女神「輪廻転生しろ」 ワイ「はい……」   作:まっすァき

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もう、あの国に行った方がいいんじゃない?

【絶影】はラウンドテーブルの上に30枚を超える現像された写真を提出した。

 

その中身は、飲食物や銃、果てはトイレなとの一見なにも関連性の無いものだった。

 

そして、【絶影】はいつの間にか腕に時計を付けていた。

 

「あー……ちょっと独断行動してきたんだけど。もう、あの国に言った方がいいんじゃない? メイプル宗教国の方がサザンクロス帝国よりさ、ずっと優れてるよ」

 

五体星たちは【白空】の作り出した会議室に自分たちを呼び寄せ写真を並べていた【絶影】がいきなり開口一番、衝撃的な言葉を口にしたことに対して、驚きの表情を見せる。

 

「僕らがやったのはもうさ、メイプル宗教国の下位互換じゃないの?モシン・ナガンを作っても既にあの国は数十年後の銃を作ってたし。」

 

「それに、僕も知らない銃をあの国の警察は持ってたし。」

 

「もうお手上げ。正直さ、僕だけでもあの国に行ってみたいさ。」

 

【絶影】はすっかり、サザンクロス帝国への愛着心を無くして帰ってきた。

 

「あ〜……まあとりあえず、何があったのかだけでもさ、もう1回話してくれよ」

 

【白空】が、そんな【絶影】に向けて言葉を発する。

 

「まあゴムタイヤとかあるしさ、合成繊維の服とかあるし……もう完全に技術で負けてるんだよ。」

 

それは薄々、いや確実に五体星たちが理解している共通内容であり、しかし目を逸らせない現実としての内容でもあった。

 

「それに、サザンクロス帝国にあった木版印刷とかを進化させて活版印刷とかにしても新聞文化はなかったのにさあ……」

「メイプル宗教国にはあるし、正直言うと歴史が長いだけでサザンクロス帝国よりさ、ずっと歴史は浅いけどメイプル宗教国の方がいいよ。」

「だってどの民族よりも優れた文化が帝国人には〜みたいなツァウスト的な謳い文句もないし……正直、なんかプロパガンダとしても優秀すぎる。」

「あの国の指導者は確実に天才だよ。」

 

 

【絶影】はメイプル宗教国の文化に、完全にハマっていた。

【絶影】は【白空】と同時に転移しており、異世界で30年以上を過ごしている。

地球に向ける郷愁は確実に、責任と同様に混ざりながらも確実に存在しておりそれが発露した。

 

「それで……具体的には何があったんだ?」

 

「『文化の求道者』とか名目してサザンクロス帝国は各地を征服してるけど、それって実際にはメイプル宗教国より遅れてるよね?

だって実際に進歩してるのはメイプル宗教国の方なんだしさ。いまのいままで僕たちはどうかしてたんだよ……」

 

「【白空】、君だけでも一緒にあの国にいかないかい?やっぱりあの国の方が絶対に良いよ。」

 

 

変わり果てた……否、完全にメイプル宗教国の支持者への変貌した【絶影】を見た五体星たちは、驚愕を通り越して無言になっている。

 

なぜあそこまで熱心に技術を更新させようとしていた【絶影】がやる気を失い、メイプル宗教国への移動を提案しているのか。

それが【俊敏】には分からなかった。

 

 

「あー……特にこの戦車なんてさ、確かにうちの国には作れないけど……それでも豊かさがあるであろうに…なぜそんな性急に?」

 

【俊敏】は、【絶影】へと戦車の写真を指さしながら問うているがその内容はほとんどが薄っぺらい困惑が伝わるのみである。

 

「技術が根本から違うんだよ……あの国はユートピアだ。君たちも、あの国を見たら分かるんじゃないか?」

 

そんな議論とも言えないような一方的な会話を聞きながら、会話の蚊帳の外にいるようで五体星の意見を聞くつもりはまるで無いように思えた五体星の面々は、配られた日付が今日の新聞を読みながら、確かに技術は躍進しているが実情はそこまででは無いのではと軽視していた。

 

なぜならプロパガンダが多分に含まれていると考えたのだ。

 

事実、指導者を賛美するような内容の新聞しかないのは印刷元が国営の新聞企業だからであるが、プロパガンダはあまり含まれていない。

プロパガンダは、多少含まれているが数値の詐称などは極めて無に近しい。それが『中央新聞』の性質だった。

 

 

~~~~~~~

 

メイプルの今週の気温と天気

 

肌寒く、長袖を推奨します:アーテルハ地域

風が強いため帽子は控えた方がよいでしょう:ウェストミール地域

局地的に雨が観測される事でしょう:イースカシア地域

乾燥した春の暖気から一転、かなり暑くなることが予想されます、市民の皆様には半袖を強く推奨します:ラーミントイ地域

今年最大の雨量を観測、速やかに近くの国営需給品売店にて傘と合羽を購入しましょう:ハーメイ地域

週末まで暖かいでしょう:マインスルンズ地域

暖かく、隣国からの侵攻に備えましょう:サイアミーズ地域

雨が週末に予想されます。短い靴下を履いた方がよいでしょう:マンチカン地域

 

(ここから先は物理的に切り取られていて読めない)

 

