「皇帝陛下、先遣隊より報告です!」
宮中とは思えないほど、慌ただしく扉を叩くのは私の部下。
なるほど、声色を見れば分かる。二神将は負けたか……なんという事だ! 大損失だ!
「入室を許可する」
やはり、と言ったところか。
入室した私の部下は、負けを報告してきた。
損害人員17.1万人、なるほど。
インフラ投資や住宅を含めた経済的損害が最低でも13億6000万以上と推定か。
「何がどうなっている! アメリ将軍がいただろう!」
皇帝は、あまりの非現実的な数値に机を叩かざるを得なかった。書類の束たちが一瞬 空中に浮き、その激怒を知らせる。
「執政官を取り戻せないばかりかメイプルの都市庁郭は陥落」
「威信回復ができず、戦略的にも敗北を重ね!」
「何をしていたのだ! 」
知っている。膨大な赤字を出し、負担をかけながら投資したインフラは、投資した予算の収支回収までに40年以上を必要とすると。
知っている。回収できたはずの資源を、持っていたはずの領土を。莫大な予算を与え、再編した風光明媚な街並み。
集めた金銀を一時的に失っても将来的に回収できると投資した! それなのにも関わらず、都市庁郭内部の建築物はほぼ半焼。
知っている。ツァウストの地よりかき集めたヒューマンたちの労働者でさえ復興させるのに3年以上をかけ、反乱軍の攻撃によって落盤したり採算がとれず閉山した鉱山を。
何もかもが大赤字。投資した魔導列車というインフラは独立しかけている属国に再利用され、住宅施設から税金はもう取れない。
国威掲揚のため、威信回復のために戦争をした。
それなのにも関わらず結果は大損害。
絶望的状況だ。何たる事か! 本当に不甲斐ない!
「執政国らの同行は?」
すると、見るからに怒りを湛えて顔に幾つも筋を浮かべている皇帝に対し、少しばかり怯えつつ部下は言った。
その内容は衝撃的で、皇帝は椅子から立ち上がった。
「恐れながら皇帝陛下、マーブル執政国やダジェル執政国、オーミガツ執政国の3国において独立の機運が高まっており、執政官たちを避難させる準備を始めなくてはいけませぬ」
もはや、この国は終わりなのだろう。私はこの国の最後の皇帝になるかもしれない。
執政国が無くなってしまえば残るのは穴の空いた領土。
禅譲の道はなく、もはや平和的な退位などできそうにない。
「アメリ将軍の生死確認はできているのか?」
前線から上がってきた報告によれば、まるで茸のような形の爆発が都市庁郭の郊外で発生したとのこと。
茸のような形の爆発、それを起こせるのはアメリ将軍しかいない。
大量のヒューマンの侵攻を削いだものの、ヤクラン将軍は戦死。
ヤクラン将軍、アメリ将軍の神器が敵に渡れば大惨事だ。ああ最悪すぎる。本当に最悪。
存在が抑止力である神器を失えばツァウスト帝国はサザンクロス帝国や連合国にナメられるだろうし、侵攻してくるやもしれない。
「陛下……無念ながら、アメリ将軍は戦死なされました」
「サザンクロス帝国が支援していたという『俊敏』の転移者と交戦したようです」
もはや終わりだな。終わりだ終わり。神器持ち2人がこんなちっぽけな、大局でもなんでもない独立戦争に巻き込まれて死んで、我が国には神器の適性者がいても訓練が進んでいない。
『俊敏』……サザンクロス帝国が主張する、五体星の体現者。確か名はコミヤ・エイロウ。
「それで、その『俊敏』は倒せたか?」
二神将が死んだということは倒せていないだろうなぁ……本当に最悪じゃないか!
問われた部下は、一瞬の逡巡はあれど、皇帝への返答は最悪の言葉だった。
「それが……恐れながら陛下、サザンクロス帝国が交戦後に保護し、その後の動向は潜入官も情報が掴めていない状態が続いています」
ああ、本当に最悪だ。五体星の1人も倒すことができずに神器保有者が討たれるだと?
「執政官の保護を第2目標に追記せよ」
「第1目標は独立の阻止だ!」
ああ、最悪、本当に最悪だ。思考出来うる最悪の状況だ! なぜ私の時にこんな不運ばかりが発生するんだ。
国境線から軍は動かせず、隙をつかれて反乱軍を抑えることも出来ず、あまつさえ抱える属国からは次々と独立宣言をされ、神器を失った。
「メイプル執政国に割ける実働兵力はどれ程か」
部下から帰ってきた返答はわずか60万。60万で何が出来ると言うんだ? 敵は歩兵が1400万だぞ!
