女神「輪廻転生しろ」 ワイ「はい……」   作:まっすァき

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4度目の現世+13

 モクモクと、煙が風に吹かれていた。

 この煙は何か。

 この煙とは混合された煙である。

 ならば何と混合した煙なのか? 

 

 答えは簡単で、端材が炎上しながら鍋を温めている炊事の煙である。

 何を作っているのか? その答えもまた、簡単だろう。

 

「有り難ぃ〜!」

 

 半固形のほとんど芋スープ、である。

 

 なぜ芋か? それはひとえにサザンクロス帝国が温暖かつ乾燥した気候だからである。

 この世界における芋とはサザンクロス帝国が原産であり、塊茎を食べているのは変わらないが基本的に育ちやすい風土が違うのだ。ここは異なる世界だから当然だが……

 

 茹でたり輪切りにしてそのまま食べるという食文化なのだ。

 本来はスープにするものではなく主食なのだが……

 サザンクロス帝国軍は今回、メイプル執政国まで遠征しているのだ。メイプル執政国の最大の特徴はその資源。

 豊かな水に、平坦な地形も起伏に富んだ地形も併せ持つのだ。これが何を意味するのか。携行する水をかなり少なくでき、その代わりに食料を増やせたのだ。

 

 サザンクロス帝国はヒューマンとエルフが混合している国。ウスト教を国教としているのはファウス文明を起源とする国の特徴であるが、まあそこは良いだろう。

 

 重要なのは口実だ。なぜツァウスト帝国が反乱に対する軍事介入という口実で鎮圧しに向かったのに対し、サザンクロス帝国が反乱軍に対する支援という口実でツァウスト帝国と実質的に戦うことに踏み切ったのか。

 

 ツァウスト帝国は西方に拡張を続け各地を征服した。ならば、東方で戦争をした直近(20年以内)は、戦争の長期的継続は難しいとサザンクロス帝国は考えたのだ。

 

 サザンクロス帝国はメイプル執政国を挟んでツァウスト帝国と睨み合うような構図である。

 

 ツァウスト帝国と本格的に戦争をするのはやりたくないが、サザンクロス帝国はメイプル執政国を緩衝国にできる程度にしつつ資源を奪いたくなった。

 メイプル執政国を緩衝国とするのには難しい。

 バックにはツァウスト帝国が控えていて、実質的にツァウスト帝国に併合されているのとほとんど同じ。

 

 だからたまたまあった反乱を支援するのだ。

 その反乱は宗教的戦争でもあり、信仰者の構成はヒューマンが90%以上をしめる。

 救世主と名乗る人物が反乱の首謀者であり、宗教的権威を激しく増しながら教団を拡大していた。

 

 ここまでなら扱いづらいという感想になるが、救世主の作った宗教は規模があまりに大きい。

 

 だから食糧難になると予測した。そこに向かって食糧支援という名目で武装化した『護衛』を『安全の保障』のために送るのだ。

 

 口実としては完璧であり、護衛と名乗るサザンクロス帝国軍は都市庁郭へと向かって行進を続けるヒューマンたちを支援する。

 

 メイプル執政国となる前はエスメープクド王国としてファウス文明では珍しく貴族制度が色濃く残る国だったが、ツァウスト帝国との戦争で敗北して講和し解体。

 その後はツァウスト帝国の各地にいるヒューマンまたは異教徒を強制的にメイプル執政国へと流した。

 入れば出れない厳重な国境。

 だがそれも無力化できてしまう。

 なぜなら、 武装化しているのはあくまでも護衛であり武装化の理由も安全を保障する為である という論理がまかり通るからだ。

 反乱を支援する行為として問題にはなるが、ツァウスト帝国はそれを気にしていられる事態ではないだろう。

 なぜなら王城跡に建設した執政官のいる都市庁舎に向かってするように救世主宗教の信仰者たちが前進を続け、多少停滞こそすれどまったく止まる気配がない。

 

 ツァウスト帝国の強大な軍隊は伸びに伸びた国境を防衛するために動かせず、動かせる兵士は伽藍堂になっているのだ。

 

 これにより、戦闘が発生しようものなら軍事介入しているツァウスト帝国の兵士がサザンクロス帝国の兵士に攻撃を加えたということになってしまい攻撃は不可能だ。

 逆もまた然りなのだが、この相互確証破壊によりサザンクロス帝国軍……いや、『護衛』はメイプル執政国へと素通りした。

 

