女神「輪廻転生しろ」 ワイ「はい……」   作:まっすァき

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技術格差がデカすぎる!

【鋭敏】は10冊の本を見ていた。

メイプル執政国からメイプル宗教国へと変わる際に独立を果たし、ツァウスト帝国を打倒した経緯が書かれた歴史書を。

都合が良いように歪曲された歴史かもしれないが、独立戦争で勝利したことは変わりない。ならば当時の人口1900万人ほどで、3.6億人の人口のツァウスト帝国に勝利できたのか?

思案を巡らせながら、【鋭敏】は考えている。

 

一通り、図書館や遊園地やら、色んな国営の施設を見てきたが、やはり、その1点が気がかりだった。

 

ツァウスト帝国の二神将はサザンクロス帝国の中央大陸進出を単独で妨げうるとしてマークされていた。

その中でも、『ヤクラン・ヤム』という者が尋常ではない強さであるとして【鋭敏】は知っている。

 

水を自由自在に操り、サザンクロス帝国の違法な私掠船を沈めていったのだ。

 

(まあ私掠船制度は少し前にサザンクロス帝国が辞めたから全て海賊、咎める必要はないけれど、大量の海賊がツァウスト帝国の領海に侵入しまくっていたのを単独で沈めていた。

恐ろしい、とにかく恐ろしい水の暴力だった)

 

いつも通り通商路を『護衛』するための戦艦をツァウスト帝国に送っていた時に、護衛艦艇の甲板の上で『ヤクラン将軍』と【鋭敏】は喋ったことがある。

 

温和なエルフの将軍だったが、その戦闘力はとてつもない。

海上であれば無敵という前講評を知っていたが、かなり強かった。海賊の船に山ほどの波が押し寄せて一気に海底まで叩きつけていた。

 

サザンクロス帝国とツァウスト帝国は当時、『名目上の友好』と揶揄されるほどの関係であったが、もし戦争をすればヤクラン将軍が全ての戦艦を沈めていただろう。

【鋭敏】はそう思考し、あれほど強かったヤクラン将軍がなぜ敗死したのかと思った。

 

「人口でも負けている、個人武力でも負けている……なぜ当時の独立戦争で勝っていたのだろう?」

 

当時、執政官を討ち取るために大量の人民解放革命軍がいたのだという。

ヤクラン将軍の攻撃により都市庁郭の内部は滝のような水で多くの建物は崩壊、革命軍も生きている者を数えた方が早いというほどの規模になったと聞いている。

 

そこからV字回復どころの話ではない急激な回復を見せたのは、やはり組織力だろう。

 

ヤクラン将軍の死亡は確認が取れている。

『ソウルセンス』という魔法で魂を視認することが可能であるが、魂すら残っておらず、完全な死だ。

 

ヤクラン将軍をも殺しうるゲリラ兵の武器は大多数がクロスボウや槍で、一部にサザンクロス帝国から給与されたモシン・ナガンという有様。

 

ではなぜ装備の質でしか勝っていないのに勝てたのだろうか。

 

当時のメイプル執政国に送られた兵士は600万人以上、それほどの兵士が市街戦で蹂躙された。

 

 

そう【鋭敏】は結論付けた。

クロスボウや槍は至近距離ならもちろん遠距離でも即死させられるため、都市という入り組んだ道が存在する環境ならこうなるはずだ。

 

「まあそんな事より……」

「砂糖菓子って甘くておいしい」

 

歴史書を閉じ、机の横に置いた。

 

机の上にあるのは、白い直方体。豆腐のような外見だが水分はほとんど無く、乾燥した砂糖100%の物体である。

生活習慣病に直行するようなその菓子だが、【鋭敏】は大量に食べていた。

 

彼女は20年間異世界にいて、糖分に飢えていたのだ。水飴のキャンディも売られていたが、それも大量に購入した。

 

【洞察】は23年間なので、五体星たちは3年刻みで異世界に投入されている。

 

