女神「輪廻転生しろ」 ワイ「はい……」   作:まっすァき

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大反乱

 燃え落ちる建物。ますます止まらぬ民衆の怒り。

 これら全ては救世主と呼ばれる存在が主導している。

 

 曰く、これは聖戦である。

 曰く、これは正義のための戦いである。

 曰く、これは自由のための戦いである。

 

 いくら戦闘狂と呼ばれるエルフでもこんな事はあまりしない。

 ツァウスト帝国は、混乱に陥っていた。

 

 救世主と呼ばれる存在が、属国の民衆を扇動し蜂起させ、反乱者を焚き付けながらヒューマンの反乱の旗頭として活動しているのだ。

 

 その救世主とやらは、ヒューマンを優位とする宗教を作ったようだ。既に教義は定まり、我らエルフを敵と認定するおぞましい邪教。

 ならば対応は決まっている、と本国から意気揚々に飛び出した聖職者たち、同胞は数の暴力に直面した。

 

 慢性的な戦争、それに伴う特需の意図的な奮起。

 いつもはエルフの利益となっていた侵略戦争が、無益になった。宗教戦争という形の戦争は幾つもしていたが、それはハッキリと国の拡大、資源の再獲得といった利益を齎していた。

 だが、此度の戦いはどうか。

 メイプル執政国となる前、あの国はボロボロで、鉄の再獲得といった資源を求めての戦争だった。それは良かったのだが、ヒューマンや他種族との軋轢が高まったがために、収容する土地が欲しかった。そういった狙いがあって、メイプル執政国として再編したのだが……

 

「執政官はどこにいる!」

「悪め……俺たちを散々苦しめたエルフどもが生きてるんじゃねえよ!」

「ヒューマンの国をお前らがエルフの国にした!」

「俺の家族は全員死んだ! だからてめぇらも死んでしまえ!」

 

 いまや、相対しているのは暴徒となった異教徒。

 労働力としても期待できず、もはや資源を食い潰すだけの敵となった。

 

 暴力に方向を示す。外敵を設定する。その宗教は、全てが反体制派にとって素敵な教えだ。

 

「ウストの力をとくと見よ」

 

 既に飛ばした腕は数十。潰した頭は数えていない。

 こいつらに触れるのはダメだ。

 異教徒の信仰は世界を腐らせる。エルフによる統治以外に、ウストの教え以外に救済などないのにここまで抗う。

 

 ヒューマンの恐ろしさ……それは数だ。

 数の暴力というのは、さすがに私でもキツイ。

 

 こいつらは本国と敵対する、ツァウスト帝国との敵対者でありながら死を恐れない。いや、死を覚悟して戦う弱者だ。

 

 我が同胞は無数の拳に倒れ、引き裂いた奴らの武器に負けた。だが私は闘うのを辞めるわけにはいかない。

 

「次はエルフに生まれることだ」

 

 私はとりあえず正面にいたヒューマン、おそらく20ほどを退けたが、倒しても倒してもまるで虫のように湧いてくる。

 虫は潰さなければならない。

 

「この──

「よくも──

 

 家の脇から飛び出したヒューマンを蹴り飛ばした。

 くそ、市街戦はこれだから嫌なんだ。

 なんで今になって反乱なんて起こるんだ。14年前の首都攻防戦でお前らは学ばなかったのか? 

 あの時も一方的とはいかないが、かなりの勝ちだった。

 千人斬りのハーフエルフが貴族たちを対象に殺戮を繰り広げていたから良かったが……彼女がいなかったら苦しい戦いだったかもしれない。

 

「これだから司令塔がいる反乱は嫌になる」

 

 これはただの戦争ではない。属国を相手にした軍事介入という名目上に多少は従わ無ければいけないし、執政官が本国に逃げるまでの時間稼ぎをしなければいけない。

 それに、至る所で叫び(ウォークライ)が聞こえる。

 同胞が新しくこの戦場に来たという事だが……はあ、本当に面倒だ。

 

 

「救世主とやらはどこにいる」

 

「そんなのてめぇに──ー

 

「なるほど、話すだけ無駄か」

 

 それに、この戦いは救世主とやらを殺してもダメだ。

 奴の信徒どもを全員、浄化してやらなければならない。

 浄化に逆らう異教徒は本当に多い。

 

「俺たちゃ今世しか生きねえんだよ!」

 

 ! 私の頭に向かって何かが振り下ろされている。

 

 ここまで接近を許すなんて……耄碌してしまったか? 

