女神「輪廻転生しろ」 ワイ「はい……」   作:まっすァき

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スピーディな独立

指導者様は「革命的偉業」を成し遂げた。

遂に、悪逆非道なツァウストからの独立を果たした。

「なあ、パンの値段を見たか?何であんなに下がってるんだ?」

 

どこを見ても、パンの値段が明らかに低いし、多い。これも救世主様のおかげだ。あのお方の指導のおかげでこの国は成長した。

 

「ああ、広場に行ってないのか?布告紙が大量に配られてるぞ?」

 

男の友人はそう返した。広場、そうか、中央広場だな?と男はそう思考した。

15年前の王都侵攻で折れた時計塔は既に瓦礫としてではなく、建材として再利用された。

 

かつての王族処刑に使われた、あの広場はもう栄光が灯った。

 

男は街を歩いた。完全に石畳で整備されたこの道は、まさに指導者のおかげだ。

 

男は周りを見渡して、皆が希望の顔をしているのを見て嬉しくなった。あれもこれも、全てはまさに指導者のおかげなのだ。

 

「布告紙は……ええと、これか。」

 

中央広場に積まれた大量の紙。

それは不思議な手触りだった。何だろうか、この手触りは。いままでに触ったことがない。

男は広場の中央に積み上げられた紙の束から、一枚をそっと抜き取った後、まじまじと眺めた。

その紙は、これまでの羊皮紙や粗末な藁半紙とは全く違う、滑らかで白い、不思議な手触りだった。指導者様が新たな技術で生み出したという『特別な紙』は、それ自体が奇跡の産物だ。

インクも鮮やかに、そこに記された文字は、男の魂に直接語りかけてくるようだった。

男は内容を読んだ。

 

すると書かれていたのは、とても理解しきれないが素晴らしい内容ばかりだった。

 

「ハーバーボッシュ法によりオストワルト法を用いて作物を増やした……よく分からないけど良い事だな!」

 

男の頭の中では、『作物が増える=豊作』である。

素晴らしいことだ。

 

しかも新しく作られた工場で今もそれがずっと実行され続けている、とのことだ。

 

男は心の底から賛美の念を抱いた。

知識人たちが難しい顔をして論じる、その長い名前の技術が何であれ、結果は一つ。

パンが安くなった。飢えに苦しむ子供の顔が消えた。それが全てだった。

救世主様は、地上のいかなる者も成しえなかった、貧困と飢餓の根絶を、この空気と水からパンを創り出す奇跡の工場で実現されたのだ。

 

「あー、俺も工場で働きたかったな」

「ああ、そうだな。」

「でもみんなカネは増えただろ?」

 

男の周りには、友人が多数いた。

彼らは同じく、救世主を信じる国教により知り合った者だ。

 

王都はもはや瓦礫の街ではない。摩耗が全くない、新品の石畳の道に白い布告紙、安価なパン、清潔な水。

そして遠くで唸りを上げる工場の音。それは、豊かさと安全の交響曲であり、指導者が、科学という名の新しい信仰によってこの世界にもたらした、完全無欠の福音だった。

まさに救世主。

 

名実ともに、救世主と言って過不足は存在しない。

 

 

男は、この指導者様の新しい文明を支えるためなら、どんな過酷な労働も厭わないと、心の中で誓った。工場で働く者も、道で石畳を磨く者も、誰もが救世主様の御業に貢献しているという強い連帯感と誇りに満ちていた。

 

「指導者様万歳!我々の文明に、永遠の光あれ!」

 

誰かが言った。その若者は涙し、感涙しているのが見えた。

そして男は、周囲の友人と顔を見合わせ、皆が満面の笑みを浮かべているのを見た。この幸福と希望こそが、救世主様が我々に授けてくださった、最高の奇跡なのだと確信しながら。

 

そしてその男、ロージャは布告紙を慎重に折りたたんで胸ポケットに収めた。

この紙切れ一枚が、かつての王侯貴族が持っていたどの宝石よりも、確かな未来の保証に感じられた。

指導者の統治下で、全ての価値は安定性と生産性によって再定義された。

彼らが稼ぐ賃金は、旧時代の急激に変動した銀貨や金貨ではなく、工場が生み出す富に裏打ちされた、確固たる価値を持つ。

飢餓の不安から解放された今、人々は初めて労働の真の喜びを知ったのだ。

その喜びは、工場の音、パンの香り、そして清潔な水の流れという、五感で理解できる物質的な福音によって毎日確固たるものとなっていた。

 

