4回目の現世+9
密入国は楽勝だった。
前と同様、道路は土だが押し固められ強固で…轍の跡もあるにはあるが小さい。
だが当たりを見回しても
木造の集合住宅ばかりで窓はなく、閉鎖的な雰囲気を思わせる。
だがしかし、これはどういうことだろうか。一階しかない平屋ではなく、外に階段こそあれど、しっかりとした二階建ての建物もあった。
メイプル執政国の辺境も辺境だが技術レベルの伝播が早くなったのか…?
首都や領主の館などで無ければ二階建ての建築は、前前世と前世、全てにおいて見なかった。
ふーむ、ツァウストの建築技術が使われているのか?
真四角で、真上に積み重ねたような外見は、あの港町で見た家たちと同じだ。
それにどういう事だ…?小さな穴が道の横に掘られて流れている。
うーん、排水溝か?木の板で蓋されてるし多分排水溝だな。
なんか俺の知ってる国と全然違くなっちまったなあ。
道路の中央がちょっと膨らんでるのは同じだけど、明らかと言っていいほどに違和感がある。
街灯も等間隔にあるし…どうなってるんだ?
あなたがそこで見たのは、異様な交通の進化だった。
街灯とは首都などにしかないというのがあなたの通算30年を超える異世界で培った常識。
それが今、ひっくり返った。
往来する道には進行方向を示す白線のようなものが石灰で描かれ、道行く人はその道に沿って歩いている。
全くもって驚愕である。
そしてあなたは、住宅の隙間にある壁に張り付き観察するのを止めた。
これは浮遊魔法を一切使わぬフィジカルでのみ実現させているものであり、ライカンスロープ特有の筋力の賜物であるのだ。
路地裏から道に出るとあなたは、帝国で両替した金を使ってそこいらのヒューマンから情報を聞き出すことにした。
「おい起きろ、今から我の言うことをやれるのなら金をやる」
その言葉に、座り込んでいた20ほどの男は立ち上がった。
服装はどこか適当で、髪を刈り上げた頭をしているその男は、その言葉を聞いた瞬間に揉み手をして立ち上がった。
「へへっ旦那、あっしは何でもやってやりますぜ」
その言葉は金銭欲に塗れた卑しい声だったが、しかし気概を感じた。金を稼ぎ、現状から脱却するという気概を。
現状維持の惰性では無い、芯として折れぬ何かを持っている者の声だ。
そう感じたあなたは、この者から情報を聞き出すことにした。
「我が知りたいのは政庁の場所だ」
「ここからどれ程の場所にあるのか言え」
すると、その男は、言った。
「地方郡政庁ならここからそう離れてないですぜ旦那」
「執政官さまの居る都市庁郭ならかなり遠いですぜ、何せメイプルまでありますから」
地方郡政庁。言葉のニュアンス的には地方政治を司る都市庁郭の下位組織というニュアンスを含んでいた。
「勤勉な者に金を恵もうか」
そう言ってあなたは魔法を使って浮遊させていた袋から硬貨を幾つか取り出した。
「!有り難いですぜ、旦那」
その声は歓喜を含み、明らかに喜んでいた。
あなたの胸の内には、良いことをしたという自負があった。
正直誰であろうと良かったが、この者には向上心が見えた。
俯き、前を見ようとすらしない座り込むヒューマンたちとは違う雰囲気を感じたのだ。
TIPS曰く…都市庁郭とやらはメイプルの中心に位置し、王城を再利用したものだそうだ。
王が消えても、王城という建物は残った。皮肉なものだとあなたはすこし思いこそしたが、そういうものだろうと片付けた。
都市庁郭の方角は丁度、前方との事だ。矢印のナビが見える。
やはりTIPSってめちゃくちゃ便利だ。
知識だけでも知ってさえいれば自動経路案内ができるなんてめちゃくちゃ高性能だ。
あなたは走った。
走って走って走り回った。
日没まで走り続けたところ、明かりが見えた。
どうやらこの街の名前はエイラスという町で、エルフが主導して作り上げた町だそうだ。
だから夜なのに明るいのか。と、あなたは思った。
あなたが知る限りでは、この世界で日没後に明るいところは本当に少ない。
パノプリヌンは至る所に発光するなんか光る植物を詰めたランプを置いていたけれど…街灯のように、煤を伴う明かりでこれは凄い。
あなたはワクワクした心でエイラスへと歩みを進めた。
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