なんという事だ。港から今日も運ばれてきた荷物は、呆れるほど重い。
ワフルは頭を押さえて、皺のついた荷物のリストを掴んだ。
今日の仕事も、港に着いた荷物を指定の倉庫区画へ運ぶ単純作業だ。……昨日までは、そう思っていたが。
ぺらりと剥げた布を覗いて見れば、その荷車に満載された中身は明らかに金属で、きらきらに輝くインゴット。
TIPS曰く、金(Au)であり、比重が非常に重いとの事だった。
ワフルが「二人で押すぞ!」と力むのを横目に、俺はそっと荷車に手をかざした。
「魔法の才覚:中上」と「魔力総量増加」のコンボ。意識したのは、3回目の現世で使った「浮遊魔法」、それの進化版だ。
ギ……。
車輪と接地していた床の軋む音がして、次の瞬間、数トンはあろうかという荷車が、ふわりと地面から10cmほど浮き上がった。
「へ?」
ワフルの声が裏返る。
俺は荷車に手を添えて、すいーっと指定区画へ運び始めた。感覚としては、ホバーボードを押しているのと近い。魔力、恐るべし。
「……なあ」
「ん?」
「お前……それ、いつもやってたのか?」
「いや? 魔法使うと魔力減るし、昨日まではサボってた」
もちろん嘘だ。
昨日までは魔力総量の増加がどれほどのものか測りかねていたし、何よりここまでの魔法が必要な機会がなかった。
だが、昨日の散財で給料日までの金がない。労働効率を上げてアピールする必要があった。
ワフルは、今まさに超効率で荷物を運搬する俺の姿を見て、やがて何かを決意したように口を開いた。
「……お前、『羽根』になる気あるか?」
「羽根? ああ、昨日言ってたやつか。なったらどうなるのよ。」
「……給金の基本給が今の1.5倍になる。あと、この倉庫整理よりもっと激務のところに転勤になる。」
(給金1.5倍……!!?)
お金、そしてお金。そしてお金。
今の俺にとって、それ以上の魅力はない。
というか服を買った時に、微妙に金が足りてなかったらしく、自動的に借金状態になった。
翼の店で買ったから借金は全て天引きされてしまっている。複利じゃないことを祈るしかない。
「なる」
「早いね!?そんな速断できちゃうんだ……まあ、その力があれば10人からの推薦はすぐ通。だが、試験があるぞ」
「試験?」
「ああ。『翼』は常に地上からの侵入者――『モンスター』に怯えてるからな。お前が『幹』の防衛に足るか、見定める必要がある」
「防衛?」
「まあいいよ、何でもやってやるよ!」
同僚や友人たちの推薦を受け、俺は数日後、「翼」の中枢統制室にある応接室に呼び出されていた。
相変わらず帳の奥にいる管理人は、俺の姿を一瞥したのか、顔が見えないから分からないが。
まあとにかく、「ふむ」とだけ漏らした。
「君の友人から話は聞いている。君の力、この『翼』のために使う意思があると」
「給与と、あと有給を月に15日以上くれるなら」
「よろしい。実に合理的だ」
管理人は満足げに頷くと、(頷くと言っても影だが)オフィスの巨大な窓のカーテンを開放させた。
手回しクランクで滑車を動かして手動開閉してるのか。
そういやここはだいぶ先進的な工業力を持っているんだなあ…
サイクロイド減速機っぽいやつもあったし。
そんな事を思っていたが、次の瞬間、俺の目は奪われた。
管理人は、何かをした。分からなかったが、とてつもなく膨大な魔力が使われた。
目の前に広がっていたのは、穴の開いた雲海。そして、遥か下――霞んで見える倉庫街。
「君たちライカンスロープは飛べない。だが、君の魔力総量はそれを補って余りあるようだ」
「……試験ってのは、何をすればいい?」
管理人は、窓の外、雲海の下にある一つの線を指差した。
「あれが見えるかね。我が『翼』、そして『幹』の防衛ラインの一つだ。……今、そこが『モンスター』に接近されようとしている」
そこには、カマキリ、いやカマドウマ?とにかく昆虫のような……いや、生物が複数融合したような、おぞましい物体が数十匹存在していた。
「試験内容は単純だ。あれを排除したまえ」
「は?」
「君の魔法は『火を吹く』と、かつての君は報告書に書いていた。……君の力を私に見せてもらおうか。」
俺は、あの浮遊島で小屋と草原を丸ごと焼き尽くした、あの魔法を思い出した。
(いや、あれ、加減できひんのやが……)
(それに1回しか使ったことの無い魔法を実践演習どころかいきなりガチ戦闘で使うのは危険だ。)
「心配せずとも良い。そこはただの時間稼ぎ用のところだ。
君が障害物ごと吹き飛ばしても、誰も文句は言わんよ」
管理人の言葉に、俺はニヤリと笑った。
それなら、「魔力総量増加」の真価、試させてもらうとしよう。
「行ってくるわ。給金、基本給1.5倍、頼むで」
俺はそう言い残し、オフィスの窓の隣にある飛行用の、発着ゲートから、遥か下のモンスターに向かって飛び降りた。
目の前に迫る雲海が大きい。だがもうすぐのはずだ。
「ワフル!」
そして、いつのまにか横にはワフルがいた。
さすがワフル。呼んだら絶対に来る。
「浮遊魔法使うよ!3!2!1!」
俺の浮遊魔法の急減速ではなく、もっと緩やかに減速している。
ワフルがいつだったか言っていた。俺の魔法は急に反発力を出しすぎているし、浮遊魔法だけと言うのは危険極まりないらしい。
だからこうやって、風魔法も同時に使うことにより安全に、かつ丁寧に降りられる。
雲海の中は
だけども風魔法を使うことにより、
傘を開いてる時みたいな感じに気流を流線型に逃すことでぶつからないようになっているらしい。
さすが天才、本当にワフルは天才だ。今まで出会った中で最高の
と、褒めている間に雲海をそろそろ抜けそうだ。
……見えた!
