女神「輪廻転生しろ」 ワイ「はい……」   作:まっすァき

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皇帝会議

「さて。単刀直入に言うが、我が国は建国以来の最大級の危機に瀕している。目下の問題として、軍事費の高騰、物価の低迷、さらに伸長し続けた国境線の防衛費用」

「これらの解決策として何が良いだろうか?」

 

 議事録をリアルタイムで書いている部下に、先程から止まらない汗をかいている官僚、そして座っている私の弟。

 

 

 重々しい沈黙が会議室を包んでいた。

 領土を表す、円卓の中央に広げられた石の彫刻だけは沈黙の中で輝いていた。

 

「やはりここは経済圏を離脱するしかない、と私は考えている」

 

 1000年の絢爛も、もはやない。

 圧倒的な財はまだまだある。食料や金銀、鉄などの鉱物資源。

 

 だが神器──それは神々の齎した奇跡たる物品。

 その1つたる水瓶玉を失い、さらに兵を送れども送れども遅遅として進まない前線。

 

「皆は、この事態にどう考える?」

「私は経済圏を速やかに離脱し金本位制をベースにした新通貨を発行し既存通貨を代替すべきと考えている。その上でどうすべきか考えて欲しい」

 

皇帝がそう言いながら紫の紙を議題の上に乗せると、納得したようにすぐ近くにいた防衛政務官が賛同しながら立ち上がった。

賛成を意味する青い紙を、ラウンドテーブルの中央に寄せた。

 

 するとざわめきが円卓の上で踊った。

 

「皇帝陛下、それは危ういですぞ」

「陛下、どうか思い直してくだされ!」

「陛下。それはあまりにも……」

 

 3人。それは皇帝の改革に否定的な、いわゆる『反対派』。

 5人。それは皇帝の改革に肯定的な、いわゆる『賛成派』。

 

文官の中でも中核を占める者たちがバラバラの意見を持っている。

 

「その通りでございます陛下、しかしやはりここは保護貿易を行い、すぐにでも金銭を蓄えて連合国やサザンクロス帝国の警戒に努めるべきでございます。」

 

議題に反対する官僚がそう言った瞬間、円卓はざわざわとした様相を呈し始めた。

 

傍聴している数多の官僚はその意見を否定し、自由貿易を進めるべきだと立ち上がって言う始末。

 

皇帝が手を後ろに出し、制したところで収まった。

 

 

(金を蓄えるのは良いが、大量の資源がほしい。)

 

「では、警戒を検討しておくとして。官は何を進めるべきと思考する?」

「私としてはこの議題 物価そのものを直接的に関与し操作すべきだと考えている。」

 

 

そう言った瞬間。文官たちは驚いたような表情をして固まった。当然である。

一国の皇帝である、30代皇帝自身が経済を統制して操作すると直接的に言ったのだ。

先代とは違い、サザンクロス帝国との協調路線を捨てると宣言していた皇帝に対して猜疑心を抱いた文官や同調していた文官も、これには驚愕した。

 

 

だが一方、政務官たちが集まる左側。そこは文官たちが集まる右側とは違っていて、とても熟考しているようだった。

 

直接指名された政務官は立ち上がり、こう言った。

 

「皇帝陛下 それは素晴らしい案であります! やはり本官としては財閥拡大に伴って拡大した国内の金融業を、現在よりさらに積極的に保護し、属国からの徴収などで労働力不足を解消させなければならないかと!」

 

 労働力不足……か。失業者の増加を解消し、再雇用を増加させなければ根本的に立ち行かなくなるか。検討の余地はあるがあまりに急進的だ。危険すぎるし前半は良いとしても属国からの徴収などと言った行為は是正しよう。

 

「それは議題から逸脱している。では次の者!」

 

右隣の政務官が立ち上がり、言った。

 

「ええ、やはり陛下の言う通り。経済圏から独立し、私個人としては貨幣の鋳造をすぐにでも始めるべきだと考えます!信用貨幣の信頼が揺らぐやもしれませんし……」

 

 

そう言った瞬間に、皇帝は目を見開いた。

 

「貴様。それは何を意味するのか分かっているのか?理解してそれを言っているのか?無礼者が……」

 

スパイと疑われた政務官は皇帝の問いかけとも言えない裁定に対し、必死に答弁するも弁えが足りないと言われ絶命した。

 

人が死んだというのに会議室の中は平然としていて、会議は緩やかにペースを取り戻しながら進行していく。

だが、それを見た皇帝の弟は驚愕して、少し遅れてから糾弾しようと別の者が話している時に離席する。

 

「皇帝!それは……手荒です!」

 