ロージャとその友人たちは、中央広場から東の労働者街へと向かう大通りを歩き始めた。

この都市の整備された石畳の道は、まるで巨大な定規で引かれたかのように規則正しく、

摩耗とは無縁のように滑らかで清潔だ。道の脇には、以前なら汚泥や雨水が溜まっていたはずの溝がより整備され、据えた匂いを放つことはない。

 

そして白く塗装された滑らかな管が、整然と家々の壁面を伝っている。その管は、穢れを知らない水と、目に見えない電力を、分け隔てなく市民全員に供給する、平等と進歩の象徴であった。

 

友人のラシムが、整備された道を見下ろして言った。

 

「なあ、昔は雨が降ると地獄だった。靴は泥まみれ、病も増えて、悪臭の地獄。だが、今はどうだ?」

 

ラニンスがロージャの肩を叩いた。

 

「これも、苛性ソーダの恩寵だ。石鹸と清潔さ。指導者様は、単に腹を満たすだけでなく、穢れからも我々を救ってくださった。病の蔓延を防ぐことこそ、真の統治者の務めだ!」

 

ロージャは深く深く頷いた。

 

「その通りだ。それに、この道の下にある管は、もはや腐ることもない。指導者様が持ち込んだ新しい素材、PVCだ。我々の文明は、永久に機能し続けるように設計されている。エルフの魔法よりも、よほど永続的で頼りになる!」

 

市民たちは、指導者の統治がもたらした清潔さを、信仰の証として受け入れていた。水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の製造プロセスが、塩素ガスの製造と一体であるという事実は、一般の市民の知るところではない。

彼らにとって、この清潔な街と安価な石鹸は、指導者様の慈悲であり、その享受として工場で働くことは神聖な義務であり、必然的な幸福だった。

指導者は、健康と安定という絶対的な善を餌に、市民の忠誠心を、不可逆な工業システムに組み込んだのだ。

 

ロージャたちは、緩やかに続く坂道を登り続けた。

周囲の家屋はすべて統一された規格に基づいており、瓦礫から回収された石材と、

工場で新しく生み出された鉄骨を用いて再建されている。個人の趣味や土地の不平等な所有による歪みはなく、全てが効率性と機能性に基づいて設計されていた。

 

窓は以前より大きく、4枚のガラスが嵌め込まれており、室内に豊かな光を取り込んでいる。この合理的で明るい光景こそが、非合理と闇に満ちたツァウスト時代の魔法に対する、科学の勝利の象徴である。

 

この合理的で無駄のない建築は、指導者の無駄の排除という哲学を徹底的に具現化していた。

 

指導者にとって、旧王都の豪華で不規則な建築は、非効率な権力構造そのものだった。

瓦礫を建材として再利用することは、

「過去の汚点を、未来を築くための素材に変える」という、再生の儀式に他ならなかった。

そして、その再生を駆動しているのが、遠くで聞こえる工場の熱狂的な鼓動だ。

 

工場の方向から、間欠的に重く響く打音が届いた。それは、金属を鍛え、プレスする音だ。

 

ラニンスとラシムが恍惚としながら目を細めた。

 

「あの音を聞け。救いの音だ」

 

ラシムが答える。

 

「ああ。あれは、我々を守る無数の弾丸が生まれている音だ。エルフどもは、自分たちの身体と魔法に頼るが、我々は指導者様の科学に頼る。指導者様は、『一人の執政官の素早さは、一千発の弾丸の前には無意味である』と教えてくださった」

 

ロージャは布告紙を握り直した。

 

「我々がパンを食べている間にも、ステンガンやPPShが増産されているのだな。飢餓からの救済と鉄の防御は、指導者様の二つの御手だ。その二つは、硝酸という一つの奇跡から生まれている。肥料と火薬、全ては指導者様の愛だ」

 

