あなたは領地を見ていた。
牧歌的で朴訥とした雰囲気が広がっていて、豊かな農村と言った風景が永遠と広がっている。
「兄、兄、あれは何?」
あなたは馬車に揺られていた。
今日は外出の日。
何をするのか、それは見聞を広めること。
しかしあなたはまだ6歳。大陸の彼方まで行く、などと言ったことはできない。
だからこそ、あなたが館から出て外にいるのは
兄と共に、領地内で見聞を広めるということだ。
そしてあなたは、隣に座る兄に質問をした。
知的好奇心の葦であるあなたは、兄の手元を見た。
「これは無詠唱魔法だよ」
「ほら、こんなふうに色んなことができるんだ。」
兄は天才、いや秀才であった。
無詠唱魔法とは才能が大切な領域であるが、それよりも努力量が問われるのだ。どれだけ反復し、アウトプットをしてきたか。
あなたはキラキラと輝く水を見ていた。
水を出す魔法と、水を操る魔法を同時に使用することにより光を散乱する魔法を用いずとも同じ効果を得る。
円、楕円形、三角形。さまざまな形に変化し続ける。
兄は言った。
「これは基礎反復で、まだまだ僕は魔法が下手だ。」と。
あなたは兄のその言葉を謙遜だと思い、内心に嫉妬心が湧いた。
ひとつのシミが心の中に出来た。
あなたは兄に尋ねた。
「アマスィヤ兄、球体の内側を裏返せる?」
できないと答えるだろうとてっきりあなたは思っていた。
だが、数秒間思考して、兄は断言した。
「できるよ」
「ほら、これを見て」
複雑に捻れながら球面の内側が外側と入れ替わる。
伯爵家の次男にして魔法の天才。それが兄の評価だった。
兄は捻れ続ける球体をつつき、あなたの方向へと押した。
柔らかく、ぷにぷにとしたその見た目とは裏腹にとても掴みずらかった。表面が絶えず流動し入れ替わるからだ。
あなたは目の前の光が散乱する美しい球体に目を奪われていた。これが魔法の美しさか、と。
あなたは6歳。対して、兄は16歳。
10年間の差というものは案外。いや当然のごとく大きなもので、到底自分に扱えるような気はしなかった。
どれだけの研鑽を積めばこの魔法が使えるようになるのか、あなたは思考を重ねた。
水のボールを握り、思案に耽るあなたを見て兄は言った。
「その水のボール、あげるよ」
と。
あなたは大変驚いた。この水の魔法はそれほど長続きするのか?と。するとその表情の機微を読み取った兄は言った。
「ああ、僕は5つくらいこれ持ってるからいいんだよ」
5つ。つまり同時に6つも魔法を使えるのか……
あなたは悲観的になった。
あなたには魔法を使えるようになった素振りが無かった。
長兄のラウロは20歳。国に新しい魔法を奉献したとの事で、将来は王城に登るようだ。仕官するのにも素晴らしい席があるだろう。
だが、自分は?
魔法も使えない。槍術も下手、学問では下位互換。
あなたはとても悲しくなった。
誰もが上位互換で疎外感がある。
そうだ、だから自分は離れた部屋にいるのだ。
6年間の異世界人生だが、あなたは悟った。
普通なら貴族の子弟の部屋に取り付けられた窓の方向が中庭なはずがない。
窓によって採光はされているが、日の沈む方向に部屋があるのがおかしいのだ。
なぜ自分は魔法が使えないのか。なぜ自分は、なぜ……なぜ。
あなたは安易な解決策を発見した。
それは暗泥の中に輝く睡蓮の花のような明るさで、目の前に突きつけられた。
自分は本当に、自分なのか?
5年間、体は勝手に動き発話していた。あれがこの体の本来の人格によるものだとするなら、僕は異世界転生者じゃなくて、憑依?
なら本来の人格はどこに行ったんだ?
最近、やっと動くようになった。
まさか。あの時、本来の人格は死んだ?
あなたは思案が鎖になることを恐れながらも思考を止めることは出来なかった。
すると、そんなあなたの内心を見透かしたように兄は言った。
「ほら、鳥だよ」
鳥と言うには少し歪んだ、しかし大きな鳥。
羽の1枚1枚が繋がっているけれど、翼を広げた鳥だ。
「あとはこんなのもできるよ」
鳥の羽が抜け、体が溶けたかと思えば、スラスラと図形になって行く。
「算術はどこまで習った?」
あなたは素直に、平行四辺形の合同条件までだ、と伝えた。
まあ数学は世界を跨いでも不変らしい。
「じゃあ、これはできるかな」
長方形に変形した鳥の上には、台形と直角三角形、そして3つの半円。それがあった。
「ここの面積は幾つだと思う?」
3×3×π/2=4.5πだ。
だから、4.5×3で13.5πで、この半円たちの面積は13.5πだ。
「13.5π」
すると兄は、一瞬で計算したあなたに驚いた。
そして口角を上げた。
「この台形のこの角度はいくつ?」
360-31-41-123=165
「165」
あなたは兄の方をちらりと見た。
上機嫌に微笑んでいる。
すると突然、半円や台形は弾け飛び、水滴は霧に変化しながら登った。
そして、直角三角形が長方形と水平になるように移動した。
「これはどこと合同か、わかるかい?」
弾けた水滴や細かい霧が矢印になり、導く。
「長方形のここと、直角三角形のここは対角線が45°なので合同です」
兄は笑った。
「凄いねぇ。そこまで分かったのか」
興味深そうに兄は目を細めた。
「さて、僕は降りるけど、ちょっと待っていてくれよ。」
馬車には窓がない。なぜならそれは警護上の問題を招くからだ。
どうやって、馬車が止まるのを感知したのか。
あなたは興味深げに、兄の背中を見た。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーー盗賊ーーーーーー許可するーーーーーーーーーー武勇ーーーーーーー」
閉められた扉越しなので、あなたはほとんど聞こえなかったが内容としては以下の通りだ。
1 盗賊が出たなら即時交戦を許可
2 討伐数に応じてカネを出す
3 道中は静かに
4 武勇に応じてカネを出す
5 貢献に応じてカネを出す
人を動かすには、金が必要なのだ。
金とは感謝の可視化であり、富の集積とは感謝される事の積み重ねである。
だから、金は渋ることはあってはいけないと兄は考えている。
だからこそ、一族は善政を敷いているのだ。
公平公正とは響きが良いが、まずは人を動かすべき。
それが貴族としての理念と兄は考えている。
もちろん、当てはまらないこともある。
しかしながら現実として階級とは必然的な区別であり、ふさわしい立場に収める制度である。
これが貴族としての基本的な理論だ。
もちろん、民への還元はするべきというものは必ず入っている。
だが兄は、そんな理念があまり気に行っていなかった。
階級闘争こそが発展を呼ぶのになぜ階級を固定化するのだろうか?
兄は資本主義の思想を再発見した。
文章の1話辺りの量について(調整)
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10000文字ほしい←現在の基準
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3500以上ならいいよ
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5000文字くらいほしい
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6000以上ならいいよ