そう言いながら一礼なく扉を開け、足音を立ててカーペットの床をやや早く歩き去って言った。

 

無茶苦茶であまりの傍若無人ぶりに憤慨した文官や政務官は取り繕ってこそいるが皇帝には丸わかりだった。

騒然とした室内の空気を、言葉ひとつで納めた。

 

「貨幣の鋳造をするにしても、現在の採掘比と民間放出量では銀ばかりになり軈て硬貨の錆が問題になる。

金の含有量が少なくなってしまう。資金としての信頼性に欠ける。先程の潜入者のような、経済を無闇矢鱈に策もなく掻き乱すような軽率な言動は控えるように。」

 

 

「そして今の行いを、皆は市民へ流布しないように。理解した賢い者だけが手を上げよ。」

 

何をした、とは言わなかった。スパイが潜入していたこと…皇帝の弟の離席…

これらを含めて流布しないようにと、箝口せよと言った以上は口を噤み全員が手を上げる。

 

 

 

「議題に戻るが……増税を発表すると社会不安も大きくなる。税を上げずに、民間への調整を測りつつ新規貨幣の造幣量を増やそうと考えている。」 

「だが私は次に〜

 

喋ろうとしていた皇帝を遮って、国民軍側の政務官が言った。

それは帝国が定めた至上命題たるものに反する禁忌。

冷たい目線に気が付かず、その者は喋り続ける。

 

「しかし、陛下。まずは商品生産の再編成をすべきでは?」

「過剰に供給される製品を減らせば、帝国はさらに良いので──

 

また1人死んだ。

さすがにこれはおかしいと感じ、国民軍側や皇帝軍側の政務官、大臣や文官たちに対して皇帝が1歩前に下がるように言った。皇帝の命令はこの国において絶対であり、疑問を抱かずに従わざるを得ない強制力を発揮する。

 

「メイプル執政国の独立は、もはや認めざるを得ない」

「ならば、早いうちに経済回復を目指して起死回生の一手を試みなければならぬ」

「経済圏独立を発表し、雇用促進のためにも既存のインフラを整備し、労働力の吸収を狙う。さらに国境線防衛をさらに強化し、志願兵だけでは成り立たない」

「ただでさえ属国のヒューマンが減少し、我らエルフの同胞たちが貧しくなっている」

「だが崩壊の佳境はまだ過ぎていない。大臣と私が経済圏離脱後の速やかな新規貨幣の流通を指揮下に置く」

 

その宣言は圧倒的なものだった。

皇帝は失敗するというものが許されない。だからこそ大臣を要職に置いたり、何かあった時の責任の身代わりとするのだ。それを無視して、直接指揮するまでと言ったその自信に、

政務官たちの国民軍派の者や皇帝軍派の者が驚愕した。

だが一方、その言葉の重さを聞いた文官たちはピシャリと締め切られた宣言に大いなる覚悟を感じ感極まった。

 

「よって、経済圏からの離脱を周辺国に通告する。そして、本日の献策をもって、私と大臣らの令により日程を組むとしよう」

 

皇帝の声は、もはや物価の低迷に対する焦燥ではなく、鋼鉄のような響きを持っていた。

 

 皇帝は1番最初に円卓の席を立ち、最終的な方針を言い渡した。それは、賛成派の案を統合し、さらに過酷なまでに強化した『生存計画』であった。

 

 第一に、最優先は生産の再編成と、それに伴う失業者のインフラ整備への吸収である。ただし、給与は新通貨の信頼性が確立されるまでの当面、旧貨幣を主体とするが、その後は新貨幣を給与にすることで流通量を上げる。

 

第二に、防衛費の増強のため、銃器を持った反乱軍の鎮圧を秋季中に実行する。

その際、反乱に対する強行的な姿勢を取る。

必要な燃料と食料を反乱軍に対して与えないようにし、民間から反乱軍への支援を締め切るように圧力をかける。

これにより社会不安を抑える。

 

第三に、金融の安定化のため、港が凍結するまでの短期間に、国外の裕福な中立勢力、特に優れた資源を保有し、産業的影響力を持っているパノプリヌンから短期・高利の借款を断行する。その資金の運用は新通貨の担保と燃料・戦略物資の緊急買い付けに限定するが、公共事業費の一部もこれで賄う。

 

 

潜り込んだスパイの三人は、その顔に皇帝に陳言が通じなかったという皇帝への不安や、国が滅亡する恐怖を貼り付けたまま、皇帝の次に席を立った。彼らにとって、この勅令は『利益の破壊』に他ならない。それは、金と信用、そして外交的な安定によって築かれたツァウスト帝国という大きな帝国の反映を意味した。彼らは、皇帝に自分たちの言葉が最後まで届かなかったという絶望を胸に、自らの財産と本国での身の振り方を考え始めるしかなかった。