 さっさと潰そう。

 

「刃の方を掴ん──

 

 ナイフとただの棒を接着した、槍とも言えないもの。

 

 この程度で戦おうだなんて、己の力量を知らなすぎる。

 槍なのだから、突けばよい。

 槍なのだから、刺せばよい。

 奇襲なのだから、叫ぶな。

 奇襲ならば、声を上げてはならない。

 この程度も知らないなど、武装化してから日が浅いことの証明だ。だが、逆に言えば槍で斬撃をするという択、それ以外を使われていたら私も危うかった。

 

 ナイフ程度、私の炎剣槍の劣化にもならない。

 

 武器を使うまでもなく、手甲で無力化できる。

 横方向の力には弱かったようだな。

 

「私の槍はお前の槍よりずっと強いぞ」

 

 思ったよりずっと弱い。やはりただのヒューマンは軟弱だな。

 武器を失っても、まだ残った左腕があるだろう。

 なぜ殴りに行かない? 臆病者め。

 

 

 エルフは、剣と槍が一体化したような奇妙な槍を向け、 瞬きをするほどの時の流れを必要とせず、一閃振るった。

 すると、軌跡から一斉に炎が出現し、泣き別れした胴体の空間に遅れて迸った。

 炎の軌跡は敏捷に剣槍に追従し、エルフは剣槍を下に向けて火花を散らしながら刃先から続く炎を停止させた。

 

 すると、エルフは背後に感じた気配の主に向けて手元を見ることすらなく突き、炎の無い剣槍は正確に命中した。

 脳幹を穿たれたヒューマンは動くことなく生命活動を速やかに停止した。

 

 大通り沿いの小道に行くと、いくらでも建物の隙間からヒューマンが奇襲を仕掛けてくる。

 

「壁内に行けー! 1人やったぞ!」

 

 すると聞こえて来たのは同胞の死。

 都市庁郭へと向かうヒューマンはまるで波。いくら散らせど散らぬ。

 だからここで到達するヒューマンをある程度削らなければならない。

 

「都市庁郭の防衛をするエルフとお見受けする」

 

 そこに居たのは、()()

 明らかに雰囲気が並のヒューマンとは違う。

 

「僕のチートの前に散るのでござるよ」

 

 風貌からして違う。反乱者とは思えぬ筋肉量だ。手に労働の痕がほとんどない。

 だがその黒髪の男は、何かを隠しているように見えた。

 

 超加速(フルスピード)と、なにやら聞き取れない謎の言語で呟いた男はいつのまにか私に肉薄していた。

 

「クッ」

 

 通りの反対側、大通りまで何度も跳ねながら叩きつけられた。

 何だ? 何をされた? 

 一瞬手元がブレただけで、まったく筋肉の動きが見えなかった。

 攻撃の前兆が……察知できなかった? 

 この私が? ありえない……

 

 内蔵を痛めたのか、喉の奥から血が出た。

 だが強者との戦いは長らくなかった。

 

「美人は拙者はあまり痛めつけたくないのでござるよ」

「投降してくれるなら攻撃しないでござる」

 

 強者。強者強者強者強者強者強者強者! 

 

「貴公、名は何だ」

 

「拙者は小宮永郎。誇り高き人間である」

 

 雰囲気が変わった。仕組みは分からないが先程の攻撃は何らかの魔法だな。それで殴打に似た衝撃を発生させたのか? 