唯一の例外は【絶影】と【白空】だが、そもそもペアで異世界転移しているのは彼らだけなので例外なのだろう。

 

「サトウダイコンとかよりコレだわ、化学の味がする」

 

合成甘味料と天然甘味料が存在するが、メイプル宗教国が樹立しなければ合成甘味料が生まれることは無かっただろう。

 

サトウダイコンを発見し、代替砂糖を作るまでに紆余曲折あったのだが割愛する。

 

「うーん、砂糖最高!」

 

メイプル宗教国に来た多くの人は、安価に売られている大量の砂糖を見て驚愕するという。五体星の全員がそうだったが、特に顕著だったのは【鋭敏】だ。

 

【鋭敏】は砂糖の塊である砂糖菓子を大量に、『貪る』と形容できるほどの様子で食べているのだ。

 

「外交パスポートで全てが賄えるって最高だ」

「メイプル宗教国、先進的な国だなあ」

 

紫色の外交パスポート。それはメイプル宗教国で発行されているパスポートで、外交官しか手に入れることができない。

このパスポートの特権は幾つもあり、外交特権を外交官が持つことができるのはこのパスポートのお陰だ。

身分証明書としての役割も果たすし、食事も警護もメイプル宗教国の人々が左様してくれるために外交使節団の一員として来た五体星の面々は喜んだ。

それは【鋭敏】も 同じであり、正式な外交使節団の面々も同じであった。

五体星は政治的な立場では正式な外交使節団のついででしかない立ち位置ではあるが、背景が違う。

 

現在サザンクロス帝国はメイプル宗教国と国交樹立はしているが、その後の和睦と親交を深めるのが目的の外交使節団と、対外的には、技術の見聞をして視野を広げるのが目的の五体星とでは

 

同じ『メイプル宗教国』への渡航であっても背景が違うのだ。

 

(甘味料の精製ってどうやってるんだろう?)

 

「砂糖菓子、サザンクロス帝国にも持ち帰りたいなあ……購入したやつは全部申請がいるし、個人的に行く方がよかったかもしれない……いや、それだとお金が自由に使えないからダメか」

 

そんなことを言いながら全ての砂糖菓子を食べてしまった【鋭敏】は、隣の部屋にいる【洞察】に訪ねに行った。

サザンクロス帝国がこのホテルの階を纏めて予約しているために、護衛なしでも移動ができるのだ。

 

というか護衛を要請するのは権利としてあるが、自国の護衛を向かわせずに訪問国の護衛を使うというのはサザンクロス帝国の視点で見ると恥の極み。

 

【絶影】と【白空】は2人でどこかに行ったし、【俊敏】は待機しているだろう。あのテレビから分析をしないとは思えないし、性格的にもそこまで大胆な決断は下さないはずだ。

 

木製の扉を開けて【洞察】の部屋に行った【鋭敏】は、そこで奇妙なものを見た。

部屋のドアノブを下げ、前に押すと……

 

その床にあるのは超巨大な組み立てられたドミノ。部屋をドミノが埋め尽くしていた。赤、黄、青、さまざまな色彩のドミノが立ち並んでいて、壮観だった。

 

「な、なんじゃこれ」

 

困惑しながら【鋭敏】は【洞察】に問う。あまりに大きなドミノアートは、部屋を全て埋めつくしていて、もはや足の踏み場の方が少なくなっている。

 

「うん?ドミノに決まってるじゃないか。一緒にやるかい?ほら、ピースは部屋に転がってるから襖を開けなよ」

 

ドミノの山がそこにはあった。

山、本当の意味で山だ。

 

近くにはドミノの空箱がいくつもあり、乱雑に開封されて部屋の隅に転がっている。

 

「えーと、『ドミノ6種土台セット』……?『ドミノ3000ピースセット』?なんでこんなドミノばっか多いんだ?」

 

空箱がそれにしても本当に多い。そして一際目立つ大きな空箱には『1万ピースのドミノ・単品10色』と書かれた紙が張り付けられていた。

ガムテープで貼り付けられたA4用紙の傍には水性ペンが蓋が外れたままに転がっている。

 