 そして積荷の食料を大量に放出し、反乱軍を構成する宗教勢力に恩を売りながら擦り寄ることができるのだ。

 

 勿論タダで物資をあげるということはしない。

『見返り品』、お金である。

 ファウス文明圏では通貨がファウス貨幣のみとなっているのが最大の特徴であり、貨幣の過剰発行を防ぐため国力差を均衡させるためのものなのだが、それは旧エスメープクド王国ことメイプル執政国においても同じだ。

 つまり宗教勢力からお金という力を削ぎ落としつつ恩を売るという遠回しなマッチポンプのようなもの。

 

 救世主と名乗る首謀者に対してツァウスト帝国はたいそうご立腹でいるのだがそれは事実として彼らが反乱者であるということを考慮すれば全くと言っていいほど誤謬性は発生していない。

 

 だが、反乱軍の鎮圧をするために貨幣を発行することは

 国家間の力量差の均衡化たる単一通貨システムの貨幣の過剰発行を防ぐ目的を完全に粉砕する。

 各国が勝手に通貨の価値を下げて軍事費を賄うことを防ぎ、結果として国力差を均衡させるためのものとしての機能があると信じられているからこそ、ファウス文明圏の国々が経済的な手段によって急激な軍事的な優位性獲得を相互に抑制し合うという一種の共通ルールを完全に粉砕する。

 

 完全に粉砕するということはどういうことか? 

 

 ファウス貨幣は廃止され、各国は独自貨幣を発行してバランスを破壊するだろう。

 そうなれば金融が冷え込み、金融ブロックのために禁輸措置が取られ……

 ファウス文明圏は相互の戦争によって完全に根本から破壊されてしまうことになる。

 つまり、このバランスを崩してはいけないということ。

 だからこそ各国は戦争を起こさないように細心の注意を払っていた。

 だがエスメープクド王国の属国化を見た国々がツァウスト帝国の台頭を警戒しだし、既に価値が乱高下して貨幣の信用度は国際市場から急激に悪化。

 

 緩やかなインフレーションが急激なインフレーションへと成長し、物価の上昇が始まったのだ。

 相対的に国際通貨価値は下がり続け、これを阻止するために『金融共和会議』が開かれた。

 

 だが共和会議は互いの平等性を表すために円卓を使っているのに対して、出席している国にメイプル執政国が含まれた。

 これがどういう事を意味するのか? 

 

 2票を実質的に保持したツァウスト帝国がメイプル執政国の分の票を奪っているとして、独立した国としてはメイプル執政国が含まれないと会議は喧嘩の場になった。

 

 このように足並みが悪くなったファウス文明圏は互いに牽制しあい、緊張が続いていたのだ。

 

 だがサザンクロス帝国は介入により、複数の利益を同時に得ることができると確信し、乾坤一擲の礫を放った。

 

 資源の確保 : メイプル執政国の豊かな水や平坦・起伏に富んだ地形という資源を、軍事的な衝突なく事実上、自国の支配下に置ける。

 これは軍事的衝突なしに獲得できるものとしてメリットがかなり多い。さらにこれらも考えられる。

 緩衝国の創出 : 強大なツァウスト帝国との間に、友好国となる独立した緩衝国(救世主宗教国家)を作り出すことができ、自国の安全保障上のリスクを大幅に軽減できる上に、メイプル執政国を独立させ、一元的国家に再編することにより友好国かつ緩衝国を作成できるのだ。

 ツァウスト帝国の弱体化 : ツァウスト帝国が反乱鎮圧に失敗し、最終的に緩衝国の成立を黙認せざるを得なくなることで、ツァウストの威信と支配力が低下し、内部分裂に追い込める。内部分裂とまではいかなくとも十分に弱体化すればツァウスト帝国を喰らい、サザンクロス帝国と独立後のメイプル執政国や周辺国と元ツァウスト帝国の土地を割譲を狙える。

 軍事リスクの回避 : 『護衛』という口実と相互確証破壊の状況を利用することで、ツァウストとの本格的な戦争を回避しながら、実質的な軍事介入を成功させました。これは究極のローリスク・ハイリターンであり、やらない手はない。

 

 これがサザンクロス帝国軍が都市庁郭へと向かうヒューマンの反乱者たちを支援した背景だ。

 

 お前が救世主として振舞っている間にこれ程の政治的激動が発生したのだ。

 独立を宣言しなければ1部の信者を除いて大多数の信者は離れるだろう。

 そしてサザンクロス帝国は即座に護衛として派遣した帝国軍を救世主を斃すことに向けて動き出すように命令する。

 

 そうなればお前はもはや死ぬしかない。

 旗頭として名乗り上げ、神輿として担がれたならこうなるのだ。

 

 だからどうにかするしかないぞ? 

