蝶が飛ぶ。
その蝶は決して雨に打たれず、雨粒は泥に落ち、
蝶はただ蓮の花の上に有った。
その蝶がそして寝て、世界の夢を見た。
胡蝶之夢──私が蝶なのか、蝶が私なのか。
カイラスの隣の街、フィサリスに来てからもう1週間が過ぎた。
相も変わらず道が綺麗だ。この国だとエルフに征服されてからの方がインフラは整ったけど……それ以外はどうなんだろう。
あなたは辺りを見回すと、道の脇にある連なる様に建てられた家たちに背中を持たれかけているヒューマンだらけな事に気がついた。
麻布だけはあるが痩せこけた見た目だ。
おそらく戦乱に巻き込まれたんだろう。エルフの戦後処理は虐殺or併合しかないと、旅を始める前に管理人から聞いた。
ふむ。僕がこいつらを変えてやろう。僕以外にこれが出来るやつはいないのだから、こいつらを僕が変えなければいけないな。
「汝、希望はあるか?」
すると俯いたヒューマンの男は、辺りを見回していたがようやく僕の方向に目を向けた。
無気力──無気力な目だ。惰性に満ち、向上心というものが全く宿っていない者の目だ。
ここにはそのようなやつが溢れている。
道は綺麗だが、そこに住む人間は全くもって余裕がなかった。
「俺に言ってるんですかい」
「もう無いんです」
「あなたが与えるとでも言うつもりですか? 無駄ですよ。何も変わらない、俺は何もできない」
そう答えると、また黙って下を見た。コイツはダメだ。変化しようという心を感じない。長年に渡り惰性と云う毒に浸った腐敗したゴミだ。
「
さすれば光が満ち、
僕はそう言って、魔法を使った。
「我は救世主とならん」
「苦難に満ちた世界を救済するのだ」
そういうと、目の前の男は漸く、立ち上がった。
「あなたは……奇跡を起こせるのですか?」
その声は心の底から、期待と歓喜が聞こえるような声だ。
やはりこいつは怠惰だ。僕が救済しなければならない。
「我のことを信じよ」
「奇跡は平等に宿り、訪れる」
「我、救世主として世に奇跡を齎さん」
僕がそう言うと、その男は立ち上がった。周りのヒューマンたちも従うように、変化を受け入れた。
僕の魔法を見た者たちが感化され、鬱屈としたこの世界を脱する決意をしたということだ!
「俺、いや私は貴方様のことに従います!」
「だからどうか、奇跡をください」
ふん。どこまでも愚か、だけどもどこか面白い。
理想的なメシアとして振舞ってやるだけで、嘘だらけの奇跡を信じた。
「救世主様! どうかわたくしにも奇跡を!」
「「救世主様!」」
もうすでに、1人の無気力な人間をきっかけに、群衆が立ち上がった。
「光は我の前に満ち、汝の前に現れるだろう!」
ただの魔法。教養さえあれば分かるはずなのに、熱に羽化されるように無知蒙昧な群衆は熱狂的に
「汝らを支配する都市庁郭は悪であり、執政官を打倒し、人の世界を創造せよ!」
ああ──面白い。本当に面白い。こんなに簡単に宗教が作れるなんて。
すると、群衆たちは熱狂的に救世主と叫んだ。
「我を信ぜよ 心より信仰せよ。 さすれば汝に黎明が宿るだろう!」
「我の言葉は汝らに平等に、言葉の壁を破壊する!」
「汝らは信徒として、不当な支配を悪とせよ!」
「我の後ろに悪たるものは存在せず、我の信仰者は、悪徳こそ最も恥と思え!」
僕の言葉はたとえどんな言葉を母語としていようが届く。
女神からつけられた翻訳機能によるものだ。
これほど神秘付けに便利な物はない。
「我、汝らを救済す。革命を是となりや?」
群衆は希望に満ちた顔になった。
そうだ、僕の声をもっと聞け! そして信じろ!
ウスト教を崩してやればエルフの支配など覆る!
僕は、麻布を身につけたまま、まだ膝を屈して、跪いている最初の男に目を向けた。彼は今、溢れんばかりの革命という名前の熱に浮かされ、自分の人生が救世主の物語の一部になったという陶酔に浸っている。
「立ち上がれ、我の信徒よ。汝の名を問おう」
「はっ. はい! 私は、イオと申します。救世主様のために、何なりと!」
「イオ。汝は、この教えを最初に信じ、立ち上がった者だ。故に、汝は我の使徒となれ」
イオと名乗った男は、期待感に満ちた顔をしていた。
「汝に宣教の役割を与えよう。我の言葉を、伝えるのだ」
僕はそう言って、跪く皆の前で彼に手を翳した。
即興で魔法を作る。
「汝の右手に聖なる痕を刻んだ。信仰により、その痕は体を覆うだろう!」
すると、イオという男は感激して、右手に刻んだ二重の円を見つめた。
「汝の右手を介し、我の視線は世に満たされる」
「我が信徒となる群衆よ! 聖痕を刻まれし者は、我が忠実なる使徒に選ばれし者である!」
そう言うと、ただのヒューマンだったイオは、使徒という特別な存在になったつもりなのか、喜んでどこかへと走った。
「我は各地に信仰を伝える! 汝らは使徒に従い、我が信徒となる者を増やすのだ。さすればより大きな奇跡が、汝らに宿るだろう!」
そう言うと、大急ぎで各地に走って行く、信徒たち。
本当に底抜けの愚者だ。魔法を見たのを奇跡を見たとばかり思い込み、僕のことを無条件で信じだした。救世主? はは。都合のいい偶像を介して、自分たちを承認してほしいだけだろうに。
座り込むのではなく行動しないとこの世界で成せるものはない。それを最も知っているのはこの世界のこいつらだろうに、一体なぜこんなに怠惰になれるのか。
呆れる。このような愚者しかいないのか。
あなたはそう思いこそしたが、正直な愚者は良いと思った。表面上だけ取り繕って嘘をつき、裏切るような、真の意味での無知蒙昧。
そんなやつを見ないで良かった、と心から安堵した。
どうせこのような言葉に感化される程度の人間、もとより社会的成功なんてした事がないのだろう。
まあヒューマンというだけでロクに評価されないメイプル執政国にいつまでも留まるしかない程度の人間だ。
だが他人を信じる程度の心は残っていたようだ。
僕は革命しようとしている。だから、変えられない現状を誰かに変えて欲しくて信仰したんだ。
自分じゃ何も出来ないという毒。それが骨の髄まで滲み、膿んだのだろう。
「汝らに使命を与える!」
「この支配を変革し、エルフたちにもこの教えを伝道せよ!」
すると群衆は、四方八方に散った。
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3500以上ならいいよ
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