「まあいいか」

 

プラスチックや木で出来たドミノが入り交じるドミノアートだが、【洞察】は大きなドミノアートを完成させていた。

 

「あ、そうだ」

「おい、【俊敏】も混ぜてUNOでもやるか?あいつの部屋に行こうぜ」

 

【洞察】はそう言いながら【鋭敏】に話しかけるが、【俊敏】とは能力の関係上あまり関わりがなくほとんど顔だけ知ってる他人な【鋭敏】にとって【俊敏】とゲームをするのを憚られた。そのため、返答はNoだった。

 

だが【洞察】はそれを聞いて、こう返した。

 

「これ、今崩していいか?」

 

その言葉を聞いて【鋭敏】は驚いた。なぜそんな立派なドミノアートを作って壊すのか、と。

1Mを超える高さの塔が立てられ、コロシアムのような円筒状の大きな建物もドミノだけで再現されているそのドミノアートは極めて大きく、畳で言うなら30畳以上の大きさがある超大作。

こんなにもビックサイズなドミノアートは、【洞察】がこれまで見たことのない規模だった。

 

「僕は大きなドミノを崩すのが好きでね……それとも一緒に倒すかい?綺麗に全部倒れるように工学的に脆弱性を持たせたんだ」

 

ふふん、と胸を張りながら言う【洞察】に対し、驚きを隠せない【鋭敏】。

 

「それ作るのに何時間かけたんだい?」

 

「3時間半とか?まあ結構簡単な方だよ」

「地球にいたころは家のガレージにスティックボム……ああ、伝わらないかな?木の薄っぺらい棒で爆散する道を作ってたんだ。作るのは簡単だけどいくらでも伸ばせるからね」

 

 

 

 

「結局、ドミノアートって片付けが一番の地獄なんじゃないか?量が多すぎて死ぬぞこれ」

「まあわりと楽しかったけれどもさ、どうするよこれ」

 

2人は頭を抱えた。

塔やコロシアム、果てにビルなどを複数個作ったことにより2万ピースを超える超大作は崩れ落ちた。

 

((どうやって片付けようか?))

 

2人は同時にそう思考している。なぜならもはやこれは2人でどうにかなるような規模ではない。でもこれに大量の人を動員して片付けさせるのは気が引ける。 サザンクロス帝国の外交使節団がドミノアートを作ったら片付けられなくてメイプル宗教国の人々に片付けを手伝わせました〜 など、あまりに醜聞な耳障りの悪い文章。

 

「【絶影】って今どこにいるか……知ってる?」

 

【鋭敏】は汗を流しながら【洞察】に聞く。

かれこれ30分くらい片付けているがまだまだ減らない。本当に力作すぎる。

 

「確かに【絶影】の能力なら一瞬で片付けられるはずだけど……なあ、そういやガラケーってどこだ?」

 

「ッ!」

「おい……まさか無くしたんじゃないよな」

 

「まあ落ち着いて聞いてほしいんだけどさ、まずちょっと黙って聞いて欲しいんだ。でも、それを聞いて怒らないでほしい。キッカケは些細な出来事なんだ。本当にわざとじゃない」

 

「絶対やばい事やったでしょマジでさぁ……?まあいいや、聞いてあげよう」

 

 

少し呆れながら【鋭敏】は【洞察】の言い分を聞こうとする。

先程まで協力してドミノを片付けていたのはどこへやら、今は少しだけ冷たいぬるい風が2人の間に流れている。

 

「蟹を食べてる時に宴会場で落とした可能性大」

 

「……」

「……」

「……」

 

重々しい沈黙の後に、続けて補足した。

 

「いや、味は美味しかったよ?」

 

そういうことを尋ねているんじゃないとでも言いたげに【鋭敏】は【洞察】のことを見る。

 

 