 だがどうする? 

 独立を宣言したならば、ツァウスト帝国は国境線を一時的に薄く防御することになったとしてもツァウスト帝国軍を差し向ける。

 

 つまり、進んでも逃げ出しても詰みだ。

 お前はどうする? 

 

 

 我は、救世主としての役割を遂行する。

 もはやサザンクロス帝国軍の支援に頼るしかあるまい。

 

 我は信者たちの信仰がなければ易易と死ぬし、ツァウスト帝国に対抗できるほどの力を発揮できない。

 

 だから悪の執政官を排除して独立を宣言し、向かってくるツァウスト帝国軍を跳ね除ける。

 

 我は救世主として、ツァウスト帝国を崩壊させなければならぬ。ツァウスト帝国はヒューマンの反感を買いすぎた。1度ヒューマンによって破壊してエルフが優越する社会が崩壊するという前例を作り出さなければならない。

 

 ────────

 

 モクモクと、煙が風に舞う。

 

 端材が炎上しながら鍋を温めている炊事の煙。その中に、半固形の芋スープの匂いが混ざる。サザンクロス帝国原産の食料。温厚で乾いた大地が育てた主食だ。今、その主食が、豊かな水と肥沃な大地を持つメイプル執政国の、それも反乱軍の腹を満たしている。はは、随分畑は焼けてしまった。

 もう生産力はガタ落ちだ。

 

 歓喜の声が聞こえる。飢餓に瀕していた信者たちの、純粋な感謝の言葉だ。その声は、真っ直ぐにこの我に向けられている。この我に。

 

 我は静かにスープを見つめる。半固形の芋の欠片。温かい。だが、この温かさが、どれほどの血と裏切りで成り立っているか、我は知っている。

 

 我は、もう単なる個ではない。

「救世主」と名乗らなければ、旗頭として担がれたが最後、降りることなどできない神輿。

 我の力のほとんどは、我自身から生まれているのではない。

 彼らの、この飢えと抑圧に苦しむヒューマンたちの、信仰による精神的優越が命綱なのだ。

 

 この命綱が、我を究極の隘路へと追い込んでいる。

 

 

 我らは都市庁郭を既に突破し、丘の上の都市庁舎への進軍は止まらない。多少停滞こそすれど、この熱狂は、ツァウスト帝国の強大な軍隊さえも無力化している。

 犠牲は多いが、殉教の神聖化でなんとか賄った。

 使徒たちも大勢が死んだ。

 ツァウストの支配層は、今どれほど焦燥しているだろうか。彼らの焦燥の理由は、我らの反乱ではない。彼らが恐れているのは、我という救世主を鎮圧するための『財源』だ。

 

 ファウス貨幣の過剰発行を防ぎ、国力差を均衡させるための相互監視。

 

 美しいルールだ。戦争を抑制し、平和を保つための共通の鎖。

 しかし、その鎖が今、ツァウスト帝国の手足を縛り、我を鎮圧するための最後の行動を許さない。鎖を断ち切れば、文明圏は相互の戦争によって完全に根本から破壊される。

 

 ツァウスト帝国は、この鎖を断ち切ることを恐れている。だから動けない。

 

 だが、このままではツァウストは動けないまま、メイプル執政国という属国の支配権を失う。

 そして、我が独立を宣言し、エルフに対するヒューマンの勝利という『独立の前例』を作れば、その崩壊は確定する。

 

 我が独立を宣言する。その行動こそが、ツァウスト帝国に「文明崩壊か、支配権の放棄か」という究極の2択を強制し、彼らを地獄へ引きずり込む唯一の道なのだ。

 