~~~~~~~

 

一見、ただの天気予報だが……あまりにも正確だ。

 

そして、【絶影】はさらなる写真を、ドサドサと逆さにした鞄の中から出した。

 

その枚数は優に100を超えており、一体何枚の写真を撮影したのかと全員が呆気に取られる。

 

 

「ほら、この地図も明らかにやばいでしょ」

 

目の前に広げられた紙、それに乗っているのは地図であり、それも高低差などが書かれた地理の地図であった。それは往々にして価値が高く、戦略的要衝の見極めなどにも使われる、かなり価値の高い情報である。

だがそれはなんと無償で公開されていたと言う。

 

「測量とかも絶対にこんなスピードで出来ないはず。公開予定日から予測して、測量士が実は大量にいた……なんてこともありえない。」

 

「たぶん、この指導者ってやつが地球人なんだと思う。」

「ほとんどの市民はこいつを讃えてたけどまさにその通りだと思うよ。功績をまとめた本がこんなに長いんだもん。」

 

 

そう言うと【絶影】は本というにはあまりに大きい、まるでティラミスのような見た目になっている3冊の本を取り出した。

極めて均一な、牛または何かの皮と思しき装丁が施された本はそのどれもが功績について語るものである。

 

すると、その本を中間ほどのページを開いて【絶影】は言った。

 

「5、10、20、30……63。多少前後するけど、たった1ページに63行も詰め込まれているんだ。これがざっと7500ページある。」

「しかも、これより多い8000ページとかのやつもあるんだ。」

 

そう言うと、もう長時間ずっと見ているだけで目が眼精疲労になるような活字の嵐が目に飛び込んだ。

 

「戦争に勝ったと書くだけでこの厚み?」

 

「うおでっか……私の顔くらいあるな」

 

「でっけえなぁ……」

 

三者三様であり、その反応はその分厚さに驚愕するもので統一されていた。

 

その分厚さは、3冊重ねた時に約1Mという規格外なものである。

 

「これ1冊だいたい1800万字」

 

と、おおよその平均を出した数字を【絶影】は言った。

そしてそれを聞いた【俊敏】は端的ながらも真実味を帯びた発言をした。

「こんな厚みの本を量産できるなんて……どんな印刷技術だよ」

 

 

その1ページに書かれた内容は極めて濃密で難解だったが簡単にまとめればこうだ。

実質的有権者と名目的有権者を平等に盟友にし、政策を行うことにより公共施設は万人に行き届く様になったということだ。

 

固有名詞が随分と多く、難解な組織論について語っているがこれはまだ理解可能だった。

 

ノンゼロサムゲーム経済、基金という大きなパイの拡大。

これが組み合わさり、実質的有権者が名目的有権者より多いのだ。

 

実質的有権者はメイプル宗教国以外では貴族、富豪、有力な官僚など、実際に権力を持つ少数派となっていて、

国にいる名目的有権者と盟友が『同義』となっているメイプル宗教国とは根本的にかけ離れているとのことだ。

利益は実質的有権者であり盟友でもある国民全体に範囲が拡大していて、目的有権者形式的な権利を持つが、発言権がない少数になっている。さらに、これらの層にも質的な利益が保証され、盟友として遇される。

 

これにより民衆の支持層を増やした……

 

これだけの内容が1ページに秘められているが、もっと恐ろしいのはこれがメイプル宗教国においてただの組織論についての話なことだ。

 

「やっぱり今からでも亡命しようよ」

 

【絶影】は、隣の【白空】の腕を掴んで揺さぶっている。

彼女らは五体星の中で最も古参であり、最も長く異世界にいる故だろう。

【洞察】は3番手であり、

【鋭敏】は4番手であり、

【俊敏】は5番手だ。

 

ペアで異世界転移したのは【絶影】と【白空】だけだが

これには何か理由があるのか、それを本人たちは五体星の面々に説明していない。

 

「うーん、やはり亡命すべきかなあ?」

 

【白空】がついに、執拗な【絶影】の主張に折れた。

 

 

五体星というのはそもそもサザンクロス帝国が定めた、『超法規的措置』により存続している組織であるのでこれは不味いと判断した【洞察】と【鋭敏】が止めにかかる。

 

「冷静になっておくれよ、サザンクロス帝国を裏切るなら僕たちは終わりだよ」

「そうだよ。僕たちはあくまでもサザンクロス帝国に無断で国境を越えられないんだし」

 