 

 

 そして、長く長く続いた会議が終わり、皇帝の勅令が発布されると、まるで待ちわびていたかのようにスパイたちは混乱に陥った。最も強く抵抗したのは、やはり国際的な金融と貿易で利益を得ていた富裕層とサザンクロスの大商人たちであった。彼らの多くは反対派を支持し、この改革が彼らの既得権益と資産を破壊することを予見していたのだ。

 

そして反対派の多くは、退くと同時に行動を開始した。彼らの抵抗は露骨なものであった。

 

「皇帝陛下は、帝国を無秩序な蛮族の群れに変えようとしておられる! 経済圏を離脱すれば、ツァウストの金貨は単なる鉛くずとなる。我々の財産を守るためには、海外資産を全て本国から引き揚げるしかない!」

 

とその中の一派は、国内の資産を海外の不動産や債権に急速に振り替える作業を1番最初に進めた。これは、皇帝が目指す短期借款の担保となる国内の金の裏付けを微弱ながら揺るがす行為であった。

容赦のない資金凍結と殺害を受け、スパイたちと反対派は全体として帝国から消えていった。

 

一方、賛成派の実務家たちは、時間がないことを知っていた。彼らは反対派の動きを牽制しつつ、勅令を力ずくで実行に移した。特に、短期借款の交渉は一刻を争った。港が閉ざされるまで、時間は残されていない。中立国は連合国と協力してツァウスト帝国の状況を知っており、

担保として差し出す国内資産のリストと超高利の利息を要求した。

傲慢なその態度を外交的態度の欠けであると外交官を帰国させ観光客を国外に追い出した。国内の平和は保たれた。

 

 

「すべて差し出すしかない。冬を越さねば、担保そのものが無価値になる」

 

金融担当のスパイは血を吐くような思いで盗みとった契約書に皇帝の印鑑を押した。同時に、国内富裕層に対しては、

 金の保有量を申告し、任意だが新国債を購入せよという

 皇帝からの圧力がかけられている特別献金という名の

『実質的な特別課税』 が通達された。

 富裕層からの 猛烈な不満 が渦巻いたが、皇帝はすでに沈みゆく泥舟の国の最後の皇帝となる覚悟を決めており、その声に耳を貸す余裕はなかった。

 

秋の空気が凍てつき始める頃、勅令の実行は苛烈を極めた。

 

 

独立予備軍が形成されつつある三個の執政国や反乱者のいる地域に対し、帝国の正規軍が派遣された。彼らの任務は、夏季から続けられた鎮圧ではなく迅速な殲滅。

まさに壊滅的破滅を齎すのであった。

 

魔導列車によってあまたの執政国の中にいた反乱軍は滅び、平穏が属国に齎された。

 

「我々の任務は、反乱軍を殲滅し平和を確保することにある。これは帝国の正式作戦であり、和平が目的ではない。死者をも運び出せ!火刑に処せ!

平和が破壊されることは、敗北よりも重い罪となる!」

 

兵士たちは、抗議する現地住民やスパイを制圧しながら、石炭、薪、保存食料、種子を魔導列車に満載し、昼夜を問わず帝都へ運び込んだ。この非情な作戦により、接収地域の反乱軍は冬を越すためのリソースを奪われ、凍死して言った。その恨みは深まったが、弱まった反乱軍は住民らや兵士から蹂躙されていき、

帝国中枢は反乱を破壊するための方法として物資を確保しつつ国民へと反乱を許さない強烈なポーズを示した。

 

そして、正規軍は連合国による地下からの侵攻により制定された実質的に新しい国境地域に配置された。

これは長大な国境線を維持するよりはるかに費用対効果が高く軍事費は一時的に緩和の兆しを見せ始めたが、周辺国は貪欲に国境線を上げ続け、数多くの民家が焼かれた。

 

これに激怒した国民たちは連合国に対する露悪的態度を示し、国家間の外交関係のみならず民間での関係が急激に悪化していった。

 

帝都では、失業者の動員が開始された。彼らは、賃金を得るためにインフラ整備と、新たな国境線よりは内陸だが、将来的に侵攻してくるであろう地域のレールの建設という過酷な労働に従事した。

 

給与の支給日、労働者たちは硬貨だけでなく、帝国産の暖かいミルクや石炭といった『余剰現物』を受け取った。

牧畜業が帝国は盛んなので、市場から溢れてそうになっていたミルクやバター、バケットと言ったものを労働者に与えつつ、高い給与を渡された。

 