1660万の銃火器兵のうち600万人が市街戦での近接戦闘や遠距離からの狙撃で負傷し、15万人も死んでしまった。
この損失、どう支払わせようか!
怒りを顕にした皇帝は執務室の机を叩いた。
精緻な木製の机には長年の傷が入っていたが、皇帝の机らしく堅牢に机は立っている。
我が兵は、平野でも5:1の兵力差で覆せる。
恵まれた資源とは言えないがそれでも力を注いだ練兵!
通常なら自慢になるがもはやそれは使えない! 1400:60など70:3ではないか! 最大の5:1の4倍以上の差だぞ!
ストレートプルだとか、銃剣だとか……銃器によって栄えたツァウスト帝国の軍は、精強である。
紙の薬莢だのとサザンクロス帝国がやっている間に、真鍮薬莢に到達している。この技術の高みは崩れまい。
執政国を東方に多数作ったのは良いが、東の憂いとなった。
西方は既に拡張し終わり、パノプリヌンとの貿易も黒字化まで遠い。
機械文明だとか馬鹿には出来まい。建築技術は目を見張るものがある。
「では、60万人に『拡張マガジン』を配ろう。貴官の報告に感謝する」
どれもこれも救世主とやらの暗躍だ。
戦費の負担が上がって民は不満を抱え、賃金を上げようにも軍事費と年金、医療や社会保障費で税金の運用法の柔軟性物価が底を着いている。
軍備拡張が出来なくなる!
「サザンクロス帝国め、何もかもが奴らの仕込みか」
もはや乾いた笑いが腹の底から込み上げて来る。
そもそも幾ら扇動されたとしてアメリ将軍やヤクラン将軍を凌ぎ、独立などできるはずがない。
反乱軍の装備は貧弱なはずだが、戦線離脱した兵からの報告によれば刃物を持って至る所から斬りかかるヒューマンや、ボルトアクションライフルを構えて大量に発砲してくるヒューマンの群れ。
抵抗できないように徹底的に刃物も鍋も鋳潰した。
配給制度に編成し、文化を書き換えた。
それですら不十分だったのか?
サザンクロス帝国は我が国と比べて資金がある。
我が国家は人口で優れども、サザンクロス帝国と比べたら種族の層が違う。
ツァウストの内需は、大量の国内に抱える人口や執政国に製品を買わせることで成り立つ。
多くの執政国が独立した今、需要が縮小して市場は値崩れ。
緊急的事態により、市場に介入をして売り値を固定化しようとしているが進まない。
救世主……ルメンとやらとサザンクロス帝国は組んでいるな。
サザンクロス帝国の資金がなければボルトアクションライフルなどという物を民兵ごときが持てるわけがない。
救世主とやらは異世界転移者だろう。魅了か洗脳か、それに準ずる能力者に違いない!
不公平だ、不公平だ!
サザンクロス帝国ばかりに異世界転移者が集まる。
対抗できうるアメリ将軍も討たれ、ヤクラン将軍に至っては神器を再利用されている可能性が高い!
だが水瓶玉の力を完全に使いこなしているわけではあるまい。
不幸中の幸いという物か。古代の言い伝えにも、『カフクハアザナエルナワノゴトシ』という言葉がある。
奴らにだけ幸運が来るのはおかしい。なぜ我が国だけが不幸なのだ!
押さえ込んでも押さえ込んでも物価低迷が続く。
これほど性急な資金のねじれは防げない。メイプル執政国の独立はもう呑むしかないが他の執政国は独立させぬ!