なんだアイツ、キモ過ぎる!
そこに居たのは、辛うじて輪郭がカマキリっぽいと認識出来ていただけ、いやそもそもまったく違う存在だった。
気づくべきだった。
超高高層の、翼、それも幹ほどのから見てわかるほどの大きさなんて近くで見たらとんでもない。
要塞っぽく見えていたやつは壁、遮蔽物だ。
モンスターは、跳躍して空中で体を翻し、遮蔽物に対して蹴りを放った。
いや、あれは本気では無い。遊んでるんだ。
本気だったらあの巨大な、10mは下らない鎌で斬り裂いてるはずだ。
だけどあいつには遠距離攻撃手段が無い。
あるならわざわざ近寄って近接攻撃なんてしないはず。
それに、これみよがしに鎌なんてのを付けてるんだ。
近接攻撃をしないわけが無い。
「なあワフル」
「なんだよ」
「あいつ、丸焼きにしたら楽しそうじゃないか?」
ワフルは、ニヤリと笑った。
俺も、笑った。
灰色の長方形の障害物が次々となぎ倒された。
そして、それを積み上げて遊び始めたカマドウマモンスター(仮)。
カマドウマモンスターはこちらに気づいていないようだ。
まあ雲スレスレのラインにいるしな。
そうして両腕の先端から放った火炎は、蜂蜜が垂れるより重く、風が動くより早く当たった。
「暑い!」
「ワフル!やばい!やばいやばいこれ俺が燃える!」
クソ、マジで欠陥魔法だろこれ。
発射口はどこでもいいってTIPSは言ってたけど……何処でやっても熱いだろ!
そりゃそうだ。青色ってことは完全燃焼の炎、O₂エタノール混合ガスでも電気でも何でもいいが炎ってのは熱い。
指が燃えそうだ。指貫グローブのメリットが初めて発揮された。
毛に燃え移らないってのは楽だ。ライカンスロープ、獣人種族特有の悩みだな。
「ワフル!旋回しながら焼き尽くすぞ!」
うおォン俺は人間火炎放射器、なんて言ってる暇はない。
熱いし全然止まんねえ!なんだこのクソ魔法!
強弱が付けられねえ上に、終了してるけど周りの空気と反応して放射状に火炎が広がり続けてやがる!
周りの魔力が無くなるまで広がるぞこれ、やべえ!
魔力と反応して燃えてやがるのかよこれ!
「モンスターが大炎上してるぞ!」
「よっしゃワフル!そのまま上に行くぞ!」
「あいつはもうじき死ぬだろ!」
「あーもう散々だよこれ!」
俺が目にしたのは形の無くなった指先。
およそ第1関節から第2関節にかけての真ん中から、指先が無くなった。
魔力と反応して燃えてたから
治癒魔法で何とかなる、とか思ってたら全く違かった。
まず治癒魔法で骨を作り、そして皮膚を付ける。
この皮膚を付けるというのが厄介なのだ。免疫が反応するから本人の皮をそいで使うしかない。
まあめちゃくちゃ痛かったが指4本全部いけた。
医者は驚いていた。
なんか普通は布とか噛み締めて、めちゃくちゃ拘束して一気に皮を削ぐらしいのだが、俺は何も使わず自分でやった。
まず治癒魔法というのは成長を早めたり、置換を早めたりするものらしい。
いわば制御した癌細胞を作るみたいなものかな?
癌細胞は地球だと未熟な医療のあるところでは未だに切除とかやってるが、この世界だとまあそれしか無さそうだ。
現代社会の医療が懐かしく思える。
問題なく俺は羽根になれた。
だがワフルはどうだろうか。
と、あなたは心配した。
羽根になった者は例外なく、
高技能職業は
だが
地平はいわゆる出発点なのだ。
と、あなたは思案していた。
荷造りを終え、余ったハンガーを適当に上に詰めて箱に入れる。
垂直昇降機で入居予定地まで送られるのだ。
と、あなたは気晴らしに
「ワフル!」
「うん?」
「おお、お前…ここに居るってことは落選しちまったのか?」
「俺は〜」「私は〜」
「「羽根になった」」
はは、そうだと思った!お前がいないと人生つまらないぜ!
やはりワフルは最高の友だと、その返事から確信した。
文章の1話辺りの量について(調整)
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10000文字ほしい←現在の基準
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3500以上ならいいよ
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5000文字くらいほしい
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6000以上ならいいよ