 

「私の名前はアメリ・パナーノ。誇り高きエルフである」

 そう言いながら、私は武器を手に取った。

 

「投降は、してくれないのでござるな」

 

 何を悲しんだ顔をしているのか。戦いの前に雑念を持つのは恥というのに。

 

「ならば、ただでは済まないのでござる」

 

 すると、コミヤは懐から丸い石を取りだした。

 

 ばかな、投げるつもりか。愚かな。 久しぶりの強者だと思ったのに……

 何たる事か、愚者であったか。

 

 その顔は明らかに落胆であり、不満げだった。

 だが力は本物。知の伴わぬ力など暴力だ。

 

「拙者はあなたと戦いたくないのでござるよ」

「あなたはここで死ぬべきじゃない」

 

「コミヤとやら、愚弄するではない。私は戦いのために生きているんだ」

 

 そう言うと、アメリは槍の先端から炎を出しながら、下段に槍を構えた。

 

「仕方がないでござるね」

 

 いつの間にか。いつの間にかだ。私は瞬きすらしていない。それなのに──

 

ガラガラ

 

 何かが至近距離で通過し、それに遅れて暴風と轟音が鳴り響いた。

 おかしい。あの姿勢から放たれる速度として明らかに早すぎる。

 

「投降、してくれますか」

 

「何度も言わせるな、コミヤ」

「私はたとえどのような損傷を負うことがあったとしても、最期まで戦うことを辞めない」

 

 すると、何がおかしいのかコミヤは、罪悪感に満たされた表情をした。何だ? コミヤという者とはこれが初めての遭遇のはずだ。

 

「あなたは、自分のことを正しいと、本当に思っているんですか」

「戦うことがそんなに大切ですか」

 

「貴様……よほど死にたいらしいな」

 

 私の剣槍の力は火を奇跡に描くだけではない。

 私の怒りに合わせて、炎がより大規模に膨れ上がる! 

 

「火葬の時間だ」

 

 槍を突き、前方一帯に火を噴かせる。

 すると、炎の中というのにまるで何も無かったかのように無傷で火から飛び出した。

 

「あなたの攻撃では拙者、死なないのでござる」

「だから──

 

「それ以上、喋るな」

 

 火が通じない生物など存在するものか。ヒューマンだぞ! ヒューマンに私の炎が通じない!? 

 非常事態だ。なぜだ。なぜなのだ? 

 

 ふざけるな! 私が戦いの名誉を重んじるのは強者だけだ! 愚者に払う敬意などない! 

 

 

 小宮は、相変わらず憂鬱そうな顔で、アメリと相対していた。

 だが、その本気の熱意を目にして覚悟を決めたような表情になった。

 

「妹のことを、覚えていますか」

 

 アメリの手が震えた。だがそれは戦意からではない。恐怖──なぜこいつがそれを知っているのか。まさか、こいつが首謀者、もしくはその一味か。

 

「死ね」

 

 小宮は問うた。だがそれが、アメリの地雷を踏み抜くがごとき効果を齎した──! 

 

 烈火落天。星も溶け落ちるような熱を前に、平然と小宮は立ち止まっていた。

 

「──────」

 

 何か言っている。だが聞き取れない。

 関係ない。こいつは真っ先に殺さなければならない。

 

 小宮は、アメリの背後の建物が崩れ落ち、倒れるのを見て、背を向けて逃げた。

 

「は?」

 

 不可思議な力を使う強者、そこから呆れるほどの底なし愚者に転じ、死でも償えない罪人へと心象が急速に転落していった。

 

 それは溢れる憤怒が炎に変わるということであり、激情は烈火となり、炎は益々強くなりだした。

 

 そして炎の呪いはアメリに微笑んだ。

 

 それは火災旋風へと。全てを包み込み、焼き溶かす熱を持った嵐へと。

 アメリは炎の熱に焼かれる両手に力を入れ、炎の化身と化した槍の先端を静かに、凪いだ湖面に涙を垂らすように──突いた。

 

 すると、炎は即座に指向性を持った火災旋風として、小宮へと向かった。

 