「そういや君のガラケーはどうしたのさ?君のガラケーがあるなら連絡を取れるじゃないか」

 

「!」

「実はちょっと道を歩いてる時に落として排水溝の中なんだ」

 

「なら間に合う、急ぐぞ!」

 

足をドアの方に向けて走り出そうとすると、【鋭敏】は止めた。

 

「なぜだ?」

 

【洞察】はそう言ってドアを開けて、再び走ろうとした。

 

「いや、もう終わったよ。完全に終わったんだ」

 

そんなことを言っている【鋭敏】の方向に振り返った。

赤いカーテンが開けられた、その光景は地獄への最後通牒であり、死神であった。

2人は『雨が降っている』窓の外を見て絶望した。

 

「いや、まだ間に合う、【俊敏】の部屋に向かえばいい」

「手書きの文字は12345のうちどれだった?」

 

すると即座に【鋭敏】は力技ながら最適解を思いついた。

 

「いやこの階は5つしか部屋がないから総当りで行ける!そんなこと考えなくてもいい!行くぜ!」

 

「「うおおおおお!」 」

 

2人は祈った。誰かいてくれという願い。

 

逆方向に走り、順番に扉を開けて行く。

 

「なあ、【俊敏】の部屋はどれなんだ?」

「はっ?そっちに居るんじゃないか?こっちの右隣は空室だったぞ」

 

なぜこんな時に絶影はいないんだと思考した。ルームサービスにドミノを見られたら、まともにドミノを掃除することすらできない外交官(笑)という名称がついてしまう。確実に悪い印象がついてしまう!

 

「いや、冷静になって考えると……2人が外出してるんだから理論上は3人がいるはずだよな?そして僕たちは2人。なら残りの部屋に【俊敏】はいるはず。でもさ、こっちの左側は【絶影】と【白空】の部屋でそもそも空室だよ?」

 

2人は絶望的真実を知った。

 

「つまり、【俊敏】は外出中だ」

 

「なーんであいついねえんだよマジでさあ!」

「誰1人として【絶影】と繋がるガラケーがねえ!最悪だ!」

 

 

ガラケー。それはメイプル宗教国において製造された唯一無二の通話ができる携帯電話であり、カメラ機能とメモ機能を備える圧倒的多機能性に、さらに折りたたむこともできる電話とは思えないもの。

【洞察】の知る電話はダイヤルを動かさなければ通話をすることなど不可能だし、そもそも重すぎて携帯することなどできないものだ。

 

「あいつ単独行動してるのか!?クソがよ!」

 

そう言いながら【鋭敏】は怒る。

基本時に移動ルートというものはバラバラに分散され、前日に知っているものだ。

だが日時変更の知らせが来てないどころか仲間の1人がどこかに行っているという異常事態。

 

「まじであいつやりやがったな!ガラケーくらい置いてけやチクショー!」

 

廊下で地団駄を踏む【鋭敏】に動揺する【洞察】。

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

「我が国にそのような物が存在するという事実はありません。これは公式な表明として抗議します」

 

外務官僚は怒りを内心に抱いていた。

予定ルートに含まれていない場所に、見学要請をする。まあそれは良いのだが、対応が完全にモラルを欠いている。

何度も訂正をしても完全にこの男は、メイプル宗教国のことをどうしても悪にしたいようだ。

 

「そ、それは困ります」

「我々の意向として、開示すべき情報の提供を求めます」

「なぜ情報提供をしてくださらないのですか?」

 

 

「ですから、まず地下に兵器工場があるなどの事実は存在致しません。」

「我が国はあなたの主張するように軍国主義者の集まりではないのです。」

「隠された謎や粗探しなどと言って、無理やり入らないで頂きたい。その行為は、我が国の主権を侵害しています」

 

外務官僚は頭に来ていた。5時間ぶっ通しで話が通じない相手と会話をしていたらストレスがかかるのは当たり前というもの。

 