【洞察】に同調するようにそう言った【鋭敏】。しかし、それを聞いた【絶影】は顔を逸らした。

 

 

【洞察】と【鋭敏】はその動作だけで全てを理解した。一瞬で数十億年が流れたように思考を巡らせた2人は……顔を青ざめさせた。

しかしそんな中でも、【俊敏】だけは永遠に写真を見ていた。

 

「なあ、これって1990年の銃だろ?つまりあの指導者は、1990年以降に生まれたってことじゃないか?」

 

【絶影】を除く3人は激震が走ったような気持ちで、【俊敏】の方へ振り向いた。

 

【絶影】は首を傾げながら言う。

「1990年?なぜそんなついさっきのことを…?」

 

【鋭敏】は、【絶影】と同様に、首を傾げながら言う。

「そんなの16年後じゃん。なんでそれ知ってるのさ?」

 

 

【俊敏】は全てを理解した。

 

「あー、最近に発生した国際的な転換点といえば?」

 

【俊敏】は1度、全ての会話を打ち切って早急に確認しなければならないことがあると言いながらそれを聞いた。

 

【洞察】は言う。「そりゃ日本の敗戦でしょ」

【鋭敏】は言う。「フランス対米参戦?」

【白空】は言う。「朝鮮代理戦争じゃない?」

【絶影】は言う。「ソ連崩壊とか……?」

 

 

「「「「ソ連崩壊!?」」」」

 

全員、口を揃えて言う。

しかしその最中、【俊敏】は言う。

 

「全てが分かった。皆、最後の年は西暦で何年だった?」

 

 

全員がバラバラな数字を言った。

特に、【絶影】の数字は【俊敏】の来た世界と非常に近かったのだ。

 

「待って、【絶影】。そういえばベルギーは存在した?」

 

【絶影】は首を傾げながら、その質問の意図を多少なれども理解した。

 

「確か、ベルギーはオーストリア・ハンガリー帝国と戦争を行い、1911年に名実ともにオーストリア領になったんじゃないのか?」

 

【俊敏】は息をのみ、写真を指さしながら言った。

 

「この銃の名前は、P90と言い、PDWに分類される武器なんだけど……さ……」

 

全員が、【俊敏】の話を理解していないことに気がついた。

 

「ねえ【鋭敏】、NATOって聞いたことある?」

 

【鋭敏】は首を横に振った。

 

「【絶影】、ソ連はいつ崩壊したの?」

 

「1991年の冬だけど……」

 

「1991!?僕と同じ年代じゃないか。一体どんなパラレルワールドから来たんだ?」

 

 

「もう分かった。僕の歴史以外、全員がパラレルワールド出身だ!」

 

【俊敏】は立ち上がった。

 

「みんな、日本はどのくらい強いと認識してた?」

 

【洞察】は言う。「うーん……まあアメリカの防波堤?」

【鋭敏】は言う。「軍部の暴走が著しかったかな」

【白空】は言う。「まあ線路を爆破して僕の祖国にめちゃくちゃ喧嘩吹っかけてたし、結構強いんじゃない?」

【絶影】は言う。「Winny問題とかもあったし……まあわりとインターネットに明るい国かな?」

 

【俊敏】は言う。

「ねえ【洞察】、日本は何の戦争をして負けたんだ?」

 

「そりゃ太平洋戦争の末期に、東京への核兵器投下でアメリカが核の傘を……」

 

「太平洋戦争?それは途中で無くなった戦争だろ……間違いなく【洞察】はパラレルワールドだ。」

「それに、ソ連が崩壊してるようなら【絶影】の世界はパラレルワールド確定だ。そうだろ皆?」

 

3人は首を縦に振った。

 

【白空】に、【俊敏】は言った。

「満洲事変のこと?」

「なら【白空】の世界は、僕の世界と同じ世界かもしれない。」

 

一筋の希望が、胸の内に湧いた。

それはあまりに細くか細い光である。

 

「カナダ戦線って聞いた事ある?」

 

【白空】は首を縦に振った。

 

「じゃあ、カリフォルニア戦線は?」

これも横に振られた。

「バンクーバー占領は?」

これも横に首を横に振った【白空】。

 

「いや、もしかしたら年代が違うからかも知れない。」

「そうだとしたらY2K問題を知らないのも当然だ」

 

【俊敏】は首を横に振り続ける【白空】に対し、西暦が60年以上違うのだから当然だと思考した。

 

「どうやらこの中に、太平洋戦争の終結も、ソ連崩壊の事実も、カナダ戦線の有無も、すべてがバラバラな歴史を持つ者たちがいる。そして、我々の誰も、誰が真実の歴史を知る者なのか、断定できない」

「なぜなら誰もがパラレルワールド出身だからで、歴史も大きく異なっている。特に【絶影】なんて顕著な例だ。

ソ連が崩壊するなんてありえない。」

 

 

 

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