 憎しみの果ての果ての果ての果て、かつて消えぬように刻んだ後悔と憎悪。その全てを叩きつけるように槍を突いて、水平に降るって、振り下ろした。

 

 炎の嵐、炎の津波、溶岩竜の頭。

 さまざまな形態を取った焔が、小宮へと向かう。

 すると小宮は、その全てを振り切る速度で走り抜いた。

 走る、といった表現は適切ではない。

 ただ歩いたのだ。

 それは歩いたというよりも、走ったというよりも、どれにも類さないほどの速度だ。

 

 

「お前を殺す! 怨敵よ、よくぞ私の前に顔を出せたものだ!」

 

 その叫びは都市庁郭に届くかもしれぬほどの絶叫。

 憎悪をありったけ込めたその叫びは、周辺の街灯を歪ませ、溶かすほどの熱を伴いながら広がった。

 燦々と輝く火に当てられ、黒曜石が槍の回りに作られた。

 

 そして槍は投擲された。衝撃波を伴いながら射出されたその槍は、全ての憎しみを含めた1滴の雫となって……小宮の近くに突き刺さった。

 そして遠く離れた着弾地点から爆轟が発生し、山ひとつほどの大きさの爆炎ができた。

 上空の雲の形がそれに当てられて変形するほどの熱……無事で居られるはずもない。

 

 近くのヒューマンは、発射と同時期に広がった炎により影のみを残して消えた。

 

 そしてアメリ・パナーノは塵になった右手を見た。

 アメリ・パナーノは、それでもなお、向かってくるヒューマンたちを相手にした。

 左手の手甲は焼け、薄墨色に変色して見る影もない。

 中にある手は原型を辛うじて保っている程度。

 

《big》「私の命は戦いの中でのみ輝く」《/big》

 もはや無事な部位など存在しないが、それでも戦いをやめる選択肢などなかった。

 1人でも蹴散らし、都市庁郭へと届くかもしれないヒューマンたちを排除する。排除、排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除──

 

「なんか……ごめん」

 

 最後に立っていたのは、小宮だった。

 既にアメリは両脚がほとんど焼けていた。

 あの一撃に全てを掛けた。

 それでも倒せぬ強者。

 

「コミヤとやら。私は、強かったか」

 

 その問いかけは明確に小宮に向かっていた。

 

「いいや。でも久しぶりに手こずったよ」

 

 その言葉を聞いたアメリは納得感というものは欠片もないものの、既に決した勝敗を覆すような手段が無いことに気が付き、少しばかり涙を流した。

 

「あなたの事は、忘れません」

 

 小宮の左半身は焼けていたが、逆に言えばその程度。

 この程度しか傷が付かないとは、と目を見開き……アメリ・パナーノは死んだ。

 焼け焦げた肉体が執念で動いていたようなもの。

 

 だが直後、確かに死んだその肉体、左腕が爆発した。

 

「なっ──

 

 手甲の破片が刺さる。

 

「やってくれるじゃないか……痛い……」

 

 どういうカラクリか、死後に魔法を発動させた。

 爆炎のほとんどは効かなかった。だが至近距離なら? 

 そう考えた最後の攻撃だった。

 

 だが有効打には至らなかった。確かに、頬を貫通して口を斬り刻んだ。だがその程度だけなのだ。

 

「痛いなあ……くそ、血が出てしまったじゃないか」

 

 そういうと、傷になった部位を手で抑えながら、通常の歩行で都市庁郭へと歩みを進めた。

 

「サザンクロス帝国軍が近くにいるだろうし……拙者はそこで生き延びる」

「痛いなあ……くそ、痛いってもんじゃないぞ」

 

 流血が止まらない。当たり前だ。至近距離で爆発を喰らい、さらに金属の破片を多数体内に取り込んだ。

 

 焼け落ちた街道を歩いていく小宮。その顔はどこか憂いを含んでいた。

 




救世主、サザンクロス軍はあなたを支持する。
救世主、代わりにあなたにやって欲しいものがあるのです。

それは────

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