「いいですか、ここはただの化学工場です。兵器工場ではありません!」

「塩素と水酸化ナトリウムは発生しますが、それは仕方が無いことです!そもそもこの工場で塩素が発生しないなんてことは有り得ません!」

 

強く否定するその言葉は非常に強く、外務官僚としてはあまりにふさわしくない言葉。だが双方ヒートアップが止まらないのだ。両者とも、『論点ずらし』と捉えて永遠に同じ話題をループしているからだ。

 

「塩素は大量破壊兵器に使えるじゃないか!なぜそんなものを作っているんだ!」

「しかも水素も発生しているらしいじゃないか!爆発するようなものを作っているんでしょう?」

 

疑うその言葉は、たしかに真実しか言っていない。だが化学の知識があまりにも壊滅的だった。

論理的飛躍を多分に含み、もはや脳内で固定化された真実を信じたいだけ。

 

「何度も言ってるじゃないですか!食塩や洗剤を作るのに使います!」

「水酸化ナトリウムがなければ我が国の工業は立ち行かないんです!事前資料を貴国は請求してたじゃないですか!貴国は技術交流者を派遣する時にそう文書を出してましたよね!?」

 

 

【俊敏】は現在進行形で外務官僚を問い詰めていた。いや、問い詰めているような気になってしまっているだけだ。

 

「アルミニウムが精製できないと車が作れなくなるんです!だからこの工場は存在するべきものなんです!」

「石鹸も溶媒も作れなくなりますし、文明を後退させろとでも言うんですか!?」

 

 

「車は二酸化炭素を排出するから環境に悪いだろう。なぜそんなものを作るんですか?」

 

 

「あなたの国の蒸気船は車が出す二酸化炭素の数千倍の煙を出してますし、では貴国の艦隊を帆船にしたら良いのでは無いですか?なぜ環境配慮を我が国に求めるのです?」

「それに温暖化現象とか主張してますけど、世界は寒いんですよ!?今は間氷期ですから二酸化炭素を出さないと氷河期になった時に死ぬんです!」

 

「二酸化炭素が多くなると氷が溶けて海面が上昇し、陸地減少傾向が発生しうるでしょう」

「だから二酸化炭素は減らすべきなんです。」

 

 

「まず事実として氷は増え続け、火山も噴火していないのに平均気温は100年間で6℃も下がってるんですよ!?」

「気候変動を全国家が協力して必死に食い止めようとしているじゃないですか!なぜその事実を無視しようとするんですか!二酸化炭素排出量を減らすべきでは無いんです!」

「無茶苦茶な論理を押し付けないでくださいよ!」

 

 

外務官僚はブチ切れている。【俊敏】もブチ切れている。

お互いにほとんど罵倒混じりの、口論としか表すことの出来ない有様。

 

「データとしてそういう傾向が存在するのは認めますけど、事実として海面上昇はしてるんですよね?なら温暖化してるじゃないですか」

 

「水は氷になる時に体積が上昇しますよね?だから世界中で海面上昇が問題になっているんです!」

「流氷区域も増え続け、作物にも影響が出てるんですよ!大飢饉が世界中で起きてるじゃないですか!」

「さっきから繰り返し主張してますけど、温暖化現象なんて起きていないんですよ!」

「むしろ寒冷化現象で大混乱が発生してるじゃないですか!」

「あなたの発言は根本から間違ってるんですよ!」

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

一方その頃、そんなことが発生していると露知らず、【絶影】と【白空】はメイプル宗教国で交流をしていた。

 

 

「〜ということにより、この発電機は1台で都市の大部分の電力を補うほどの効率性を有しています!」

 

マイクを構えて発言中、ずっと投影機で映されていたのは大きな装置。とてつもないサイズの水力発電機だが、垂直な形をしていて異質な見た目だ。

 

「事前資料『発電機』のR項目のうち33行目を御覧頂くと、その原理が記されております」

 

「または事前資料『電力』のG項目のうち12行目から75行目、もしくは先程配りました資料『発電機の構造』に記載されている簡便図7、8、9に挿絵が載っております」

 