「執政官は無事か?」
重い空気が執務室に立ちこめる。雷鳴と同時に暗雲が押し寄せたような重々しい空気。
「オーミガツ、マーブル、ダジェルの執政官は無事かと聞いているんだ! 皇帝の命令には1秒で答えろ!」
30世が生まれ持つ能力は……『発熱』。
触れた物体を温める先天能力だが、温度の幅を拡張することにより血液を気化させて即死させるまでに至った。
「そ、それが皇帝陛下! マーブル執政国の執政官は本国に亡命できず……反乱勢力に捕らえられました! オーガミツ執政国とダジェル執政国の執政官は無事帰投しました!」
本来は、触れなければ発動しなかった能力も……相手の『目線に触れる』ことで、発動するようになった。
熟練した先天能力ほど概念の領域へと踏み込むことが可能となる。どれ程弱く見える能力であっても貴賤は無く、熟練することによって強くなれる。
だが皇帝の思考は、スパイと疑ったこの文官を殺すことだけでなく……国内の安定などにも向いていた。
(誰も彼も役には立たない。マーブル執政国も独立宣言間近だろう。メイプルは信教の自由を掲げて複数の国家を内包しだしている。制裁を仕掛けても支援しているサザンクロス帝国がいる以上は難しい。)
「マーブル執政国に派遣した兵はどうしたのだ? まさか壊滅とは言うまいな……」
国境線が延びすぎた。もう防衛力は平時より失墜している! 周辺国の動向を伺わないと……いや、先に反乱勢力に圧力を加えなければ。
「損耗率が14.7%に達し、死傷者は少ないものの治療が追いついていません! 反乱の指導層は取り押さえることが出来ませんでした!」
14.7%!? 何だと……!
「誤報ではあるまいな!?」
そう言った瞬間に、その文官はニヤリと笑った。
「オーガミツとダジェル執政国に残った動かせる兵を集めよ」
「第3次攻勢の配備だ! オーガミツとダジェルの反乱指導層を処刑し、徹底的に力を削ぎ落とさなければならない)
(うーむ、大規模転換もできるだろうがコストに見合わないから出来ないか。)
(万事休すだ。もう何もできん。)
(こうなったら放置してこれ以上の軍事費の無駄を止めた方がいい)
(だが反乱の鎮圧が出来ても、指導層の捕縛さえままならぬとはもうツァウスト帝国の威信の回復は出来そうにない。)
(ただでさえ周辺国から疎まれつつあったがもう無理だ。)
(直ぐに攻勢に出れる兵力がいても少ない。)
(神将に依存しすぎたか。討ち取られたことが響いた! )
サザンクロス帝国を攻めようにも海戦は出来そうにない。サザンクロスの艦隊はツァウストの艦隊よりも圧倒的に数が上回ることを認めざるを得ないが、そもそも陸軍を送ろうにも隣接地にならずメイプル執政国が独立した。
北東にいるサザンクロス帝国の陸軍、虎星軍との衝突では地下トンネル切削によって拠点が落とされ、無敵の回転砲塔を無視して進軍された。北東戦線での敗北はもう威信を回復できない。
まるで両手両足を縛られているようだ。何も出来ないように丁重に捕縛されてしまった。
もはや私が目的とすべきは、もはや勝利ではない。サザンクロス帝国と連合国という外敵、そして内に抱えた反乱軍という3つの狼に対し、兵を差し向け圧力を加えることで、ツァウスト帝国の平和の乱れを遅らせることだ。
皇帝は、閉められた扉の巨大なツァウストの国章を見上げた。
いつもは偉大で、冠の重さも責任の証だと思っていたがもう虚栄心の塊にしか見えない。
炎と水の神器を失い、柱だった神器は敵に所持された。
だが私は皇帝だ。
おそらく最後の皇帝となるだろう。
ツァウスト王国の時代から続く直系子孫の私が退位すれば正当なる後継者は1人しかいない。
私の息子がいるが、直系子孫ではないし正当性に乱れがある。弟は私と同じ直系子孫だが……政治は、任せられない。
はあ、嫌になる。
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我は奇跡の恵印たる力を、此度の聖戦により獲得した!
水瓶玉の力を照覧あれ!
この虹は偽りでも幻でもない! 水の奇跡が齎した崇高なる虹だ!
水という自然すら操り、我の手中にあり!
汝らよ、奇跡を見たか! 汝らよ、危機を知ったか!?
だが、奇跡とは平等に訪れるものだ!
我を信じろ!従う者は利益を享受するだろう!
信者たちは救世主の力強い宣言を聴いた。万国全ての話者に届く『奇跡の言葉』での演説。
奇跡を目の当たりにし、そして革命を成功させ独立というフリーダムを手にした。
そして、誰もが見える普遍的な奇跡たる虹を見た。
もう止まらない。信者たちはさらに信仰を深め、熱狂的な信仰は永遠のものとなった!
この言葉は止まらない。輪となり始まりも終わりもなく、ただ在る。そう、止まらないのだ!
文章の1話辺りの量について(調整)
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10000文字ほしい←現在の基準
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3500以上ならいいよ
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5000文字くらいほしい
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6000以上ならいいよ