新規に発表された新通貨に対する疑念は強かったが、これがあれば冬を越せるという確実な量の支給は、社会不安を一気に鎮静化させる効果があった。だがそれと同時に、旧通貨との交換を要求する労働者も多くいた。

 

快く帝国は応じ、急激な新通貨の流通がありつつも新旧入り交じる市場からの駆除がやってきたりと新しい問題が あったりもした。

 

 同時に、過剰生産を行っていた農場には、皇帝からの命令が下った。

減反政策により、余剰農作物は政府が買取りを行う。

 

この行政の強権的な介入により、市場に出回っていた食料の一部は国家に買い上げられ、デフレの進行は鈍化し始めた。しかし、この強制的な生産転換は、多くの農場経営者の生産目標を下げ、30世に対する支持と、休耕地への転換指示による来年の生産への期待をさらに募らせた。

 

 

 

 迫り来る冬が、到来した。

 

 

 秋が終わり、風が肌を刺すようになった。北の海路はすでに流氷に閉ざされ、遠くの海には氷河が張り出し始めていた。

方角は真反対だが、西の港の突堤に、パノプリヌンの船団が。東の港にはサザンクロスからの船団が、

冬の嵐が吹き荒れる直前に滑り込み、契約した大量の燃料と、借款の金を下ろしていた。ぎりぎり間に合ったのだ。しかし、僅か2ヶ月あまりの急激な輸送開始では資金は予定していた量よりも少なく、石炭も契約量より少ない量であった。

 

サザンクロス帝国の船団は30世が勝戦へと導いた南東諸島での海戦で木造船を沈めたせいか、非常に少なかった。

 

お互いに露悪的感情がまだ消えていないのだ。

 

 

 

皇帝の執務室は、暖炉の火が燃えているにもかかわらず、冷たい空気が漂っていた。皇帝は、接収した食料と燃料の備蓄量を記した報告書に目を落とした。

 

燃料備蓄は労働者と正規軍が越冬するには、過不足なく足りる量だが、異常寒波が来れば不足する。

 

 

食料備蓄はかなりの量が存在しており、現在進行形で増えていくが、

人口の実質的な削減である執政国の独立を含めた量を計算に入れる必要がある。

 

属国へと食料を配分しサザンクロス帝国との輸出入、連合国との輸出入を調整しなくてはならない。

 

食料という最強の外交カードを無闇矢鱈に使う必要はないが、サザンクロス帝国や連合国による反乱支援の制裁に使うつもりだった。

 

次のサザンクロスとの海戦は7年か、6年半か。 

それまでに海軍をさらに強化し、次の戦争ではサザンクロス帝国に必ず軍縮条約を背負わせる。

 

あの国の船は麻薬をよく運ぶから、貿易品の中に紛れていないか検査するのにも時間がかかるし面倒だ。

だからこそ、サザンクロス帝国が慎重にならざるを得ない場面で確実に食料輸出の削減という圧力をかける。

 

南東諸島を奪い返しさえすれば、

29世によって起こされた南東諸島の分割によって失った東の海での排他的経済水域は広がる。

 

サザンクロス帝国は目障りで仕方がない。

 

 

 この冬、帝国は『外部への断絶』と『内部からの反乱』の二重圧力を抱える。

借款の返済は1年後から始まるが、この冬、国民が生き延びてくれなければ、既得権益拡大はあり得ない。

 

皇帝は疲労にやつれた顔で、窓の外に広がる、雪を降らす灰色の空を見上げた。

 

「私は……この選択が正しかったと信じるしかない」

 

 黒色の暗雲に変わりそうな雲模様……それは、皇帝の内心を鏡よりも正確に表していた。

 

 

サザンクロス帝国からのスパイが宮中にまで入っていたとなれば今すぐにでも調査を開始する必要があるし、なにより貿易規制の圧力をかけて今すぐの海戦は避けつつも懲罰を下さ無ければならない。

 

 

政治や経済のことを教えても音楽のことばかりに熱中する弟は後継者として不適格だし、私の息子に次代の継承を任せよう。

 

我が弟とはいえあの者は恥だ。先代…叔父に可愛がられ、調子に乗って好き勝手に放蕩する。

 

折檻されても学ばない愚者ぶりに、血統の恥を感じないのかと問い詰めても自己正当化しかしない。

 

我が息子や臣民がいる限りこの国は大丈夫だろうが、弟は幽閉しておこう。

権力を握ったら絶対にダメだ。

 

息子が暗殺でもされない限り私はようやく退位することが出来る。

長かった……実に長かった。

 

ツァウスト帝国は今後、絶頂期を迎える事になる。

 

私の統治していた時期よりも、何十倍も、何百倍も!

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