すると【白空】は手を上げた。

これは質問のジェスチャーであり、後ろでメモを取り続けている聴衆たちと違い、質疑応答をいつでも可能な特権がある。

 

「あの、このエネルギーの永久保存化の項目を解説してくれますか?ちょっとまだわからなくて……」

 

「あ……まず位置エネルギーを活用して運動エネルギーを〜」

 

解説員はすぐ隣に控えており、すぐに応答した。

 

特別な部屋が用意されており、ガラス越しにメモをとる人々が一望できた。

だがそれはここでやるべき主な目的ではなく、本来の目的は詳細な技術の核心を知ることだ。

 

水の衝突という運動エネルギーから回転運動を継続的かつ一定量生み出し、タービンが回っているらしい。

 

水を大量に利用することでそれが出来るのだと。また、霧散しては行けないから、落差はそこまで無い。

 

水力発電機はかけ流し温泉や滝とは違うのだ。

 

そのような説明を受けながらも、違和感を感じた【白空】は問う。

 

「どこからそんな水量を獲得してるんですか?」

「ここのD項目では排水倉などから給水しているとありますけど、この電力発電量からして超大量の水が必須ですよ」

 

にこりと笑いながら解説員は職務を遂行する。

 

「それは川ですとか、大きな水源地から引いているんです。実際に、『治水事業の必然性』の項に明文化されています」

 

「これが治水前と、工事後の地図ですね」

 

提示された図では、大量に曲がりくねっていた川の根源である山にトンネルが貫通していることがわかった。

 

総距離411Kmのトンネルで、高度に設計されたトンネルのため一方向にしか流れないのだとか。輪のようになった逆止弁のお陰で逆流する事はありえない……と、読み取ることができた。

トンネルの形は、テスラバルブと形がほとんど同じだ。

 

「おー……ほら、なんか頂上がえぐれてないですか?」

「特にこことか高低差が無くなって波が無くなってますよ」

 

指をさしながら地形図の高低差を見る。

まるごと尖った山の頭が無くなっている。

 

「ええ、ここに町をまるごと作って道を引いたんです。すると極めて短時間で施工が終わったんです。これも慧眼によるものです。」

「これを複数の山脈で繰り返して、『パーフェクトなトンネル』が完成したのです」

 

パーフェクト、完壁という言葉を造形物に付ける自負はその通りだ。

人口が1.9億人、ほとんど10倍以上に成長したために労働力を受け止めるものが必要だったのだろう。

それがこのトンネルだということか?【白空】はそう推測した。

 

正式名称がこれなので『パーフェクトなトンネル』は命名センスが少々、先鋭的だ。

 

「川を直線にして、周りに都市を作ったんです。これにより居住地を増やしながら治水事業を進行させ、現在の発電機が成り立っているのです」

 

解説員はすこし自慢げにしながら分厚い冊子を閉じた。

 

それは2.5cmほどで、特殊な薄い紙で出来ている。だがこの紙はこのようなとてつもないページ数の本に使うものであり、均一に製造する難易度が高いためにあまり民間では多用されていない特別な紙であるのだ。

 

「800万人がこの街で暮らしておりますが、山間部にこれほどの都市を築いた我が国の根幹技術が、『バンカーバスター』という物なのです。」

「現地に隠れていた敵兵士を一網打尽にしたこの『もの』は、詳細は控えさせていただきますが全くその後の環境負荷が存在しない、クリーンなものなのです。」

 

「ちなみにその運用方法はどうやってやってるんですか?」

 

【絶影】は問う。だが解説員はにこやかに笑っている表情のまま定型句を答えた。

 

「詳細は機密のため開示できません」

 

「ああ、すみません。ちょっと踏み越えすぎましたね」

 

「ええ、大丈夫ですよ。機密に触れないように話しましょうか。」

「元々これは潜伏するゲリラ兵の拠点を破壊する為のものなのですが……今は平和的に井戸掘削などにも、用いられていますよ」

「ここから先を話すと、『来訪者』が私の家を訪ねるのでやめておきますね。」

 