彼らの言葉通り、彼らの労働は、パンと弾丸という、生存と安全の二大要素を同時に保証しているという事実を、この上ない誇りとして受け入れていた。

彼らが賞賛するサブマシンガンは、主にステンガンという大量生産型であり、エルフの素早い身体能力を、連射速度と工業力で圧倒するために、最適化された冷徹な清算の道具である。

そして、これらの兵器が必要とする高性能無煙火薬の原料、硝酸は、ハーバー・ボッシュ法で生み出されたアンモニアを、

オストワルト法で変換することで、無限に供給されている。

 

そして3人は、坂道を登り切り

トラクト・ハウジングの街から、工業地帯の全景が見渡せる丘に到達した。

数十本の煙突が立ち並び、そのうち最も太い煙突の群れからは、白く膨大な蒸気が、まるで巨大な白い雲のようにたなびきながら遥か遠くの空へと立ち昇っていた。その光景は、

かつての支配者たるツァウスト帝国時代のどんな魔法の光景よりも、

圧倒的なスケールと力強さを放っている。蒸気の光に反射して、工場の屋根や配管の真新しい鋼鉄がキラキラと輝いていた。

この蒸気の塊こそ、「水瓶玉」の無限水が、工業の熱を冷まし、蒸気機関の動力を生み出す奇跡の証であった。

 

ラシムが感動を隠せない様子で言った。

 

「見てみろ、あの蒸気の量!あれこそが水瓶玉の奇跡だ!昔、水冷式機関銃は冷却水が尽きれば無力だと聞いたが…」

 

ラニンスは胸を張った。

 

「しかし、我々には指導者様がおられる。無限の水だ。あの水冷式機関銃は、永遠に火を噴き続けるのだ。エルフがいくら突撃してこようと、我々の鉄の壁は崩せない。彼らは魔法で水を創り出せないが、指導者様は神の恩寵を持っている」

 

ロージャは、遠くで規則正しく動く巨大な蒸気ハンマーの動きに目を奪われた。

 

「そして、あの蒸気ハンマーが叩いているのは、要塞破壊用の巨大な砲身だろう。指導者様は、水冷式機関銃だけでなく、さらに遠距離の敵を討つ迫撃砲や榴弾砲までも、我々のために作ってくださっている。エルフの誇る鉄壁の要塞も、この科学の砲弾の前では無力に違いない!」

 

市民のこの認識こそが、指導者の最大の成果であった。

彼らは、物理法則と化学反応の絶対的な力を、指導者様の神聖な恩寵として信じ込んでいる。

エルフの優位性は生まれという確定的で、後天的に変えることのできない確立された資質に基づくが、

指導者の力は科学という普遍な法則に基づいている。これは、旧体制の魔力による支配を、

科学技術による絶対的な支配へと置換する、不可逆的な革命だった。工場が唸るたび、遠くで鍛造の音が響くたび、彼らは希望に満たされた。

あれは、自分たちの未来が、確固たる鋼鉄と無限の化学の力によって、守られ、築かれている音なのだ。

 

工業地区へ向かう道路は、一般道よりもさらに広く、分厚いコンクリートで舗装されていた。その脇には、工場の電力供給源となる送電線が、整然と鉄塔に支えられて伸びている。夜になれば、この一帯が白く明るい電気の光に包まれる。

それは、ツァウスト帝国の宮廷の豪華な蝋燭の光とは比べ物にならない、真の文明の光だ。その光は、市民が働く夜間工場をも照らし、永遠の生産サイクルを可能にしていた。

 

無限の水を活用した、発電効率100%の恐ろしき発電機。これを用いることにより、首都の電力は保たれている。

1週間ごとに配られる、新聞記事にはそう書かれている。国中に黒い煙を吐く発電機はあれど、首都はこの発電機で賄っていると3人は信じていた。

 

ロージャは、ラニンスやラシムに向かって言った。

 

「なあ、今度オークションで売られる酒を見に行かないか?」

「ああ、そうだな。」

 

「ま、これも救世主様のおかげだね。」

 

煙草の吸殻や酒瓶があちらこちらに見られるが、これは発展の証。

彼らは、偉大なる指導者の元に生活することを誇りに思った。

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