだよ……っ!」

 

トーマスと呼ばれていた若い男。公役の出稼ぎ農奴だろうか。

こいつの慟哭のせいで全員の士気が下がっている。

 

 

「聞ぃぃィけぇぇえ!!『本日中の最低限の安定化』が上の命令になっている!これ以上遅延すれば、我々全員の首が飛ぶんだぞ!この泥の深さなど、石灰を大量に投入すれば固まるだろう!それでも湧き水が止まらないというなら、お前たちがバケツで永遠に掻き出していろ!そのためのお前たちだろうが!見苦しい言い訳をする暇があるなら、手を動かせ! 一刻も早く、あの忌々しい穴を塞いでしまえ!」

 

監督が頭を掻きむしっている。それもそうだろう。

 

都市、それも首都で道路の陥没事故が起きたというのならそれは責任者たる監督が責任を負うことになる。

 

「我らの技術はそんなに脆いものだったのか?

違うだろう!版築は古代から続く我らの伝統と、技術の結晶だ!

我々は、この泥水よりも粘り強く、鉄よりも硬い意志を持っているんだ!泥水に屈服している場合じゃない!

一刻も早く、馬車が通れる路面を叩き上げろ!

首都の権威が、

お前たちの突き棒一本にかかっているんだ!」

 

「事故原因は分かりきっている!」

「地下の版築の木枠が腐り、水を永遠に吸い上げていたのだ!問題の版築層が分かるまで路面を掘り返せ!努力は決して無駄にはならない!!

何故ならば原因がわかり、それに対処出来るからだ!さあ作業に戻れ!お前たちを私は失いたくないのだ!お前たちは運が悪かったのだ!誰のせいでもない!恨むとするなら事故原因だ!

行け!月末までに、この穴を土で埋め尽くせ!」

 

「既に今月は17日しか残されていない!」

「だが、この規模なら最大限に努力すれば問題ないはずだ!私はそうだと君たちのことを評価している!」

「だから今はこの穴の周りを掘り進めろ!問題の汚泥と化した、泥沼化した版築があるはずだ!見つからなければ上から順番に掘り進め、腐敗した内部が見つかるまで作業が必要になる!そうなってしまえば私と!お前らの首は処刑台で転がる!」

 

「お前たちの分まで腕の良い処刑人を雇える金はない!だからこそ、今だ!今努力しなければ全員死ぬんだ!」

 

 

現場周辺の農家、倉庫から藁、麻袋の切れ端、古いロープといった繊維質の材料を限界まで徴発しろ!と、監督は絶叫した。

 

労働者たちは死の焦りに熱されてやる気を出した。

もはや四の五の言ってられる場合ではなくなった。

 

と、言うことは……

 

「なあザメク」

 

「お前なら、何日で出来る?」

 

やはり来るよなあ!クソ質問!だけども答えないとこいつが処刑される時に俺の名を呼びそうでダメだ。この監督はそういうことをしそうだし。

 

「浮遊魔法と土魔法」

「全て動員すれば25日ほど必要です!」

 

クソ工期め。月末?間に合うはずがない!

粘土層の乾燥期間がいる。脱水までの時間がいる。何もかもが足りない!

 

「だがしかし……こうしたらどうだ?」

 

監督は、瞳孔が完全に開ききっていた。

言った内容は要約したらこうだった。

 

1、可能な限り腐った土を取り除く

2、藁と麻布を底に敷き詰める

3、その上に石灰の粉を撒く

4、底石の削れた部分を土魔法で補修

5、木の削りカスを入手して撒く

6、脱水された時期を見計らい、土を大量投入する。

7、その間の交通規制の全責任を免責するのは不可能

8、だから全員が共犯、もう知ったから逃げたら反逆罪

 

 

 

あー^こういうタイプのやべえ奴には会ったことが、そういえば俺は無かった。

災害じゃねえかよ!ちくしょう!




ひぃ、やばいやばいやばい!
なんでこんな事にィっ!

ダメだ……ダメだダメだダメだ!死ぬ!死んでしまう!死ぬのだけは嫌だっ嫌だ!

そもそもなんで私が指揮者なんてやってるんだよ!
こういうのに俺は向いてねえんだ……ちくしょう。
子爵家の五男なんてのに生まれちまったのがわりいんだ。
兄弟みんな俺のことをバカにする!
やっと王都で新しい人生を始められたばっかりなのに!こんな事になるなんて……

きっと俺の首が転がるんだ!ああ、なんてこったい!
神様、救ってくれますよね?きっと、私を救って下さりますよね?

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