あなたは何事もなく走行した馬車から降り、目的の場所へとたどり着いた。
だが、兄はあなたの手を握ると少し引き寄せてから魔法を発動した。
そして、あなたはいつの間にか迷い込んだ。
そこは不思議な空間だった。
いかなる魔法か、あなたには推測すらできなかった。
だが、とてつもなく高度な魔法であると言うのは理解できた。
「これは、空間拡大だよ」
兄の手に引かれ、あなたは進んでいく。
空間拡大?なんだろう、それは。
疑問に思ったあなたは兄に尋ねた。
視界の端のスクリーンに文字が踊っていたが、あなたは無視した。
このスクリーンは自分にしか見えず、干渉することができない。と、あなたは完全に理解したからだ。
有益な情報をくれるけれど、嘘か真かファクトチェックすることはできないからであり、情報源の信頼性というものが欠けていたからだ。
「空間拡大というのは……何?」
あなたは兄に尋ねたが、帰ってきたのはとても難しい内容だった。
「内部空間を外部空間と隔絶し、膜を作る魔法で外部の干渉を無くす」
「そして内部空間の大きさを広げていく。もちろん、逆もできるよ」
「その壁は膜だから触ると破裂しちゃうんだ」
何やらとてつもなく高度な魔法であった。空間拡大、ということは空間縮小もあるのだろうか?
「逆の魔法は見慣れてるんじゃないかな?」
「物を小さくして運ぶ魔法も同じ原理だよ」
「本当は民生用じゃないから民間人にこの魔法は言っちゃダメだよ?」
「なぜ?民間にも広めたら貴族とかだけじゃな─
兄は人差し指を立て、口元に持っていった。
「この空間の外は誰にも音が聞こえないけど、それは言ってはならないよ」
沈黙の意味を持つジェスチャー。いや、確かにそうだ。
「でも、これがあれば輸送とか─
すると、言い終わらせないように兄が少し声を大きくしながら言った。
「それは、危ない物も輸送できてしまうからダメなんだ。たとえば、ポピーとかね」
ポピー。たしか、隣国のサザンクロス帝国が育ててる植物だったかな?
花らしいけど……なぜそれが危ないんだろう?
「この空間は拡大されていて、体積が大きくなる」
「だからこの中は軽く感じるはずだよ」
あなたは気がついた。すっかり分からなかったが、歩くと足裏に浮遊感があった。
「縮小された空間ならどうなるの?」
あなたは兄に尋ねた。
「うーん、重く感じるかな?僕はその空間に入ったことはないけれど、身動き出来なくなるとは聞いてるよ」
兄の声が、静かに響いた。
「この空間縮小魔法を使えば、特別な花の実とか、砂糖や塩を小さな箱に詰め、検問を完全に回避できる。それは、国家の社会秩序と国民の統制を、内側から破壊するための非軍事的な武器なんだ」
「だから民間人には言ってはいけないよ。」
確かに、それはそうだ。 塩に関税をかけなければ塩産業は潤うだろうが、もちろん輸入されて来た塩も大量に来る。
砂糖とかも以ての外だ。
国は最近、穀物を集めているけれどそれは食料と準備のためだし仕方がない。
あなたは完全に納得し、拡大された空間の中で兄と秘密の会話をした後に空間から出た。
何かが弾けるような音がして、その直後に空気が前方押し寄せた。
なるほど、これが空間拡張のせいか。
あなたは完璧に理解した。
今の現象は、発生した空間の余分なスペースに向かって大気圧が作用したからだ、と。
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