そう言うとバンカーバスターに関連する言葉をこれから先言わなかった。

やはり軍事機密は話さないか、と思いながら【絶影】は揺さぶりをかけても反応しないことを残念がった。

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

「まじでなんだコイツ……?」

 

あなたはスクリーン越しに、とある人物を注視していた。

認知フィルターとスクリーンを活用することにより知りえない情報を見ることができるのだ。

 

KDAのうちKが65、Dは0で普通だがAがおかしい。

 

「なんだこいつ、129アシスト?」

「極悪人じゃーん?」

「129人も間接的に殺してるし普通にこいつ工作員じゃないか?いや、成り代わりか?何言ってるんだよこいつ……」

 

あなたは自分の情報を見たことがない。

なぜならあなたは一国の指導者であるため、殺した数よりやった功績だと考えているのだ。

 

「外交使節団の歓待してるのにコイツだけ居ねえじゃねえか!?まじで何やってるんだよこいつ……」

 

 

あなたは時計を見た。12時を指していて、すでに深夜と言って差し支えない。

だがなぜかこの外交官は外務官僚と口論を繰り広げて、歓待を受けていない。

このままではメイプル宗教国が誤解される可能性がある。

何としてでも、饗しを受けて貰わなければ困る。

 

(それに、今回の目玉の催し物を見てもらわなければ損だ。もう1回やることも可能だが、それをするのにどれだけの費用がかかるかもう考えただけで身震いする。)

 

「まじで何やってるんだ……?予定ルート全部フルシカトしてやる事が喧嘩?冗談だろ?」

「というかこいつ、もしかして外務官僚を殺すか?ならいくらサザンクロス帝国の外交使節団の1人だとしても無理だな。外交特権を剥奪するか」

 

あなたはスクリーンを閉じ、サザンクロス帝国へ送る正式な文書の文面を考えた。

 

「129アシストとか大罪人じゃん?なんでこんなやつを外交使節団にしたんだよマジでさぁ……スパイにしても雑すぎるだろ!?まじでただの狂人なのか?」

 

こいつに書かれたステータスではRationalityのゲージとMadnessのゲージは7:3。理性が7割しかない。きっかり7:3である。

100分率なので30%も狂気があるのは異常事態。どう考えても狂人だ。

 

「まあいいや、外交特権剥奪からの拘束だな」

「サザンクロス帝国も耄碌したなあ、こんな杜撰なやつをよりにもよって外交官にするなんてスパイだったしても外交官だったとしてもありえないだろ」

 

「『偉大な南十字星の旗』に込められた誇りとやらは塵と埃だったみたいだし、サザンクロス帝国にとりあえず経済制裁を仕掛けるか……いや、主権侵害だし、金銭の支払いの額は8桁だけで済ましたらダメだな。

 

9桁いくか!」

 

 

あなたはサザンクロス帝国から金を毟ることを決意した。どうせ大量の植民地を持ってるし、良いだろうという考えだ。

南東諸島とかの東方植民地は香辛料貿易や銀採掘をするために無理やり開国し、絹織物で現地は片貿易で産業壊滅。

 

まあサザンクロス帝国が作った絹産業もあなたがナイロンを量産したために破壊されたのだが、知る由もない。そんなすぐ崩壊するような経済をしているのが悪いのだ。

 

「よし、この絵を『森林』と命名するか。

我ながら良い絵だ……まあ結構絵を描き続けてきたからかな?最初と比べたら成長したなあ……」

 

あなたはインベントリにその絵をしまい、絵を描いている途中に入ってきた政務の方を処理することにした。

 

公益よりも、自分の私欲の方を優先するような事はしないというのがあなたのモットーだ。

 




作者によるオマージュ元解説

陰謀論ロジック(論点ずらし、断定、推測、論理的飛躍)
チェリーピッキング (偏った真実の全体推測)

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