 しかし、この道を選んだ瞬間に、我を支援しているはずのサザンクロス帝国が、牙を剥く。

 

 彼らの目的は、緩衝国を創出し、ツァウストを弱体化させることだ。我という宗教的な指導者が支配する、熱狂的な宗教国家は、彼らにとって制御しにくい。

 

 独立を宣言しなければ、信者は離れる。

 信者が離れれば、我は死ぬ。

 独立を宣言すれば、サザンクロスは即座に護衛として派遣した帝国軍を、『救世主を斃す』ことに向けて動き出す。

 

 進んでも詰み。逃げても詰み。この四面楚歌の状態は、あまりにも完成されている。まるで、我がこの地獄に落ちることを、全ての国が予測し、織り込んでいたかのようだ。

 

 だが、我は神輿だ。そして、神輿の役割は、担がれたまま、目的の場所まで進むこと。

 

 ────────ー

 

 我の決断は固まった。メイプル執政国は独立を宣言する。そして、ツァウストが経済の鎖を断ち切って反撃してくる前に、内部の裏切り者を片付けなければならない。

 

 サザンクロス帝国軍。彼らは協力者として民衆のすぐ隣にいる。彼らが我を斃そうと動くのは、独立宣言という勝利の熱狂が最高潮に達した瞬間だろう。その方が、現場の混乱に乗じて暗殺がしやすい。

 

 我は、その熱狂を利用する。

 

「我は、全てを知っている」

 

 都市庁舎を陥落させ、独立の旗を掲げた瞬間、我は凛として宣言した。

 

「我の独立を汚そうとする裏切り者が、この中にいる」

 

 と。我は、信仰という名の勇気によって、サザンクロスの指揮系統をその場で排除する。その兵力と装備を武装として取り込み、ツァウスト軍の先遣隊を迎え撃つ即席の正規軍とする。

 

 進んでも詰みかもしれない。だが、ツァウストを崩壊させるという最終目的を果たすには、この道しかない。

 

 我はヒューマンの反感を買いすぎたツァウスト帝国を崩壊させ、エルフが優越する社会が崩壊するという前例を作り出さなければならない。そのために我はこの身が引き裂かれようとも、旗頭として立ち続ける。

 

 勝利は、独立の旗が倒されるまでの、ほんの短い時間かもしれない。だが、その一瞬で、世界は二度と元に戻れない地獄へと引きずり込まれる。

 

 戦争がある。紛争がある。不幸がある。

 

 それで良いじゃないか。世界に恒久的な平和なんて訪れる訳のない夢物語! 

 

 装備を揃え、人員を揃え。

 質も量もツァウスト帝国に匹敵する規模なはずだ。

 

「汝、我を信じよ」

「独立という奇跡はここに成就した」

「だが奇跡とはここで終わる一過性の物ではない」

 

「裏切り者とはサザンクロス帝国のことだ」

「サザンクロス帝国は独立を果たしたこの国の指導者たる私を排除し、傀儡政権を樹立しようと動き出した」

 

「サザンクロス帝国に反旗を翻そうではないか!」

「汝ら、これは怨敵の排除というものではない」

「かつての同胞に刃を向けるということだ」

 

「だが! 我が、奇跡を齎した我を攻撃しようとしたというのは事実!」

「汝らは深い愛を知っているだろう。我の愛を!」

「我は今ここに宣言する」

 

「信者たちよ集え! 裏切りには対価を払わせよ!」

 

 すると信者たちは演説中の広場で互いに顔を見て、確信した。

 1人も裏切り者などいない。

 

 サザンクロス帝国には恩がある。だが、救世主さまを攻撃しようとした。

 許されないことだ! 

 と。ヒューマンの信徒たちは粛清、粛清と口々に叫ぶ。

 もはや止められない。お前は過熱させすぎた。

 一体どうやって挽回するつもりだ? 

 今は味方だったではないか。

 もはや超大国相手に二正面作戦をする事になるぞ。

 

 

 我の信徒たちならば乗り越えられるだろう。それに、我にかかればツァウスト帝国を分裂させるのは容易い。

 国境線の防御が薄くなった今。今こそが周辺国にとっての最大の攻勢にうって出れる時期。がら空きのボディにストレートパンチをぶちこめるんだ。

 周辺国を扇動し、戦争に世論を傾けさせれば問題ない。

 

 

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